僕は指導案作成を手伝う
今回は指導案作成を手伝う話です
指導案作成を手伝うと言ってもヒロインのではありません
では、どうぞ
「岩崎、まだ話は終わってないよ?」
指導室を出て行こうとする僕を引き留める真理姉さん。いや、もうよくないかな?羽山先生の自己紹介も終わったし、僕にもう用はないはずだけど?そもそも、羽山先生の紹介の為だけに僕は呼ばれたんだよね?それが終わったら別によくない?
「羽山先生の紹介が終わった事ですし、僕は用済みだと思いますけど?」
僕個人としては初対面で失礼極まりない教育実習生と同じ空間にはいたくない。早く解放されたいというのが僕の本音だけど、ここでそれを言うと角が立つので言わない。授業中みたいにいきなり殴られたらそれなりの対処をさせてもらうけど
「いや、君にはまだ羽山先生のサポートをするという課題が残っている」
は?何を言っているんだ?真理姉さんは?サポートは水沢先生だけじゃないのかな?どうしてもう1人追加するのかな?バカじゃないのかな?
「いや、水沢先生のサポートで僕はすでに手が塞がっているんですけど?」
水沢先生はある程度の事は終わっていて研究授業の予行練習ぐらいしかやる事はないけど、羽山先生のサポートとなると話が変わってくる
「ふむ、羽山先生のサポートと言っても簡単だ」
真理姉さんはどうして僕が教育実習生のサポートをする前提で話を進めるんだろう?僕は羽山先生のサポートをするとは一言も言っていない。だけど、話を聞くだけ聞いておく。教師というものはある意味では子供と同じだ。教員免許というオモチャを得た子供。駄々こねたら生徒が言う事を聞くと思っている子供。本当に勘弁してほしい
「内容を聞きましょうか」
子供がオモチャをねだっている時に親はまず何をするか?それはそのオモチャの値段を見る事だ。僕に例えるなら、子供は真理姉さんでほしがってるオモチャは僕にしてほしい事。オモチャの値段はサポートの内容。子供がねだっているオモチャの値段が高かったらダメだと言うか、適当な事を言って諦めさせる。僕の場合は内容が無理なものだったり、教師がするレベルのものだったら断る
「うむ、サポートの内容は羽山先生の指導案作成のサポートだ」
は?真理姉さんはなんて言った?指導案作成のサポート?9日目にして?実習終了まで後5日だよ?その前に研究授業もあるんだぞ?教材研究を含めてそれを後5日ないし、4日でやれと言うのか?北南高校の教師はどこまでバカなら気が済むんだ?指導できないなら教育実習生なんて受け入れるなよ
「羽山先生の教科指導は何をしているんですか?9日目なら指導案くらいできていてもおかしくないと思いますけど?」
僕の個人的な意見だけど、9日目なら指導案ができていてもいい頃だと思う。まぁ、場合によっては指導案が研究授業の前日に出来上がる人もいるみたいだから一概にこうだとは言えない。だけど、生徒に指導案作成の手伝いを要求するだなんてどうかしている。北南高校の教師が仕事していないと言われても仕方ない
「そ、それが……羽山先生の教科指導は実習初日の夜に倒れてそのまま入院して今も病院にいる」
病院にいる。じゃないでしょ。入院したならすぐに代わりの教科指導を用意して対応すべきだと思うけど、それはしたのかな?
「いや、羽山先生が入院したならどうしてすぐに代わりの教科指導を用意してすぐに対応しなかったんですか?それくらいできるでしょ?子供じゃないんだから」
「そ、それは、問題を起こした教育実習生や教師をどうするかで手がいっぱいだったから用意できていなかったというか……その……」
真理姉さんは僕が海外行きを勝手に決めたり、家出したりといろいろあったから強くは言えないし、水沢先生は教育実習生だ。教育実習生は教師であって教師ではないので学校の事については口出しできないから咎める気は毛頭ない。真理姉さんも僕が騒ぎを起こしてしまったせいもあるから咎めるつもりはないけど、他の教師は別だ。指導者がいなくなった後で何もしなかったんだからキッチリ咎めさせてもらう
「はぁ、アンタ等教師の忙しかった、教師は忙しいという言い訳は聞き飽きた。サポートする以上は僕から条件をつけさせてもらう」
どうして僕が教師の尻拭いをしないといけないのかは意味不明だし、指導案作成においてある程度の事は教科書を出版している会社のホームページにアクセスしたら文書としてある。それを使えば早くできる。指導案はこれで平気だろうけど、問題は教材研究だ。羽山先生の担当教科はなんだろう?
