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【過去編82】再会した元・担任は情緒不安定だった

今回は永山家での話です

久々に元・担任に会った光晃はどうするのか?

では、どうぞ

 リビングでテレビを見ながらせんべいを食べていた永山母に軽くあいさつを済ませた僕は引きこもっている永山姉の部屋の前にいた。永山姉の部屋に行く途中で永山父にも会ったけど、事情を話すと『娘が今の状況になったのは自業自得だ。岩崎君が気にする事は何もない。ああなったのは娘が教師としての仕事を全うしなかったのが悪い』と言われた。


「永山父の言う通りなんだから僕がアイツに会いに行く意味なんてないのに……」


 永山父の言う通り永山が引きこもりになった原因は新しい学校でイジメを受けたから。その原因を作ったのは僕という事になるんだろうけど、大元は永山が生徒からイジメを受けてますって相談を雑に扱い、それを僕が秀義や鶴田君を使ってバラしたのが始まりらしい。


「こんな事なら加減するように言っておくんだった……」


 持田さんに呼ばれた日、僕は何の準備も出来てない状態で学校へ行き、永山が職員室でしていた話の一部を真理姉さん、二枝、智花さん、華菜さんという保護者や同業者のいる前で流し、過去も暴露した。それだけだったら永山の仕出かした事が大っぴらに広まる事はなかった。でも、僕が秀義にメールでバラ撒いといてって言った事で永山の悪評はアッという間にいろんなところに流れた。それが原因で僕の通っていた中学から去り、別の学校へ行ったらしいけど、そこでイジメられる事になるとはね


「僕が指示した事とはいえ、本当に転勤しても付いて回るとは……」


 中2の時、僕は永山に『アンタのした事を許しはしない』と言った。別に本当に許さないと言ったわけじゃなく、ただ、転勤しようが教師辞めようがアンタのした事は一生消えないという意味合いで言っただけだから深い意味はなかった。それが別の意味で消えなかったのはビックリだけど


「部屋の前でゴチャゴチャ言ってても仕方ないか……」


 ブーメランだと思ってくれて構わない。その上で言わせてもらうと僕は1度自分の通っている学校を去った教師に何の興味もないし困っていたら助けてあげようとも思わない。部屋から出てこない永山姉を助けてやる義務も義理もなければ謝る必要もない。自分が仕事をしてない事がバレてイジメられたのは永山姉の自業自得だからだ。そう思いながらも僕は永山姉の部屋のドアをノックした


『はい……誰……?』


 コンコンというノック音の後に聞こえてきたのは中2の時に担任だった永山姉の声。その声には覇気がなかった


「岩崎光晃ですけど……」


 僕です。って言ってもよかったんだけど、それじゃ振り込め詐欺の人みたいだから止めた


『いわさきくん……?』

「はい。貴女の妹の雅さんに呼ばれて来たんですけど」


 部屋の中から聞こえた永山姉の声からはやはり覇気がなかった。


『みやびに?』

「ええ、学校で貴女に謝れって絡まれまして……一応、先生の現状を確認しに来たんですけど」


 学校で永山妹に絡まれたのは事実。この日僕が永山家を訪れたのも永山姉に謝るという名目だった


『そう……。とりあえず入って』

「お邪魔します」


 永山姉から入室の許可を得たところで僕は部屋の中へ入った。


「久しぶりだね。岩崎君」

「お久しぶりです」


 永山姉は引きこもっていると永山妹から聞いていたので部屋は汚部屋になっているものだと警戒していたけど、実際はそんな事はなく、綺麗に片付いていた。部屋の主である永山姉の格好も下はスエット、上はTシャツとラフだった


「それで?さっき学校で雅に絡まれたから来たって言ってたけど、何?雅から私が部屋から出てこないって聞いて笑いに来たの?」


 僕が具体的に何をしに来たかを言う前に永山姉からの攻撃。いや、被害妄想かな?どちらにせよ僕は警戒さていたらしい


「妹さんから先生が引きこもったのは僕のせいだって絡まれて来たのは事実ですけど、引きこもってしまった先生を笑いに来たわけではありません」


 この時の本心としては思いっきり笑ってやりたかった。かつて生徒が相談してきたイジメ問題。その相談を受けた時に永山姉は職員室でそれを笑い飛ばしていたのに僕がそれをバラした事で転勤した。転勤先では永山姉がそのターゲットになったんだから皮肉なものだと笑い飛ばしてやりたかった。さすがの僕も本人を目の前にして笑う事なんてしなかったけど


