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【過去編83】僕は永山父と話をしたけど結局永山父は何の話をしたかったんだろうって思う

今回は永山父との対話です。

この作品のブックマーク数が101件になってました!ありがとうございます!

では、どうぞ

 永山父の意外過ぎる職業を聞いた僕は開いた口が塞がらなかった。永山母の職業は何か知らない。それでもこれだけは言えた。永山姉の職業が教師(この時は引きこもり)、永山妹はこの時は教育実習生だったけど、今は教師をしていると思う。職業が不明な永山母を除くとこの一家は教師に関係する仕事をしていらしい


「意外ですね」


 永山父の職業を聞いた僕はこれしか出てこなかった。それ以外に何も言えなかったとも言えるけどね


「そうかな?娘が教師、雅が教育実習生なんだから私が教師だったとしても不思議じゃないとは思わないのかね?」


 永山父の言ってる事は正しかった。同時に間違ってもいた


「どうなんでしょう?親が教師だからといって必ずしも子供が同じ仕事を選ぶとは限らないじゃないですか」


 子供が絶対に親と同じ仕事をするとは限らない。芸能人の子供が必ず芸能人になるとは限らないのと同じでね


「言われてみれば岩崎君の言う事も正しい。おっと、話が逸れたね。どこから話したものか……」


 永山父は顎に手をやり考える素振りを見せた。その素振りを見た僕はこの人は永山姉がした事を全て知っている。そう思えてならなかった


「どうせ貴方は全て知っているのでしょ?だったら考える素振りなんて見せずに知っている事を全て話せばいいじゃないですか」


 全て知っているのなら考えるフリだなんて面倒な事をせずに全て話してほしいというのは間違ってないと思う


「娘が君の学校でした事を全て知っているが、どこから話していいのかと考えているのだよ。岩崎君、物事には順序ってものがあるんだ」


 永山父の言う通り物事には順序がある。でも、話す事は前もってまとめてから話すのが相手に対しての礼儀だ。中学生の僕はそう思った


「確かに順序というものは存在すると思うし、必要だという事も理解しています。ですが、話す事をまとめてから話すのが話をする相手に対して必要最低限の礼儀じゃないですか?」

「それもそうだな。では、まず岩崎君、君に謝る事から始めよう」


 永山父は顎から手を離し、僕に向かって頭を下げた


「何の真似ですか?いきなり頭なんて下げて」

「父親として娘がした事に対しての謝罪だ。済まなかった、娘が君に不快な思いをさせた」


 永山父の言う娘が永山姉を指しているのか、永山妹を指しているのかはわからなかった。娘が不快な思いをさせたという事だったけど、姉とも妹ともやり合ってきた僕にとっては永山父が姉の代わりに謝っているのか、妹の代わりに謝っているのかと考えるばかりだった。そんな僕が永山父に言えた事は────────


「謝罪は受け取ったんで頭を上げて頂けませんか?頭を下げられたままじゃ話も出来ません」


 謝罪を受け取ったという事だけだった。姉と妹、どちらの代わりに頭を下げて謝っているのかは判らなかった。僕は姉とも妹とも一悶着あったから


「岩崎君がそう言うならそうするが……私の事を恨んではいないのかね?」


 頭を上げた永山父からの質問は僕にとってはお門違いもいいところだ


「貴方は永山先生と雅さん。2人のお子さんを育て、今じゃ教師として、教育実習生として教育に関わっています。まぁ、貴方の事はともかく、娘さん2人にはもう少し経験が必要だとは思いますが、それでも貴方は立派に娘2人を育てました。そんな人を恨む道理がありません」


