Nightmareーティモシー
ナツは祈った。
(南、どっか行く時はround trip ticketsを買うもんだぜ。せめて水先案内がブルーバードであるように)
そして何より
(俺の手の中にある哀しみ全部、指の隙間から零れ落ちればいいのに)と
神という人が居るならばその人に切に願った。
一週間後―
ナツの家には南の愛車があった。
南が生前、
「もしいつか俺が死んだらさぁ、このドラッグマシーン・ティモシー号はナツにやるよ」
「じゃあ、早く死んでくれ」
「まっ、死にかけてもシャブ打ちゃ一発で生き返るからやる時ねぇんだけどな」
南がハハハッと笑いながら言っていたのを思い出し、南の両親に頼み譲り受けてきたのだ。
両親は、南を回想する事もなく、泣くでもなく、アムステルダムのコーヒーショップで貰ったブルドッグのキーホルダーが付いた鍵を事務的に渡してくれた。
ナツはその機械じみた一部始終に憤りを感じたが、拳を握り締め憎しみの礼を告げ南の家を後にした。
ナツは南の部屋に居た。
一週間前と何も変わらない。
今にも南が帰って来そうなくらいに。
ナツは南の部屋から1日中窓の外を眺めている。
「南ぃ。お前の好きだった桜、最高に綺麗だぞ。お前も見てるか?」
すると、一瞬の春風が花ビラを宙にさらった。
「やっぱお前もそう思った?」
一週間振りのナツの笑顔。
「お前の連れて来たサクラ大事に俺が咲かせるから」
独り言ともとれる小さな小さな声で呟く。
そして、ナツは南の部屋のシドを指差す。
「見納めだ。バーン!」
そしてドアを開けた。
哀しみから抜け出すようにティモシーに跨り、自分の桜を迎えに春風を追い越して行った。