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【過去編70】僕は持田さんのお見舞いに行く

今回はお見舞いの話です

お見舞いに行った光晃は持田さんと何を話すのか

では、どうぞ

 華菜さんに連れられ僕は持田さんの入院する病院へとやって来た。思えば持田さんのお見舞いに来る前に気付くべきだったのかもしれなかった事について話すね。その話をする前に、まずは持田さんの病室へ着いた時の話をしよう


「彩菜、入るわよ?」


 持田さんの入院している病院に着いた僕達は受付で手続きを済ませ、持田さんの病室の前まで来た。普通なら相手に意識があろうとなかろうと一応、ノックしてから入ると思うんだけど、華菜さんはそんなのお構いなしといった感じで入る事を伝えると返事も待たずにズカズカと中へ。


「お、お母さん!?そ、それに岩崎君まで!?」


 寝起きだったのか、不意を突かれたのか、あるいはそのどちらもなのかは知らないけど、慌てた様子の持田さんがいた。


「あら、起きてたのね。彩菜」

「…………………」


 華菜さんは持田さんの慌ててる様子を特に気にした様子もなく、僕は僕で華菜さんなんて声を掛けていいかわからずだった


「起きてたのねじゃないわよ!入る時はノックぐらいしてよ!それと!返事くらい待って!」


 持田さんの言う事は正しかった。病室に限らず他人の部屋に入る時はノックぐらいするものだし、仮に声だけ掛けたとしても返事くらいは待った方がいいと思った


「ノックしたり、返事を待ってたりしたら彩菜はすぐに辛い事を隠そうとするでしょ。だったら私はデリカシーのない母親になった方がマシよ」


 華菜さんは持田さんの為を思ってあえてノックをしたり、返事を待ったりしない的な発言をしてたけど、う~ん、確かに辛い事があったら話してほしいという気持ちも理解できないわけではない。でもなぁ……だからと言ってなぁ~……。未だにこれについては判断しづらい


「………………」


 華菜さんの言った事が正しかったのか、黙ってしまった持田さん。つまり、持田さんは華菜さんの言った通り辛い事を隠すタイプのようらしい。今もそうなのかは知らないけど


「はぁ……言いたくないのは解るけど、あんまり心配させないでよ」

「………………ごめん」


 ノックや返事を待たずに病室へ突撃した華菜さんからのさり気ない娘を気遣う一言に持田さんは文句を言う事が出来ず謝った。さすがに母親を心配させるのはマズイと思ったんだろう


「まぁいいわ。それより、私は飲み物でも買ってくるから。岩崎君と2人で話しなさい」

「いえ、僕は────────」


 僕は結構ですと言う前に華菜さんは出て行った。持田さんと2人で話せと言われても何から話したらいいかがこの時の僕はわからなかった。でも、僕には確認しなきゃいけない事があった。


「……………ごめんね、岩崎君。お母さんのワガママに付き合わせちゃって」

「別にいいよ。持田さんも意識が戻ってよかったね」

「うん……………」


 喧嘩をしたわけじゃないのにどことなく気まずかった。それは僕が持田さんを護り切れなかったという後ろめたさもあったけど、持田さんの方も何か悪い事をした。そんな風に思っているように感じた


「……………」

「……………」


 気まずさからか会話が弾まなかった。僕が面白い話を出来なかったのが原因の1つだったんだけど、持田さんの方も隠している事があった。それはこの後すぐに指摘するんだけど


「持田さんさ、本当に死のうとしたの?」

「────────!?」


 沈黙が支配する中、ようやく口を開いた僕は持田さんが本当に死ぬつもりだったのかを聞いてみた。根拠はなかったけど、何となくそんな感じがした。いや、違うか。自分が持田さんと同じ立場で死にたいと考えた時にどう行動するか。それを頭の中でシュミレーションしたんだ。まぁ指摘したら持田さんは驚愕の表情を浮かべたんだけどね


「その顔は本当に死ぬつもりはなかった。そう取っていいかな?」

「……………」


 僕の問いに無言で頷いた持田さん。そもそも、どうして僕がそう思ったかを話そう。冷静になって考えれば持田さんが自殺未遂をした時間が問題だった。華菜さんが仕事をしているかどうかは置いといて、普通なら家に誰もいない平日の昼間、学校に行くフリをしてこっそり戻ってくる。そして、七輪に火を灯し、練炭自殺をする。だけど、持田さんは夜遅く。それも家族がいる時間帯に実行した。見つかるかもしれないのに。そこがまずおかしかった