 当時の僕は中学生で交友関係も希薄だったから偉そうな事は言えなかった。そんな僕でも永山姉と永山妹が対人関係のトラブルに対しての経験が少なすぎたというのは言えた


「君は本当に中学生かね?今までいろんな人を見てきたが、君のような事を言う人は誰1人としていなかったぞ?」

「変り者の親に育てられましたからでしょうかね。僕の中では今言ったような考えが普通なんですよ」


 父からの教えを言うと長くなるから言わないけど、幼い頃から変な教えばかり受けてきた。多分、遊学生でこんな事が言えたのはそのせいだろう


「そうか。謝罪はこれくらいにして、中2の時に君が────いや、君の同級生がした事には驚かされた。まさか教育委員会宛てに匿名で音声付きのメールが大量に送られてくるとは思わなかったよ」


 同級生というのは秀義や鶴田君の事を言っているとすぐに察した。秀義を通じて永山姉のした事をバラ撒けとは言った。マスコミ、ネットの掲示板、教育委員会。永山姉のした事を世間に知らしめられたなら場所はどこでもよかった。匿名で大量の音声付きメールが送られていたとは思わなかったけどね


「僕も驚いています。まさか匿名で大量の音声付きメールを教育委員会に送り付けた人がいるとは思いませんでした」

「教育委員会に音声付きメールを送って来たのは1人や2人じゃないぞ?」


 永山父は『教育委員会宛てに匿名で音声付きのメールが大量に送られてくるとは思わなかった』と言いはしたけど具体的な人数までは言ってなかった。つまり、同じ事をした人が複数人いたという事になる


「そうなんですか?具体的な人数をおっしゃらなかったので僕はてっきり1人の人間が大量にメールを送ったものだとばかり思ってました」

「いやいや、実際に存在したのかどうかは定かではないが、複数のアドレスから同じ音声ないし違う音声が張り付けられたメールが送られてきた。共通したのは全て娘が職員室で陰口を叩いていたという1点だけだ」


 僕も秀義を通じて永山姉の陰口音声は大量に入手した。永山姉と対峙した日、僕は永山姉がした事をバラ撒けという指示を出したというのは話したと思う。バラ撒かれた先には教育委員会もあったとは思うけど、永山父が教育委員会の人間だったとは思いもよらない


「そうでしたか」


 この時の僕は永山姉がどうなろうと興味なんてなかった。教師の代わりなんていくらでもいるからね。僕の担任が永山姉である必要性を全く持って感じなかったと言ってもいい


「ああ。それでだ、私の部下が調査員として君の通う中学に赴き校長、教頭を始め事実確認をしたのだが、その際に娘は岩崎君。君に嵌められたと言っていたらしい」


 “らしい”という事は永山父は永山姉の仕出かした事に対して直接は関わっていなかったという事になる。よく医者は身内の手術には執刀出来ないなんて話を聞くけど、教育委員会の調査もそうなのかな?この時の僕は教育委員会というものがよく理解できていなかった。今もよく理解出来てないけどね


「そうですか。はぁ……これだからアイツは……」


 永山父の前でウッカリ永山姉に対しての不満が漏れそうになった。それくらい永山姉は酷かった


「これだからアイツは?その先は何だね?」


 僕は最後の方はなるべく聞こえないように言ったつもりだったけど、永山父は地獄耳だったらしく、聞こえないように言った呟きはバッチリ聞こえていたようだ


「いえ、何でもありません。永山先生の父親である貴方に言う事でもないですし」


 永山姉本人に言うならまだしも父親である永山父にその不満を言うのは間違っている


「元とはいえ娘の生徒の不満だ。私としては是非とも聞かせてもらいたいのだが?」

「はあ、元とはいえ自分の娘の生徒から娘の不満を聞きますか?貴方って変わってますね」


 永山父は変り者だと思う。普通は元とはいえ娘の生徒から不満を言われたらフォローを入れるはずだ。それなのに生徒の口から娘の不満を聞きたいだなんて


「教師というのは必ずしも全ての生徒から好かれるというわけではない。大勢生徒がいる中で1人か2人くらい教師が嫌いだという生徒や教師に対して不満を持つ生徒はいるものさ」


