修羅場に遭遇した日から5年が経った
今回は前回の話から5年後の話です
光晃は大学4年となりますが、どんな風になっているのか
では、どうぞ
あの修羅場に遭遇した日から早いものでもう5年の歳月が経った。修羅場に遭遇した次の日、優奈は書置きを残して実家に帰った。その後は連絡を取る事も会いに行く事もなかった。そんな僕も大学4年。葵衣が僕と初めて出会った年齢だ。そんな僕が選んだ道とは…………
「光晃!早くしないと遅刻するよ!今日は教育実習初日でしょ!」
教職の道だった。教師になりたいとは全く思ってない僕がどうして教職課程を取ったか、それは僕の彼女である水沢葵衣と僕の従姉である小谷真理のせいでもあった。
「解ってるよ。全く……どうして教師の道なんて選んだんだろう?」
高校卒業しても僕の教師嫌いは治ってない。こんな風だからなのだろうか、高校卒業後の進路を葵衣と真理姉さんに相談したら揃いも揃って『光晃の教師嫌いを治すには教職課程を取って教師の魅力を理解するしかない!』だなんて言い出し、当時進路を決めるのが面倒だった僕は『僕が教職課程を取ったところで教師の魅力を理解出来るわけがない。まぁ、面白そうだからいいか』という適当な理由で教職課程のある大学へ
「それは光晃が教師の魅力を理解する為でしょ!それより!ほら!ネクタイ曲がってるよ?」
「ありがとう、葵衣」
朝のリビング。はたから見れば僕と葵衣は新婚夫婦そのものだと思う。ただ、実家暮らしだから当然、あの人達がいるわけで……
「光晃、葵衣ちゃん、ラブラブなのはいいけど急がないと遅刻するよ?」
「そうだねぇ~、教育実習生と教科指導が揃って学校に行くのはマズイけど、それ以上に揃って遅刻はちょっとね~」
この2人は僕達が新婚っぽい事をすると茶々を入れてくる。どうして紅葉さんがいるかって?それは葵衣の父親に挨拶に行った時の事なんだけど、それはまた今度。
「解ってるよ!私はもうすぐ出るけど光晃達も遅刻しないでね!」
僕のネクタイを直し終えた葵衣はそそくさとリビングを出て玄関へ向かって行った。そして葵衣が玄関を出たタイミングを見計らって僕が出る。そして、最後に真理姉さんと紅葉さんが戸締りを確認してから家を出る。これは僕の実習前に前もって決めた事だ
「葵衣が僕の教科指導担当だなんて未だに実感が沸かない……何より葵衣に指導される日が来るとは思ってなかった」
僕の実習先である北南高校。そこが葵衣の仕事先だ。同時に真理姉さん、紅葉さんの仕事先でもあるんだけど、僕が3年の頃、実習先をどうしようかと悩んでいた時に葵衣が『ここは北南高校でしょ!』だなんて言い出し、特に実習校にこだわりがなかった僕はすぐさまアポを取り、北南高校へ。そしてあっという間に僕の教育実習が決定。ついでにHR担当が真理姉さん、教科指導担当が葵衣とものの見事に身内で固められてしまった
今日はそんな身内だらけの教育実習初日。
「真理姉さん、紅葉さん、僕も出るから戸締りよろしく」
「「行ってらっしゃい」」
オリエンテーションの時点で顔合わせするからHR担当も教科指導担当も顔だけなら知っていて、どんな人間なのかは教育実習が始まってから徐々に知っていくというのが多分、普通なんだろうけど僕の場合はどちらもかなり前から知っているから別にドキドキもワクワクもしない。僕にとっては2週間ばかり家以外で葵衣達と過ごす時間が増えるだけの教育実習だ。
「決まってしまったものは仕方ないけど、夢なら覚めてくれないかなぁ……」
諦めの悪い僕はぼやきながら靴を履き、ぼやきながら家を出た。
北南高校に通っていた時に通った道。多少の変化はあれど住宅とかはあまり変わっていない
「考えてみればよく中退したヤツを受け入れようって気になったな」
僕は高2で北南高校を辞め、別の高校へ転入した。そんな僕を教育実習生として受け入れるだなんてどうかしている。まぁ、5年も経ってるんだから僕が知ってる教師も少なくなっているとは思う
「北南高校にいて僕が知ってる教師って葵衣に真理姉さん、紅葉さんくらいか」
北南高校の道すがら自分の北南高校に今もいてその中で知ってる教師の名前を挙げてみるも身内しか出てこない
「知ってる教師が身内だけってのもいろいろと面倒だなぁ……」
