【文化祭準備編14】僕は葵衣を丸め込む
今回は葵衣を丸め込みます
付き合う前から光晃に依存気味の葵衣をどう丸め込むのか?
では、どうぞ
「…………」
「…………」
「…………」
とりあえず、これまでの事を振り返ってみよう。昨日、僕は葵衣との鬼ごっこで大海町まで逃げてきた。逃げてきたはいいけど、行く宛てがなく、絶望していたところに優奈が声を掛けてきた。そして、優奈の好意により優奈の家に泊めてもらう事になった。そして、今日、優奈に大海町を案内してもらい、締めとして駅前に来た。そこで優奈は僕の許嫁だって聞かされ、その途中で葵衣と再会した。ここまではいいけど、気まずい……ものすごく気まずい
「と、とりあえず、帰らない?」
このまま駅前にいても仕方ないし、それに、丈一郎さん達に葵衣の事を説明しなきゃいけないから早く帰りたい
「そうだね。お父さんとお母さんに水沢さんの事を説明しなきゃいけないし」
優奈は葵衣の事を丈一郎さん達にどう説明するんだろう?正直に僕の彼女って言うのかな?それとも、僕の友達とでも説明するのかな?どちらにしても一悶着ありそう
「え?光晃は真理さんの家に帰らないの?」
「葵衣、僕は荷物を持ってないし、それに、例え荷物を持っていたとしても文化祭準備が終わるまでは帰るつもりはないよ」
「えっ……でも……」
「葵衣、この鬼ごっこを始める時に言ったこと覚えてる?」
この鬼ごっこを始める時に捕まったら僕の負け、捕まえられたら葵衣の勝ち。という取り決めはしたけど、捕まった後でどうするかは決めてなかった。つまり、僕が捕まった後でどうなるかは決めてないので僕が北南高校の文化祭準備に参加する義理はない。
「うん、覚えてるけど?」
「じゃあ、僕は葵衣に捕まったから負けを認めるけど、その後で僕がどうするかは決めてなかった。つまり、僕は北南高校の文化祭準備に参加する義理なんてない。そういう事だよ」
「でも……」
「それに葵衣だって僕が北南高校の文化祭準備に参加してサボるかどうかを心配するより大海町でゆっくりしてた方がいいでしょ?」
我ながら無茶苦茶だとは思う。だけど、北南高校に行って窮屈な思いをするよりは大海町でのんびり過ごしてた方がいい
「そ、それはそうだけど……でも、真理さんが心配してると思うし……」
真理姉さんが心配か……僕の女装を推進してたからねぇ……うん、帰らなくていいや。しばらく心配させておこう
「僕の意見を聞かないで勝手に女装の話を進める人なんて知らないよ。僕は文化祭準備が終わるまでこの大海町でのんびりするの」
僕は今まで北南高校で苦労しっぱなしだったし、ストレスも相当溜まっていた。この機会にリフレッシュしようと思う
「わ、私は真理さんになんて言えばいいの……」
「なんて言えばって、大海町に来たけど僕は見つかりませんでしたでいいんじゃない?」
恋人に嘘を吐かせるのは心苦しいけど、僕は帰りたくない、葵衣は僕と離れたくない。じゃあ、どうすればいいか。簡単だよね。僕を見つけた事実を隠して大海町でのんびりする
「で、でも、真理さんに嘘なんて吐けないよ……」
葵衣は優しい女の子だけど、こういう時に優しさは必要ない。必要なのは好きな人といる為なら多少の嘘を許容できる器だ
「葵衣は僕が居なくなったと知った時にどう思った?」
「すごく不安だった……」
「そう。でも、僕は北南高校の文化祭準備に参加したらまたサボるかもしれないよ?それを考えると文化祭準備の期間は大海町で過ごしていた方がよくない?」
葵衣は付き合う前からそうだったけど、僕に依存している部分がある。そこに付け込むわけじゃないけど、弱点はそこだし、それを利用しない手はない
「それは……」
僕の言葉を聞き揺らぎ始める葵衣。揺らいでいるのは事実だけど、もう一押しかな
「それに、僕は今、少し迷っているんだ」
「何を?」
「親に確認しないと本当かどうかはわからないからなんとも言えないけど、葵衣と別れて許嫁である優奈と付き合おうかなと思っている事を」
親に確認しないと優奈が本当に僕の許嫁かどうかはわからないし、優奈の事は嫌いじゃないけど、葵衣とこのまま付き合い続けていいものだろうかとは思っている
「「えっ……?」」
さっきから話に全く入っていなかった優奈と僕を連れ戻そうとしている葵衣が揃って驚きの声を上げる。
「2人とも驚いてるみたいだけど、当然でしょ?そりゃ人間だからね。矛盾するのも喧嘩するのも仕方ないけどさ、でも、こう毎回毎回だと不安になる。それに、喧嘩は少ない方がいいでしょ?だったら僕は葵衣と別れて優奈と付き合うよ」
僕に依存気味な葵衣には酷な話だけど、僕は家に帰るつもりは毛頭ないし、今ここで連れ戻されたらまた家出するのは間違いない
「そ、そんな……」
絶望のあまり、その場に崩れ落ちる葵衣。最低な事を言っているって自覚はあるけど、連れ戻されるよりはマシだ
「光晃、今のはいくらなんでも酷過ぎじゃないかな?」
思うところがあったのか、優奈が僕を咎める
「確かに、今のは酷いと思う。だけど、このまま連れ戻されるより文化祭準備期間だけでも僕はのんびり過ごしたい。僕がのんびり過ごしたいって思うのは悪い事かな?」
自己中だと思いたければ思うといい。だけど、僕だってたまにはのんびり過ごしたい。家の事をしたくないとかじゃない。ただ、僕は北南高校のバカ教師達から解放されたいだけなんだ
「そんな事はないけど……」
はい、優奈を黙らせる事に成功。さて、次は……
「優奈は理解してくれたみたいだけど、葵衣はどうかな?僕の気持ち理解してくれた?」
自分の意見を押し付けたくはない。だけど、真理姉さんや他の教師といると疲れるから文化祭準備期間の間だけでも家から離れたい
「理解はしたけど……真理さん達が心配するよ?」
「うん。それで?大体、僕が真理姉さんと一緒に暮らしているのは──────いや、今はいいか」
「一緒に暮らしているのは?何?」
僕にとって聞き流してほしい部分を聞き返してくるなんて……葵衣、そういう目ざとさは教師になった時、自分の生徒に使ってほしい
「別に何でもないよ。ま、1つ言うなら僕は別に真理姉さんと一緒に暮らさなくてもいい。それだけは言っておくよ」
真理姉さんの事は置いておいて、今は優奈の家に帰るか、自分の家に帰るかの2つだ
「「光晃……」」
悲しそうな目で僕を見る優奈と葵衣。やはり僕は大海町にもいられないのかな?