 永山父の言葉は小学校から中学3年に至るまでに出会ってきた教師からは絶対に出てこないであろう言葉だった


「はあ、そう仰るのなら遠慮なく言いますが、永山先生は自分がバラされて困る事をしたというのに全く反省の色が見られないです。担任だった頃、イジメ問題を碌に解決、あるいは解消出来もしないのに僕が女子生徒と一緒にいるだけで絡んできた。で、イタズラに近いとしか言わなかった。挙句の果てに自分が悪いのに僕が嵌めたという始末。そんなんだから生徒にはナメられるし、転勤先の学校でもイジメられるんですよ」


 自分のした事が正しいとは言わないさ。だけど、永山姉がちゃんと生徒と向き合っていれば僕だって永山姉が仕出かした事を校長や教頭に言うだけで済ませていたかもしれない


「そうか……」


 永山父は悲しそうな顔だった。自分の娘の生徒からハッキリと不満をぶつけられた事が悲しかったのか、それとも、自分の娘が生徒の陰口を言っていたのが悲しかったのかはわからない。ただ、永山父は悲しそうな顔をしていた。僕から言えるのはそれだけ


「ええ。娘さんは今までイジメを受けた事がなかったのでしょう。だからでしょうかね?大した事ないと思って職員室で陰口を叩いた。これは娘さんにも言いましたが、自分の仕出かした事で人が死んだり、生死の境を彷徨う事になった。これってごめんじゃ済まない事なんですよ。貴方も人の親で教師なら娘にそれをちゃんと教えてやるべきだったんじゃないんでしょうかね」

「………………」


 永山父はこれを最後に無言で俯いたままになってしまった。永山姉の言葉に詰まった時に俯いてしまう癖は父親譲りだったみたい。


「あらら、今度はだんまりですか……まぁ、いいです。時間も時間なんで僕はこれで失礼します。コーヒー、ご馳走様でした」


 俯いたままになった永山父に一声掛け、僕は書斎から出た。そして、リビングでテレビを見ながらせんべいを食べていた永山母にあいさつをし、僕は帰宅した。結局永山父の話は何だったのか。この日の僕はこれだけが疑問だった



 永山家を訪れた次の日の放課後。


「岩崎君、ちょっといいかな?」


 僕は永山妹に絡まれていた


「何でしょうか?先生の要求なら昨日呑みましたよね?」


 昨日……つまりは永山家初訪問の日なんだけど、僕は永山妹の言う通りにしたからこの日まで永山妹の要求を呑んでやる必要はなかった


「うん……それはそうなんだけど……」


 僕に初めて本性を見せた日、永山家初訪問した日とは違いどこか歯切れが悪かった永山妹


「そうなんだけど何ですか?昨日あの後で貴女のお姉さんがどうなったかなんて僕には微塵も興味はありませんが、あれが生徒を雑に扱った教師の末路だと思いますよ?」


 世の中の教師全てが生徒と真剣に向き合ってないとは言わない。実際はちゃんと向き合えてない教師の方が多いってだけで


「その事で話があるからまた会議室に来てもらっていいかな?」


 永山姉に謝るという名目で永山家に連れ込んでおいてこの日は話があるから会議室に来いときた。これに関してはさすがに僕も言わないわけにはいかなかった


「貴女のお願いは昨日聞きましたよね?それなのにまだ何か要求するつもりですか?ホント、貴女も貴女のお姉さんも面の皮が厚いというか、図々しいというか……生徒は教師や教育実習生の奴隷や召使いじゃないんですよ」


 教師や教育実習生はいつもそう。生徒を無理矢理生徒を自分の思い通りにしようとする。生徒と向き合えないクセにね。


「ま、待って!」

「待ちません。アンタやアンタの姉には付き合いきれない」


 永山妹が引き留めるも僕はそれを無視し、玄関へと向かった。永山姉が今も引きこもっているかどうかは知らない。引きこもっていたとしたらいい薬だ。仕事を全くしてなかったとは言わないけど、生徒指導をサボっていたツケが回って来たんだからね




今回は永山父との対話でした。

永山父は結局光晃に何を伝えたかったのか、それだけが不明です。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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