【文化祭準備編9】優奈の寝起きは悪かった
今回は起床からのスタートです
優奈は葵衣と似ている部分がある。ということは・・・・
では、どうぞ
朝、僕はベッドの上で目が覚める。違うところは僕の家じゃないところくらいで他には何の問題もない
「朝か……昨日は優奈と一緒に寝たんだっけ?」
寝起きで頭が回ってないとはいえ、自分が今、どこにいて、誰と寝たかくらいは判断できる。僕は今、優奈の家にいて、優奈と寝た。これは間違いない。問題はその優奈がどういう状態かって事だけど……
「ん~、むにゃむにゃ……すうすう……」
隣りにいる優奈は幸せそうな顔で僕に抱き着いて寝ている。僕にとっては気が付いたら女性に抱き着かれているなんてのは日常茶飯事だからいい。主に葵衣のせいで
「優奈、起きて」
「ん~」
「優奈、朝だよ、起きて」
「ん~、や~」
僕に声を掛けてきた時点で何となくそうじゃないかなとは思ったけど、真理姉さん然り、葵衣然り、優奈も寝起きは悪いようだ
「や~じゃなくて、朝だよ、起きて」
「や~だ~」
今の優奈は聞き分けのない子供みたいだ。だけど、このまま放置しておくわけにはいかない。だけど、葵衣や真理姉さんと同じやり方で起こすわけにはいかないし……困った……
「はぁ……どうしたら起きてくれるの?」
真理姉さんと葵衣になら多少強引でも何の問題もないけど、優奈にしたら僕は社会的に死んでしまう
「ん~、キスしてくれたら起きる~」
優奈さん?昨日に引き続き今日もですか?
「優奈、そういうのは好きな人にしてもらいなよ」
「光晃がいい……」
僕がいいと言われましても僕には葵衣という彼女がいるんだから。聞かれてないから答えなかったけど
「キスしたら起きる?」
「うん~」
はぁ……仕方ない……場所の指定はなかったし……いいか
「んっ……」
「えっ……?」
僕は要求通りにキスをした。優奈の額に
「何?優奈の言う通りにキスしたよ?さぁ、起きて」
「う、うん……」
どこか納得の言ってないような顔の優奈。でも、僕はちゃんとキスしたからね?文句は言わないでよ?
「さて、朝ごはんにしようかって言いたいけど、どうしたらいいの?」
「あ、そっか、光晃に言ってなかったっけ?」
「うん、何も聞いてないよ」
夕飯は優奈と一緒だったし、何の問題もなかった。だけど、朝はどうしていいかわからない。だってここ旅館だし
「ご、ごめん、今案内するね」
「う、うん、それで、さっきの事なんだけど……」
「さっきの事?」
「僕が優奈の額にキスした事」
「あっ……」
優奈の顔が瞬く間に真っ赤になった
「あ、忘れた方がいいんだね」
「…………」
僕の言葉に無言で頷く優奈。この反応から言葉にしなくても忘れた方がいいということは理解できる
「まだ気にしてるの?寝起きで頭が回らなかった時の事だし僕は気にしてないよ」
僕の隣りを歩く優奈は起きた時の事をまだ引きずっているのか俯いたままだ
「だ、だって……寝起きのこととはいえ男の子にキスを要求するなんて恥ずかしすぎる……」
気持ちはわからなくもないけど、いつまでも沈んだままでいられると僕が困る
「誰にだって寝起きのテンションで言ってしまう事ってあるからあんまり気にしない方がいいよ」
「光晃にもあるの?」
「何が?」
「寝起きのテンションで言ってしまう事」
僕が寝起きのテンションで言ってしまう事か……僕は朝、誰かに起こされるなんてないからなぁ……ないな
「僕は朝は1人で起きるからそう言ったことはないよ」
「1人で起きられる人が気にするなって言っても説得力ないよ~!」
慰めたつもりがトドメを刺してしまったみたいだ。
「ご、ごめん、慰めたつもりだったんだけど……」
「ううん、いいよ……元はと言えば私の寝起きが悪かったせいだし」
こうなった原因が優奈自身にある以上、僕には何も言えない
「…………」
「…………何か言ってよ」
沈んでいたと思っていた優奈の為に黙っていたけど、優奈の方から発言を求められてしまった
「いや、今回の事は優奈の寝起きの悪さが招いた事だし、僕は何も言えないよ」
「そうだとしても慰めてよ。女の子が落ち込んでるんだよ?」
自業自得で落ちこんでいる人に何を言えというんだろう?自慢じゃないけど僕は語彙力が少ない。他人を傷つける事は得意でも他人を慰める事は不得意なんだよ
「そ、それより、朝食ってどこで食べるの?」
苦肉の策で僕は話題をすり替えた。だって、今朝の事をこれ以上話し合っても水掛け論にしかならないと思うし
「話を変えたね。まぁ、いいけど。朝食は従業員用の食堂で食べるんだよ」
「そうなんだ。でも、昨日は優奈の部屋で食べたよね?」
昨日の夕飯は優奈の部屋で優奈と2人で食べた。それはどうしてだろう?
