Destinyーバカだとしても
PM19:10―
待ち合わせに少し遅れたのは服の調達に手間取ったから。
「遅いね。アナタ、ジコニアッテシマタノカシンパイダタネ」
アユムは謎の中国人ぽく喋った。
「悪ぃ。服が見付かんなくてさ」
ナツは皆を見渡した。
アユムのテーマは
「オタク」
頭をスプレーで黒く染め、ハチマキみたいにバンダナを巻いている。
白いTシャツは肩をまくり、ケミカルウォッシュのジーンズ。
靴は見たことないペタ靴で、黒縁の伊達メガネ。
不精ヒゲまで生やして主催者の意気込みが感じられる。
マーサのテーマは
「サバイバー」
上から下まで全身ミリタリーカラー。
顔面までペイントしている。
極めつけのセリフは
「俺の後ろに立つな!」
本物になりきってるらしい。
ハチベーのテーマは
「ヤンキー」
見た感じいつもと変わらない。
敢えて言うなら、若干パンチの巻きが引き締まり、剃り込みが2センチ弱奥に進んだ位。
(龍の財布は止めたほうがいい)
ナツは思った。ナツのテーマは
「変人」
髪はスプレーで黒くし、ベッタリ油ぎったセンター分け。
首回りが伸びきって黄ばんだTシャツに寸足らずのスリムジーンズ。
Tシャツの上には虎壱のピンクのベストをコーディネート。
そしてショルダーバッグの中には飛び道具を仕込んでいた。
ナツは合コンよりも皆の変装と芝居を楽しみに来た。
MVPを相手に選んでもらい選ばれた人は今日の支払は免除される。
皆それぞれ
「今日のMVPは俺だ」と意気込んでいる。
「俺らマジにキモくね!?」
「つーか、これ見たら帰るっしょ?」
「大丈夫っ!相手の女には話してるから。他の3人が知らないだけ」
「それ完璧じゃ〜ん!!」
周囲の人間が白い目で通り過ぎて行く。
「じゃ、行きますか?」
4人は現場へと向かった。