【過去編89】永山家のその後を聞いた僕もいよいよ中学を卒業する
今回は永山家その後の話の続きと光晃の中学卒業です
永山姉は引きこもりを脱出決心をしたのか、そして、光晃はちゃんと卒業式に出たのか?
では、どうぞ
持田さんが永山姉からの謝罪を受けた日の翌日の放課後に僕達は永山妹によって会議室へ連れ込まれた。普段の僕なら教育実習生の家庭事情になんて微塵も興味なんてないんだけど、永山家だけは違った。持田さんは嫌そうな顔をしていたけど、それも説得して事なきを得た。さて、永山家でどんな内容の話し合いが行わたのやら……
「話を聞かせろって言われても何から話したらいい?」
話があると呼び出したのは永山妹の方だというのに話す内容が決まってない。永山妹、模擬授業でそれだと困るでしょ……
「話す内容決まってなかったんですか……」
この日ばかりは永山妹の味方だった僕もさすがに呆れてしまう。授業然り、話し合い然り、内容は事前に決めてからにしてほしいものだ
「うっさいな!今までが今までだったんだからしょうがないだろ!」
「「はぁ……」」
永山妹の言った通りこの日に至るまではちゃんとした話し合いと言うより永山妹が一方的に要求を突き付けてきただけに過ぎなかった。ちゃんとした話し合いではなかったのは事実。だとしてもこれは酷い
「何さ!その溜息は!呆れたとでも言いたいの!?」
全く持ってその通り
「「はい、事前に話す内容が決まってないとか呆れるしかありませんよね?」」
「はもんな!!」
そう言われましても?事前に話す内容を決めてない方が悪いと思うのですが?
「呆れられたくなかったら呼び出す前に話す内容を決めてからにしてください」
辛辣過ぎる意見が持田さんから飛び出した。それには僕も同意だけどね
「うぐっ!」
持田さんの辛辣意見が永山妹に10のダメージを与えた
「全く……」
腕を組み、呆れた様子の持田さんからはイジメられていた時の面影は全く感じなかった。代わりに別の何かを感じたのは……きっと気のせいだろう
「持田……アンタ、岩崎に似てきたね……」
「え!?そうですか!?」
僕に似てきたと言われ目を輝かせる持田さん。僕はそんな持田さんが全く理解出来なかった
「うん。姉さんからはオドオドしたというか、根暗系女子だって聞いてたけど、今のアンタは完全に女版岩崎だよ」
「そ、そうですかぁ~?え、えへへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~」
女版僕だって言われ顔がこれでもかというくらい緩む持田さんを見て僕は頭が痛くなった
「先生、持田さんが僕に似てきたとかの話は置いといて、質問いいですか?」
持田さんがこれ以上キャラ崩壊したらめんどくさいのもあった。それ以上に僕はある事が気になっていた
「何?アタイに答えれる範囲でいいなら答えるよ」
永山家関係の質問に答えられる範囲も何もないだろう
「初めて先生のお宅にお邪魔させていただいた時に貴女の父親と話しました。その時なんですが、貴女の父親は先生達姉妹の名前を1度も言いませんでしたが、何かあったんですか?」
教育実習生の家庭事情に生徒である僕が首を突っ込むべきじゃないのは理解していた。それでも、親が自分の子供の名前を1度も口にしなかったのはどうにも気になった
「ああ、それね。そんなの簡単だよ。父親はアタイ達を娘じゃなく、自分の評価を上げる為の道具としか見てない。道具に名前なんて付けないし、道具の名前なんて呼ばないでしょ。ただそれだけ」
「そうですか……」
「永山先生、可哀そう……」
自分は父親から道具としか見られてない事を淡々と語った永山妹に案の定同情した持田さん。それに対し、僕は永山姉が持田さんの悩みを職員室で笑い話にした原因を垣間見た。永山母がどうしてたかは知らないけど、永山姉はきっと父親の影響を少なからず受けた。ただ、道具として見る対象が生徒になっただけで
「同情なんていらないよ。アタイ達は父親の代わりに母親から愛情を受け、人として大事な事をたくさん教えてもらったから」
永山父は冷徹人間だったけど永山母はそうじゃなかった。人として大事なことをたくさん教えてもらったなら永山姉はどうして持田さんの悩みを笑い話にしたりしたんだろう?この疑問の答えはすぐにわかった
「人として大事な事を教えてもらったというのなら先生のお姉さんはどうして人の悩みを職員室で平然と笑い飛ばしたんですかねぇ……」
「何?嫌味?」
「ええ、嫌味です。母の愛情を受けたかどうかというのは僕には判りかねます。ですが、人として大事な事を教えてもらったのなら貴女のお姉さんがかつて取った行動の意味が解らない」
