【過去編65】教師は優先順位が解ってないと僕は思う
今回は前回の話の次の日からスタートです
永山が職員室で話していた内容を聞いた持田さんと光晃ですが、そんな話を聞いた後でも持田さんは永山を頼り、光晃は永山を大人として見るのか?
では、どうぞ
職員室前で永山のイジメられて困っている生徒からすれば非道とも言える言葉を聞いた次の日の朝
「持田さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ……………」
永山の言葉を聞いた日、持田さんは職員室前で泣いた。それは彼女が永山を信用しており裏切られたと感じ流した涙なのか、それとも、教師はイジメられっ子を助けてくれはしないという絶望から流した涙なのか。それを僕が知る術はなかったし、聞く勇気もなかった。僕が思ったのは教師の言葉って軽いなって事だけだったから
「でも目の下のクマ酷いよ?」
持田さんが睡眠不足だというのは誰の目から見ても明らかだった。イジメによるストレスなのか、帰宅してからも永山の仕打ちを思い出し泣いてたのか。あるいはそのどちらもって可能性もあった
「う、うん、昨日はちょっと寝苦しくて……ほら、最近暑いでしょ?」
「そうだね。最近は寝苦しい夜が続くよね」
この時の季節は夏。暑いというのは否定しなかったけど、だからと言って寝苦しいかと言われればそうでもなかった。言うほど暑くはなかったけど……この時の僕はどうしたらよかったんだろう?強引にでも聞き出した方がよかったのか、それとも、何も言わずにただ側にいるだけでよかったのか……今でもどっちがよかったかなんてわからない。
「でしょ?目の下のクマはそのせいだから岩崎君は気にしないで!」
そう言って笑う持田さんの顔は女性に感心がなかった僕でも無理をしているんだとわかった。
「持田さんがそう言うなら……でも、僕は約束を忘れてないからね?」
僕と持田さんが宿泊学習前にした約束。僕が持田さんを護るって約束を中2、中3の間は忘れた事はない
「うん!でも、最初に約束した時もそうだったけど、岩崎君って絶対に護るとは言ってくれないんだね」
「絶対に護れるって保証がないからね」
僕は約束をする時はいつもそうだけど、絶対にとは言わない
「むぅ~、私的には岩崎君に絶対に護るって言ってほしかったよ~」
「絶対にとは言わないけどさ、宿泊2日目からずっと学校じゃ持田さんの側にいたつもりなんだけど?持田さんはそれじゃ満足できないのかな?」
「そ、そうは言ってないけど……」
「?」
持田さんはゴニョゴニョと何か言ってたけど僕はそれを上手く聞き取れなかった。この後は世間話をしながら学校まで歩いた。そして、校門を潜り玄関前──────────────────
「ねぇ、岩崎君。何回言ったら解るのかな?近いって何回も言ってるよね?どうやったら解ってくれるの?」
永山に絡まれた。本人は指導しているつもりだったんだろう。僕が注意されている原因は多分だけど持田さんとの距離だったと思う。それはこの当時の僕も理解はしていた。理解していて止めなかった
「持田さん、遅れるとマズいから行こうか?」
僕は注意している永山をガン無視した。イジメられていて困っているっていう生徒の悩みを影で笑い、挙句それを放棄する教師なんてまともに相手をする必要も価値もなかった。永山が『先生を無視しないの!』って騒いでたけど、そんなのお構いなしだった
「え?あ、うん。でも、いいの?」
「何が?」
「永山先生に注意されているみたいだけど……」
この時の僕は持田さんは本当に心の優しい子だ。そう思った。影で自分の悩みを下品な声で笑われたにも係わらず永山の心配をしてたんだからね
「別にいいさ。影で生徒の悩みを下品な声で笑うような人間の事なんて」
「岩崎君がそう言うならそれでいいと思うんだけど……でも、永山先生はそうじゃないみたい」
「岩崎君!!ちょっと来なさい!!」
永山のバカみたいに騒ぐ声が聞こえなかったわけじゃなかった。相手にするのが面倒だったから無視しただけで。それが気に入らなかったのか、永山は僕の腕を掴み引き留めてきた
「何でしょうか?僕なんかに構っている暇あったらちゃんと仕事したらどうなんですか?」