「昨日は旅館の方が忙しかったし、光晃はここへ来たばかりだから落ち着ける場所って事で私の部屋で食べたの。でも、今日からは夕飯も従業員用の食堂だから」
「わかった」
昨日の夕飯は優奈と丈一郎さん達が気を使ってくれたから優奈の部屋だったんだ……
「着いたよ。ここが従業員用の食堂」
「ひ、広くない?」
従業員用の食堂だって言うからもう少し狭いのかと思っていたけど、思った以上に広かった
「そう?そんな事ないと思うけど?」
「優奈は見慣れてるから広くないと感じるんだろうけど、見慣れてない僕にとっては広いんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうものなの。ところで、従業員の方達は?」
従業員用の食堂だっていうから他の従業員の人がいると思ったけど、誰もいない。ひょっとしてもう食べ終わったとか?
「まだ誰も来てないよ?」
「え?」
「だって、今はお客さんの朝食の時間だからね。従業員は受付以外は朝食が終わってから食べるんだよ」
「そうなんだ……っていうことはもしかして……」
「うん、朝食は私が作ります」
朝食があると思って来たけど、そうじゃなかった。朝食はこれから優奈が作るらしい
「その朝食、僕が作ろうか?」
「え?」
「昨日、料理人の数が足りないって言ってたでしょ?」
「うん。でも、いいの?」
「何が?」
「朝食作らせちゃって」
「泊めてもらってる立場だからね。これくらいさせてよ」
一宿一飯の恩って言うし、それにただ泊めてもらうんじゃ悪いからせめて朝食くらいは作らないとね
「光晃がいいなら私はいいんだけど……」
「いいのいいの。家にいる時も朝食は僕が作ってるし」
「そう……じゃあ、お願いしようかな」
「うん。あ、食材は勝手に使うよ?」
「いいよ」
優奈の許可を得た僕は調理に取り掛かる。だけど、問題が1つ発生した
「ん?魚の捌き方がわからないの?」
そう、優奈が調理場であるこの場所に留まっているという事だ
「違うよ。見られてたらやりづらいんだよ」
「そう?何か手伝える事ないかなと思って残ったんだけど」
残ってもいい。手伝ってくれるって気遣いも嬉しい。だけど、無言で見つめるのだけは勘弁してほしい
「手伝ってくれるって気遣いをしてくれるのは嬉しいけど、無言で見つめないでよ……やりづらいから」
「ごめん……で、手伝える事ない?」
手伝える事か……従業員の方がどれくらいいるかは知らないけど、旅館だし、それなりにいるのは間違いない
「じゃあ、野菜を切ってもらっていいかな?」
「うん!わかった!」
僕は魚を捌き、優奈は野菜を切る。あ、従業員が何人いるか聞くの忘れてた
「優奈、聞きたい事があるんだけど」
「何?」
「この旅館って従業員は何人いるの?」
「うーん、私もちゃんと数えた事ないから具体的には言えないけど、20人くらいかな」
「そ、そんなにいるんだ……」
「うん。でも、全く関わらない人もいるし、全員と仲良くできるかなとかは考えなくていいよ」
それでいいんだ……優奈の言いたい事は理解できる。学校でも真理姉さんが勤めている教師全員と関わっているとは限らないし。でも、ここ旅館だよ?それでいいのかな?
「僕には旅館の仕事はよくわからないけど、そういうものなのかな?」
ドラマとかじゃ旅館の女将と料理人が男女の関係にある場面を目にする事あるけど、実際はそうじゃないのかな?
「そういうものだよ。関わる人は関わるけど、関わりのない人とは本当に関わらない」
「そういうものなんだ……」
「うん。私だって女将の人とは時々話をするけど、料理人の人とはあんまり話しないし」
接客担当と料理人なんて接点なさそうなのは否定しないけど、旅館の娘がそれでいいのかな?
「自分と関係ない仕事をしている人となんて話す機会なんてないか」
いろいろ疑問はあるけど、普通の企業でもそこに勤めている人間全員と話したり関わったりしてるかと聞けば全員と関わっているなんて答える人はまずいないだろう
「うん。あ、野菜切り終わったけど、次はどうすればいい?」
「それはサラダにするから適当な皿に盛りつけて」
「わかった。で、そっちはどう?」
「こっちも捌き終わったから後は焼くだけ」
僕は捌き終わった魚を焼いた。普段は4匹程度だけど、10匹以上の魚を同時に焼いたのは初めてだ
「さて、魚を焼いてる間に味噌汁を作るか」
「お味噌汁なんだけど……」
「ん?何?」
「光晃は大きな鍋でお味噌汁を作った事あるの?」
普段は普通の家で生活している僕が大きな鍋で味噌汁を作った事があるわけない
「ないよ」
「分量とかわかる?」
「いつも家でやってるからその辺は大丈夫。ただ、ここの鍋が大きくなっただけだし」
鍋が大きくなっただけで普段、家で作っている味噌汁と何ら変わりない
「そう。それなら別にいいけど」
「あ、でも、失敗したら嫌だから優奈も一緒に味噌汁作ってくれる?」
「うん!」
「さっきは素っ気なかったのに急に元気になったね」
「だって、光晃と一緒に作業したかったんだもん」
一緒に作業したかったら始めからそう言えばいいのに……まぁ、大人になるにつれて純粋さや素直さを失うのは理解できないわけじゃないけど
今回は起床からのスタートでした
優奈は葵衣と似ている部分がある。ということは寝起きも悪いです
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




