Cageー心の氷点
オペ室から1人の医師が出てきた。
ナツはその医師に駆け寄り手を掴む。
「先生っ!あいつ助かんだろ?あいつ助けてやってよ!あいつすっげぇいい奴なんだよ。そんな奴が死ぬとかおかしいだろ!?頼むからさぁ」
医師はゆっくりとナツの手を外し、両親の前へ立ち一言告げた。
「手は尽くしましたが、覚悟しておいてください」
母親はその一言で哀しみが振り返したのか、激しく泣きじゃくった。
背を向ける医師にナツは
「俺は信じねぇぞ!!俺は助けたくても助けらんねぇんだよぉ。でも、あんたらは神様に一番近いんだろっ!!?」
しかし、医師は何も答えず歩きだした。
「なぁ、金か!?金があれば助かんのかっ??それなら俺が後から幾らでも持ってくるから。死なせないでくれよー!!!もぅ、大事な奴を失くしたくないんだよぉ」
見苦しい程に取り乱すナツ。
しかし、その切願に医師は答えることはなかった。
二時間後
コヤジの変形した顔を見つめるナツ。
蒼白い唇にさっき買ってきたワンカップを注ぐ。
「呑めよ、お前の好きなやつだぞ。ほら、まだいっぱい有んぞ!?遠慮せず沢山呑めよ」
それを見た母親が
「もぅ止めてナツ君。こうじはもぅ喋らないの。もぅ笑わないの。もぅ息をしてないの。もぅ死んじゃったのよぉ」
コヤジの口から溢れていく酒が枕に染み込んでいく。
(まさか、この酒が死に水になるなんて......)
また1人、ナツを置いて黄泉へと旅立った。
(誰も守れないのか?)
(もぅ少し早ければ死なずにすんだのでは?)
(何をするべきなのか?)
後悔の疑問符が浮かんでは、次から次へと氷結していく。
ナツの心が氷点を下回っているから。
(思い通りになんて何1ついかない)
ナツは病室を出ると1人で暗い廊下を進んで行く。
その形相はまるで羅刹の如く怒りに満ちていた。
(一緒に居てくれるって言ったじゃないか)
責めるべきコヤジはもう何処にもいなかった。