「まぁ、こうして葵衣に捕まってしまったわけだし、大海町にもいられないかな……」
僕は極端だと思う。だけど、必要以上に絡んでくる教師、教育実習生。約束も守れない従姉。強制的に約束を守れなんて言わない。だけど、約束をした以上は守ってほしい
「どうしてそうなるの?私の家なら光晃がずっといてもいいんだよ?」
「優奈……でも、連れ戻される可能性がある以上、僕がいると迷惑になるでしょ?」
「そんなことないよ。光晃の知り合いが来たらいないって言えばいいだけだし」
優奈は淡々と答える。優奈なら僕の意見をちゃんと聞いて僕が嫌だって事はしないだろうなぁ……
「それもそっか。じゃあ、優奈の家にお世話になろうかな」
優奈の家は旅館だし、部屋なら余ってる。それに、優奈の家を手伝うだけでいいんだから北南高校に通っているより楽かもしれない
「うん!」
優奈は僕の答えに満面の笑みで答えてくれた
「光晃……私は?私はどうなるの!?」
優奈の家でお世話になるって結論が出て満足できるのは優奈と僕だけ。葵衣が納得できるはずがない
「真理姉さんの方へ付くなら僕は切り捨てるけど、僕の方へ付くなら僕は葵衣とずっと一緒にいるよ」
人の弱みに付け込むのは気が引けるけど、味方は多い方がいい
「付く……」
「ん?何?」
「私も光晃の方へ付く」
「どうして?」
「真理さんに嘘は吐きたくないけど、光晃と一緒にいられないのは嫌だから……」
「そう」
一通り話し合いが済んだところで僕達は優奈の家へ。いつまでも駅前にいる事はできないし、それに、優奈も葵衣も人の目があるから怒鳴る事も泣く事もしなかった。まぁ、葵衣の方は抱き着く事もだろうけど
「意外とアッサリ受け入れられたね」
帰って来たはいいけど、葵衣の事をなんて説明するか迷った。で、迷った結果、正直に説明しようっていう優奈の案を採用し、そのまま説明した。だけど、丈一郎さん達は意外にもアッサリ受け入れてくれた。本人達曰く『言ってなかった俺達にも非はあるし、それに、光晃君も高校生だ。彼女の1人もいるだろう』とのこと。まぁ、最初に知った優奈がアッサリしていたんだ。親である丈一郎さん達がアッサリしてないなんてないけど
「そうだね……」
「葵衣、近いんだけど。それに優奈も」
「「ダメ?」」
帰って来て優奈の部屋へ通されてからずっとこんな感じで葵衣と優奈は僕に密着してくる。葵衣はともかく、優奈はどうして?
「ダメじゃないけど、どうして2人は僕に密着してくるの?」
「「私がそうしたいから!!」」
「あ、そう」
多数決って平等に見えるけど、見方を変えれば数の暴力だと僕は思う。今だってそうだ。密着したい葵衣と優奈。それに対して本当は動きづらいから離れてほしい僕。どちらが勝つかなんて目に見えている。だって、離れてほしいのは僕だけなんだから
「「光晃……」」
密着された上にそんな捨てられた子犬みたいな目で見られてもね……
「捨てられた子犬みたいな目で見られても僕は何もしないよ?」
優奈の方はわからないけど、葵衣の方はキスを要求しているみたいだ。だけど、この場合は彼女と許嫁がいる状況なわけで、どちらかとキスしたらもう片方ともキスしなきゃいけなくなる。日本は一夫多妻制じゃないから2人と結婚するなんて無理だ。そもそも、僕は結婚できる年齢じゃないけど
「「そんな……」」
「そんなって言われても葵衣か優奈のどちらかとキスしたらもう片方ともキスしなきゃいけなくなるでしょ?そうしたら不公平でしょ?だから僕はどっちともキスしない。OK?」
葵衣と優奈を平等に扱うにはキスを迫られても対応しないのがいい。まぁ、抱きしめるくらいならするけど
「ねえ、光晃」
「何かな?優奈」
「私と水沢さんが平等ならいいんだよね?」
「そうだけど?」
「そう……」
僕の答えに葵衣と優奈は顔を合わせて頷き合った。僕にとってはこの上なく嫌な予感がするんだけど?気のせいだよね?気のせいって言ってよ……
今回は葵衣を丸め込みました。
連れ戻そうとした葵衣を半ば脅迫みたいな形で丸め込んだ光晃ですが、自分のしたくない事を回避する為には全力で知恵を働かせる光晃。それに、真理と一緒に暮らしている理由について少し触れた光晃ですが、それはまた別のお話で
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




