Separateー悪い予感
その日の夜、ミカンから電話があった。
「あのね、当分会えないと思う。ごめんね」
いつもの猫撫で声は涙声に変わっていた。
「そっか、仕方ないよな?」
「ねぇ、寂しくない?」
「寂しくない。。。って言いたいけど無理か。でも取り敢えずナナ吉居るしギリ大丈夫かな。今迄が上手くいきすぎたんだなぁ。寂しくいくらいが丁度いいかもね、今の俺には」
「ナツが寂しい分、ミカンも寂しいんだからね!1人だけ寂しい訳じゃないんだよ」
「そうだな。ごめん、ごめん。まぁ、これで終わりって訳じゃねぇし、待ち合わせが楽しみになるのもいっか?」
「良かったぁ。そう言ってくれて。怖かったんだ、ナツに『別れよ』って言われたらどうしようって」
「バッカじゃねぇ?んな訳ねぇじゃん。つーか、誰の真似か分かった??」
「ミカンはそんなムカつく言い方しないもんっ!バッカじゃない」
笑い合う2人を繋ぐ見えない電波が今は何より大切だった。
「じゃ、俺今からバニラ行ってくるわ。早く会えたらいいな」
「うん、気をつけてね。明日また電話するね」
電話を切ったナツの胸に小さな悪い予感が芽生えかけたが、思い過ごしの杞憂だと無理矢理言い聞かせ、バニラへ向う。
如月の肌を刺す風に棚引くマフラーが
「バイバイ」と
手を振るように見える。
あれから毎日電話で話すようになって、残酷にも2ヶ月が経った。
2人では狭すぎるベッドからは日に日にミカンの匂いが消えていった。
この2ヶ月間ナツは
電話からミカンの声を聞けば会いたがる欲求を押し殺し
電話が遅い日には、愛欲のもどかしさに有害を感じながら
ただひたすらミカンの口から約束が出る日を待ち続けた。
ただの一言も
「会いたい」と言うこともなく、ただ
「俺が傍に居るから」と
繰り返した。
それから間もなく
寝ても覚めても消えない、質の悪い渇望を持て余すナツに、ようやくの再会が許された。
心では想いが納まりきれず溢れ出すナツ。
それとは相対的に
ミカンの心はどこか上の空だった。
だが、今のナツは嬉しさのあまり、それに気付けずにいた。
受話口から聞こえるナツの無邪気な声。
それがミカンの胸に“チクリ”と痛みを走らせているとは露とも知らずに。
「ねぇ、何時に待ち合わせる?」
時計を見るとPM4:00を少し回ったところ
「じゃあ、19:00に....」
「赤い橋でいいんだろ?」
プレゼントの玩具を待ちきれない子供の様にナツは遮る。
ミカンは1つ深呼吸して、出来るだけ明るい声音を出す。
「ううん。たまには違う場所にしようよ」
ミカンに指定された場所は、人通りの絶えない街中にあるオープンスペース。
(珍しいな?)
ナツは思ったが、野暮な事は訊くまいと素直に了解し電話を切った。
(ウッシ!長かったぜぇ。)
あと数時間後に待ちわび過ぎた再会が訪れる。