【過去編73】僕は永山との決戦に臨む(前編)
今回は永山との決戦の前編です
いきなり呼び出され何の準備もしてなかった光晃。何の準備もせずにどうやって永山との決戦に臨むのか
では、どうぞ
持田さんから電話で呼び出され、僕は……いや、僕達は学校に行く事になった。それは話したと思う。で、学校に到着した僕は職員室に行って持田さんが来てないかを確認し、持田さんは華菜さんと一緒に2階の会議室にいると言われ僕達も会議室へ。ただ、永山の姿が見えなかったところを見ると多分、華菜さんが永山に苦情を言いに来たんだろうって事は容易に想像出来た。
『だから!対応が雑だと言ってるでしょ!』
会議室前に到着して聞こえたのは華菜さんの怒鳴り声。対応が雑だと言っていたって事は持田さんのイジメ関係の話だというのはすぐに想像がついた。対応が雑という意見には僕も同意だった。
「「光晃……」」
「光晃君……」
会議室内から聞こえた怒鳴り声に戸惑う真理姉さん達。同じ教師として対応が雑だと言われるのに対して何か思うところがあったのかな?僕は教師になんて微塵も興味はないけど、同業者が怒られている場面というのは居心地の悪いものだとは思う
「真理姉さん達、一旦帰ってもいいよ。同業者が文句言われてるのを聞いてるのもこれから見るのも嫌でしょ?」
幸いな事に僕の家までは歩いて10分程度だったのですぐに帰れる。僕達のこの日の移動手段は徒歩だったし。移動手段の話は置いといて、真理姉さん達にとって教師である永山が保護者である華菜さんから苦情を言われているところなんて見たくないだろうし聞きたくもない。そう思った僕は帰ってもいいと告げた。
「光晃、智花と真理ちゃんはともかく、知佳は残るよ」
いつもは甘えモード全開の二枝が真っ先に残ると言った。真面目に言ってるんだろうけど一人称が名前だったから若干拍子抜けしちゃったけど
「知佳がそう言ってくれるのは嬉しいけど、嫌じゃないの?小学校か中学校かの違いはあれど同じ教師が文句言われている姿を見る事になるんだよ?」
二枝のメンタルが弱いとは言わなかったけど、同業者が苦情を言われている姿を見せるのはどうかと思った。でも、二枝の真剣な表情を見たらとてもじゃないけど“帰った方がいいんじゃないの?”とは言えなかった。だから僕はあえて自分で選択させる言い方をしたんだけどね
「光晃が知佳の事を思っていってくれるのは嬉しいけど、どんな仕事をしていても苦情を受ける事はあるんだよ?智花や真理ちゃんはまだ教師になったばっかりだから教師が保護者から苦情を言われてる姿なんて見せたくないけどね」
僕達が小学生の頃に保護者が二枝に苦情を言いに教室まで怒鳴り込んできた事があった。その頃真理姉さん達はまだ教師になっていなかったから多分だけど保護者が苦情を言う場面というのを見るのはこの日が初めてだったと思う。二枝は笑顔を浮かべていたけど、真理姉さん達に教師が保護者から苦情を言われている姿を見せたくないというのは本心だろう
「そう。まぁ、知佳が残りたいって言うなら僕は止めないよ」
二枝と永山。小学校と中学校っていう違いはあれど同じ教師なのには変わりない。教師である二枝が残りたいと言うのなら僕にはそれを止める事は出来なかった
「うん!」
自分の意志を伝えれば僕が何も言わない事を知っていたと言わんばかりに笑顔で頷く二枝。
「光晃、私と智花も残る」
今まで黙っていた真理姉さんからまさかの残る宣言。真理姉さんが弱い女性じゃないのは知っていた。でも、同業者が苦情を言われている姿を見せる必要なんてない。僕はそう思った
「そうだね。お姉ちゃんが残って私達が残らないわけにはいかないよね。たとえ光晃君が私達に同業者が苦情を言われている姿を見せたくないと思っても」
真理姉さんが残ると言い出したのも智花さんが僕の考えていた事を見破ったのも意外だった。2人が残ると言ったからといって僕はそれを止めはしないけど。最初のは真理姉さん達の為って事もあったけど、どちらかと言うと永山の為の方が大きかった。だから、真理姉さん達が残ると言うなら僕はそれを止めはしない
「そう。真理姉さん達が残りたいなら好きにすれば?その代わり、今回の事で教師として児童や生徒との接し方について悩む事になっても知らないよ?」
永山の件は教師が児童や生徒との接し方について考えなければならない事だと僕個人としては思う。この件で真理姉さん達が何を思ったのか、僕はその答えを知る手段なんてないし、別に知ろうとも思わない
「「「うん!」」」
真理姉さん達は何かを吹っ切ったような目で力強く頷いた。そんな真理姉さん達の目を見て僕はこれなら大丈夫だ。そう感じた
「じゃあ、真理姉さん達の決心が付いたところで行こうか」
「「「うん!」」」
怒鳴り声が止む気配のない会議室。僕は意を決してそのドアを開けた
