Vanillaー日々の消化
先週から梅雨入りしてよく雨が降る。
今日もする事の無い少年達がバニラで談笑していた。
あの罰ゲーム以降ハチベーも仲間に入り5人で居る事が多くなった。
ハチベーは驚く事にあのスタイルが気に入ってどっぷりとヤンキーに染まってしまった。
しかも蓋を開けてみると結構な饒舌で面白かった。
「ナツ〜、何かねぇ?ヒマヒマヒマヒマァ"〜」
南が壊れ始める。
サリーは奥でギターを弾いている。
さっきから1人で
「チッ、音が出ねぇ」
とブツブツ言ってる。
どうやらピッキングハーモニクスの練習をしてるみたいだ。
コヤジはカウンターの端で携帯の
「東京砂漠」を流しながら唄っている。
どうもコブシが上手くまわらず、さっきから10回位繰り返していた。
ナツと南とハチベーの3人は何かないか思案中だ。
「良いこと思いついちゃったぜぇ。もうすぐ夏だし、お前ら彼女欲しいだろ?」
ウン、ウンと2人共頷く。
「てことで、第1回!告白ズー」
何かよく分かってないが2人は拍手して盛り上がってる。
「いいか?今から俺らでジャンケンして負けた奴が女の娘に告白する。た、だ、し、普通じゃ面白くないだろ?そこで、チョーくっさいセリフで口説くわけよ。どう!?」
「バカか!それで落ちる女なんかいるわきゃねーだろ。何が夏までに、だよ。夏までに女友達潰すじゃねーかよ。ムリムリ」
「ふざけんなよっ!テメェが暇だから何かないかって訊いてきたんだろ。よーするに勝ちゃいんだよ勝ちゃ。なぁハチベー?」
「そーっすよ。南君やりましょーよ」
ハチベーは男としての自信が違う方向でついてきたみたいだ。
「わぁったよ。やりゃいいんでしょ、やりゃ」
「じゃ、いってみよーか。最初はグー、ジャンケン ホイ!」
「うっわ、マジでドキドキする」
「あいこでショッ」
「ウッソー、まじかよっ」
「ありがとうございまーす」
ハチベーがイチ抜けする。
「せーの、最初からっ」
ナツはパーを出した。
「イエースッ!」
「ナツ、テメェ汚ぇぞ!!」
「ノンノンノン。男が小せぇ事でガタガタ言うんじゃねーよ。み、な、み.....くぅ〜ん」
「クソッたれ!覚えとけよ」
「まぁまぁ、コレでも呑んで」
ハチベーが中ジョッキを持って来た。
「俺ぁ、酒呑めねぇって知ってんだろ!」
「だから呑んで勢いでいくんすよ」
「チッ!」
南は仕方なくビールを呑みほす。
みるみるうちに顔が紅潮してきた。
「よしっ、南いってしまえ」
「おっしゃ!じゃあ、コイツのハートをわし掴んでみっか」
何だかんだ言ってやる気になっている。
「モシー、リョーコちゃん?おハローさん。今何してたの?えっ!?寝てたの?ごめんね〜。いや、チョット話したい事があんだけどさぁ」
後ろからナツが
「クサイセリフ言えよ」
と言っている。
南は人差し指を唇に当て、
「シー」の格好をした。
「えっと、う"ぅ"ん。いいかい?よ〜く聞いておくれよベイベェ。俺のハートは今、悲しみの氷で厚く閉ざされているんだ。いやっ、チョット待って!もぅチョット聞いて。いい?その氷ったハートをリョーコちゃんの熱〜い熱視線で溶かしてくれないかぃ?アッ....」
電話を一方的に切られたらしい。
「薬のやりすぎて遂にイカれたんじゃない?だってさ」
振り向くと、さっきまで向こうに居たサリーとコヤジも聞いていた。
「何でお前らまで居んだよ!ジャンケンしてねぇだろっっ!?」
「お前、世界一恥ずかしい奴だな」
サリーが冷たく笑いながらむこうに行った。
「ウルセー!ナツ、どーしてくれんだよ!?俺、リョーコちゃん3ヶ月も温めてきたんだぜ!ハァ〜、俺の夏がどっか行っちまった〜」
「お前、何で本命行くかなぁ。アホだねぇ」
「あ"っ!?だよなぁ〜。クッソ、ハメられたぁー!!!!」
こうやって16歳は暴力とノリだけで駆け抜けていった。
哀しみなんて知る由も無いまま新しい夏が訪れようとしていた。
VanillaーEND
次回、新章突入!
いよいよ女の子の登場です。
お楽しみに。