「持田さんのお母さんが仕事をしているのか、専業主婦なのかは知らないけど、少なくとも本気で死ぬつもりなら平日の昼間に実行するよね?でも、持田さんはそうじゃなかった。家族がいる時間帯を選び、見つかる可能性の高い方法で自殺を図った。ここから出てくる答えは少しの間だけ学校に行きたくなかった。違う?」


 この時僕が言った事は全て僕なら何のためにこんな事をするかを考えた上で言った事。必ずしも持田さんにもそれが当てはまるとは限らない


「すごいな。岩崎君は私の事何でもわかっちゃうんだ。確かに私は本気で死ぬつもりであんな事をしたわけじゃないよ。ただ、少しの間だけ学校に行きたくなかった……少しの間だけ休みたかっただけなの……」


 学校を休みたかった。そう言った持田さんは涙を流していた


「そっか。まぁ僕も学校をサボりたいって思う時があるから持田さんの気持ちは解るよ?でも、たったそれだけの事……いや、こう言ったら持田さんに悪いか。学校を休みたいなら華菜さんに言えばよかったじゃん。って彩さんがいるから言いずらいのか……困ったな」


 持田家の家族構成を考えると持田さんが学校を休みたいと言える状況じゃなかったとは思う


「本当に岩崎君は私の事を何でもわかっちゃうんだね」

「そうじゃないよ。僕にも従姉がいるから。何となく言いたい事が言えない人の気持ちは解るんだよ」


 僕は持田さんの事を何でもわかるわけではなかった。ただ、両親が家にいない以外のところは似ていた。僕の場合は従姉だけど


「意外……岩崎君はそういうのとは無縁だと思ってたのに」

「そうかな?まあ、それはいいとして、持田さんって意外と大胆というか、行動力があるんだね。今回の場合は褒められたものじゃないけど」


 この時の事は褒められたものじゃない。周囲の人間を心配させたんだからね。でも、学校に行きたくない気持ちはよく解った。


「そう……だよね……」


 持田さんは自分のした事が褒められたものじゃないと解っていた。解っていた上でしたという事は多分、本人の精神が限界を迎えていたか超えていたんだと思う


「うん。多くの人が持田さんを心配した。中にはこのまま死んじゃったらどうしようって思った人もいると思うよ?それを考えれば持田さんがした事は褒められたものじゃないよ」


 僕だって小2の頃に無断で学校を休み、中1の頃に学校に行きたくないと駄々を捏ねた。小2の頃はともかく、中1の頃はそれで真理姉さんと喧嘩になった。まぁ、この喧嘩は単なる真理姉さんの八つ当たりだったけど


「私のした事が褒められたものじゃないのは解ったけど、私を心配してくれた人なんているのかな?」


 この時、僕は持田さんにどんな事を言えばよかったんだろう?少なくとも秀義や鶴田君は持田さんのした事の原因がイジメにあったと聞いて怒っていた。僕?僕は自分の不甲斐なさを責めただけだったから心配とは言い難かった。


「秀義と鶴田君は心配してたと思うよ?」


 どう言っていいかわからなかった僕はとりあえず秀義と鶴田君の名前を出した。


「そっか……名倉君と鶴田君が……岩崎君は?岩崎君は私の事心配してくれた?」


 持田さんは不安そうに僕を見つめていたけど、僕はどうかと言われたら答えに困った。自分の不甲斐なさは痛感させられたけど、心配したかと言われればどうなんだろう?


「僕は……どうなんだろうね?持田さんが死のうとしたって知った時に痛感したのは自分の不甲斐なさだったから」


 今まで誰かを心配した事のない僕にとって自分を心配したかって聞かれたら答えに困るのは当たり前だった


「むぅ~!私は心配してくれたのかを聞いてるんだけど?」


 頬をリスみたいに膨らませ剥れる持田さん


「僕は今まで誰かの心配なんてした事ないからわからないよ。ただ、僕はたった1人の女の子とした約束すら守れなかった、自分は無力だと感じただけだからね」


 今になって思うとこの時は嘘でも心配したと言っておくべきだったんだろうけど、誤魔化しても仕方ないと思った僕は正直に自分の本心を言った


「ふ~ん……心配はしてくれなかったけど、私を1人の女の子だって思ってくれたんだぁ~」


 剥れっ面から一転し、ニヤケ顔になる持田さん。心配してくれなかった事を怒る場面なんじゃないの?知らないけど


「そりゃそうでしょ。持田さんはどっからどう見ても女の子でしょ?え?まさか実は男でしたとか言わないよね?」


 僕は別に持田さんが男だったとしても約束は守るけど、接し方を考えてしまう。約束の件はともかく、同級生として今再会して同じ事を言われても多分、僕は同じように答えるだろう


