【文化祭準備編4】僕は旅館に案内される
今回は旅館に案内される話です
光晃は無事に宿を確保できるのか?
では、どうぞ
僕的にはあんまり好きじゃないんだけど、前回のあらすじでも回想しようかな……葵衣と鬼ごっこする事になった僕、岩崎光晃は絶対に捕まりたくないからという理由と1人旅がしたいという理由で風の行くまま気の行くまま田舎町に来たけど、宿の少なさに絶望していた。絶望していた僕は1人の女性に声を掛けられました。以上、回想終わり
「…………」
「…………」
女性は旅館に案内する為、僕は旅館に案内されている道中なんだけど、お互いに会話がない。
「あの、お互い名前を知らないどう呼んでいいかわからないので自己紹介しませんか?」
気まずさからか女性の方から自己紹介を提案してきた
「そうですね、僕からでいいですか?」
「うん」
「僕は岩崎光晃です。よろしくお願いします」
「私は宮下優奈です。よろしくお願いします」
僕と宮下さんは互いに自己紹介したんだけど、うーん、なんて言うか、お見合い?
「宮下さん、この町ってなんて言う名前なんですか?」
「え?光晃君、この町の名前知らないの?」
宮下さんは教師じゃないから呼び方をとやかく言うつもりはないけど、初対面の異性に名前呼びってなんかこうグッとくるものがある
「ええ、切符を適当に選んで買いましたし、発車とほぼ同時に寝てしまって気が付いたら終点でした。それに、駅のホームからボーっとして改札を出たんで駅名すら見てませんのでこの町の名前を知らないんですよ」
本来なら駅のホームなり改札で町の名前くらい確認してもいいんだけど、僕は宿を探す事に焦点を当てていたのでそれもしていなかった
「駅のホームとかに駅名が書いてあるからそれで確認しようとは思わなかったの?」
「宿を探すのに焦点を当てすぎていたので……」
「光晃君って天然?」
僕は今まで人を見下した奴等のマイナスな印象を持たれることは多かったけど、天然なんて初めて言われたよ
「そんなことはないと思いますけど、実際はどうなんでしょう?」
「私は天然だと思うよ?それより、町の名前だけど、ここは大海町だよ。海水浴と登山が同時に楽しめる町として有名なんだけど、知らない?」
ここは大海町っていうのか……と、いうか、海水浴と登山が同時に楽しめる町って……それって海水浴をしても登山をしてもどっちでも選べるって意味だよね?
「僕はあんまり旅行とかしないんで知らないです。今、初めて知りました」
「そっか、で、光晃君はどうしてこの町に来たのかな?今来ても登山しかできないよ?」
海水浴のシーズンじゃない事は知っている。それに来た理由が鬼ごっこだなんて……どう説明したらいいかな
「ちょ、ちょっとした羽休めと言っておきましょうか。それより、宮下さんはどうして僕に声を掛けてきたんですか?」
「優奈でいいよ。私も光晃君って呼んでるんだし。それで、光晃君に声を掛けた理由だっけ?」
「ええ、いくら田舎町だとしても見ず知らずの人間に─────それも、男に声を掛けるなんて危険だと思うんですけど?」
田舎に来る人が年寄りだとは限らない。田舎ならいい女をゲットできるかもしれないなんてバカなことを考える輩だっている。
「光晃君が困ってたからじゃダメ?」
「は、はぁ、優奈さんがそういうならそれでいいですけど……」
僕は優奈さんじゃないから声を掛けた理由をとやかく言うつもりはない。だけど、僕がナンパ目的だったらどうするつもりだったんだろう?
「それに、君はナンパなんてするようには見えないし」
それは僕がヘタレだって言いたいのかな?信用してくれるのは嬉しいけど、信用のされ方が嬉しくない
「まぁ、僕に女性をナンパする度胸なんてありませんね」
「でしょ?それより、光晃君は年齢いくつ?」
マズイ……異性関係の話から年齢の話になるとは思わなかった。どうしよう……ここは誤魔化すか話をすり替えるか
「いくつに見えます?僕って結構若く見られるんですけど」
「うーん、17歳かな?」
「…………」
誤魔化すことも話をすり替えることもできなかった……一発で言い当てられるとは思わなかった
「あれ?正解しちゃった?」
「…………」
僕は無言で頷くしかできない。経験上これ以上何かを言っても無駄だって知ってる。主に真理姉さんのせいで
「当てずっぽうで言ったのに本当に17歳だとは思わなかったよ……と、いうことは光晃君って高校生?」
「そうです。正確には高校2年生です」
「へぇ~、高校2年生の光晃君はどうして1人旅なんてしてるのかな?まさか、家出?」
家出と言えば家出なんだけど、今回は事情が違う
「それを話す前に約束してください」
「うん」
「僕を何日か泊めてください」
「うん、いいよ」
「そうですよね……断り───え?今なんて?」
「だから、いいよって」
優奈さんがわからない。どうして何も話してないのに許可が出せるんだ?
