【過去編76】恋バナとは僕にとって最大の試練なのかもしれない
今回は光晃の恋バナの話です
葵衣と付き合うどころか出会ってすらいなかった光晃。そんな光晃が好みのタイプを聞かれた時、何て答えるのか?
では、どうぞ
二枝達からの追及を難なく逃れ、修学旅行の班決めがあった日から3日後。その日の昼休みに事は起きた
「光晃、俺は彼女が欲しい」
給食の時間、持田さんと婚約してるというデマを二枝達に吹き込んでくれた男、名倉秀義がふとこんな事を言い出した
「そう。頑張ってね」
唐突に彼女が欲しいと言われてもリアクションのしようがなかった僕はとりあえず応援だけしておく事に
「光晃、俺は彼女が欲しい」
「うん、それさっきも聞いた。頑張って」
ゲームのバグじゃあるまいし、同じ事を言わないでくれないかと思いつつ、僕も同じように応援だけした。大前提として恋愛経験なんて微塵もなかった僕に彼女が欲しいと言われたところでどうする事も出来はしないのだ
「光晃、俺は彼女が欲しいんだよぉ~」
「うん。だから、頑張れって。僕は草場の影で応援だけしてるから」
人の恋愛に口出して馬に蹴られたくなかった僕は秀義の応援だけする事にした。だと言うのにこの男は給食中。それもクラスメイトが見ている前で酔っ払いよろしく泣き崩れた
「お前は幼馴染甲斐のない奴だな!俺が彼女を欲しいと言ってるのに助けようって気にはならないよかよ!」
理不尽なのはこの頃からだった。そもそも、恋愛経験がないってのもそうだけど、秀義の好きなタイプの女性を全く聞いてない僕がどうやって秀義の彼女作りを助ければいいんだか……
「ならないよ。それに、僕は秀義の好みの女性を知らないんだから。っていうか、恋バナって給食の時間にする話じゃないでしょ?」
周囲を見回すと男女共に僕達の話に聞き耳を立てていた。その中には担任(女性)もいたけど、教師が生徒の恋バナに聞き耳を立てていいのかと思う。いや、教師だって人間だから恋バナの1つや2つしてもいいと思うよ?でもさ、生徒の恋バナに聞き耳を立てる?
「だってよぉ~、俺は部活に入ってて光晃は帰宅部……オマケに光晃には持田っていう婚約者がいるじゃねーかよぉ……」
この男は何を言い出すんだろうか?当時の僕はまだ中学生。結婚できる年齢じゃなかったのに婚約だなんていくら何でも話が早すぎるという思いと婚約だけだったら別に中学生でも出来るのかという思いがあった。それにしたって過程を飛ばしていきなり婚約は勘弁なんだけど
「持田さんとは婚約してない。それに、お前が真理姉さん達に余計な事を吹き込んでくれたおかげで昨日は大変だったんだからね?」
修学旅行の班決めがあった日、帰宅した僕は二枝達に問い詰められたのは話したと思う。その途中で二枝と智花さんが姉妹喧嘩を始めてしまい僕はその隙に自室へ逃げ込んだのも話したと思う。で、喧嘩が終わったかなと思いリビングに戻ると二枝・智花姉妹に加えて真理姉さんまで追求してきた。結局持田さんが婿に欲しいって言ってるだけだという事と秀義のアホが勝手に言ってるだけだと説明して事なきを得たけど
「んだよ、光晃は持田に恋愛感情はねーのかよ!」
不貞腐れた様子の秀義。恋愛感情がないのかと聞かれても僕は答えに困るだけだった
「い、岩崎君、そうなの?わ、私に恋愛感情ないの?」
今まで黙っていた持田さんが秀義の余計な一言により涙目で僕を見つめてきた。しつこいと思うけど、中学生の僕は初恋すらまだだった。僕に訪れた初恋は高校2年。現在付き合っている葵衣だという事は説明するまでもないか
「恋愛感情以前に僕は初恋すらまだなんだけど?」
「「「「何ぃ~!?」」」」
僕が初恋すらまだだと聞いて騒がしくなるクラス。中3の頃のクラスメイト達はどんだけ恋愛に敏感だったんだろうか?この時の僕はこの大合唱に思わず耳を塞ぐしかなかった
「うるさいよ。大体、初恋がまだでも問題ないでしょ?」
クラスメイト達の大合唱がうるさかったのは事実だけど、初恋に関して他人からとやかく言われる筋合いはない。でも、これはあくまで僕の個人的な意見ってだけで周囲はそれを放っては置かなかった
「光晃!お前!中学生になってまだ初恋を経験してないのかよ!?」
「そうだぞ!岩崎!小学生の頃はよく宮村と一緒にいたじゃないか!」
秀義は僕の家庭環境とか諸々を知ってるので初恋がまだな事に対して突っ込んできて鶴田君は小学生の頃の話を持ち出してきた。それを筆頭に『岩崎ぃ~!うらやましいぞぉ~!』とか『え!?岩崎君って初恋まだだったの!?』とかの声が上がり始めた。僕はそんな声を雑音程度にしか思ってなかった。だって、1番怖かったのは……
「へぇ~、岩崎君は小学生の頃宮村さんって人と一緒にいる事が多かったんだ~」
