【文化祭準備編19】僕は駆け落ちを提案される
今回は駆け落ちを提案させる話です
今回でこの小説は90話目になりました!短編で書いた小説がここまで長い話になるとは・・・・・
では、どうぞ
「さぁ、遠慮しないで座ってくれ」
僕は今、丈一郎さんの部屋に来ている。和風の旅館だけあって優奈の部屋もそうだったけど、畳が基本みたいだ。優奈の部屋はベッドが置いてあったから完全な和風ってわけじゃないけど
「はい」
丈一郎さんの話は今日の夕食時の時の話だろうけど、何を言われるか……
「さて、座ってもらったところで私の話だが、光晃君」
「はい」
「亜優美と何かあったかね?」
夕食の時の話というのは的外れではないけど、亜優美の話って予想は合ってた
「何かとは?」
「ふむ、亜優美と何かトラブルがあったかと聞いているんだ」
ここでしらばっくれてもいいけど、丈一郎さんは娘である優奈の将来についてどう考えてるのか聞いてから適当に誤魔化すかな
「その問いに答える前に僕からも1つ質問があります」
「今質問しているのは私なんだが?」
「こちらの質問に答えてくれたら僕も丈一郎さんの質問に答えますよ」
丈一郎さんの質問に答えるのは簡単だけど、娘の事をどんな風に思っているかを聞いてからじゃないと答えられない
「どうやら君の質問に答えないと亜優美の話に移れそうになさそうだな」
何かを感じ取った丈一郎さんは僕の質問に答えてくれるみたいだ
「ええ、少なくともこの質問に答えてくれない事には亜優美さんと何があったか話すのに説明が面倒になります」
「そうか……それならば君の質問を聞こうじゃないか」
「では、遠慮なく。丈一郎さんは娘である優奈さんをどう思ってますか?」
抽象的な質問だけど、丈一郎さんも親なら娘である優奈への思いを赤裸々に語ってくれるはず
「ふむ、優奈は私の大切な娘だよ。あの子には旅館を継ぐとかは考えずに自分の人生を歩んでほしいと思っている」
丈一郎さんは亜優美よりもちゃんと娘の事を考えてるみたいだ。これなら亜優美と何があったかを話してもいいかな
「そうですか、ありがとうございます。丈一郎さんには話してもよさそうです」
「そうか、では話してくれ。亜優美と夕食前に何があったかを」
「わかりました」
僕は夕食前にリネン室で亜優美にされた話をそのまま丈一郎さんに話した。
「そうか……亜優美と君のお母さんがそんな事を……それじゃ光晃君が亜優美を無視するのも納得がいく」
丈一郎さんは亜優美よりも話が分かるみたいでよかった
「分かってもらえて何よりです。優奈さんが亜優美さんとどうしようが優奈さんの自由ですし、丈一郎さんが亜優美さんと離婚しようが家庭内別居しようが勝手です。丈一郎さん、どうしますか?」
僕としてはこれ以上、亜優美と元・母が僕達の将来に干渉してこなければそれでいいんだけどね
「ふむ、亜優美の話は私は聞かなかった事にしよう」
「は?」
丈一郎さんはいきなり何を言い出すんだ?聞かなかった事にする?どうして?
「納得してないみたいだね。光晃君」
当たり前だ。丈一郎さんも亜優美や元・母の味方をするのか?
「当たり前ですよ。子供の将来を本人達の意思を無視して決める母達の味方をするように見えますからね」
「そうではない」
今の僕からしてみれば丈一郎さんも亜優美達と同類に見えるし
「ではどうだって言うんですか?」
「光晃君、優奈を連れて出て行ってくれないか?」
「はい?」
亜優美達の話を聞かなかった事にするって言ったと思えば今度は優奈を連れて出て行けとは……この人は何を言っているんだろ?
「言葉が足りなかったみたいで申し訳ない……正確には優奈が家出した事にして亜優美に娘の将来について考えさせたいんだ。ほとぼりが冷めるまででいい。優奈をどこかに匿ってくれないか?」
「は、はぁ、それは構いませんが……」
優奈を匿うのは全然構わないけど、問題はその場所だ。三食食事が用意できて雨風が凌げてできれば風呂とトイレが付いている場所がいいけど、そんな都合のいい場所なんて……サボりスポットは雨風は凌げても三食の食事を自炊できない。トイレはあっても風呂はない
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」
了承したはいい。隠れるだけならいい場所があるけど、だけど、どれくらいの期間、隠れてるか不明なのに簡単に優奈をサボりスポットに誘うわけにはいかない
「は、はあ……」
僕は丈一郎さんと雑談をして部屋を出た。優奈だって女の子だから風呂とトイレはもちろんの事、食事だってちゃんとしたいはずだ
「風呂、トイレ、キッチンが揃ってて隠れられる場所なんてあるのかな?」
少なくとも僕の知っている場所にそんなところはない。それに、葵衣の住んでいた部屋は葵衣が僕と同棲をする事をキッカケに引き払ってしまった。
「行く宛てなしか……」
今回ばかりは葵衣に相談してみよう。それから一応、優奈にも
「気が重いなぁ……」
正直、気が重い。丈一郎さんは大海町を出ろだなんて一言も言ってない。だけど、大海町にいたら亜優美に見つかるのは時間の問題だから大海町を離れるしかない
「葵衣と優奈に相談してみよう」
僕1人で悩んでいても仕方ない。葵衣と優奈に相談して何かいい案を出してもらおう
「さて、葵衣と優奈は大人しくしているかな?」
