〜Vanilla〜哀しみには、ほど遠く
〔Vanilla〕― 極東の中のどうでもいいような小さな街の中の小さな店の名前。
BGMはマスターの好みか、お客の持ってくる曲。
夜が下りて間もないこの店のカウンターに二人の少年がダルそうに座ってる。
「トムさ〜ん、ビアーむぁだぁ?」
[トムさん]とは、店のマスターの友崎 誠貴のことで、[友さん]がいつからか[トムさん]になったらしい。
「ガキが生意気にビールなんか呑んでんじゃねー」
そう言いながら中ジョッキを二つ出してくる。
「とかなんとか言って優しんだから〜。じゃ、取り敢えずオツカレー!」
少年二人は乾杯して、一気に呑み干した。
「マジでチョーうめぇ!オレラ全然疲れてねぇのになぁ」
さっきから髪が灰色の少年が喋るばかりで、相方のリーゼントの方は殆ど喋らない。
トムが灰色の頭の少年に話しかけた。
「ナツ、お前らプーさんのくせに何で呑む金持ってんだ!?悪い事してんじゃねぇのか〜?」
「んな事ないッスよ。。なぁサリー?」
「あぁ」
中澤 夏月―通称ナツ。
軽薄そうに見えるが、割と人望があり周りにいつも人が集まってくる。
諌利 洋―通称サリー。
ハーフでSexyな二枚目。クールで何時もポーカーフェイスだ。
ナツとは小学校の頃からの親友同士らしい。
突然ナツの携帯からhideのDICEが鳴りだした。
「この曲何回聴いてもカッコイイよなー」
そう言いって頭を振りながらノッている。
そうしてると携帯は切れてしまった。
「お前、アホか」
サリーが冷めて言う。
「ウルセェ!用がありゃまた掛けて」
言い終わらぬうちに携帯がまた鳴った。
「ほらね〜」
携帯を開くとディスプレイには"南"と表示されている。
ピッ
「おぃっ、遅ぇよ!30分もサリーと待ってんのによー。.....ごめんじゃねーよ!何やってんだよ?あ"っ!?コヤジが寝坊!?ふざけんなよっ、集会遅れんだろぉが!すぐ来いよっ!!」
ピッ
ナツ達は集会前いつもこの店で集まって行くのが決まりになっている。
10分もしないうちに店の扉が開き少年2人が入ってきた。
2人とも息を切らしているところを見ると、ビルの階段を走ってきたらしい。
「遅ぇ!遅ぇ!!遅ーぇっ!!!待ち疲れたわ。トムさん金置いていきますね」
ナツはポケットから札を出しカウンターに置いた。
「あっ、お釣りはいいっすから」
そう言って4人は足早に出て行った。
カウンターには一杯500円の中ジョッキが6つとグシャグシャに丸まった紙キレ三枚が無造作に置かれていた。
「何が釣りはいいだよ。消費税が足りねぇよ」
トムは笑いながら呟いた。