Cageーmeet again
10月―
ざらついた夜だった。
空に引っ掛かる琥珀色の三日月が朧に揺れる下
時の悪戯によってナツとミカンは偶然再会してしまった。
酒に呑まれていたナツ。
ミカンの手を無理矢理引っ張る。
「ちょっ、なんなの!?痛い、離してっ」
「うるせぇ!だまれっ」
ナツは近くのホテルへミカンを強引に連れ込んだ。
「どーゆうつもり?ナツらしくないよっ、こんなの」
「あ"っ!?何だそれ?優しくないと俺じゃないのかよ?」
ピンク色の卑猥な照明の中で似つかわしくない対話。
ナツはただひたすら優しくない自分を見せたい一心で動かされていた。
何が何だかまだ理解しきれていないミカンをベッドに突き倒す。
ミカンの服を剥ぎ取り、自らも服を脱ぎ捨てた。
ミカンの目に飛び込んできた両腕と背中の刺青。
半年前には無かった物。
ミカンは懸命に自分の知っているナツを探してみた。
しかし断片さえも見つけられない。
乱暴な言葉遣い
強引な愛撫
それらはまるで、ミカンの身体に永遠の傷をつけるかのようだった。
抱かれながら涙を流すミカン
抱きながら心で啼いたナツ
きっと今夜、世界で一番切ない情事をした2人。
シーツの摩擦音とベッドの軋む音が艶しく交錯する。
気まぐれなキス
うたかたの愛
すり硝子越しに夢幻を見る。
ミカンの秘部から垂れ流れる白いスペルマ
瞳から溢れ出す黒い涙
過ちを犯した事に気付いたナツ。
マネキンの様に放心している裸体のミカン。
その目を見れないまま
「悪い」
小さく告げ背中の鳳凰を隠し出て行こうとした。
「何で?」
ナツはミカンの問いが聞こえないフリしてドアのノブを回そうとする。
「ねぇ、何で?何で謝るの?ミカンの事ムカツクでしょ!?怒ってるでしょ?もっと傷つけていいよ?気が済むまで殴ってもいいよ?お願いだから謝まんないでよぉ」
ナツの背中に浴びせる罪悪感
たった3mなのに近付けない。
「ごめんな.....」
「最後に一言だけ言っときたい事があった。あの時言えなかったけど愛してたよ、美夏」
初めてミカンに嘘を吐いた。
本当は今でも愛してるのに。
結婚してるミカンに本当の事を言える訳がなかった。
そして今はもうミカンの涙を拭ってやれない乾いた手で冷たいドアを開けて出て行った。
ミカンは虚ろな目で天井を見詰めたまま呟いた。
「今更平気な顔で言わないでよ」
出ていく直前のナツはミカンの知ってるナツのままだった。