「いいんですか?」
「うん。いいよ。それで、光晃君はどうして家出なんてしたのかな?」
「じ、実は─────────」
僕は文化祭で女装する羽目になったこと、採寸が終わり理沙がいなくなった隙をついてその場から逃げ出したこと、葵衣のことはあえて伏せて鬼ごっこで僕が捕まれば負けとなり意地になって大海町に来たことを話した
「な、なんていうか、光晃君って大胆なことするね……」
僕の話を聞き終えた優奈さんの顔は引きつっていた。鬼ごっこで逃げる範囲なんて学校内かそれか住宅街くらいであり、他所の地域に来る奴なんて僕か余程のバカしかいない
「僕にも意地ってものがありますからね。絶対に捕まるわけにはいかないんですよ」
「あ、あはは……意地だけで列車に乗ってこんな田舎町に来るのは世界中探しても光晃君くらいだよ」
僕もそう思う。鬼ごっこごときで列車に乗って知らない田舎町に来る奴はきっと僕くらいだ
「そうでしょうね」
「まぁ、いいや。面白いから今の話をお父さんとお母さんにもしてあげて」
「は、はい」
優奈さんは変わり者だけど、その変わり者の優奈さんのご両親もさぞ変わり者なんだろうな
「唐突で悪いけど、もうすぐ家だよ!」
本当に唐突ですね……泊めてもらう立場だし、お世話になるんだから文句は言えないけど
「そうなんですか?」
「うん、ところで光晃君」
「何ですか?」
「お料理って得意?」
今度は唐突に料理が得意かだなんて……何かあるのかな?
「一応、人並みにはできますけど……」
「よし!採用!」
何が採用なのかは知らないけど、どうしたんだろう?
「は、はぁ……ありがとうございます?」
「うん!」
履歴書を出した覚えも面接をした覚えもないのに採用とか……
「優奈さん」
「ん?なあに?」
「優奈さんの家に着く前に確認したい事があるんですけど」
「うん」
「優奈さんの家の旅館って人手足りてないんですか?」
「うん……」
何かあるとは思っていたけど、人で不足だとは思わなかった。高校生の僕に料理ができるか?なんて聞いてくるくらいだ。人手不足は人手不足でもそれなりの覚悟をしておかなきゃな
「はぁ……僕は泊めてもらう立場の人間なので言ってくれればお手伝いくらいしますよ」
「本当!?」
「本当です」
「よし!じゃあ、家へレッツゴー!」
優奈さんは僕が手伝うと言って気をよくしたのか、僕の手を強引に引いて速足で優奈さんの家へと向かう
「ここが私の家だよ!光晃君!」
「…………」
家が旅館だとは聞いていたけど、ここまで大きいとは思わなかった。もっとこう、小さな民宿とかペンションとかを想像していたのに、目の前にあるのは大旅館だった。
「どうしたの?さっきから黙って」
「いや、予想以上に大きくてビックリしているだけです」
「そう?家は小さい方だと思うけど?」
これで小さいとか……他はどれだけ大きいんだって話なんだけど……
「そ、そうですか……」
考えても仕方ない……それに、ここなら葵衣と真理姉さんのも追いかけてこれないだろうし、わからないでしょ
「とりあえず中に入ろうか?光晃君を泊める部屋も決めないといけないし」
「そうですね」
駅に着いた時、僕は宿の数が3つしかないと絶望していた。そして、その3つの旅館の1つに来ているけど、この旅館と同等、もしくはそれ以上に大きいのが後2つもあるなら十分なんじゃないかと思う
「ただいま~」
「お、お邪魔します……」
ここは本来旅館だからお邪魔しますは変なんだけど、優奈さんがただいまなんて言うから僕はつい、お邪魔しますなんて言葉が出てきてしまった
「おかえりなさい、優奈さん」
「ただいま。陽菜さん」
優奈さんを出迎えたの陽菜さんという女性。見た感じだと20代から30代の間だ。まぁ、優奈さんも見た目だと20代から30代の間なんだけど……女性に対して年齢の話をする度胸は僕にはない
「あら、優奈さん、そちらの方は?」
先程まで優奈さんと会話していた陽菜さんが僕に視線を向けてきた
「彼は岩崎光晃君。駅で困ってたから拾ってきた」
優奈さん、僕は犬や猫じゃないんですけど?拾われたのは事実だから反論はできないけど
「そうですか、私は一之瀬陽菜。ここの従業員をしています」
「岩崎光晃です。よろしくお願いします」
「よろしくね。で?岩崎君はどうして優奈さんに拾われたのかな?」
陽菜さんが疑問に思うのは当然だけど、そこはできれば触れないでほしい
「陽菜さん、ちょっと」
「は、はい……」
優奈さんは陽菜さんを連れ、僕から少し離れた場所でヒソヒソと何かを話している。そして──────
「岩崎君」
「はい」
「鬼ごっこで捕まりたくないからここまで来たって本当?」
「はい、本当ですけど」
「しばらくここにいる事ってできる?」
しばらくがどれくらいの期間なのかは知らないけど、僕としては泊めてくれるのは大歓迎だし、文化祭準備期間の間は僕は家に帰る気はない
「しばらくがどれくらいの期間か知りませんけど、長居するのは可能です。人手、足りてないんですよね?お手伝いしますよ?」
「そう……優奈さんから聞いて全て知ってるのね」
陽菜さんは僕が全てを知っていると勘違いしているけど、僕は全て知っているわけじゃない。知っているのはこの旅館が人手不足だってことだけ
「全ては知りませんがここが人手不足だってことくらいは知ってますよ」
「そう、ならいいわ」
陽菜さんはそう言って奥へ入ってしまった。
「光晃君!行こう?」
「そうですね」
僕と優奈さんはおそらくだけど、優奈さんのご両親のいる部屋に向かっている。誤解のないように言っておくけど、僕は優奈さんと結婚のあいさつに来たわけじゃなくて、この旅館でお世話になるし、自己紹介等を含めたあいさつに来ただけで特別な意味はない
今回は旅館に案内される話でした
無事に旅館に案内された光晃ですが、普通に泊まるというのは不可能な模様
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




