僕は授業の練習に付き合う
今回は光晃が葵衣の授業の練習に付き合う話です
後半では光晃が教育実習関係に詳しい理由が明らかになります
では、どうぞ
羽山先生の指導案を完成させ、教材研究もある程度は終わらせた。ほとんどがネットの情報だったけど、それを確かめる為に本を読む事くらいなら羽山先生1人でできるだろうし、自宅でもできるだろう。で、現在は放課後。
「さて、水沢先生。研究授業の練習ですが、どれくらいやりますか?」
約束通り僕は水沢先生の研究授業の練習に付き合っている。本来ならこれは教師の仕事のはずなんだけど……
「とりあえずは授業時間と同じ時間は練習したいかな」
授業時間と同じ時間という事は50分間という事になる。約束してしまったものは仕方ない。今は言いたい事を飲み込んで付き合いますか
「別に構いませんよ。約束もしましたし」
「うん!よろしくね!」
僕と水沢先生の2人きりの放課後授業がスタートした。世の男子からしてみれば女の実習生と放課後の教室で2人きりというシチュエーションに憧れると思うけど、僕からしてみれば補習授業を受けているのと同じだから楽しくも何ともない
「───という事で裁判員裁判の裁判員に警察とか自衛隊の人は選ばれないの」
水沢先生の説明は解りやすいものだけど、警察とか自衛隊の人間だけだと生徒から質問がくる可能性がある。この学校に水沢先生を嫌う奴はいないと思うけど、用心しておいた方がいい。
「先生、質問です」
放課後の教室で生徒は僕以外にいないとはいえ、本番の授業と同じように挙手をする。
「はい、なんですか?岩崎君」
さっきも言ったけど、この教室には僕と水沢先生の2人だけだから挙手する意味はない。あくまでも本番と同じようにしているだけ
「裁判員裁判の裁判員に選ばれない職業は警察官、自衛隊の他にどんな職業がありますか?」
僕は意地悪をしているわけじゃない。生徒の中にはこういう質問をしてくる奴がいるかもしれない。しかも、悪ふざけで質問してくる可能性があるから悪質だ
「ほ、他?え、えっと、それは……」
案の定、水沢先生は警察官と自衛隊以外の職業を調べてなかったらしく、アタフタしている。
「先生、落ち着いて下さい」
「う、うん……」
今は練習の練習みたいなものだから慌てる事はない。研究不足ってわけでもなさそうだけど、質問が飛んでくるとは思わなかったみたい
「さっきの質問の答え用意してますよね?」
「う、うん……でも、質問が飛んでくるとは思わなかった」
「自分では完璧なものを用意している。自分の授業で質問してくる生徒がいない。そんな事はありえません。どこかで質問してくる生徒はいると思うんで質問されたら落ち着いて対応するようにしましょうね」
「はい……」
どうして生徒である僕が教育実習生の先生に教師みたいな事を言っているんだろう……僕はただの高校生なのに
「では、さっきの質問ですが、裁判員に選ばれない職業にどんなものがありますか?」
落ち着いた水沢先生に先程と同じ質問をする。今度はアタフタする事なく答えられるはず
「えっと、裁判員に選ばれない職業に警察官や自衛隊の他に弁護士や検事等の司法関係者や、大学の法律学の教授や准教授があり、他には国会議員等の国に関わる職業の人等があります」
今の質問に対し、細かく説明していたら時間が足りなくなる可能性があるのでこれくらいがちょうどいいし、気になるなら自分で調べる。この学校の生徒でもそれくらいできると思う
「わかりました。ありがとうございます」
とりあえず授業時間は残り5分もない。本番ならここで質問タイムだろうけど、僕と水沢先生の2人だけだし、そもそも教材研究を手伝ったのは他でもない僕だから質問する事はもうない
「ど、どうだったかな?私の授業は……」
授業時間が少し余ったので水沢先生が僕に授業の感想を求めてくる。感想……そうだね
「よかったと思いますよ?少なくとも教師よりは退屈しませんでしたし」
失敗しないかどうかハラハラするという意味でも授業時間中に僕をチラチラと見てきたという意味でも退屈はしなかった
「そ、そっか、よかった……」
ホッとしたような笑顔を浮かべた水沢先生。あとはこのクラスに裁判についてどれくらい興味を持たせられるかだけど、高校生だと実感が湧くか湧かないかもあるから何とも言えない
「あとは本番でどんな質問が来ても落ち着いて答えられるようにって事と、質問を予測して前もって回答を用意しておいてくださいね」
質問は予測できないけど、回答を多めに用意しておくに越した事はない。生徒の質問に答えられないのが1番マズイ。
「うん、わかったよ」
本当にどうして僕が教育実習生の授業練習に付き合っているのか、どうして高校生である僕が教育実習関係に詳しいのか、水沢先生は疑問に思わなかったのかな?
「じゃあ、練習も終わった事ですし、僕は帰ります」
席を立ってカバンを持ち、教室を出ようとする。疑問に思わなかったらそれはそれでいいけど
「あ、待って。光晃君」
教室を出ようとしたところで水沢先生に呼び止められる。できれば早く帰りたいんだけど?
「何ですか?まだ何か?」
練習が終わった今、僕に用なんてないはずだけど?
「光晃君はどうして教育実習関係の事に詳しいのかな?」
ここにきて水沢先生からまさかの質問。水沢先生の疑問は最初に持つものだと思うのは僕だけかな?
「どうしてそれを今聞くんですか?」
本当に今更だと思う。最初の段階で疑問に思うべきだし、サポートを任せたまではよかったけど、教職関係を学んできた学生ならまだしも高校生である僕の口から指導案とかの単語が出てくるところに驚くべきだったんじゃないの?
「光晃君の口から指導案とかの単語が出てきた時にも思ってたけど、教師に興味があるのかな?くらいにしか思ってなかった。だけど、今の練習で本格的におかしいと思ったんだ。この子、いくらなんでも詳しすぎるってね」
なるほど、先週の段階で疑問に思っていたけど、さっきの練習で疑問が深まったというわけね。
「水沢先生は僕と小谷先生───真理姉さんが従姉だって事は知ってましたっけ?」
「うん、それは知ってるよ?」
水沢先生が僕と真理姉さんの関係を知っているなら話は早い。って言うか、水沢先生は家に来た事もあるからその時点で僕と真理姉さんの関係を知らなきゃおかしいんだけどね
「僕は真理姉さんが教育実習に行っている時にいろいろ手伝わされたんですよ。それこそ、指導案から授業の練習までね。その関係で高校生ですけど、教育実習生の指導案程度なら作れます。教材研究はその項目に関係する本を読めばいいって事も。それが僕が教育実習関係に詳しい理由です」
本当に真理姉さんが実習生の頃は大変だった。ま、学校も学校で教育実習生を受け入れた割には何もしてないに近かったけど
「そうだったんだ……ところで、光晃君は将来教師になるの?」
教育実習関係に詳しいから教師になるなんていう安直な考えなのかな?水沢先生は僕が将来教師を志望すると本気で思っているのかな?
「なりませんよ。僕は教師が大嫌いですし、自分の同僚や上司に力や権力に訴えようとするバカはいりませんので」
口がダメなら力や権力を行使する人間は僕の周囲には必要ない。まぁ、語彙力が少ないからそんなものに頼らなきゃいけないんだろうけど
「教師や教育実習生が全員そうだってわけじゃないのに?」
珍しく反論してくる水沢先生だけど、この学校から消えた教育実習生や消息不明な教師を見てそんな事を言えるのかな?
「水沢先生はこの学校の教師連中や僕に絡んで実習打ち切りになった人を見てそんな事を言ってるんですか?」
さて、僕のこの言い分に水沢先生はどう返してくる?力に訴える事はしないと思う。だけど、力を行使しない代わりにこの人は泣き落としをする可能性があるから油断は禁物なんだよなぁ……
「そ、それは……」
否定したいけど、この学校の教師達と1人の実習生だった人のせいで強く否定できない。そんなところだろうと思う
「僕が見てきた教師や教育実習生は口がダメなら力に訴える人間ばかりでした。教師や教育実習生はほとんど同じようなものだと思っている僕は教師になるだなんてありえません」
腐った人間と同類になるなら僕は教師にはならない。別の職業を選ぶ。それが何なのかは未定だけどね
「そっか……じゃあ、私の思いに対する答えももう決まっているよね……」
「水沢先生にどうお返事を返すかは決めてますが、僕の教師や教育実習生が嫌いなのとそれとは無関係です」
僕が教師・教育実習生嫌いなのと水沢先生をどう思っているかは全く別の問題だから一緒にしないでほしい
「え……?」
「何ですか?“え……?”って僕だって物事の分別くらいつきますよ」
水沢先生は僕を何だと思っているのかな?教師・教育実習生は嫌いだけど、水沢葵衣を教育実習生としてではなく、1人の女性として見て考えるのは当たり前でしょ?本人がそういう関係になりたいと望んでいるんだから
「だって、光晃君は私の事を教育実習生としか見てないと思ってたから意外で……」
「水沢先生は僕の彼女になりたいんですよね?」
「そ、そうだけど……」
「仮に僕と彼氏彼女の関係になっても水沢先生は教育実習生のままでいるつもりですか?」
「違うよ!光晃君と彼氏彼女の関係になったら私は彼女だよ!」
彼女になったら教育実習生ではないという事は理解しているみたいだ。
「教育実習生も教師も嫌いですが、告白してきた相手を肩書きで選ぶほど僕は子供じゃありません」
教師・教育実習生が嫌いな僕だけど、告白してきた相手が教育実習生だろうと教師だろうと肩書きではなく、1人の異性として見た時にどう思うかは真剣に考える
「そ、そっか、よかった……」
水沢先生の僕への印象は教師・教育実習生嫌いというものが強いみたいだあれだけ嫌いだって言ってきたし、悪態をついてたらそう思うのも無理はないけど。
「わかってもらえて何よりです」
僕と水沢先生は結局、下校時刻ギリギリまで教室に残った。僕の下校と同時に水沢先生も帰宅する事になり、途中まで一緒に帰る事になった。今日は水沢先生と行動する日らしい
今回は光晃が葵衣の授業の練習に付き合う話でした
光晃が教育実習関係に詳しかったのは真理に手伝わされたからでした
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