夕方、僕がリネン室に行く前は喧嘩してたけど、今回は喧嘩しないで大人しく待っててほしいものだ
「ただいま」
優奈と葵衣が喧嘩してない事を祈りながら部屋の襖を開けた。これで喧嘩してたらどうしよう……
「「おかえり~」」
「ただいま……って、何これ?」
僕が部屋に戻ってみると大量の酒瓶とビールやチューハイの空き缶が転がっていた
「何って空き瓶に空き缶だよぉ~」
「そうだよ~、光晃はそんな事もわからないの~?」
葵衣と優奈は完全に酔っぱらっていた。その証拠に2人の顔は真っ赤だ。
「そんなの見ればわかる。そうじゃなくて、どうして大量に空き瓶と空き缶が転がっているのかを聞いてるの」
「そんなの私と水沢さんが開けて飲み干してそのままにしたからに決まってるじゃん!光晃、君は本当にバカだな~」
酔っ払いにバカと言われても僕の心にはこれっぽっちも響かない。所詮は酔っ払いの戯言だし
「そうだよ!光晃のバーカバーカ!」
優奈に便乗して葵衣まで僕をバカ呼ばわり。酔っ払いの戯言でしかないから僕は気にしない
「光晃のバーカ」
「光晃のバーカ」
葵衣と優奈が僕の左右に来て僕をバカ呼ばわりする。コイツ等……人が何も言わない事をいい事に調子に乗って……
「そっか、2人揃って僕がバカだと思ってるなら葵衣とは別れ、優奈とは許嫁の関係を解消してもらおう」
酔っ払いだからと何を言ってもいいというわけではない。ここは葵衣と優奈にとって最もダメージが大きい言葉で酔いから醒めてもらおう
「「ごめんなさい!それだけは止めて!!」」
酔いが醒めたようで何より。さて、葵衣と優奈の酔いが醒めたところで僕から重要な話をしよう
「酔いが醒めたところで僕から重要な話があるんだけど、いいかな?」
「「うん……」」
別に正座する必要はないのになぜか正座している優奈と葵衣。重要な話をするとは言ったけど、説教をするだなんて一言も言ってないんだけどなぁ……
「別に説教をしようってわけじゃないから正座じゃなくていいんだけど」
「「そうなの?」」
「うん。これから重要な話をするのは確かだけど、説教じゃないから楽にしていいよ」
「「わかった」」
さすがに酔っ払って僕をバカにしたという後ろめたさがあるのか2人は完全に委縮したみたいだ
「はぁ……もう正座したままでいいから話をするけど、優奈、葵衣、僕と一緒に身を隠してほしい」
「「はい!」」
あれ?何も聞かないの?いきなり身を隠してくれだなんて突拍子もない事を言われたら疑問に思わないのかな?
「2人とも何も聞かないの?」
「「何を?」」
「彼氏や許嫁が突然、自分と一緒に身を隠してほしいなんて言った事に対して疑問に思わないのかって聞いてるの」
僕なら彼女や許嫁に突然、身を隠してくれと言われたら疑問に思う
「光晃が身を隠してほしいって言う事はよっぽどの事情があるんでしょ?」
酔っ払ってた時とは違い、真剣な表情で僕を見る葵衣。確かに事情はあるし、それはこれから話すけどさ……
「光晃、身を隠さなきゃいけない理由、ちゃんと話してくれるよね?」
葵衣と同じように真剣な表情で僕を見る優奈。まぁ、話すつもりではあるけど
「もちろん、ちゃんと話すよ。元からそのつもりだったしね」
僕は丈一郎さんの部屋で話した事を葵衣と優奈にそのまま話した
「なるほどね……」
僕だってその場では頷いて見せたけど、突然、しばらくの間、身を隠せと言われても困る。
「光晃、宮下さん、身を隠すって言っても行く宛てあるの?」
葵衣は心配そうにしているけど、葵衣にも協力してもらう。優奈と結婚するという事は葵衣と別れる事になる
「大海町から出るなら私には行く宛てはないよ……」
僕は大海町から出るとは一言も言ってない。だけど、優奈は何となくわかっているのかな?
「僕もサボりスポット以外に行く宛てなんてないよ。それに、これは葵衣にも関係があるんだよ?」
葵衣の態度に腹が立ったとかじゃない。純粋に葵衣と付き合っていくにあたって母親達の夢が邪魔になるってだけで
「私に?どんな?」
やっぱり事の重大さを理解してなかったか……
「僕の元・母と優奈の母親の夢をこのまま放置し、それを実現させるって事は葵衣と別れるという事なんだけど?」
身勝手な母親達の夢を実現させるということは葵衣と別れるという事だ
「え?」
僕は葵衣が本当に教師なろうとして教育実習に来た人間だとは思えなくなってくる
「え?って、身勝手な母親達の夢を実現させるとそういうことになるんだけど」
今の僕の言葉で事の重大さを理解したのか、葵衣は次第に涙目になった
「いや……そんなの……いや……」
「だから、僕と一緒に身を隠してって言ってるの」
「うん……」
泣きそうな葵衣を抱きしめ、何とか宥める。
「さて、落ち着いたところで僕には学校のグラウンド奥にある作業員用の掘っ立て小屋しか行く宛てがない。だけど、食事や風呂、トイレの事を考えるとそこに行くわけにはいかない。どこかいい場所はないかな?」
「「う~ん」」
僕達は明日にでも出発するつもりで隠れる場所を考えた。正直、母親達の身勝手な夢は1日でも早く潰したい
今回は駆け落ちを提案される話でした
短編で書いた小説がここまで長い話になるとは思わなかったなぁ・・・・と自分でも驚いております。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




