【文化祭準備編1】僕は女装を要求される
今回は文化祭準備編の1です
文化祭準備ということでまずは話し合いから
では、どうぞ
僕と葵衣が付き合いだしてから早いもので3か月。その間にこれといった変化はあまりなかった。紅葉さんのストーカーの件は紅葉さんが僕の家に住む事で解決し、夏休みは葵衣と2人でダラダラと過ごし、夏休みのイベントらしいイベントは特になかった。だけど、高校生である以上、避けられないイベントがある。そう、文化祭だ。そう、文化祭なんだけど……
「はぁ……」
僕、岩崎光晃は頭が痛い。主に文化祭の出し物と出店の案が原因なんだけど……その意見自体は別に普通のものだ。だけど、出店の配置と出し物の劇でやる配役に問題がある。まず出店の方から見ていこうか
『メイド&執事喫茶(岩崎は女装)』
『お化け屋敷(岩崎は女装)』
『チャイナ喫茶(岩崎は女装)』
全部普通の意見なんだけど、どうして僕が女装するのがまるで決定事項みたいになっているの?それ以前にどうしてこのクラスの連中は誰1人としてツッコまないの?っていうか、誰が意見の後ろに括弧をつけて僕は女装って書き足したの?
「はぁ……」
改めて出店の意見だけ見て頭が痛くなる。だけど、出し物の劇でやる配役を見ると頭痛が更に増す。とりあえず意見から見てみようか……
『シンデレラ(岩崎は女装)』
『かぐや姫(岩崎は女装)』
『白雪姫(岩崎は女装)』
小学校の学芸会か幼稚園のお遊戯会かとツッコみたくなるような意見だけど、僕がツッコみたいのはそこじゃない。どうして僕が女装するのが当たり前みたいな感じで意見が出る?
「はぁ……」
本日3度目の溜息。これなんてイジメ?どうして僕が女装する事について誰もツッコまないの?
「他に意見のある人はいませんか?」
教室に文化祭実行委員の声が響き渡る。今までの僕は学校の文化祭なんてものに興味はなかったから無視してたけど、今回ばかりは見逃せない。主に僕が女装する件についてはね
「はい!」
「はい、岩崎君。なんですか?」
「どうして僕が女装する事が前提なんですか?」
今まではツッコまなかったけど、出店の意見が3つ、出し物の意見が3つある。全部に僕が女装するのが決定事項みたいに書いてある事にさすがにツッコミを入れたい
「そんな事ですか」
そんな事って僕にとっては男の尊厳に関わる重大なことなんですけど?
「僕にとっては重要なことなんです」
他の人には大した事じゃなくても僕にとっては重要な事ってある。女装の事とかね
「はぁ……岩崎君の女装に関しては小谷先生が見たいって言ってきた事ですし、名倉君の許可は取ってあります」
よし、真理姉さんの晩酌はしばらく抜きにして秀義は後で殴ろう
「秀義?」
秀義は後で殴るとは言ったけど、今、睨まないなんて一言も言ってない
「お、俺は文化祭に来るであろう水沢先生の事を思って許可しただけだ!俺は悪くない!」
アンチ創作のキャラが使う王道の言い訳をするな。それと、葵衣を言い訳に使ってもダメだよ?
「僕の女装の許可を勝手に出した言い訳に水沢先生を使わないの。秀義が見たいだけでしょ?」
「ご、ごめんなさい……」
秀義は僕が威圧すると小さくなってしまった。そもそもが、僕の女装なんて見て何が楽しいのやら……
「謝るくらいなら最初からしなきゃいいのに……とにかく、僕は女装なんて絶対にしないからね」
僕は絶対に女装なんてしないと宣言したから強制的に女装させようだなんて輩はもういないでしょ
「あー、岩崎は女装するのは断れないぞ?」
今まで黙っていた担任が口を開く。どういう事?僕が女装を断れないって
「どういう事ですか?僕が女装を断れないって」
僕にだって女装するしないを決める権利くらいあってもいいと思うけど?
「岩崎、お前これまで何回授業をサボった?我々教師が特例として認めたもの以外でだ」
授業をサボった回数?そんなの覚えているわけがない。今まで何回パンを食べた?って質問に答えられないのと同じで授業をサボった回数なんて覚えているはずがない
「さぁ、覚えてませんね。ですが、1回や2回じゃなかったはずです」
「そうだな。お前はこれまでに何回も授業をサボったな」
「そうですけど、それがどうかしましたか?」
授業をサボったから何だと言うんだ?サボった僕にも問題はあるだろうけど、サボらせるような授業をする教師も教師でしょ
「お前は授業をサボり見つかる度に『サボった生徒を指導する前に自分の授業を見直してはいかがですか?』って言い続けてきたよな?」
「ええ、居眠りもそうですが、サボらせるような授業をする先生にも問題があると思うので」
「我々教員にも問題があるのは認める。だがな、それを理由に授業をサボっていいわけではない。それは理解できるな?」
「そうですね。先生達の授業のやり方が下手なのを言い訳にしてはいけないのは理解できますよ?」
僕だってバカじゃない。教師連中の授業が下手なのを言い訳にしていいという道理はない
「だが、実際問題、授業をサボり過ぎたせいで岩崎は単位が足りなくなっている」
「でしょうね」
さすがにサボり過ぎたせいで単位が足りなくなっているのは言われなくても解っている。だけど、それがどうしたと言うんだろう?