という持田さんの声。多分、僕の知っている中で1、2を争うくらいこの時の彼女の声は冷たかった。ついでに言うと冷たかったのは声だけじゃなく、視線もだった。
「勘弁してよ……」
騒然となるクラスに僕の呟きは空しく消えた。だけど、この恋バナは序章のほんの一部にしか過ぎなかった
あの秀義・鶴田による僕の女性関係暴露大会から時は進み、修学旅行1日目の深夜。就寝時間はとうの昔に過ぎていたけど、就寝時間なんて律儀に守っているのなんて一部の人達だけ。例によって僕・秀義・鶴田君の部屋でもドキッ★男だらけの恋バナ大会!が開催されていた。ちなみにポロリはない
「さて光晃!今夜は吐いてもらうぞ!!お前の好きな人をな!」
深夜で教師達の見回りがあるという事で大声ではなかったにしろウザイ事この上なかった秀義
「そうだぞ!岩崎!お前には好きな人を俺達に教える義務があるんだからな!」
秀義に便乗する鶴田君
「吐くも何も僕に好きな人なんていないし、別に鶴田君達に教える義務なんてないでしょ」
そんなハイテンションな2人の言い分を一蹴した僕。深夜でテンションが高くなるのは理解できるけど、いないものを教えようがない。いたとしても教えないけど
「「何だと!?お前は女に興味がないのか!?」」
秀義と鶴田君は似た者同士なのか、言う事まで同じだった
「ないわけじゃないよ。ただ、僕が好きになる人が現れないだけで」
人を好きになる基準なんてこの時の僕にはわからなかった。それでも僕は宮村さんや持田さんに恋愛感情を抱いてはいなかったと思う
「「はぁぁぁぁぁぁぁ!?宮村と持田は!?」」
泊まる部屋が同じ小学校出身の人だけだと宮村さんの事まで持ち出されるのは面倒な事この上なかった
「宮村さんと持田さんが出てくる意味が理解できない。そんな事より僕はもう寝るから」
秀義と鶴田君の話に付き合っていると堂々巡りになる事は目に見えていた。そうなると大変面倒な事になるので僕は寝る事を選んだ
「「待て待て待て待て!」」
寝ようとした僕を慌てて引き留める秀義と鶴田君。
「何?僕の好きな人を吐かせようとしても無駄だよ?好きな人いないし。そういう事で僕は寝るから」
秀義と鶴田君に引き留められたけど、いもしない好きな人を言えと言うのは無茶な話だ。
「いや、ホント待って!別に俺らだって無理矢理にでも吐かせようってわけじゃないんだ!ただ、光晃の好みのタイプを教えてもらえなきゃ困るんだ!」
「そうだ!俺達は岩崎の好みのタイプを聞かなきゃいけないんだ!だから、頼むから寝ないでくれ!」
恋バナを始めた時は吐いてもらうとか好きな人を教えるのは義務だとか言ってた秀義と鶴田君だったけど、それがこの時は教えてもらえなきゃ困るとか、好みのタイプを聞かなきゃいけないとか言い出した。僕にとってそれが引っ掛かった
「はぁ……さっきは吐かせるとか教える義務があるとか言ってたのにそれが何だって今更教えてもらわなきゃ困るとか、聞かなきゃいけないって話になるのか説明してくれたら僕の好みのタイプを教えてあげるよ」
世の中ただで情報を貰えると思ったら大間違い。好みのタイプを教えてもいいけど、代わりに教えなきゃいけない理由の説明を要求した。教える方としてはこれくらいしてもいいと思う
「「………………」」
理由の説明を要求した途端に黙り込んでしまった秀義と鶴田君。もしかしてマズイ事言っちゃったかな?と不安になった。たかが恋バナで聞かれちゃマズイ事って言えば実はゲイでしたとかくらいだとは思う。同性愛を否定する気はないけど、何て言うか……ほら、気まずい的な意味で
「何?言えないの?何なら僕が当ててあげようか?」
「「………………………」」
「え?本当に当てちゃうよ?」
「「どうぞご自由に」」
「そ、そう……」
当ててあげようか?って言ったら黙ったまま、本当に当てちゃうよ?って言ったらご自由にと答えた秀義と鶴田君。そして、好きになれる人が現れないと言った時、秀義達は宮村さんと持田さんの名前を出してきた事を思い出すと答えを出すのは簡単だった。小学校でも中学校でも僕はあまり他人と交流を持たなかったから違うと言われればそれまでだったけど、この時の答えはこれしか考えられなかったし、答えを出すまでに時間は対してかからなかった
「秀義と鶴田君は多分、宮村さんと持田さんに僕の好きな人あるいは好みのタイプを聞いてくるように頼まれたんだよね?どっちが宮村さんでどっちが持田さんなのかまでは知らないけど」
「「………………………」」
僕の出した答えに無言で頷いた秀義と鶴田君。そして、どう返したものかと困り果てる僕。面倒になると思っていた男だけの恋バナは早くも収集が付かなくなっていた
「やっぱり……それで?どっちが宮村さんに頼まれてどっちが持田さんに頼まれたの?」