人として大事な事や一般常識というのは教える人によって違うと思う。この場合の一般常識というのは学力じゃなく良識面の話だ。いくら学力があっても良識的な部分じゃ永山姉は多分、中学生……いや、小学生以下だった
「持田の事に関して言えば姉さんは愚痴のつもりで言ったらしいよ」
教師が愚痴るなとは言わないけどさ、声のボリュームと場所を考えようよ……家で言う分には聞いてるのは家族しかいないけど、学校の職員室じゃいつ、どこで、どんな人が聞いてるかわかったものじゃないのに……
「愚痴だとしても学校の職員室で声を大にして言うべきじゃありませんでしたね。僕みたいな人間が周囲の人間に頼む、あるいは機械を仕掛けて録音する可能性があるんですから」
教師が個人情報を紛失したってニュースが時々あるけど、学校で話していた事も個人情報に繋がる恐れがある。それこそ僕が秀義達にさせたように録音でもされたらアウトだ
「…………姉さんは学校に来て生徒達と触れ合ってる時だけが唯一心休まる時間だって言ってた。だから、ウッカリ職員室でポロっと出てしまったって昨日言ってた」
怒鳴るだけの教師しかいない学校で生徒達と触れ合っている時だけが唯一心休まると言われても全く信用できない
「その結果がこの学校では持田さんの自殺未遂、前の学校で生徒の自殺と人の命が消えかけたり消えたりだと言い訳にしか聞こえませんが、これ以上は止めましょう。次の質問いいですか?」
永山姉のした事について必要以上に追及したところで持田さんの時間は帰ってこないし、死んでしまった生徒も戻ってはこない。それよりと言ったら持田さんにも亡くなった生徒の子にも悪いけど、次の質問をした方が余程有意義だ
「うん。さっきも言ったけど、アタイに答えられる範囲でなら答えるよ」
「答えられないような質問はしませんし、この質問が最後です」
中学生でもプライバシーがある事くらい知ってる。そして、僕が最後に質問する内容は決まっていた。永山妹に答えれて永山家の事情に深く首を突っ込まない質問
「それならいいけど……アタイの家の事情に深く関わるような質問はなしだよ?」
永山家の……まして教育実習生の家の事情に深く関わるつもりなんて僕には毛頭ない
「僕の質問はいたってシンプル。お姉さんは引きこもりを脱せそうですかって事だけです」
持田さんのイジメを笑い話にし、僕がそれを秀義や鶴田君、同級生達に流させたのは何回も話した通り。僕が指示した事で永山姉が引きこもりになってしまったのも事実なわけなんだけど、僕が知りたかったのは永山姉が引きこもりを止め、無事に社会復帰できそうかどうかだ
「昨日、岩崎達が帰った後、姉さん言ってたよ。持田さんは岩崎と一緒にいたとはいえ、イジメられていた頃とは大分変わった。今度は私が変わる番だって。だから姉さんはこれから引きこもりを脱するよ」
挫折した教師が外へ飛び出して行く勇気があるとは僕的には思えなかった。でも、永山妹の顔に不安の色はなかったからきっと永山姉は外へ飛び出して行くんだ。僕はそう思った
「そうですか。ならよかったです」
僕が永山姉にした事は決して許される事じゃない。持田さんの事があったからとかじゃなく、教育委員会やマスコミ等の各種メディアだけじゃなく、ネットという大海原に永山姉の愚痴を流すように指示をした。訴えられてたらアウトだ。ただ、事が事だったから永山姉が訴えたとしても結論は永山姉はバッシングを受けるのは避けられない事だけど
「正直、岩崎がした事は名誉棄損で訴えられてもおかしくない事だと思う。でも、これはあくまでも教師としての立場から見た感想。実際は岩崎が流すように指示した音声は教師がイジメの事実を知っていてわざと放置したと世間は捉えるだろうから訴えたら訴えたで今度はこっちが叩かれただろうって父親が言ってたよ」
「でしょうね。ニュースで時々教師による不祥事が報道されてますし。貴女のお姉さんの事もきっと不祥事として取り上げられるから僕を訴えなかった。そうでしょ?」
「うん。父親はそう言ってた」
教師というのはいつだって自分の身が1番可愛い。実際に何もしなかったとしても指導しましたと嘘を吐く。それが僕の持っている教師へのイメージ
「僕からの質問は以上です」
僕が永山妹に聞きたい事は全て聞いた。普通なら質問に答えていただきありがとうございましたくらい言うんだろうけど、連れ込んだのは永山妹だ。僕がお礼を言う道理はない
「そうかい。で?持田はアタイに聞きたい事ないの?」
「ありません」
聞きたい事はないかという永山妹に即答で返した持田さん。何でだろう?永山妹に対して当たりが強いなと思ったのは