身内に囲まれる教育実習を憂鬱に感じつつも僕は北南高校へ向かう。嫌だ嫌だとぼやいたところで北南高校へ内諾を取ったのも結局自分が決めた事だ。それを今更愚痴っても仕方ない
あれこれ考えているうちに北南高校へ着いた僕は生徒用の玄関ではなく、職員用の玄関に入る。さすがに朝早いだけあって生徒の数もまばらだ。
「そういえば下駄箱の場所聞いてなかった……」
オリエンテーションの時は下駄箱が全て塞がっていたから具体的にどこをってのは聞いていなかった。
「これは……葵衣────水沢先生に聞くしかないか」
家では呼び捨てで葵衣と呼べても学校の中に一歩でも足を踏み入れてしまえば教育実習生の僕は水沢先生と呼ぶしかない。ただ、この学校に水沢は2人いる。葵衣と紅葉さんだ。だから葵衣先生と呼ぶ事になるんだろうけど、正直、今から帰りたくなってきた
「とりあえずロッカーの事もあるし、靴はそのままにして職員室へ行くか」
一応、オリエンテーションの時に見るだけ程度には案内された。でも、実際に中へは入ってない。
北南高校職員室……僕が高2の時、いろんな教師や教育実習生に絡まれた。それも今となってはいい思い出なんだけど、生徒の立場で入るのと教育実習生の立場で入るのとじゃ緊張具合が違う。僕は一旦深呼吸し、ドアを開けた
「失礼します」
一応、身内が多いとはいえ、入る時のあいさつはする。身内が多いってだけで知らない先生もいる。その先生方に失礼のないようにするのは当たり前の事だ。何しろ教育実習に来ているのは僕だけだけど、僕=大学のイメージ。つまり、僕は大学の看板を背負ってここにいる
「おはようございます。岩崎先生」
職員室に入り、真っ先に声を掛けてきたのは葵衣だった
「おはようございます。水沢先生」
職員室に入った後、僕は自分の席に案内され、暇な時間を潰す……事はせず、葵衣と共に職員室から玄関へ移動し、自分の使う下駄箱の場所を聞いてそこへ靴をしまった。さすがにロッカーは女性である葵衣に聞く事は出来ず、葵衣が適当な男性教師を捕まえ、その人に案内してもらう事となった
職員室で過ごす事1時間。人が少なかった職員室にも他の学年の教師や事務の方の姿が見え、生徒の集まりとは別の意味で賑わってきた。いよいよ職員会議終盤の時間。教育実習初日の僕が晒し者になる時間がやって来たのだ
「今日から2週間の間鱗形大学の学生である岩崎光晃君が教育実習生で実習に来られています。では、岩崎君、ご挨拶を」
現在、北南高校で教頭を務めている男性から僕の紹介があった。本当は全校集会で教育実習生は大々的に晒し者になる。一応、言っておくとこの後、僕は全校集会でも同じ自己紹介をした
「鱗形大学4年、岩崎光晃です。2週間という短い期間ではありますが、ご指導の程よろしくお願いいたします」
内心面倒だとは思いつつ、当たり障りのない自己紹介をする僕。そんな僕に大抵の教師は特別興味を抱く事はせず、ただ拍手をするだけだった。その中で嬉しそうにしてたのが葵衣、真理姉さん、紅葉さんの3人。これは素直に喜べない
職員室での紹介が終わり、HRの時間となった為、僕は真理姉さんの後に続き自分の担当するクラスへ
「え~、皆さん、今日はHRの前に教育実習生の先生を紹介します」
朝のHR。自分も高校生だった時、常に怠いと思っていた。そんな事を思う奴はどの時代にもいるわけで……キラキラした目をした生徒達の中に何人かは気怠そうにしてるのがいた。
「鱗形大学4年、岩崎光晃です。2週間という短い期間ではありますが皆さんと楽しく勉強出来たらと思います。よろしくお願いします」
僕の自己紹介が終わり生徒達は拍手してくれる。ただ、中にはかつての僕のように教育実習生をよく思ってない生徒もいるわけで、真理姉さん達現場の教師的にはそういった生徒とも何とか関わってほしい。そう願っているとは思う。だけど、高校生の僕がそうだったように2週間程度しかいない人間が自分の世界に入ってくるのが気に食わないという生徒だって中にはいる。それに、僕は生徒と積極的に関わる気はない
「はい、岩崎先生へ拍手!」
真理姉さんの鶴の一声で生徒達が拍手するもその反応はどこか物足りないと言った感じだった。まぁ、教育実習生が来た時恒例の質問タイムがなかったからかな?