「じょ、条件は飲むから……助けて……光晃」
涙目で助けを乞う真理姉さんだけど、僕は何でも屋でも教師でもない。ただの高校生だからできる事には限度がある。だけど、今回、羽山先生には何の落ち度もない。仕方ないから今回だけは助けてあげよう
「本当に北南高校の教師はどうしようもないバカばかりですね」
「返す言葉もない……」
そりゃそうでしょ。返す言葉もない事を言っているんだからね。羽山先生本人はどう思っているんだろう?生徒に指導案の作成をあれこれ言われて嫌じゃないのかな?
「岩崎君……助けて……」
泣きそうな顔で助けてと言う羽山先生。せめて指導案の見本を資料として提供していれば完成はしてなくても少しはマシな状況だっただと思う。
「とりあえず、羽山先生が使っているパソコンと教科書を持ってきてください」
「え?光晃君?美咲を見捨てるの?」
水沢先生も実習の最初の方に同じ事をしたでしょ?今ここで指導案だけ先に作る。後は教科担当のOKさえ出れば問題ない。1人で指導案と教材研究を同時にやるのは時間がない今の状況だとキツイ。本来ならばこれらは実習生と教科指導がやる事だけど、今回ばかりは仕方ない。倒れられたら目覚めが悪い
「違いますよ。今ここで指導案だけでも作るんですよ」
「え?」
「意外そうな顔をしている水沢先生はこれを実習の最初の方にやったでしょ?」
「あ、あ~、あれね」
この人は自分の指導案を作成した状況をすっかり忘れていたようだ。この先生はアレだ。アホの子だ。ドジな上にアホとか……この先生の先行きが心配になってくる
「善は急げです。早く行く!」
「は、はい!」
大慌てで部屋を出て行く羽山先生。僕の残りの授業?そんなの羽山先生のサポートする為にサボる。当然だけど文句は言わせない。だってこれ、教師の不手際で僕は別に羽山先生をサポートしてもしなくてもどっちでもいい。
「光晃……ごめんね?」
真理姉さんに謝られても困る。これは真理姉さん個人の不手際じゃなくて北南高校教師の不手際だから真理姉さん1人のせいじゃない。
「別にいいよ。僕が授業をサボっても文句言わなければね」
教師の代わりに指導案作成を手伝っているんだ。授業をサボった事くらいで咎められてはたまったものじゃない。この際だから授業をサボった時に指導と称して僕を拘束するのを止めさせる方向で話を進めておこう
「本来なら授業をサボるなと言いたいんだけど、光晃には私達教師の不手際の尻拭いをさせているから強く言えない……」
居眠りさせたりする授業に何の意味がある?と聞きたいけど、あんなものでも教師は寝る間も惜しんで授業内容を考えているんだろうけど……居眠りしたり、私語が多い授業だと意味がない
「教育実習生の指導すらままならない教師の授業なんて受けるだけ時間の無駄でしょ」
「光晃……」
「光晃君……」
真理姉さんと水沢先生の僕を見る目が教師の努力をわかってないんじゃないのか?というような目だった。だけど、生徒としては教師がどれだけ努力していても関係ない。居眠りや私語をさせる教師の授業に魅力がないのは目に見えてハッキリしている
「ただいま!」
羽山先生が息を切らせながら戻ってきた。思ってた以上に戻ってくるのが早いけど、それは僕が真理姉さんと水沢先生と話していたから戻ってくるのが早いと感じるだけなのかもしれない。パソコンと教科書を持っているところを見るとまともな指導案ができてないのが容易に予想できる。生徒をいびる暇があるなら教育実習生の指導くらいちゃんとしろって言いたいけど、そこは諦めた。
「おかえり!美咲!」
水沢先生……何もない状況だと微笑ましい状況だけど、今はそんな事をしている暇はない。実習2週目の前半だからまだ何とかなりそうではあるけど、本来ならこれは教師の役目だからね?あまりにも職務怠慢なら終いには金取るよ?
