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【過去編66】僕は初めて自分の無力を呪う

今回は光晃が自分の無力を呪う話です

ある意味で今回の話は光晃が立ち直れるかどうかの瀬戸際になる話です

では、どうぞ

 持田さんが永山にもう1度希望を持ち、職員室に行った日から1週間が経過したある日。え?ちょっと待て?時間が飛びすぎだって?だって永山の奴は結局何も変わってなかったんだもん。持田さんと一緒に相談しに行き、永山の陰口を聞いた日から全くもって変化なし。そんな話は聞きたくないでしょ?それに、この日はいろいろと大変だったんだから。さて、話を始めるけど、大変な事が起きたのはこの日の夜の事だった


「光晃、私はもう寝るけど、まだ起きてるの?」


 夕飯とお風呂を済ませ、僕も真理姉さんも後は寝るだけの状態になり、僕はリビングで特に面白くもなんともない深夜バラエティーを眺めていた


「僕もそろそろ寝るよ。テレビ見ていても面白くないし」


 僕はテレビを消し、部屋に戻ろうとした。その時──────────────────


「電話?こんな時間に誰だろう?」


 玄関にある電話が鳴った。真理姉さん個人に用があるのなら真理姉さんの携帯が、僕個人に用があるのなら僕の携帯が鳴る。でも、この時になったのは家族兼用の電話だった


「私が出てくるから光晃は先に寝てて」


 真理姉さんは自分が出ると言ってリビングを出て玄関へ。この時の時刻は22時を回っており、僕の知り合いも真理姉さんの同僚も電話してくるはずがなく、海外にいる両親でさえ用事があれば僕の携帯か真理姉さんの携帯に着信を残すかメールを入れる。だというのに家族兼用の電話に掛けてくるのはおかしい。そう思っていた