「女の子との距離感を把握できてない岩崎君を指導するのも立派な仕事よ!!」
忙しいって言葉もそうだけど、指導や躾っていう言葉も便利な言葉だと思う。忙しいって言葉は教師だけじゃなく、全ての人が困った時にとりあえず忙しいって言ってれば何となく許されるんだから。で、指導や躾って言葉は親や教師等の指導や躾をする立場にある人間がそれを受ける立場にある人間に大ケガさせたり、自殺されてしまった時にこの言葉を使えば罪から逃れられると思っているんだから。そして、忙しいも指導、躾も使われた方は何も言い返せなくなる事があるからね
「指導……ねぇ」
「何かな?私は教師なんだから生徒である岩崎君を指導するのは当たり前でしょ?それが何か問題でもあるの?」
教師として生徒を指導するのには何の問題もない。ただ、僕的にはもっと指導すべき生徒がいるんじゃないか、もっと指導するべき事があるんじゃないかと思っただけで
「別に教師として生徒を指導する事は何の問題もないと思いますよ?ただ、僕の女子との距離感を指導するよりももっと指導すべき事、指導すべき生徒がいるんじゃないんですか?こんな小さな事を重箱の隅を突くような真似してる暇あるんですか?」
大人しく無視されていれば僕だってここまで言わなかったけど、肝心な事を指導できないで女子との距離感っていう僕からしてみれば取るに足らない事に目くじら立てられるのは面倒だったので皮肉の意味も込めて永山に尋ねた
「それとこれとは話が別!岩崎君が持田さんとの距離が近いから言ってるの!持田さんが嫌がってないから大きな騒ぎになってないけど、持田さんが嫌がっていたら大騒ぎになるんだよ!?それをちゃんと理解してる?」
僕は持田さんとの約束をちゃんと守っているだけ。教師達があまりにも情けなくて同級生にしか頼れなかった少女との約束を守っているだけ。ただそれだけだった
「はぁ……持田さん、行こうか。この人といくら話しても時間の無駄だし」
「い、岩崎君がそう言うなら私はいいけど、だ、大丈夫なの?」
「何が?」
「あ、後で呼び出されたりとか……」
持田さんの心配は後で僕が別室に呼び出されたりしないかという事を心配しているようだったけど、そんな心配は全くなかった。
「別に呼ばれたら呼ばれたで考えるけどあの人は僕を呼び出さないんじゃないかな?」
「え?どうして?」
呼び出さないという僕をキョトンとした顔で見つめる持田さん。僕は自信家じゃないけど永山に呼び出されないという自信はあった。
「う~ん、持田さんには時が来たら言うけど、これから言う事は多分、永山先生にとってキツイ事言うから」
持田さんと話している最中だというのに『岩崎君!!先生を無視してないで聞きなさい!!』と騒ぎ続けている永山。教師が騒いでる中で会話をしている持田さんと僕もどうかしていたと思う。何が最もすごかったかって僕はともかく、持田さんが永山をガン無視してたところがすごい
「そうなの?」
「うん。さてっと……」
持田さんとの会話を中断させ、僕は永山の方を向いた
「やっとこっち見たね!岩崎君!!先生を無視するだなんてどういうつもり!?今までどんな教育を受けてきたの!!全く、親の顔と小学校の時の担任の顔が見てみたいよ!!」
永山は無視される理由が自分にあるとは微塵も思ってない様子だった。教師がみんなこんなのばかりだったら泣けてくるけど、現実は非常なもので大多数の教師はこんなものだ
「僕が今までどんな教育を受けてこようと関係ないですよね?それに、僕の親は2人とも海外にいて簡単に会う事は出来ません。今は従姉と住んでます。で、小学校の時の担任なんですが、1年生の時と4・5・6の時の担任はともかく、2・3年の時の担任は今は別の小学校に行っていますので会えないと思いますよ」
バカ親、無能教師、低能実習生に限って過去の教育とか親の顔がどうとか言うけど、そんな奴らに聞きたい。自分が受けてきた教育はまともなものだったのか、自分は大人として子供の手本になるような事ができている人間なのかを
「そんな事はどうでもいいの!!岩崎君は目上の人間に対して敬意を払えないのかって言ってるの!!」