「学校側ではどのような対応をなさっているんですか!?」
「いえ、ですから、先ほどもご説明した通りで……」
会議室内に入って飛び込んできたのは鬼の形相で怒鳴り散らしている華菜さんの姿とそれを何とかなだめようとしている永山の姿。そういえば真理姉さん達との話し合いの時も華菜さんの怒鳴り声が聞こえてきてたっけ
「い、岩崎君……来てくれたんだ……」
怒鳴る華菜さんとそれをなだめようとする永山のやり取りをただ黙って見ていたであろう持田さん。気が付いたら蚊帳の外。そんな感じだった
「まぁ、いきなり電話掛かってきて学校に来いって言われて切られたからね。一応、来たけど……」
「あ、ありがとう……こんな事になってどうしていいかわからなくて……」
こんな事とは華菜さんが鬼の形相で怒鳴り、永山が必死に言い訳している事を指しているのはすぐに理解した。
「こんな事になったのは永山先生が持田さんの相談を雑に扱ったからでしょ。そんなの永山先生の自業自得だと思うよ?」
学校側の対応が雑だったから保護者である華菜さんが怒鳴り散らす事になった。言うならば永山の……いや、学校側の自業自得だ。上から目線で偉そうな事を言ってる割に何もしないからこの日みたいな事が起こる
「それは否定しないけど……でも、このままだと話が平行線上だよ……」
持田さんの言っている事は正しかった。華菜さんが学校の対応が雑だと言えば永山は言い訳をする。これじゃ話がいつまで経っても前に進まないのは火を見るよりも明らかだった
「とりあえず、知佳は永山先生を、真理姉さん達は華菜さんを落ち着かせてきてくれないかな?」
会議室に入ってから5分と経たないうちに僕は真理姉さん達を連れてきてよかったと思った。
「「「わかった!でも、後でその子との関係について聞かせてね!」」」
会議室に入ってから5分と経たないうちに僕は真理姉さん達を帰らせておけばよかったと思った。主に持田さんとの関係を詮索されるという部分で。結局話さなかったけど
「はいはい、後でちゃんと話すからとりあえず永山先生と華菜さんの事よろしく」
ちゃんと話す気なんて全くなかった。そんな事を考えているとは微塵も思ってないであろう真理姉さん達はすぐに永山と華菜さんを落ち着かせる作業に取り掛かった。だけど、そんな僕をジト目で見つめてくる人物がいた
「岩崎君……」
そう、持田さんだ。どうして僕をジト目で見つめてきたんだろう?
「何?」
「あの人達、誰?」
持田さんの言うあの人達とは真理姉さん達の事だというのはすぐに理解したけど、それを聞く持田さんの声がいつもよりも冷たかったのは気のせいだったのかな?
「僕の従姉とそのお友達とお友達のお姉さんだよ」
真理姉さんと智花さんのはともかく、二枝の事を正直に話すわけにはいかなかった僕はとりあえず誤魔化す事に。真理姉さんは従姉だし、智花さんは真理姉さんの友達。二枝は智花さんの姉だから友達の姉だから嘘は吐いてない
「ふーん、そう。恋人じゃないならいいよ」
「従姉とその友達、友達の姉ってだけだよ。それに、僕の初恋はまだだから」
「そっか……岩崎君、初恋まだだったんだ……」
「そうだけど?それがどうかした?」
「う、ううん!別に!」
僕の初恋がまだだと聞いてホッとした様子の持田さんだったけど、どうしてホッとしたのかは未だに謎だ。会う機会があれば聞いてみたい気もするけど、女子と2人きり。葵衣が許してくれるかどうか……そんな話は置いといて、二枝が永山を、真理姉さん達が華菜さんを落ち着かせるまでの間、持田さんと世間話をしながら僕は秀義達が集めてくれた証拠をまとめていた。
5分後、ようやく落ち着いた永山と華菜さんを座らせ、話し合いが再開した。その席には真理姉さん達も同席してもらった。主に、華菜さんと永山を止める要員として
「さて、永山先生はどうして僕がここにいるかと疑問に思うでしょうし、出来る事なら今すぐにでもここを出て行けと言いたいでしょうが、僕は持田さんに呼ばれて来ました。で、さっき当事者である持田さんにここに残る許可を貰いました。だよね?持田さん?」
「うん。岩崎君をここへ呼んだのは私。残ってほしいって言ったのも私。お母さんも永山先生もいいよね?」
本当は証拠をまとめるついでに世間話をしていただけなんだけど、持田さんは華菜さんと永山だけじゃまともな話し合いにならないと思ったのか僕の話に合わせてくれた。そして、当事者である持田さんの希望ならと思ったのか無言で頷く華菜さんと永山。
「それでは話し合いを始めますが、持田さんのお母さんと永山先生じゃさっきの二の舞になりそうなので、僕から永山先生にいくつか質問をするって形になりますが……持田さん、それでいい?」
話し合いをしていたのは華菜さんと永山だったけど、イジメを受けたのは持田さんだったので当事者である持田さんに話し合いの形式を決めさせるのが筋だと思った僕は持田さんに確認をした