「はいはい、百合百合しているところ申し訳ないですけど、時間がないので早く始めたいのですが?」
百合百合しているのは勝手だけど、そんな事をしている時間も余裕もない。それを理解しているのかな?僕は羽山先生が担当する教科すら知らないんだ。僕としては最初にそれを知らないと話にならない。
「「ごめんなさい」」
「わかればよろしい。それで、羽山先生の担当教科は?」
数学の授業見学をしていたからと言って数学を担当するわけじゃない。学校によっては全教科見学させる学校もあるし。体育じゃない限りは研究授業当日にアクシデントが起こる可能性は低いだろうとは思うけど……
「社会科の公民……」
「そうですか」
羽山先生の担当は水沢先生と同じなのは不幸中の幸いと言ったところか……問題は授業範囲だけど、水沢先生と似たり寄ったりの範囲だったら助かる。だけど、今までの授業で羽山先生の姿を見た事がない。僕が知らないだけかもしれないし、ひょっとしたら学年が違うだけかもしれない。
「で、教科書と授業範囲は?」
「はい、これ」
羽山先生から渡された教科書と授業内容の一覧表の一部分にラインマーカーで線が引かれていた。おそらくここが範囲と見て間違いなさそうだけど……なんにせよ授業範囲がわかっただけでも僕にとっては大きな収穫と言える。これで指導案を作成するのは楽になった
「どうも……羽山先生、パソコン借りますね」
「うん……」
僕は羽山先生からパソコンを借り、インターネットにアクセスした。そこから教科書の出版社のホームページにアクセスしてっと……
「羽山先生、次は教科書を借ります」
「うん、どうぞ」
羽山先生から教科書を受け取り、出版社の教科書一覧から同じものを探す。同じものさえ見つけてしまえば後は指導案を作る上で必要なところを見つけるだけ
「さて、これで活動内容と評価基準は何とかなるか……残るは注意点や準備するものを考えればよしっと」
単元の活動内容と評価基準はこれを丸写しじゃないけど、参考にさせてもらえば指導案完成。あとは評価する教師がどう評価するかが問題だけど、僕は教師じゃないからどう評価するかはわからない
「岩崎君!ありがとう!」
全部が完成したわけでもないのに羽山先生から礼を言われるけど、お礼を言うなら指導案が完成してからにしてほしい。というか、羽山先生が自分で作成した指導案はどんなものなんだろう?
「お礼を言うのはいいんですけど、羽山先生が自力で作成した指導案を見せて頂いてもよろしいですか?」
「う、うん……」
USBのフォルダを開き、羽山先生が作成した指導案を開く。全く完成してなくても僕は教師じゃないから怒らない。
「完成していないとは聞いてましたけど、これは酷い……」
全くできていないとかそう言う問題じゃない。僕は教師じゃないから評価しようがないけど、これは何て言うか、この学校の教師が仕事をほとんどしていない事を明らかにするものだった。
「ううっ……」
半泣きになる羽山先生。僕としては羽山先生が怠けていたと言うつもりは全くない。だけど、これは酷いの一言に尽きる。指導案の添削をしてアドバイスを書き込んであるのはいい。羽山先生の担当が実習初日に提出されたものをその日に添削した。病院では患者のパソコンの使用は多分できないだろうから学校で指導案の添削をして羽山先生にデータとして渡したんだろう。ここまではいいとして、問題はその後の事だけど、指導案と明記されたフォルダにはこの初日に添削されたであろうデータ以外なかった
「初日に添削されたと思われるデータ以外見当たらないところを見るとこの学校の教師に払う金がムダ金だって思い知らされますね」
「耳が痛い話です……」
真理姉さんが小さくなっているけど、結局は真理姉さんも同じようなものだと思う。生徒である僕に教育実習生の指導案作成をさせている時点で指導力がない事が明白だけど、今ここでそれを言っても仕方ない。この事は実習が終わってから全てを明らかにしよう
今回は指導案作成を手伝う話でした
急ピッチで指導案作成をしてOKをもらえるのか?
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