永山の言っている事は単なる教師の傲慢にも聞こえた。でも、目上の人間に対して敬意を払えないのかって話は小学校の時にも言われた気がする。バカバカしくて覚えてないけど
「僕だって目上の人間に敬意を払うくらいは出来ますし、しますよ?ただ、その目上の人間が本当に尊敬に値する人間ならね」
僕だって目上の人間に敬意を払うくらいは出来る。その目上の人間が本当に尊敬に値する人間ならね。そうじゃない人間は適当にあしらって影でバカにして笑うけど
「じゃあ敬意を払いなさい!私は目上の人間よ!!」
「「…………………………………………」」
永山のこの言葉を聞いた瞬間、言われている僕はもちろん、その場にいるだけだった持田さんも開いた口が塞がらなくなった。自分に敬意を払えと言った挙句、自分は目上の人間だと言う大人がどこの世界にいる?永山の言ってる事は幼稚園児の前で自分は小学生だ、大人だとアピールするバカな子供と同じ事だった
「何!私が目上の人間じゃないって言うの!?」
黙ってしまった僕と持田さんを交互に見る永山。高校生の今じゃ価値観とか諸々変わって来て永山が1番ではないけど、当時の僕の目には自分が関わってきた大人の中で永山が最も哀れに見えた
「別にそんな事は言ってないんですけど……」
「い、岩崎君の言う通りです!永山先生が目上の人間じゃないとは言ってないです!」
僕も持田さんも永山が目上の人間じゃないとは言っていない。ただ、持田さんはどう思ったか知らないけど僕は哀れだと思っただけで
「じゃあ何だって言うの!!」
僕の通う中学校は生徒が何か問題を起こす度に指導と称して怒鳴るのが当たり前だった。そのせいか永山がギャーギャー騒いでもみんなそれを変だとは思わなかったし、それに対して振り返ったり止めに入る先生もいなかった。朝の時間帯で大勢の生徒や教師が玄関に集まる中、誰も何も言わなかったのがその証拠だった。結論を言うと永山1人が騒いだところで誰も変だとは思わない。
「永山先生」
僕はギャーギャー騒ぐ永山に歩み寄った。そして────────────────────────
「な、何!?」
「アンタが職員室で持田さんのイジメについて下品な声で笑ってたのは黙っててやる。その代わりに持田さんをイジメている連中の指導くらいちゃんとしろ」
永山の耳元で職員室でしていた話は黙っててやるから持田さんをイジメている生徒をちゃんと指導するように言った。それを実行するかどうかは永山次第だったけどね
「は、はぁ!?岩崎君は何を言ってるの!!それじゃ私が仕事をサボってるみたいじゃない!!」
サボってるみたいじゃなくてサボってるんだよ。そうツッコみたいのをグッと我慢した。この話を続けてもいいけど、永山の子供みたいなワガママをこれ以上話したくないから少しだけ話を飛ばすね
玄関で永山に絡まれた日から3日後。僕が出来るだけ持田さんの側にいたから身体的には何の問題もなかった。その代わり持田さんの所持品には多大なる被害があった。カバンには落書きをされ、机はどこかに隠され、靴はゴミだらけ。永山に絡まれた次の日にカバンの落書き、机が隠されたのと靴にゴミが詰められたのはカバンの落書きがあった次の日だった。で、いよいよもって限界が来たのがこの日。つまり、永山に絡まれてから3日後の事だった
「岩崎君、私、もう1度永山先生に相談してくるよ」
僕的には女子との郷里感を咎めるばかりでイジメに関する指導が何1つできてない永山に頼るのは正直嫌だった。でも、永山に頼るか否かを決めるのは僕じゃなく持田さんだから特に意見を言う事はしなかった
「そうだね、さすがにカバンの落書きや机を隠すのも靴にゴミを入れるのもやり過ぎだからいいんじゃない?」
「うん!」
こうして持田さんはもう1度永山に希望を持って、僕はどうせ永山に……教師に相談するだけ時間の無駄だと思いつつも職員室へと向かった。
今回は前回の話の次の日からのスタートでした
職員室で永山が話していた内容を聞いていても永山を頼ろうとする持田さんは本当に健気だと思う。光晃は案の定ですね。永山への信用を完全に無くしたようです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました