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【過去編69】中学生の僕は意外と無計画だと思う

今回は光晃が持田家を訪ねる話です

光晃は華菜と何を話すのか?

では、どうぞ

 日記を書いているか否かを確認するために持田家にやってきた僕。でも、この日、僕は1つだけ後悔した事があった。それは華菜さんが専業主婦かどうかを聞いておけばよかったって事と持田さんの搬送された病院を確認しておけばよかったという事だ


「後悔先に立たずとはこの事か……」


 僕は持田家のインターホンを鳴らしてすらいないのに誰もいないと思い後悔した。この時はそうじゃなかったけど、今は夫婦共働きが主流になりつつある。でも、それ以前から夫婦共働きっていう家はあった。もしかしたら持田さんの家もそうなのではないか?なんて思ってしまった


「ここで僕の無関心が仇になるとは……」


 しつこいようだけど、この時の僕はまだ持田家のインターホンすら押していない。だから後悔するだけ時間の無駄なんだけどね


「後悔しても仕方ないか……」


 いなかったらいなかったで別の日か持田さんの病院に行って直接確認すればいいかと開き直り、僕は持田家のインターホンを鳴らす事にした。その時だった─────


「あら?岩崎君?」


 玄関のドアが開き、華菜さんが出てきた


「ど、どうも……」


 何も悪い事をしてなかったけど、どこか後ろめたさを感じてしまった。それにしても、この日の華菜さんの顔は初めて会った時とは違い、確実にやつれていた


「うん。今日はどうしたの?」

「しょ、少々お聞きしたいことがあって来たんですが……また今度にした方がいいですか?」


 さすがにこの日は持田さんが自殺未遂をした次の日。そんな時に華菜さんは日記を付けてますかとか、持田さんは日記を付けてたりしましたかって聞くほど僕は図太い神経の持ち主じゃなかった。


「いえ、大丈夫よ。上がって頂戴」


 普通ならここで“お邪魔します”の一言でも言うのが普通なんだけど、この時、僕は華菜さんによって強引に手を引かれ、その言葉が出てこなかった。娘が自殺未遂をした事を知っていたせいか華菜さんからは狂気にも似た何かを感じた



 華菜さんに手を引かれ、僕はリビングへと連れてこられた。一応言っておくけどちゃんと靴は脱いだよ?


「あ、あの……」


 リビングへ連れてこられた僕は互いに沈黙し、気まずい空気になるのを避けるため、何とか会話を繋げようとした


「何かしら?あ、お茶ね?私ったらうっかりしてたわ」

「あ、いえ、お構いなく」


 僕はお構いなくって言ったけど、華菜さんはキッチンに向かいお茶の用意を始めた。本当にこの時の華菜さんは見ていられなかった。見てて痛々しく感じた。それほど娘を愛していたのかな?



 数分後、華菜さんは二人分のカップを持って戻ってきた


「お待たせ。紅茶でよかったわよね?」

「は、はい」


 本当はすぐ帰ると言うつもりだったけど、出されたものを残して帰るのは僕の主義に反するし、それに、来た時から彩さんの姿が見えなかった事を考えると華菜さんを1人にするのは危険だと思った


「さて、岩崎君。今日はどんな用事で家に来たのかしら?」

「あ、えっと……も、持田さん……彩菜さんは大丈夫だったかって気になりまして……」


 本当は日記の話とかを聞きに来たんだけど、持田さんの母親である華菜さんを目の当たりにすると本当の目的なんてとてもじゃないけど言えなかった


「そう……」

「ええ……で、でも、さすがに昨日の今日ですし、今日は帰りますね」


 間が悪かったと思った僕はお茶だけ飲んで帰る事にした。でも────────


「いえ、大丈夫よ。私もちょうど岩崎君とお話したいと思っていたの」

「え?」


 華菜さんの答えは意外なものだった。初めて持田さんの家に来た時に華菜さんとは2人だけで話をした。正直、この時の僕はどんな話をされるか気が気じゃなかった


「え?って何?初めて来た時も2人だけでお話したでしょ?それとも、おばさんと話すのは嫌?」


 初対面の時は悪戯っぽい笑みを浮かべてきた華菜さんだったけど、この時は持田さんそっくりの上目遣い。親子なんだから似るのは当たり前で、華菜さんには夫がいる。でも、僕は目の前で泣きそうになっている女性を放ってはおけなかった


「嫌じゃないです。僕も聞きたい事があって来たんで」


 本来の目的は日記の有無。華菜さんと話をするのは僕にとって好都合だった。でも、多分、華菜さんは僕が永山に復讐するって考えてなかっただろう。華菜さんに知られたところで別に不都合はなかったからいいけど


「そう。まぁ、私が答えられる範囲でなら答えるわ」


 華菜さんから話を振ってきてくれたのは助かった。この日は日記の有無を聞かないで帰るつもりだったから


「ありがとうございます。それで華菜さんのお話って何でしょうか?」


 持田さんが自殺未遂をした日には責められなかったけど、次の日であるこの時になって気が変わったって事もあり得たので僕はまず華菜さんの話を聞く事に


「そうね、まずは昨日の事を謝らせて頂戴。夜中にいきなり呼び出してごめんなさいね」

「いえ、娘さんが自殺未遂をして気が動転してたでしょうしそれは構いません。ただ、どうして僕なのかは気になりますが」


 娘が自殺未遂をしでかして気が動転するのは理解できる。でも、僕は持田さんの同級生に過ぎなかった。恋人でもなければ親しい友人でもない。そんな僕をどうして華菜さんは呼び出したのか?


「私が岩崎君に連絡をしたのは君ならどんな事があっても彩菜を護り切れるって思ったからよ。学校の先生なんて所詮は口先だけでしょ?でも、彩菜の話を聞いて岩崎君ならって思ったの。時間も時間だった事もあるけど、でも、岩崎君なら彩菜を護ってくれるって思った方が大きかった。だから君を呼び出したのよ。夜分遅くに申し訳ないとは思ったけどね」


 持田さんもそうだったけど、華菜さんも大概だ。信頼されるのは悪い気はしない。だけど、僕はただの一生徒だ。今もそうだけどね。華菜さんの言ってる事は間違ってないとは思うよ?所詮教師なんて口先だけ。本当は何も出来ない……いや、何もしない癖に口先だけは達者だ。少なくとも僕の関わってきた教師はみんなそう。口先だけの無能ばかり


「そうでしたか。ですが、信頼されているのは嬉しいですけど、僕は持田さんを護り切ってはいません。彼女が自ら命を絶とうとするまで追い詰められている事に気が付かなかった愚か者です」


 秀義との話し合いで吹っ切れた気でいたけど、華菜さんと話すと……持田さんの話をされると自覚してしまう。自分は無力だと


「そんな事ないわ。君は立派に彩菜を護った。だから、これは彩菜の母親としてのお願いよ。自分を責めないで」

「し、しかし……」


 自分を責めるなと言われても無理だった。何しろ人の命に関わる事だから


「私がいいって言ってるの!それに、彩菜だって岩崎君に自分を責める事を望んではいないと思うわ」


 仮に持田さんがそう望んでいなかったとしてもこの時は自分を責めないでいる事は出来なかった。持田さんのお見舞いに行ってようやく自分を許せたくらいだったし。だから僕は───────────


「華菜さんがそう言うのなら自分を責めるのは止めます」


 華菜さんの前でだけ自分を責めるのを止めた。


「よかったわ。彩菜の事を全く気にするなとは言わないけど、気にしすぎるのも問題よ?」

「はい、解ってます」

「そう。それで?岩崎君は用事があって家に来たのよね?」

「そうでした。華菜さんにお聞きしたいことがあったんです」


 僕は聞きたい事があって持田家にやってきた。それを忘れるところだった


「私に聞きたい事?彩菜の学校での様子なら私よりも岩崎君の方が詳しいでしょ?」

「僕が聞きたいのは持田さんの学校での事や家での様子じゃありませんよ」

「じゃあ、何が聞きたいの?話をする前にも言ったけど、答えられる範囲でしか答えられないわよ?」

「答えられる範囲で構いません。僕が聞きたいのは持田さんと華菜さんのどちらか、あるいは2人とも日記を書いていたかって事と華菜さんは持田さんに異変があって僕の家に電話してきた時にどうして自殺未遂をしたって言ったのか。これだけです」


 日記の事はともかく、自殺か自殺未遂かなんて誰にも判断できないと思う。死んでいるか生きているかは脈を測れば医者じゃなくとも判別は出来る。でも、自殺か未遂かだなんて警察じゃない限りは判別できないと思う


「そう。じゃあ、まず日記の件について答えさせてもらうけど、私は毎日日記を書いているわ。彩菜の方は部屋に入ってみないと何とも言えないけどね。で、彩菜に異変があって電話した昨日の事だけど、旦那と彩は仕事や部活の関係で寝るのが早いのよ。まぁ、私もそんな2人に合わせて早く寝るようにしているけど、昨日は寝始めて30分くらいかしら?それくらい経ってから彩菜の部屋の方向から変な臭いがしたのよ」


 この時点で華菜さんは日記を毎日書いている事がわかったけど、持田さんは不明。そして、華菜さんが持田さんの異変に気付いたのは多分、22時よりも少し前くらい。その後は携帯で救急車を、家の電話で僕の家に電話を掛けてきたとこんなところだろうと思った


「日記の事は後で本人に聞くとして、変な臭いですか……」


 変な臭いなんてこの世にはたくさんある。それに、臭いの感じ方も人それぞれだ。具体的に聞かない事にはそれが何なのかってのはわからなかった。まぁ、中学生が簡単に用意出来て異臭を放つもの。それでいて発見や処置が遅れれば死に至るものなんて何個か候補はある


「ええ、中学生でも買えて異臭を放つ。そして、最悪の場合は死に至るもの。岩崎君なら何を思い浮かべるかしら?」


 中学生でも簡単に買えて異臭を放ち、最悪の場合は死に至るもの。中学生の僕に思いついたのは2つだった。1つは火を付けた七輪。そして、もう1つはトイレ用洗剤とキッチン消毒薬の化合物。どちらも中学生でも簡単に手に入る代物だ。買うのもそうだし、下手したら家にある。問題はどっちを答えにしたらいいかだった。でも、僕の出した答えは────────────


「そうですね、僕ならトイレ用洗剤とキッチン用消毒薬の化合物ですかね」


 トイレ用洗剤とキッチン用消毒薬の化合物だった。七輪って選択肢もあったけど、万が一の事や持田さんの性格も考えて火事になるリスクは負わないだろう。そう思った。


「残念。外れ。答えは七輪よ」


 普通なら変な事をクイズにするなと突っ込みを入れるところだけど、事態が事態だったから笑えなかった。むしろ持田さんが火事になるリスクを負ってまでそんな事をしたのが意外だった


「し、七輪ですか……まぁ、中学生でも手に入るもので魚とかを焼くなら異臭はしないにしても、何も焼いてないのなら異臭はするでしょうね。僕は部屋の中で七輪なんて焚いた事がないのでよく知りませんが」

「ええ、私も彩菜がそこまでして死にたいと思っていたとは思わなかったわ」


 この後、僕は華菜さんから日記を見せてもらった。他人のプライバシーに関する事だから気が引けたけど、永山を始めとする教師陣が保護者からの苦情をまともに取り合ってないという証拠を掴むには仕方のない事だ。で、持田さんの日記は……華菜さんの許可を得て部屋に入り、そこから見つけ、中身を確認した。悪いとは思ったけど。持田さんの日記も華菜さんと同様に永山達の職務怠慢と持田さんをイジメていた連中の事が名指しで書いてあった。


「華菜さんの日記にも持田さんの日記にも有力な情報が書いてあって助かりました。じゃあ、僕はこれで」


 日記の有無と内容を確認したから持田家に居座る理由がなくなった僕は帰ろうとした。しかし────────


「待って、これから彩菜の病院に行こうと思うんだけど岩崎君も一緒にどう?」


 華菜さんに引き留められてしまった。


「あ、いや、僕が行っても迷惑になると思いますけど?」


 別に持田さんのお見舞いに行きたくないわけじゃなかった。ただ、純粋に迷惑になるんじゃないか?と思っただけで


「そうかしら?岩崎君が来てくれたら彩菜とっても喜ぶと思うわよ?」


 結果から言うと僕が持田さんのお見舞いに行ったらもすごく喜んでいた。でも、どうして僕がお見舞いに行ったら喜んでいたかは謎のままだ。今度本人か同じ女性である葵衣にでも聞いてみよう


「そうなんですか?」

「ええ、女の子は気になる相手からお見舞いとかされると喜ぶものなのよ?」

「は、はぁ、そんなものですか」

「ええ、そんなものよ」


 というわけで、僕は華菜さんと一緒に持田さんのお見舞いに行く事に。病院へ向かう途中の車で、持田さんはとっくに意識が戻っている事を知らされた。朝のHRでは持田さんが入院した事は永山経由でクラスメイト全員が知ってるけど、持田さんの意識が回復した事を知っているのは僕と華菜さんを始めとする持田さんの家族だけだった







今回は光晃が持田家を訪ねる話でした

今回の話の最後で謎を残す形になりました。次回はその謎についてやっていこうと思います

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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