「私はそれでいいよ。お母さんはどう?それでいい?」
「彩菜が納得しているのであれば私もそれでいいわ」
持田親子から許可が出て残るは永山だけとなった
「永山先生もそれでいいでしょうか?」
こういう場合の教師がどんな反応するかなんて僕は知らない。そもそも、保護者と教師の話し合いに第三者……それも、生徒が入ってくるだなんて話は前代未聞だと思う。だからなのか、この日みたいな事が起きた時、教師がどんな反応するかなんて予想がつかなかった
「私と持田さんのお母様だけじゃ納得しなかったけど、当事者である持田さんが納得しているのなら私はそれでいい」
珍しい事に教師にしては聞き分けがよかった永山。聞き分けがよかったのか、それとも、僕が何も知らないと思って油断してたのかは知らない。1つ言えるのはここから僕の永山潰しが始まるという事だけだった
「そうですか。ありがとうございます。早速ですが、最初の質問です。永山先生、貴女は持田さんからイジメられてると相談は受けてましたか?」
「そんな質問に答えて何の意味があるの?岩崎君には関係ないでしょ?」
訝し気な目で僕を見る永山。質問されている永山にとって僕のした質問は無意味だと感じるかもしれない。そう、質問されている方にとってはね
「一応、僕は持田さんからイジメを受けているって相談された事があるんでもしかしたら永山先生もそういった相談を持田さんから受けてたんじゃないかと思いまして。それで?持田さんからイジメられているって相談を受けたんですか?受けてないんですか?」
持田さんに聞いた方が早い質問。普通なら持田さんに聞いた方がいいんじゃないかって言う人がいると思う。それは間違ってないよ。しかし、この質問は相談した側にしても意味はない。YESって答えるに決まってるんだからね
「そんな事本人に聞いた方が早いと思うけど……」
「僕は永山先生に聞いているんです。受けたなら受けた、受けてないなら受けてないって答えればいいんですよ」
ハイかイイエを答えるだけなのに言い訳にも似た事を言う永山。聞かれた事にすらまともに答えられないのかな?
「受けたよ。持田さんからイジメられてるって相談をね」
僕はそれならそうと最初から正直に答えればいいもののって言葉を飲み込んだ。永山に言いたい事を言う機会はこの質問の後でいくらでもあったから
「そうですか。では、次の質問ですが、持田さんからイジメられてるという相談を受け、最初は事実確認をしたと思います。それを踏まえてですが、持田さんから同じ相談を繰り返しされた先生は持田さんをイジメている生徒に指導をしましたか?少なくとも持田さんは宿泊学習前に筆箱を隠され、宿泊学習中にフェイクとはいえ財布を盗まれました。そして、宿泊学習が終わってからは筆箱を壊されています」
この質問の重要なところは持田さんが受けたイジメの内容よりもイジメを行っている生徒に指導したかどうか?それが重要だった
「したよ。少なくとも宿泊学習中にフェイクとはいえお財布を盗んだ事に関しては念入りにね」
永山の言い方だと宿泊学習中のフェイク財布窃盗についてはちゃんと指導した。でも、他の件については全く指導してない。とも取れる
「そうですか。では、次の質問ですが、持田さんのイジメに関して職員室でどんな話しになりましたか?」
この質問の答えこそが華菜さんが学校へ乗り込んできた理由だったと思うし、実際そうだった。まぁ、永山の答えも典型的な教師の言い訳とも取れるものだったけど
「最近、私のクラスにいる持田さんが陰湿なイジメに遭っているから注意して見てほしいって他の先生方にもお願いしたけど?それがどうかしたの?っていうか、この質問に何の意味があるの?先生達だって忙しいの!持田さんのイジメにばかり目を向けてられないの!」
持田さんのイジメばかりに目を向けられない。それは正しいと思う。でも、忙しいって言葉は何も出来なかった事への言い訳にはならない。
「貴女ねえ!!」
「お母さん!座って!」
永山の言葉を聞いて華菜さんが勢いよく立ち上がり、それを持田さんが止めた。華菜さんが怒るのは無理ないと思う
「………………」
「ほっ……」
持田さんに止められ、無言で席に着いた華菜さん
「これ以上グダグダと質問していると持田さんのお母さんが怒り狂って何をするかわかりません。そろそろ確信へ迫りましょうか」
華菜さんが怒って何をするかって不安もあったけど、それ以上に質問をしても無駄だと判断した僕は確信へと迫る事にした
今回は永山との決戦の前編でした
何の準備もせずに学校へ行った光晃ですが、一応、集めた証拠をまとめる事をしてから決戦に臨みました。さて、次回は今回の話の後編をしようと思います
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