「こんな時間に電話してくるだなんて……一体誰が……?」


 夜遅くに電話してくる知り合いに心当たりがなかった僕は電話を掛けてくる人間が誰なのかが気になった。でも、それは意外な人物からだという事をすぐに知る事になる


「光晃!!持田さんって人から電話だよ!!」

「はい?持田さん?」


 真理姉さんが慌てた様子で戻ってきた。何があったのかは知らないけど、えらく慌てた様子だったのは覚えている。それよりも電話の相手が持田さんだったのは予想外だった


「そうだよ!それより早く出て!持田さんって人が大変なんだよ!!」

「え?ちょ、ちょっと真理姉さん!?」


 慌てた様子の真理姉さんに手を引かれ僕は玄関へ


「はい!詳しい事は自分で聞いて!」


 受話器を真理姉さんに押し付けられるようにして渡された。この時は何がそんなに大変なのか理解できなかった。そんな僕はとりあえず電話に出る事に


「はい、お電話変わりました。岩崎です」

『あ、光晃君!?彩菜の母の華菜だけど!彩菜が大変なの!!』


 電話の相手は持田さんの母親の華菜さんだった。でも、真理姉さん同様にやけに慌てた感じだった


「持田さんが?何かあったんですか?」


 華菜さんは僕に持田さんが大変だとは言ったけど、何が大変なのかについては全く触れていなかったので僕は何が大変なのかがわからなかった


『彩菜が……彩菜が自殺未遂を働いたわ……!』


 華菜さんの一言は僕の思考を停止させるには十分だった


「も、持田さんが自殺未遂……?う、嘘ですよね……?」

『いいえ、本当よ……彩菜は自殺未遂を働いたわ……私達家族と岩崎君。貴方に遺書まで残してね』


 嘘だと言ってほしかった。イジメられていて辛い気持ちは解るけど、それでも……持田さんにそんな事をしてほしくなかった


「そ、そうですか……それで?救急車は?」

『それはとっくの昔に主人が呼んだわ……今は彩菜の応急処置をしてるけどね』


 当時の僕には何が出来るかわからなかった。だけど僕は動かずにはいられなかった。そんな僕は……


「わかりました、すぐにそちらに行きます!」


 何が出来るかわからなかったけど、持田さんの家に行く事にした。


『ええ、わかったわ!』


 僕は電話を切り、着替えもせずパジャマ姿のままで靴を履こうとした。


「光晃!せめて何か羽織っていったら?」


 隣で僕達の会話を聞いていただろう真理姉さんに引き留められた。着替えて行けとは言われなかったけど、何か羽織っていけとは言われた。夏の暑い時期に


「そんな時間ないよ!」

「あっ!光晃!」


 僕は真理姉さんの静止も聞かず持田家まで走った。



 僕が持田家の前に辿り着いた時にはすでに大勢の人だかりができており、救急車と消防車が止まっていた。それは当たり前だとして、僕は息が上がる中、持田家から出ているであろう異臭が何なのかが気になったけど、この時はそれどころじゃなかった


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、つ、着いた……」


 僕は大勢の人だかりを前に一旦息を整えた。すぐに持田さんの家にすぐさま駆け込みたかったけど、救急隊員の人達の邪魔になるのは明白だった。持田さんが心配じゃなかったわけがないけど、持田さんが残した遺書も気になった。


「彩菜!ねぇ!しっかりして!彩菜!」

「そうだ!気をしっかり持て!彩菜!」

「彩菜……!何でこんな事を……」


 タンカーに乗せられ、持田さんは救急車へ乗せられていく。その傍らで必死に声を掛けていたのは華菜さんと父親であろう男性。そんな2人とは違い涙を流しているのは持田さんのお姉さんであろう女性だった


「彩菜さんのご家族ですか?」

「は、はい……!」

「これから彩菜さんを近くの病院まで搬送しますのでどなたか付き添って頂きたいのですが」

「私が付き添います!」

「あなた!彩菜の付き添いは私が!」


 救急隊員と一緒に救急車へ乗り込んでいく持田父とそれを引き留める華菜さん。残念ながらこの時は声しか聞こえなかった


「お前がいなければ岩崎君とやらが来た時に困るだろ?ここは俺が付き添う!」

「で、でも……」

「いいから!お前は岩崎君とやらが来た時にいないと困るだろ!ここは俺が!」

「付き添いはお父様でよろしいでしょうか?」

「はい!」

「では、出発します」


 持田さんと持田父を乗せた救急車は華菜さんと姉であろう女性を残し、サイレンを鳴らしながら走り去っていった。そして、何事かと眺めていた野次馬達も散り散りなっていく。僕が付いた時には何かあったのかって話をしていただけで具体的に何があったかまでは話していなかった。つまり、野次馬達は何があったのか詳しくは知らないらしい


「あっ、岩崎君……」


 野次馬が散り散りになりようやく華菜さんの姿が見えた。暗くてよく見えなかったけど僕に電話を掛けた後泣いていたんだろう。声が涙声だった


「か、華菜さん……」


 僕は最愛の娘が自殺未遂をしたという事実に直面していた華菜さんに何て言えばよかったんだろう……?


「とりあえず上がって?」


 僕は華菜さんに言われるがままに持田家へお邪魔する事にした


「「………………………」」


 持田家にお邪魔したはいいけど、華菜さんも姉であろう……もういいや、持田さんのお姉さんも黙って俯いたままだった


「あ、あの……持田さんが大変な状態なのは理解してますが、持田さんが書いたって言う遺書を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」


