Destinyー開錠
カラオケを出て、皆で酒を買い漁り近くの公園へと場所を移すことにした。
公園に着くと皆、好きな酒を取りブランコやシーソーに分散して行く。
ナツはビールを手にベンチに座った。
「うわっ、冷たっ」
ミカンがナツの頬に缶を当てた。
「へへっ、ごめんね」
ミカンはベロを出して笑う。
その顔を見たナツは、懐かしくもトキメキを感じた。
ミカンはサクラとは全く異なるタイプの娘だった。
甘え上手で、頼りなくて、何か守ってあげたくなるような可愛らしい。
ナツは眠らせておいた感情を覚醒されそうになるのを抑圧する。
夜空には銀の星が躍り、その瞬きが2人の男女の輪郭を鈍く浮きあがらせる。
「ナツ君てさぁ、時々フッと淋しそうな目をするよね?」
ナツは弱さを見られた気がして恥ずかしくなった。
「そんなことねぇよ」
「ミカンね、そういうの分かるんだ。ナツ君はぁ、いっぱい辛いことがあったんだなぁって。人は哀しいと目からサイン出すの。
『誰か気付いてぇ』って。ナツ君、今その目してたよ」
ミカンの一言で臆病だった心の鍵が微かに、そして確かに開く音が身体中に響き渡った。
もしかして、この音がミカンに
(聞こえたのでは?)と
俯いたままでいると
「ねぇ、服とかCDとか買う時、一目見て『これカワイイ』男の人なら『これカッコイイぜぇ』ってあるでしょ!?」
丸ん丸い目をして訊いてきた。
「うん、ある」
「人間にもそおいうのあると思う?一目惚れってやつ」
「ミカちゃんはどうなの?」
ナツは話の流れに照れて、切り返した。
「ミカンでいいよ」
「じゃあ、ミカンは?」
「あると思う。てゆーか、今日初めて知った」
ミカンはナツの鼻先を真っ直ぐ指差す。
「.....マジ!?」
バースト[破裂]しそうな鼓動を鼓膜のすぐ内側で感じながら聞き返した。
「マジ」
少し間を開けてナツは口を開いた。
「俺もあると思う。例えば俺のサインに気付いてくれた娘とか」
「やっぱ運命なんだよっ」
ミカンは後ろから抱き付きナツの耳元で囁いた。
ミカンの髪の毛からフローラルな香りが鼻孔を通り抜ける。(もぅ二度と人を好きにならない)
そう思っていた。
この1年、ナツは女性に対しずっとストイック[禁欲]にやってきた。
しかし、その努力もミカンの前ではあまりにも無駄なことだった。
頭の中に湧き上がる否定しようのない事実。
サクラへの建前で振り払ってみても、マトリョーシカ[ロシアの伝統の人形。大きな人形の中から同じ形の人形が小さくなりながら沢山出てくる物]の様に次から次へと、しかも大きく膨らんでいくばかりだった。