「岩崎君は笑いに来たんだよ。かつて持田さんから受けたイジメの相談をちゃんと対処せずに職員室で笑っていた私を、イジメ問題をそっちのけで岩崎君と持田さんの距離感をイタズラに近いと言い続けた私を、そして、生徒に対して言ってはいけない事を言った私を岩崎君は笑いに来たんでしょ?」


 この時の永山姉を一言で言うと面倒な奴。ただそれだけだった。


「笑いに来たわけではないんですけど……ただ、妹さんから先生に謝れって絡まれたから様子を見る為に来たんです。本当にそれだけです」


 永山妹には謝れと言われたんだけど、2~3話しをして永山姉がネガティヴ思考になっていたのはすぐに解った。謝るとか、謝らないとか以前の問題にネガティヴ思考を何とかしなければまともな話し合いにすらならなかった


「嘘だッ!!岩崎君は私を笑いに来たんだッ!!じゃなかったら岩崎君が私に会いに来るわけがないでしょ!!」


 ドアをノックし、部屋に入ってから覇気のない声で喋り続けた永山姉だったけど、僕が用件を伝えた途端に大声で叫んだ。そんな永山姉を僕はどうする事も出来ずにいた時


「姉さん!どうしたの!?」


 永山妹がドアを勢いよく開け、入ってきた


「岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来た岩崎君が笑いに来たァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


 頭を掻きむしりながら僕が笑いに来たと繰り返す永山姉。僕は無意識に永山姉にトラウマを植え付けていた事を確信した瞬間だった


「姉さん!!岩崎君は姉さんに謝りに来たんだよ!姉さんを笑いに来たわけじゃないんだよ!姉さん!!」


 どうしたものかと考える僕を余所に永山姉に駆け寄った永山妹は姉を抱きしめ僕が謝罪しに来た事を告げた


「嘘だッ!!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


 僕が謝りに来た事を聞いた永山姉。今度はそれを否定し始めた


「嘘じゃないよ!!本当だよ!ね?岩崎君!!」


 情緒不安定な永山姉を落ち着ける為に永山妹は僕が謝りに来た事にしたかったようだけど、この時の永山姉はとてもじゃないけどまともに話しなんて出来る状態じゃなかった。同時に僕の言葉が届くとも思えなかった。この時の僕はどうしたらよかったんだろう?


「……………」


 同意を求める永山妹に対し、黙っている事しか出来なかった僕。永山姉が引きこもり、情緒不安定になってしまった事に対しては永山父と同意見だ。これまで永山姉がした事の結果がこの時の状態だろう


「岩崎君!!」


 僕の返事がない事に痺れを切らしたのか、永山妹が大声で僕を呼んだ


「……………今日のところは帰ります」

「待ちなさい!!岩崎君!!」


 僕は永山妹が止めるのも聞かずにいても出来る事はないと思いこの日は帰ろうと部屋を出た


「待ちなさい」


 永山姉の部屋を出たところで今度は永山父に引き留められた


「何でしょうか?娘さんを追い詰めた僕に恨み言を言う為に引き留めたのであれば僕は帰りますけど?」


 永山姉の部屋に行く前に永山父は『ああなったのは娘が教師としての仕事を全うしなかったのが悪い』と言っていた。でも、それは当時中学生だった僕を気遣って言った事で本心じゃないと思っていた


「恨み言を言うつもりで引き留めたんじゃない。君と少し話がしたくてね。どうだ?少し話せないか?」

「はぁ、少しくらいなら大丈夫ですけど……」

「そうか。ここじゃなんだ。私の書斎へ案内しよう」

「わかりました」


 僕は永山父の提案により書斎へ案内された


「ここなら雅も入ってこないから落ち着いて話が出来る」

「そうですね。それで、話って何でしょうか?」


 永山父の話。子供を持つ親なら自分の子を情緒不安定になるまで追い詰めた相手に少なからず思うところがあっても変じゃない。それが恨みであれ何であれ。永山父だって例外じゃなかった


