Cageー血濡れた煙草
コヤジを病院に運び込むと、数人の医師、看護師が集まり、慌ててストレッチャーに乗せた。
そして、ナツがそこに居ないかの様に急いで白衣を翻して行った。
どうしたらいいのか判らず、1人で佇むナツに女性の看護師が近づいて来た。
「お友達ですか?」
ナツが頷くと、幾つかの質問をされ、コヤジの家族へ連絡するように言われた。
血生臭さとはかけ離れた、混じり気の無い澄んだ夜が濃くなっていく。
コヤジはそのままオペ室へと連れて行かれた。
ナツは薬品臭く静か過ぎる廊下の長椅子に腰を掛ける。
1つ隣の長椅子には中学の頃から良くしてくれた、コヤジの両親が座っていた。
泣き崩れる母親を男として気丈に抱き止める父親。
ナツは見てるのが辛くて堪らなかった。
何も会話無く時が過ぎていく。
やがて
「コツ、コツ」とリノリウム の床を鳴らす靴音が次第に近づいてきて、数メートル手前で立ち止まった。
ゆっくりと顔を上げるとハチベーが立っていた。
その顔は、手術中のランプに照され、赤くぼんやりと浮かび上がる。
「さっき、サリー君達に連絡しました」
ナツは目の前に立っている臆病者を思わず殴りつけた。
「お前、何やってた?コヤジが殺られてる時、何やってたんだよっ!?」
「コヤジ君にお前は逃げろって言われて......」
ハチベーはその場に崩れ落ちた。
「お前が代わりにこうなれば良かったんだよっっ!!」
「そうだよっ!俺が殺られたら良かったんだよっ。そんな事分かってんだよっ!でも怖くて出て行けなかった.....。俺はナツ君やサリー君達みたいに強くないからぁぁぁぁ。クッソー、もっと殴ってくれよ、ナツ君っ!!!」
「止めなさいっ!!」
院内に響き渡るコヤジの父親の声。
その声に制され、ハチベーの胸ぐらを突き放し、ナツは気分転換に外へ出た。
コヤジが目を覚ました時の為に買い物を済ませ、戻る前に喫煙所で一息つくことにした。
買ってきたばかりのコヤジのピース。
封を開けようとしたが、やっぱりポケットの中からクシャクシャのピースを取り出し、1本くわえる。
コヤジの胸ポケットに入っていたピースは、コヤジの血で赤く染まっていた。