Separateー最悪な選択
下唇を噛んで俯くミカンに、こうなった理由を質す。
「好きな人が出来たの」
嘘
ミカンの父親は地元では中堅の建設会社を営んでいる。
その父親から2日前に頼まれた事があった。
「見合いをして欲しい」
目の前には白い物が混じった頭。
19歳のミカンが一笑して聞き流すには、あまりにも不条理で重い内容を聞かされた。
ミカンの父親―石川 良英
経営する石川建設は、仕事の7割を大手ゼネコンの岩岡組から請け負っていた。
その付き合いは10年程前に知人の紹介から始まり、先日は石川家と岩岡家で会食をした。
その時、ミカンは岩岡社長から幾つか質問を受けた。
「美夏ちゃん彼氏は?」
「居ないですよ。」
「何歳までの人なら結婚出来る?」
「30歳くらいまでなら」
「結婚はしたい?」
「出来るなら早くしたいですね」
ミカンはプライベートを明かす必要は無いと、当たり障りのない解答をしたつもりだった。
それが5日前。
その翌日、父 良英の電話が鳴った。
相手は岩岡社長。
最初は他愛のない話から、徐々に美夏の話へと誘導されていった。
話の中で、岩岡が美夏を気に入ってる事は判ったが、結局何が言いたいのか良英は理解しかねていた。
それから3分後、受話器を置いた良英は頭を抱えて落胆した。
最後の会話―
「その事につきましては、追って御連絡致します」
「いい返事頼むよ」
その事―
「美夏ちゃんを家の息子の嫁にくれないか?君んとこ、ウチに切られたら喰ってけんだろぉ?」
強制
しかし、岩岡の言葉通り断れば結果は何よりも明白だった。
2日間悩んだ良英は美夏と一緒に暮らしていたナツを思い出し
(あんなどこの馬の骨とも分からん奴に娘をくれるぐらいなら)
と、美夏に頭を下げる事にしたのだ。
勿論、理由は会社の危機。
ミカンの中に浮かんだ[政略結婚]。
ドラマの中でしか起こらないハズの事が現実に突き付けられる。
ドラマの様な、逃げ道もハッピーエンドも見込めそうにない。
最悪な二者択一。
恋人と家族。
2日後に出した苦汁の答え。
岩岡 真治との見合いの承諾。
その先に結婚があることも受け入れた。
両親あっての、自分が出来る孝行。
(ナツにはこの先長い人生があって、自分よりいい人を見付けられるハズ)
そう思い込んで決心した。
しかし、こんな黒い理由でナツを振る訳にはいかなかった。
(私を思い出したくない程嫌われなければ)