「岩崎君は私の事オカマか何かだと思ってるの?」

「別に」

「ふ~ん」


 オカマだと思われたのが心外だったのかジト目で僕を見る持田さん。学校でも同じようにしていればイジメられないのにとか思ったのは秘密だ。この後、華菜さんが戻ってきて3人で雑談をしたんだけど、その雑談の大半が僕と持田さんイジリだった。


「さて、私達はそろそろ帰るわね」

「うん、またね。お母さん」


 時計を見ると17時を回っていた。病院の面会時間が通常何時までなのかは知らないけど、外を見ると空が夕日に染まっていたので帰るにはちょうどいい時間だった。


「また来るね。持田さん」


 僕と華菜さんは立ち上がり、病室を出ようとした時だった


「岩崎君は待って」

「え?」


 華菜さんは引き留められなかったのに僕は引き留められた。引き留められた時はどういう事だろうと思ったね。だって、母親は引き留めずに同級生である僕は引き留める。頼み事があるのなら引き留めるのは母親のはずでしょ?


「………………岩崎君、車で待ってるわね」


 華菜さんは思うところがあったのか、先に病室を出て行った。そして、華菜さんが出て行った事で夕日に染まる病室には僕と持田さんだけになった


「………………」

「………………」


 病室に2人きりになったせいか僕達は互いに無言


「何か話があるんじゃないの?」


 沈黙に耐え切れなくなった僕は持田さんへ話を振ってみた。どんな話があるにしろ黙ったままじゃ前に進まない


「………………うん。岩崎君に聞きたい事があってね」

「聞きたい事?僕に?」


 宿泊学習前から僕と持田さんはかなり高い頻度で行動を共にする事が多くなった。それこそ永山に注意される程に。そんな持田さんから何を聞かれるのかが僕にはわからなかった


「岩崎君に聞いても答えられるはずないって頭では理解出来てるけど、どうしても聞きたい事があるの」

「何?」

「どうして私が……私ばっかりがイジメられるのかな……?」


 持田さんの質問は僕には答えられなかった。イジメなんてした事のない人間が答えられるはずがない


「さぁね。そんなのイジメてる連中に聞くしかないんじゃないの?もしかしたら持田さんがイジメられる原因を作ったのかもしれない。でもさ、だからってイジメていい理由にはならないと思うよ」


 小学校の頃似たような事をした僕にイジメは絶対にダメだという資格なんてないのかもしれない。僕の場合は同級生じゃなく教師だった。児童を対象にするか教師を対象にするか、子供と大人という違いはあれど僕のした事だって二枝からしてみれば立派なイジメだったのかもしれない。それを踏まえてだけど、どんな理由があってもイジメはしちゃいけないと僕は思う


「そうだよね……岩崎君に私がイジメられる理由なんて答えられるはずないよね……」


 夕日が差し込む病室で泣いてはいなかったけど、でも、僕には持田さんが泣いてるように見えた


「そうだね。僕には持田さんの問いに対する答えはわからないよ。持田さんをイジメる理由も、持田さんの相談を雑に扱う教師達の気持ちも理解出来ないよ。それに、その連中なら今後大変な事になるから持田さんは何も気にしなくていいよ」


 この言葉が慰めになっているかどうかはわからなかった。でも、僕は目の前で苦しんでいる女の子を放っておく事なんて出来なかった。不思議な事にね


「岩崎君……」

「持田さん、約束するよ。今度こそ君を護るって」

「うん……」


 夕日で真っ赤に染まる病室で僕はプロポーズにも似たような言葉を言った。我ながら臭い台詞だとは思う




今回はお見舞いの話でした

前回は謎を残す形で終わらせましたが、今回はそれを回収できました。という事で持田さんは学校をサボりたかっただけの模様

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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