 華菜さんにとって最愛の娘が、お姉さんにとってはたった1人の妹が自殺未遂をして悲しんでいる時に不謹慎だとは思った。でも、持田さんが残した言葉を僕は知る必要があった


「そ、そうね……はい、これがそうよ」


 華菜さんがポケットから取り出したのは二つ折りにされた1枚の紙だった


「ありがとうございます」


 僕は華菜さんからそれを受け取り、中を開いた。そこには持田さんの字で『岩崎君へ』と書かれていた


 “岩崎君へ。旅立つ不孝をお許しください。

 私は弱い人間です。いつも学校では言いたい事を言えずにウジウジしてばかりで誰かに護ってもらわなきゃ生きていけない弱い人間なのです。そんな私が今まで生きてこれたのは一重に岩崎君のお蔭です。1年生の学年集会の時、小さな事で怒鳴る先生達に恐れもせずに立ち向かっていく姿に私は強い憧れを抱きました。それは私にはないものだったから……そんな中学1年生が終わり、中学2年生に進級した時、岩崎君と同じクラスになり私は運命を感じました。1年生の時からずっと見ていてもしかしたら岩崎君なら私を護ってくれるかもしれない。そう感じ班決めの時、勇気を出して君に声を掛けたんだよ?名倉君に護ってくれって頼まれてた時、君は嫌々ながらもそれを引き受けた。その姿を見て私も頼んでみよう。そう思いました。そして、そんな頼みを君は断らなかったし、約束通りちゃんと守ってくれた。でも、もう限界です。イジメは悪化するし、永山先生には裏切られるし……私はもう疲れました。最後にこんな形でお手紙を出した事をお許しください。   持田彩菜”


 手紙には持田さんがどう思っていたか、何を感じたかが綴られていた。そんな持田さんからの手紙に僕は言葉が出なかった


「持田さん……」


 言葉が出なかったと同時に僕は自分が無力だと初めて感じた。小学校で二枝を壊し、中学では出目金を退けた。そんな僕は心のどこかで自分なら出来る。そう思っていたのかもしれない


「彩菜さ、いつも家では岩崎君の話ばかりしてたんだよ?」


 自分の無力さを呪っていたところで口を開いたのは持田さんのお姉さんだった


「あ、(あや)!」

「…………………」


 持田さんのお姉さん……彩さんを止めようとする華菜さん


「お母さんは黙ってて!彩菜はお父さんの前でもお母さんの前でも私の前でも口を開けば岩崎君、岩崎君って言ってた……」


 止めようとする華菜さんを制し話を続ける彩さん。僕を責めている。直接お前が悪いと言われたわけじゃなかったけど、僕にはそう捕らえられた


「…………………」


 だからだったのかな?僕はただ黙っている事しか出来なかった


「岩崎君の話をする彩菜は本当に楽しそうだった。特に岩崎君に抱きしめられた時の話をする彩菜はね」

「…………………」


 そんな僕を余所に彩さんは続けた。それでも僕は黙ったままっだった


「別に岩崎君を責めてるんじゃない。今日が初対面だけど彩菜の話を聞いてるだけで岩崎君はよくやってくれたと思っている……でもッ!でも……」


 そこまで言って彩さんは耐え切れなくなったのか泣き出してしまった。華菜さんと彩さん、持田さんのお父さんは家族が自殺未遂をした事が辛かっただろうけど、僕は僕で持田さんの側にいながら何もできなかった事が悔しかった


「それ以上言わないでください……僕は持田さんの側にいながら何も出来ませんでした。持田さんの筆箱が盗まれた時、ちゃんとイジメっ子達を潰しておくべきでした……持田さんが担任から裏切られた時すぐにでも動くべきでした……結局僕は持田さんを護ってなんていなかった……」


 結局僕だって持田さんを追い込んだ1人だ。秀義と須山の話で持田さんが1年生の時からイジメを受けていた事を知っていた。筆箱を隠された時にちゃんと潰しておけばよかったと思うし、永山に裏切られた後、僕は永山に絡まれる事があった。その時にでも再起不能にしておけばよかった。この日の事は今でも思い返すと後悔する事ばかりだ


「そんな事はないわ!!岩崎君はちゃんと彩菜を護ってくれたわ!じゃなきゃ彩菜は笑顔で私達に岩崎君の話なんてしてなかった。私はそう思っている!!」


 何も出来なかったという僕を否定したのは彩さんではなく華菜さん。娘が命の危機に瀕している時だっていうのにこの人は僕を責める事をしなかった。その気遣いが当時の僕にとっては一番痛かった


「そんな事ありません……僕は持田さんを護れなかったんです……」


 この後、僕は家に帰る事にした。華菜さんが送って行ってくれるって言ってくれたけど、僕はそれを断った。どうやって家まで帰ったかは覚えてない。覚えているとしたら華菜さんに持田さんのイジメの件についてく学校側に苦情を入れたかどうか確認した事だけだ。ちなみに、苦情は入れていたけど、まともに取り合ってもらえなかったらしい事を言っておく





今回は光晃が自分の無力を呪う話でした

光晃はこの問題から立ち直る事が出来るのか?それとも、立ち直れずに終わるのか

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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