Cageーギリギリ
ナツとコヤジはバニラで飲み直すことにした。
「ナツ、マジでいいのか?ヤクザだぜ?」
「どうでもいいよ」
ナツは右耳のピアスを触りながら答えた。
酒を飲む時の最近の癖。
コヤジは隣で遠い目をしている友の眼底に憂色が沈んでいるのが分かった。
確実に壊れていくナツを見ていられない。
「サリー達が東京へ行ってもう半年かぁ。向こうで音楽頑張ってんだろ?やりたい事やんのが一番だよなぁ」
トムが独り言の様に喋る。
だがトムなりのアドバイスはナツの耳には届かない。
辛酸を舐め続けたナツ。
数少ない楽しかった思い出を必死でたぐり寄せていた。
翌日から2人はピカチュウに呼び出される日が始まった。
事務所の当番
切り取りの同行
事故などから粗を探しての恐喝
組事にも顔を出さされた。
「ええかぁ、ワシらぁナメられたら終いじゃ。最初からイモ引いたらいけんど。相手が看板出してきたらワシに連絡してこい。あとは、頭使え。そこら中銭になる話が落ちとるでぇ。おまえらのココは空っぽじゃろ?知恵がようけ入るでぇ、ハハハッ」
ピカチュウは頭を指しながら笑う。
そして続けざまに切り出した。
「どうや、そろそろワシを兄貴って呼ぶ気になったか?」
その口調にはまだ余裕が窺える。
コヤジはナツが
「ハイ」と言ってしまう前に間髪開けず答えた。
「今年一杯は今の状況じゃ駄目ですか?来年の頭に答え出させて下さい。やるなら半端は嫌なんで」
「おぉ、ええ事言うのぉ。じゃあ、お年玉でいい答え聞けるのを楽しみにしとくわぃ」
コヤジは取り敢えず安堵に胸を撫でおろした。
(でも、いずれはハッキリしないと)
コヤジはどうすればいいのか思い悩んだ。