「お、俺は持田から頼まれた」
「俺は宮村から……」
控え目に手を挙げながら持田さんに頼まれたと言った秀義。秀義と同じよう手を挙げながら宮村さんに頼まれたと言った鶴田君。
「はぁ……、とりあえず、持田さんに頼まれた経緯と宮村さんに頼まれた経緯を教えてくれる?」
秀義と鶴田君は悪い事をしたわけじゃないから怒りはしなかった。事の経緯にもそんなに興味はなく、興味本位で聞いてみた
「じゃ、じゃあ、俺からいいか?名倉が持田から頼まれた経緯は大体予想できるしな」
「うん。僕は鶴田君からでいいと思うけど、秀義は?」
「俺も鶴田からで構わない。持田から頼まれた経緯はある程度予想が付くだろ」
満場一致で鶴田君から事の経緯を話す事が決定した
「それじゃあ、許可も得た事だから話すが、修学旅行の準備でデパートに買い物に行った時、偶然にも宮村と会ってな。そこで少し世間話をする事になったんだよ。あ、世間話って言っても岩崎の近況だけだから安心してくれ!」
世間話の内容が僕の近況だけっていうのはどうかと思った
「言いたい事はいろいろあるけど、とりあえず続けて」
「お、おう。それで、宮村と岩崎の近況話をしていたんだけどよ、その話の途中で岩崎の異性関係についての話になったんだよ」
鶴田君と宮村さんの世間話が僕の近況報告会みたいになっていた事をあえてスルー。話が前に進まないから
「うん。それで?」
「そ、それでな?中2から持田とよく一緒にいるって話になり、旅行前に岩崎が初恋もまだだって話と持田の親は岩崎が婿に来ることに対して反対してない。むしろ賛成している事を話したら……」
「僕の好みのタイプを聞いて来いと」
「ああ。その時に連絡先も交換してきた」
鶴田君の話を要約すると修学旅行で必要なものを買いにデパートに行ったら偶然にも宮村さんと再会。世間話という名の僕の近況報告会をし、話の折に僕の異性関係の話になった。秀義と違って鶴田君の良いところは持田さんと婚約したじゃなく、持田さんの親が僕を婿に迎え入れる事に対して反対してないと言った事だ。その流れから宮村さんに僕の好みのタイプを聞いてこいと頼まれた。という訳だった
「世間話で僕の異性関係の話をするな。って事と久しぶりに再会したんだからもっと話す事あったでしょ?とだけ言っておくよ」
鶴田君と宮村さんが共有できる話題は僕の異性関係の話しかないのだろうか?もしかして今も僕の異性関係の話しかしてなかったりとか?あ、でも、その時は秀義もその場にいるか。って!それマズくない?
「ご、ごめん……宮村とは何回か話した事があるだけでちゃんと話したのはあの時が初めてだったんだ」
鶴田君のこの一言に僕はこれ以上言ったら可哀そうだと思い、言うのを止めた
「はぁ……鶴田君の理由は解った。じゃあ、次は秀義の番ね」
「あ、ああ、鶴田も光晃も大体の予想はついてると思うけどよ、先週の金曜日に持田から頼まれた」
鶴田君からバトンタッチした秀義がポツリポツリと話し始めたけど、持田さんから頼まれただけじゃ解らない。ちゃんとどうやって頼まれたかを言ってくれなきゃ
「持田さんから頼まれたのは予想出来たけど、どうやって頼まれた教えてくれないと困るんだけど?」
「そうだな。名倉と持田じゃ学校生活のサイクルが合わないだろ。放課後呼び出すっつても名倉は部活で持田は帰宅部。昼休みに呼び出すって方法もあるが、持田に男子を昼休みに呼び出す度胸なんてあるとは思えんぞ」
鶴田君の意見は尤もだった。後半はともかくとして、前半は僕も同意見だ。秀義と持田さんじゃ登校時間も下校時間も違う。まぁ、持田さんが昼休みに男子を呼び出す度胸があるかどうかは知らないけど
「ああ。俺は部活があるから持田とは学校生活のサイクルが違う。んでもって持田が男子を昼休みにどこかへ呼び出す度胸はねぇ。持田本人もそれを理解していたらしくてな。金曜の夜にメールが来た」
秀義が見せてきた持田さんからのメールには『修学旅行中に岩崎君の好みのタイプを聞いてきて!』と一行だけ書いてあった。ちなみにだけど、秀義と持田さんが連絡先を交換したのはイジメ騒動の最中だったらしい。で、僕の好みのタイプを知りたいという物好きな女子達の伝書鳩になった男子2人の説明を聞いた僕はというと……
「ねぇ、これってどうしても答えなきゃいけないかな?」
どうしたものかと頭を抱える事となった。中学生で初恋もまだだった僕にとっては最大の試練だったのかもしれない
今回は光晃の恋バナの話でした
葵衣と付き合うどころか出会ってすらいなかった時の光晃にとって教師や教育実習生とやり合うよりも同級生との恋バナの方が苦戦するようです
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




