〜Destiny〜そして、その手を
シーサイドビーチでバカンスを享楽していたコケティッシュ[色っぽい]なマーメイド達が荷物をまとめ、飛沫を上げて南国へ向かう。
その飛沫が波紋に変わり、やがて波にさらわれる頃、人の心に微熱を残したまま夏は秋へと移って行く。
18歳を迎えたばかりのナツの所へ、ハチベーが中古で買ったワゴン車に乗って来た。
「すっげぇ!お前免許取れたの!?どっかドライブ行こうぜっ」
この日からナツ達は夏を取り戻すかのように、連日ナンパに繰り出した。
別に女を探す為ではない。
仲間とバカをやって忘れていたい事が沢山有ったから。
ハチベーの車は、持ち主の名前から
「ハチップ」と名付けられ、皆を色々な場所へ運んでくれた。
車内の天井には焦げた[貞子]という字があった。
「ハチベー!この車呪われてんぞっ!!」
納車1日目にアユムがナツを笑わせる為にライターで焼いたのだ。
皆、ナツを必死に笑わせようと躍起になっていた。ナンパは思うより上手くいかなかった。
ハチベーがよくないらしい。
「ねぇ、ねぇ。どっかで見たことない!?」
そんなセリフで引っ掛かるハズもない。
「何やってんだよぉ。ハチベー早く捕まえてきてよ〜。あ"っ!!あの娘、半端ねぇ。よし、行けー」
アユムが帰ってきたばかりのハチベーに催促する。
「またッスか!?今日40人は声掛けたっスよぉ。たまにはアユム君が声掛けたらいいじゃないっスか。文句ばっか言って」
「あ"ぁ"?言うねぇボ〜イ。ジョークはお前の顔で充分間に合ってんだけど、さっ!」
アユムがハチベーの腹を殴った。
「ボディは甘いよ。顔にしな顔にっ」
ナツが笑いながらアユムを煽る。
「あっ、あの娘行ってきまーすっ」
殴られる前にハチベーは慌てて出て行った。
「ガンむかつくよ、ハチベーの奴」
アユムはまだ殴り足りないようだった。
翌日―
アユムがニヤニヤしながら何かを手に持って来た。
「じゃーん!!ハチップにカスタマイズするのに拝借して参りましたっ」
「拡声器!?それで何すんの?」
「これが有ればぁ、女の子は入れ食いの......予定?」
アユムは急いで拡声器をハチップに取り付け、試しに街中に繰り出してみることにした。
いつもより遥かにノリノリなアユム
「ハチベーっ!あそこ行け!!」と女子校生の集団に近付かせるとマイクを掴んだ。
「石焼ぁ〜きいもぉ〜。。。。売り切れっ」
8割くらいの娘が驚きながらも笑う。
「よしっ!コレで掴んだぜ。こっから見とけよ」
ナツに言って、またマイクを掴む。
「オホン。え〜、皆様の薄汚れた街に、もっと汚れたハチベーがやって参りました」
「アユム君止めて下さいよー!恥ずかしいッスよ」
ハチベーがマイクを取り上げようとしたが
「ウルセェ!」と一喝された。
「情熱の男、ハチベー。パンチパーマが誰より似合う男、ハチベー。1分以内にイチゴ牛乳が買ってこれる男、ハチベー。ハチベー、ハチベー、ハチベーでございまぁす。」
女子校生達は皆興味津々そうに見ている。「そこのカワイイおねぇさん。そぉ、今自分に指差したアンタよぉ。ハチベー見てみたいっしょ!?」
「みたぁ〜い」
「OK、ベイベ〜。乗ってけよっ、送ってくぜ」
こうしてアユムの読み通り、1発目から成功したのだ。
「マジかよっ!?」
ナツは驚きながら、一時の歓楽に心を休めた。
アユムのテンションとノリの限界はまだ遠い。
ナツはこうして、遅れてきた夏を
思い出さず
忘れきれず
ギリギリのタイトロープの上で、その場しのぎの止まり木を探しながらやり過ごした。