「しかし、我々教員も暇じゃない。岩崎1人の為に補習授業をやるわけにも課題を出すわけにもいかない。そこでだ、文化祭の出店と出し物の劇で岩崎が女装すれば足りない単位をそれで補おうということが今朝の職員会議で決定した。もちろん、岩崎が女装は嫌だと言うのなら強制はしない」
し、しまった……単位を盾に僕に女装させる気だ……だけど、背に腹は代えられない。仕方ないか
「わかりました。女装しただけで単位を頂けるのならばやります」
「そうか。他の先生にもそう言っておこう」
北南高校の教師は腐っている。日頃、口喧嘩で負けているから文化祭を利用して僕に仕返しをしようってクチだ。やる事が小さい
「岩崎君の女装が決定したところで多数決を取ります。まずは出店から────────」
こうして僕は文化祭で女装する事が決定し、僕のクラスの出店はメイド&執事喫茶に決定し、出し物の劇はシンデレラに決定した。
「こんな事なら授業ちゃんと受けとくんだった……」
家に帰った僕は激しく後悔した。調子に乗っていたわけじゃないけど、授業をサボり過ぎた
「どうしたの?光晃?疲れた顔してるけど?」
家に帰って来て最初に声を掛けてくるのは葵衣だ。毎回毎回じゃないけど、就活と大学のない時以外は葵衣は大体家にいる。まぁ、紅葉さんもいるから葵衣はアルバイトをする必要がないし、教育実習も無事に合格したから大学に行く事なんてほとんどないと本人は言ってたけど
「あ、うん、実は文化祭の出店と出し物で劇をやる事になったんだけど……はぁ~」
普通の出店や劇だったら僕だってこんなに悩む事なんてなかった。だけど、僕の女装が絡んでくると話は別だ
「どうしたの?出店と劇のどこが悪いの?」
「普通の出店や劇だったら僕から言うことは特にないよ。普通だったらね」
全てが普通だったなら僕だって悩んだりしないし、何も言うことはないけど、僕の女装が絡んでくるとなると憂鬱になる
「うん?普通の出店や劇じゃないの?」
「普通の出店や劇をやるつもりだよ?僕が女装する以外はね」
そう、僕が女装する以外は普通の出店、普通の劇だ。僕が女装する事になったから普通じゃないってだけで
「光晃の女装!?見たい!!」
僕の女装に食いついてくる葵衣。他の連中の前なら嫌だけど、葵衣の前なら別にいいかって思っている自分がいる
「見たいって言われてもここにはメイク道具も洋服もないでしょ?」
葵衣の前ならいいと思ってしまっても男の尊厳に関わるからやっぱり嫌だと思う自分もいる。こういうのを矛盾っていうんだっけ?なので、僕は女装をそれとなく諦めさせる常套句としてメイク道具と洋服がない事を指摘し諦めさせようとした
「え?メイク道具は私が普段使っているものを使えばいいし、洋服だって私かお姉ちゃん、真理さんのものがあるでしょ?」
そうでした。この家は男は僕だけなのに、女性は葵衣に紅葉さんに真理姉さんという状態だった。これでメイク道具がないとか、洋服がないとかの言い訳を使うことができなくなってしまった。というか、最初から僕の計画なんて破堤してるか
「もう好きにして……」
バトル漫画の主人公は強敵にぶつかった時や絶望的な状況の時によく『絶望はしない!』なんて言ってるけど、僕は今言いたい『絶望しかしてない!』と
「かんせーい!!」
「…………」
僕は葵衣にメイクを施され、葵衣の洋服を着せられて鏡の前に立たされている。もちろん、完成を知らせる葵衣の元気な声と共に
「光晃!かわいい~」
葵衣が満足しているならそれはそれでいいんだけど、男が可愛いって言われても全く嬉しくない
「男が可愛いって言われても喜ばないよ……」
「そう?光晃可愛いよ?」
「そ、そう……」
「あれ?照れてる?」
「別に」
念のために言っておくけど、僕は可愛いって言われて女装に目覚めかけたわけじゃない。葵衣に褒められたことが素直に嬉しいだけで
「今度その恰好でデートしようね?」
葵衣さん?貴女は彼氏に女装して外出しろと?さすがにそれはないんじゃないかな?
「嫌だよ」
「え~!何で~?」
「いや、普通に嫌でしょ?」
「いいじゃん!妹みたいで可愛いし!」
「それだったら自分の妹と行けばいいじゃん。何も僕に女装までさせてデートする事ないでしょ」
秀義にチラっと聞いた事があるけど、葵衣の姉妹は紅葉さんだけじゃない。紅葉さん、葵衣、それと下にもう1人いるらしい。会った事ないけど
「だ、だって、妹は今年受験生だし……邪魔したくないし……」
シュンとした葵衣を見て若干ではあるけど、心が痛む。秀義から聞いて知ってはいたけど、葵衣の妹って僕達の1つ上だって言うのは本当だったんだ……
「受験生でも息抜きは必要だと思うけど?それとも、妹さんと葵衣と紅葉さんって仲悪いの?」
彼女で一緒に住んでいるとはいえ、他人のプライベートに鑑賞するのはどうかと思う。だけど、こればかりはハッキリさせないといけない。僕に何ができるわけじゃないけど
「仲は悪くないんだけど……」
「だけど?」
「妹と私って趣味が合わないから会話も少ないんだよね」
仲は悪くないけど、趣味が違う。それを気にしない家族もいるけど、葵衣のところの場合は趣味が合わないから会話も少ない。少ないならまだマシだけど、口を利いてない可能性もある。そんな状況だから葵衣は若干寂しいのかもしれないね
「わかったよ。たまになら女装して一緒に出かけるけど、知り合いに遭遇しない街にしか行かないからね?」
「うん!!」
葵衣の寂しさを少しでも解消させてあげよう。僕が女装して出かける事でそれが解消できるのであれば悪くないと思う。本当は嫌だけどね
今回は文化祭準備編の1でした
文化祭の時期ってどうしてワクワクするのでしょうか?
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




