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ーキミノイナイセカイヘー  作者: 片山水月
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Separateー覚醒

捨て猫みたいだった。


ナナ吉と出会った日も雨。


(ナナ吉は誰と別れてきたんだろう?)


(誰が俺を拾ってくれる?)


降り注ぐ悲雨に1人ズブ濡れるナツ。


ナツを取り囲む無数の靴音が


傘に弾ける雨音が


スピーカーから流れる誰かのエレジー(哀歌)が


体温を略奪する雨粒が



ボロボロに砕かれた恋心をえぐっていく。


それはまるで、悪魔へのバプテスマ[キリスト教の洗礼で全身に水を浸す儀式]のようだった。



(これがドラマならラストはどうなるんだろう?)



[別離]というベタな悲劇。


(哀しみに打ちひしがれる主人公は俺だったなんてな)と気付いたナツは


いつの間にか自分の心の中に勝手に住み着き、南とサクラを徒[イタズラ]に見殺しにした神と呼んだ薄情者を捜した。



誰かのせいにしたかった。


神の仕業にしてしまいたかったから。







そして見つけ出したソイツは良心の真ん中で悠然と遊び回っていた。

手に持っている緋色の花は2本同時に咲くことのない、たった一輪の愛の花。


真っ白なこの部屋の床には4枚の花びら。



千切って遊んでいたのは一目瞭然。



ナツを認めると白い歯を剥き出して笑い、残りの1枚を楽し気に千切りフッと飛ばした。


「ジ・エ〜ンド。ハッハ〜」


ソイツは両手を上げてステップを踏み出した。


最後の花びらが千切れた瞬間に響いた些々やかな悲鳴。


ナツを繋ぎ止めていたギリギリの理性を切断した。



「ヒャッホ〜イ」




踊り狂う愚神を力一杯殴りつける。


慌てて、床を這いながら逃げる愚神を捕まえ、首を締めながら絶対の服従を誓わせた。


そして、ミカンという門番が居なくなったパンドラの門を開放させた。


冬眠から覚醒された黒いマリス[悪意]は、あっという間に雪をも欺く白いハートを真っ黒に染め上げていく。


ナツは首輪で繋いだペットに何者かと詰問すると、ソイツはこう言った。


「誰の心の中にも必ずある罪悪の権化」


それを聞いたナツは口角を吊り上げた。


「なるほど」

欺瞞に満ちたこの世界。


能書きばかりたれる浅ましき偽善者共に、戒めの花束をくれてやろうと考えた。



人間本来の本質


野蛮さを詰め込んで。

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