「まぁまぁ、とりあえず掛けなさい」

「は、はぁ……」


 僕はソファーに腰を下ろした


「岩崎君、飲み物は何がいいかね?」

「長居するつもりはないんで結構です」

「そう言わずに、年寄の長話に付き合ってくれないか?」

「じゃ、じゃあ、コーヒーで」

「わかった。砂糖とミルクはいるかね?」

「結構です」


 永山父は『少し待ってなさい』と言い残し、出て行った。父や叔父の教えで年寄と女性の願いは出来る限り叶えろと教えられた僕はお年寄りや女性からお願いされると出来ない事じゃない限りは引き受けてしまう。永山家に来た時も僕はその教えに従ってしまった


 書斎を出て3分程で永山父はカップが2つ乗ったお盆を持って戻ってきた


「待たせたね」

「いえ、そんなには」


 永山父は僕の前にカップを置いてから対面に座り、カップに口を付けた


「飲まないのかね?」


 置かれたカップに口を付けなかった僕に違和感を感じたのか、永山父に不信感を与えてしまった


「あ、いえ、頂きます」


 永山父の話が何であれ出されたものに口を付けないのはどうかと思い、カップに口を付けた


「さて、話と言うのは娘について……いや、君の元・担任についてだ」

「は、はぁ……」


 永山父の話は十中八九娘についてだった。それも、元・担任だった永山姉についてだ


「イタズラに元・担任についての話と言っても岩崎君は混乱してしまうだろうから具体的に言うと、君は娘をどう思っているかを聞こうか?」


 永山父の言い方だと娘の彼氏にする質問と誤解されそうだと思う。僕と永山姉は元・生徒と元・担任という関係だから誤解する事はないんだけどさ


「どう思っているかって言われましても……」


 どう思っているかという質問は抽象的だ。相手の捉えかた次第では『好意があるのか?』と聞かれているとも取れる。


「質問の仕方が悪かったね。君は元・担任である娘を恨んでいるかね?」


 永山姉を恨んでいるかどうかと聞かれ僕は答えに困った。持田さんの自殺未遂で永山姉を憎んだ事がない事もない。でも、それは僕にとって一時的なものだ。華菜さんや彩さん、持田父はどう思っているのか知らない。今も永山姉を恨んでいるのかもしれないし、恨んでないのかもしれない


「僕個人としては恨まなかった事がない事もありません。娘さんの生徒の中ではイジメに耐え兼ねて自殺未遂を行った子がいました。その子の事で娘さんを憎んだ事はありますが、僕にとってそれは一時的なものでした。なので、今は別に何とも思ってません。質問の答えになっているかどうかはわかりませんが、僕の娘さんに対して思う事は今言った事が全てです」


 永山父の質問の答えになっているかどうかは別として、僕は永山姉に思っていた事を簡潔に伝えた


「そうか……君は娘に対して恨んだこともあったが、今は特に何も思わないと」

「はい。こういう言い方は失礼かもしれませんが、姉である永山先生は他人の困っている事を影で笑い飛ばすどころか、僕の事を裏で面倒な生徒と言ってましたし」


 父親にこんな事を言ってよいものだろうかとは思いはしても伝える事はちゃんと伝えた。それに、永山父は永山姉の部屋に入る前に『娘が今の状況になったのは自業自得だ。岩崎君が気にする事は何もない。ああなったのは娘が教師としての仕事を全うしなかったのが悪い』と言っていた。つまり、永山父は永山姉がした事を全てとは言わないけどある程度は把握していたという事になる。


「そうか……知ってはいたが、実際に聞くと父として、教師として悲しくなる」

「はい?教師?」

「ああ、今は学校じゃなく、教育委員会にいるが、私も昔は教師だったのだよ」


 この日僕は永山父の意外過ぎる職業を聞いた









今回は永山家での話でした

久々に元・担任と再会した光晃ですが、取りつく島もない。という感じでした。次回は永山父との話し合いになります

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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