Cageー極道
夜になるとコヤジと2人でピカチュウの後ろを着いて歩く事が多くなった。
連夜、繁華街辺りで喧嘩をしていた2人。
それをどこからか聞き付けたピカチュウから呼び出され
「お前ら、無茶しよーるらしいのぉ。じゃが、相手が組の人間ならどうすんな?あっ?」
「そこまで考えなかったっす」
「アホかワリァ。下手すりゃ殺られるど!?じゃろーが?暴れるんならどうや、ワシの下についてみんか?半端はいけんでぇ」
コヤジが一瞬
「エッ!?」という表情をしたのをピカチュウは見逃さなかった。
ヤクザならではの目ざとさ。
「なんなら、かばちがあるんか?」
「いえ」
コヤジはナツの方を見た。
するとナツは
「分かりました。お願いします」
と静かに頭を下げた。
コヤジは覚悟を決め一緒に頭を下げた。
18で引退したNew Typeの面倒見であったピカチュウは満足そうに笑い
「じゃ、呑みにでも行くかぁ?」
と豪快に言った。
New Typeの中でも特に目を掛けていたナツが落ちた事がピカチュウの気分を良くさせた。
ラウンジの隅のボックス席に座ると、ママらしき女性がすぐに挨拶にやって来た。
どうやらピカチュウがよく来る店らしい。
「ママ、今日からワシに着いて歩く事になった奴等じゃけぇ、可愛いがってやってくれや」
大物風を吹かす。
九州出身のピカチュウは某ヤクザ映画の影響を受けて広島弁を喋っていると誰かに聞いた事があった。
改めて聞くとイントネーションがおかしかった。
(ほんとはどうなんだ?)
そんなナツの疑問に答えを裏付ける事をピカチュウが言った。
「お前ら、仁〇なき戦い見たことあるか?一回見てみぃや。ワシャあれでこの道へ来たんじゃけぇ。ありゃ、名作じゃ。次までに見とけよ、感想聞くでぇ」
(バカかコイツは)
ナツは面白そうに笑うピカチュウの歯に埋め込まれた本物のダイヤが、どうしてもイミテーションにしか見えなかった。
店を出る頃にはピカチュウはかなり上機嫌になっていた。
「今日はご馳走さまでしたぁ」
「おぅ。それより、ワシもすぐに舎弟になれたぁ言わんけぇ暫くワシに着いて考えてみぃ。お前らならええ若いのになるで」
ナツは別にどうでもよかった。
今年の春から成り行きに任せてここまで来た。
そして、これからもそのつもりだった。
「分かりました」
拒む理由も無いナツ。
コヤジは軽く舌打ちして
「お願いします」
と頭を下げる。
酔ったピカチュウには舌打ちは聞こえなかったらしい。
ホッとしたコヤジ。
「ほうか、ほうか。お前らはワシが可愛いがっちゃるけぇの」
ピカチュウは
「これで帰れ」と1万円札をナツに渡し、次の店に行くと言って行ってしまった。
コヤジは
「はぁ〜」とため息をもらした。