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ーキミノイナイセカイヘー  作者: 片山水月
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Separateーアシンメトリー

ナツはミカンに会えない時間の中で痛切に感じた事があった。


(いつもミカンが傍に居てくれたら)


そして今日、その気持ちの先に在った陳腐(ありふれた)な結果を告げようと決めていた。


(今すぐとはいかないが、いずれ)


生まれて初めて現実に考えた結婚。


(ミカンは何て言うだろう?喜んでくれるだろうか?)


待ち合わせ場所に向かう途中、1人で顔を綻ばせながら倖せの臨場感に浸るナツ。




四月の肌寒い黄昏れ時


それをさらに早めるかのように分厚い雨雲が空を覆う。



それぞれにある


『出会い』


『別離』


『再会』


の季節。


今日のこの演出の主役は『別離』になるだろう。


(再会の自分には煩わしい天気だ)


ナツはしかめっ面をする。


別れの涙を誘うような、ありがちな雨の夜が間もなく始まる。



(俺には関係ねぇけど)



ナツはようやく人波にさらわれた。約束の場所―


プランターの中だけに生きる事を許された薄弱なチューリップ


始めから終わりまで管理され続ける、殺されない落葉樹


その曲線の美しいフォルムには何の意味も持たない、冷たいステンレスのオブジェ


計算され尽くした数々の優しくないコンクリートの造形


そこに佇む亜流(真似する)に亜流を重ねる男女。


その中で1人、優しいだけの男がキョロキョロ辺りを窺っている。


時計は18:47―


(つい嬉しくて早く着きすぎたか)


ナツはうごめく人の群れに視線を戻し、再び目を凝らした。


何万もの雑音が織り混ざっても共鳴するハズもなく、単音を聞き取れない程のノイズが耳をつんざく。


「何でこんな場所なんだよ〜」


人ごみの嫌いなナツは1人ごちる。


丁度その時、見覚えのある服を着た女が人波から吐き出されてきた。


ナツはサリーみたいにクールな再会を果たそうと考えていたが、ミカンを見付けると同時に駆け寄って行った。

「ゴメンネ。待たせちゃって」


「全然いいよ。俺が早く来ただけだし。てか、久し振り」


ナツの満面の笑みとは対照的にミカンは

「うん」と短く笑った。


「取り敢えずぅ、どっか行く?」


「ううん。ここでいい」


「えっ!?」


タクシーのクラクションがミカンの答えを邪魔する。


「マジうぜぇ!まともに話も出来ねぇじゃん。取り敢えずどっか行こうぜ」


ナツはミカンの手を取り引っ張ったがミカンは動こうとしない。


「何!?早く行こうぜっ」 


「ここでいいの」


ミカンが頑なに言う。


ナツは手を離し、


「俺ここ嫌だよ。あっち行こう」


そう言って、ミカンに背を向け歩みを進める。


(付いてくるだろう)


すると聞いたことのない声でミカンが叫んだ。


「ここがいいのっ!!」


ナツは初めての事に狼狽(慌てる)し、ミカンの元へ歩み寄った。


思い詰めたミカンの耳にクリスマスプレゼントのピアスが無い事に気付く。


さっきまで、プロペラが無いくらいなら飛ばせられると思っていたナツの飛行機から、そいつは悪びれもせず左銀翼を奪っていった。


今迄保っていた、愛情のシンメトリー(釣り合い)は些細な事から崩れ始める。


そして、悪い予感という苦い果実だけが弾けんばかりに実のりだした。


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