「そ、そう……ま、まぁ、質問がないならないでいいんだけど」
顔を引きつらせている永山妹はキレる寸前という状態だった。あの性格上キレてもおかしくないと思っていたけど、実際はキレなかったところを見ると永山妹は自分が僕達の時間を奪った事を自覚していたようだ
永山妹から呼ばれた日から時は流れ、僕達の中学卒業式にまで話は飛ぶ。卒業式の話をする前に呼び出された日の翌日の話をすると、僕達は永山妹に絡まれる前提で登校した。だけど、永山妹は一切絡んでこなかった。永山妹は絡んでこないまま教育実習を終え、今はどうしているか知らない。これだけ言っておくよ。で、話を戻そう
「俺達も中学卒業かぁ……」
卒業式は退屈だったから卒業式が終わった後、下校時の話になるけど、そこは勘弁ね
「そうだね。思い起こせば教師は怒鳴ってばかりだったね」
もっとマシな思いではないのか?と思うでしょ?僕もそう思う。でもさ、怒鳴ってばかりの教師しかおらず、いい思い出という意味で印象的なものがなかったからしょうがないじゃん
「光晃……もっとマシな思い出はなかったのか?」
隣を歩く秀義は呆れた顔で僕を見てきた
「ないよ。僕の中学3年間は1年の時に出目金に絡まれ、2年の時に無能教師が職務怠慢、3年で教育実習生に謝れと絡まれる。ね?碌な思い出ないでしょ?」
これがいい思い出と言う人はきっと頭がおかしいに違いない
「いやいや、持田と知り合いになれたとか、修学旅行で俺や鶴田と恋バナしたとかあるだろ!」
「秀義、それって思い出になるの?」
「なるよ!」
「じゃあ、それで」
中学の思い出に特に興味がなかった僕は秀義が言ってたイベント(?)を思い出とする事に
「適当だな!」
「適当だよ。怒鳴ってばかりいる教師から解放されたんだからね」
「同時に持田とも別れる事になったけどな」
「別れるって進学する高校が違うってだけでしょ?」
僕は北南高校へ進学する事にしたから持田さんとは違う高校へ行く事になる。北南高校にした理由は何となくだけど、その何となく決めた高校に秀義も付いてくると言い出したのには驚いた
「だとしてもだ。持田って絶対光晃の事好きだったと思うぜ?」
「そうかな?中2の時から一緒にいる事は多かったけど、持田さんが僕に好意を寄せてたってのは違う気がする」
持田さんが僕に好意を寄せていたのかというのは今となっては確認のしようがない。卒業式の日に告白されたわけじゃないから。というか、卒業式の日はみんなアルバムとか持ち寄って白紙のページにメッセージを書いてたけど、僕は興味なかったから卒アルは家に置いたままにした。卒業式が終わって早々に帰った。え?どうして秀義が隣を歩いてるかって?それはね……
「そうか?俺は絶対に持田は光晃が好きだと思うぜ?それより!お前、卒業式の日くらい学校に残ろうとか思わねーのかよ?式が終わってから早々に帰るとかありえねーだろ」
普通ならカバンの1つでも持って行くものなんだけど、僕はそれもせず。結局卒業式が終わった後にある最後のHRに出ずにトイレに行くと言って学校を抜け出してきた
「それを言うなら秀義だって僕と同じ事してるでしょ?カバンの1つも持ってきてないし」
秀義は僕同様にトイレに行くフリをして抜け出してきたクチだった。学校を抜け出した後、僕は1人で帰る予定だったのが、いきなり呼ばれたと思ったら秀義がいた。
「お前の考えそうな事なんてわかるっつーの!どうせ面倒だから卒業式が終わった後でトイレ行くフリして抜け出すんじゃねーかと思ってたら案の定じゃねーかよ」
僕の行動は秀義には読まれていたみたい。癪に障るけど
「別にいいでしょ?今までサボれなかった分のご褒美って事で」
僕は自分で言うのもなんだけど、中学の時は詰まらないと思っていても真面目に授業を受けていた。サボりスポットがなかったからというのもあったけど、そんな中学時代で1番大きかった騒動が持田さんのイジメ騒動だった。そんな僕が卒業式の日くらいサボったからいって文句を言われる筋合いはない
「お前なぁ……まぁ、いいか!光晃!これからもよろしくな!」
出来れば秀義との縁も中学卒業で切れてほしかった。そう思いつつも僕は────────
「うん、よろしくね。秀義」
声がデカいだけの幼馴染との腐れ縁を切る事が出来なかったのだった
今回は永山家その後の話の続きと光晃の中学卒業でした
永山姉は引きこもりから脱出出来そうで何より!そして、光晃は……ちゃんと卒業式には出ましたが、その後サボりました!うん、大分連載当初の光晃に近づいてきた!
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




