Separateー何も無い
二月のよく晴れた日曜の午後―
淡い光の揺りかごに揺られながらナツは微睡みと戯れていた。
隣からは今にも止まりそうな弱々しい呼吸音が聞こえ、1人じゃない事を教えてくれる。
その時
「ピンポーン」
部屋中に響き渡るベルが再度の睡眠への導入を妨げた。
三回目のベルが鳴った時
「チッ」
ナツは舌打ちをして玄関に向かった。
まだこの時は破滅へのチェックメイト寸前だと知る由もなかった
ドアを開け、そこに立っていたのは口髭を蓄え、見るからに傲慢さが判る中年の男。
その男はここに至るまでは、物音1つ立てず忍び寄り
追い詰めた後は大胆にも真正面から、しかも強制的に土足で踏み込んできた。
「誰、あんた?」
「ミカはどこだ?」
この男が両手では抱えきれない程の訣別のギフトを持って来たジョーカーだと気付くまでそう時間はかからなかった。
「お父さんっ!?」
ミカンの一言でナツのキングは呆気なく奈落の底に突き落とされる。
もはや、ナツに楯突く力も理由も無かった。
「1人で暮らしてるのかと思ったら何だこれは?借りてやったアパートにはいつ行っても居ないから捜してみれば、こんな汚い奴と。帰るぞっ!!」
ジョーカーはミカンの手を引き連れ去って行った。
廊下に汚い足跡だけを残して。
ジョーカーに勝てるだけの切札を持ち合わせてなかったナツ。
1人、隔離された白い扉に向かってシニカル[皮肉]に呟いた。
「ココはアメリカじゃないぜ。小さ過ぎて靴脱ぐ場所が見えなかったか?オッサン」
足跡を拭きながら己の幼さが惨めでならなかった。
世界はそれでも何喰わぬ顔で回り続けている。
こんなに穏やかなのに、信じられない位のスピードで。