「じゃあ、この後は全校集会があるので体育館に集合するように!あと、岩崎先生への質問する時間はその時取るから」
HRが終わる直前、真理姉さんは余計な事を言って教室を出て行く。その後に続き僕も教室を出る
「……………」
「実習初日始まったばかりですが、どうですか?岩崎先生、今の高校生は」
職員室への道中、真理姉さんは現在の高校生について聞いてくる。真面目な顔をしているのならこの質問も真面目に答えなければならないと思う。だけど、真理姉さんの顔はニヤケ顔。明らかに僕で遊んで楽しんでる節がある。まるで『お前は葵衣ちゃんの自己紹介の時はサボってたよな?』とでも言わんばかりの顔だ
「そうですね。僕の高校生の頃よりは活発かと思いますよ?HRだけしかまだ見てませんが、サボってる生徒はいなかったように見受けられますし」
僕が高校生だった頃は教育実習生が来ると聞いただけでサボってた。だからなのか、HRにちゃんと出てるだけ僕よりもマシ。ただ、HRに出ていても教育実習生や教師が気に入らない生徒はいるみたいだった
「そうでしょうそうでしょう、先生が高校生の頃私達教師は本当に手を焼かされましたからねぇ」
真理姉さん、それって僕への当てつけかな?それとも、僕に仕返しがしたいのかな?
「その節はどうも。ですが、ちゃんとHRに出ていても教育実習生や教師が気に入らない生徒の1人や2人いるんですね」
どんな時代にも教師をよく思ってない生徒がいるのは何となく理解出来る。僕がそうだったから。で、実際に教育実習に来てみると生徒から嫌われる事に対して凹むかと聞かれればそうじゃない。嫌いなら嫌いで僕的には全く構わない
「そりゃそうですよ。どんな時代にだって教師が嫌いな生徒の1人や2人いますよ!で、そんな生徒を見つけて凹みましたか?」
「いいえ、別に。かつての僕がそうでしたが、教師や教育実習生が嫌いな生徒がいても僕は構わないと思います」
「そうですか……」
真理姉さんは何やら思案顔をしていた。葵衣はどう考えていたか知らないけど真理姉さんは何かしてほしい事があって僕に北南高校を進めたみたいだ
「小谷先生、何か思うところがあるんですか?」
「ま、まぁ、そんなところです」
この後、僕達は特に会話をする事なく職員室へ戻った。職員室へ戻った僕達はすぐに体育館へ向かい、やはりと言うか、何と言うか、僕は壇上で自己紹介をする羽目になった
実習生の立場から見ても気怠い全校集会が終わり、真理姉さんと共に教室へ。そして、お約束の教育実習生への質問タイムなんだけど、『彼女いますか?』とか『年いくつですか?』とか『好きな女性のタイプは?』とかあるあるの質問が飛び交った。その中で唯一個性的だったのは『先生は受けですか?攻めですか?』という質問と『先生はMですか?ドMですか?それとも、Sですか?ドSですか?』っていう質問だった
時間の流れというのは早いものであっという間に2週間が経ち、僕の教育実習が終わりを告げた。で、僕の教師への見方が変わったかと言うと全く変わってない。人の考え方がそう簡単に変わるわけがないでしょ。
今回は前回の話から5年後の話でした
この話は何て言うんですかね……皮肉なのかな?とも思いますが、光晃の考え方が変わったとかは全くなくと言った感じです。本当、どうしてこうなった感が多分あると思います。で、次回で一応、終わりですが、話のネタはあれどあとがきのネタに迷っている私です。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




