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【過去編64】僕は教師の言葉って軽いと思い始める

今回は持田さんがいろいろ酷い目に遭う話です

持田さんはどんな目に遭うのでしょうか

では、どうぞ

 何もなかったとは言い難いけど、何とか宿泊学習を乗り切った。時は宿泊学習が終わった次の週にまで飛ぶ。


「……………………」


 僕が教室に入ると俯いている持田さんとそれを慰めている女子達。慰めているのは多分僕と同じ小学校出身。で、周りを睨んでいる男子が数名。その中には秀義と鶴田君もいた。


「朝から何してんの?」


 教室に入ったばかりの僕は状況が全く飲み込めず、ただ、呟くしかなかった。


「光晃……」


 僕の存在に気が付いたのか、苦虫を噛みつぶしたような顔で秀義が歩いてきた。僕は何もしてないのにどうして秀義は僕の顔を見て苦い顔をするのか?って聞きたかったけど、秀義がそんな顔をしている理由や持田さんが俯いている理由はすぐに解る事になる


「おはよう。秀義。それより、何かあったの?随分と険悪な感じだけど?」


 状況が全く飲み込めてなかった僕は何があったかだけでも知りたかった。もしかしたら僕に関係があるかもしれなかったし


「アレを見てくれよ……」


 秀義が指差した方向にいたのは持田さん。でも注目すべきは持田さんではなく、持田さんが持っているものだった。


「えっ……?どうしたの?それ」


 持田さんの持っているそれに目をやった僕は言葉が出なかった。イジメは最低な行為だというのは世の中の共通認識だと思う。でも、イジメが起こってしまうというのも嘆かわしい事に事実だ。だけど、この時持田さんがされた事を僕がされたわけじゃないけど、忘れはしない


「昨日、ウッカリ持って帰るの忘れちゃって……それで、朝来たらこうなってた……」


 持田さんが持っていたもの。僕からして見れば何でもないものなんだろうけど、本人からして見れば大切なもの。それが無残な姿になっていた


「誰にでも忘れる事はあると思うけどさ……だからって持田さんの大切な筆箱を壊す?しかも、これ修復不可能じゃん」


 修復不可能なまでにズタボロにされていたのは持田さんの筆箱だった。


「い、岩崎君……どうしよう……?ねぇ、どうしたらいい?岩崎君……」


 教室で他のクラスメイトがいる手前大泣きはしなかったけど、持田さんの声は涙声だった。


「どうしようって……僕達だけで犯人捜しなんてしたら喧嘩になるのは目に見えているでしょ。だから、先生に永山先生に相談しよう」


 宿泊学習2日目に永山は僕と持田さんの距離が近い事に対して注意してきた。注意されたのは僕が悪い部分もあったから仕方ないと思う。でも、問題はそこじゃない。秀義も他の女子と距離が近かったし、鶴田君も似たり寄ったりだった。それなのにどうして僕だけ注意をされなきゃならないんだって事だ


「そ、そうだね……私達だけで解決しようとすると喧嘩になっちゃうもんね……」


 自分達だけで問題を解決しようというのは良い事だと思う。でも、窃盗とか器物破損とか警察が出てきてもおかしくないような問題は当時中学生だった僕達には荷が重すぎた。事が事だし、疑う方も疑われる方も間に入る方も全員がまだ子供。そんな状態の僕達がこの問題を解決しようとするのは荷が重かった


「うん。だから、今から僕と一緒に職員室に行こう?」

「う、うん」


 僕個人として永山は信用できる教師じゃなかった。でも、持田さんのされた事は一応、教師の耳にも入れておかなきゃいけない事だ


「秀義、鶴田君。後お願いしてもいいかな?」

「「任せろ!!」」

「じゃあ、よろしくね」


 僕は秀義と鶴田君に後を任せ、持田さんと2人で職員室へ向かうために教室を出た



 持田さんを連れ、そのまま職員室へ行くと思ったら大間違い。僕は人気のない階段の踊り場に持田さんを連れ込んでいた。別に疚しい理由じゃないよ?今でもこうする事が正しかったと自信を持って言えるけど、人が大勢いる中で自分の大切なものを壊されても泣かずに我慢した持田さん。でも、彼女だって人間だ。どこかで溜め込んだものを吐き出させてあげなきゃいけない。そうじゃなきゃ壊れてしまうと思っただけ


「岩崎君?この階段って職員室に行くには遠回りになるよ?」


 僕の意図を知らずかキョトンとする持田さん


「知ってるよ。だから連れて来たんだよ。持田さんが溜め込んだものを吐き出しやすいようにね」

「ため………こんだもの……?私は何も溜め込んでないよ?岩崎君って面白いね」


 口調はいつもの持田さんだった。でも、瞳から溢れ出るものが言っていた。私はいろいろなものを溜め込んでますってね


「そう?じゃあ何で泣いてるの?」

「え?嘘?」

「本当だよ。何なら自分で確かめて」


 僕は持田さんの手をそのまま顔の方へもって行った


「ほ、本当だ……泣いてる……」

「でしょ?自分で触ってみてわかったでしょ?」

「うん……」


 しつこいようだけど僕は女性の涙があまり得意ではない。真理姉さんが、葵衣が、優奈が泣いてたら僕はどうしていいかわからなくなる。それは持田さんだって宮村さんだって例外じゃなかった。


「ご、ごめんね?な、泣くつもりは……な、なかったんだけど……な、涙が止まらなくなっちゃって……」


 自分が泣いてると自覚したのか、瞳から流れる涙を必死に拭い平静を保とうとしていた。でも、持田さんの声は涙声だった。この時の持田さんはとてもじゃないけど見ていられなかった


「別にいいよ。今は僕しかいないから。我慢してないで泣いちゃえば?」


 元々持田さんに溜め込んだものを吐き出してもらうために人気のない階段の踊り場に連れ込んだ。泣かれるのなんて最初から予想済みだった


「で、でも、岩崎君に迷惑が掛かっちゃうよ?」


 迷惑か……小学生の時は宮村さん、中学生の時は持田さん。高校生2年では葵衣。振り返ってみると僕は何だかんだで困っている女性や問題を抱えた女性の世話を焼く運命にあるらしい。宮村さんと持田さんの時点では単なる偶然だと思っていたけど、小学校、中学校、高校と続けば嫌でも理解するっていうか、今理解した


「持田さんから迷惑を掛けられた覚えなんてないよ。持田さんをイジメている連中にはたくさん迷惑を掛けられたけど」


 イジメをして楽しいのはイジメている本人達だけ。周囲は全く楽しくない。だってそうだろ?イジメが起こったせいで授業は潰れるし、朝の会とか長引くし。それに何よりクラスメイトにあらぬ疑いを持たなきゃいけなくなるし。でも、この時の僕が感じていたのは持田さんをイジメていた連中に対しての怒りではなかった


「でもッ……!私がイジメられる原因を作らなければ大事なものを壊されなくて済んだのにッ……!それなのにッ……!」


 持田さんは涙を流しながら自分を責めた。だけど、原因が持田さんにあったとしてもイジメをしていい理由にはならない。今更こんな事を思っても遅いか。持田さんは死んではいない。僕と知り合うまではキツかったと思うけど、笑顔で卒業した。ネタバレになるからここで多くは語らないけど


「イジメられる原因を作ったのは持田さんでもさ、だからと言って持田さんをイジメていい理由にはならないし持田さんの大切なものを壊していい理由にもならないよ」


 僕がこの考えに至ったのはいつからか?だなんて事は覚えていない。小学生の時、秀義や須山、宮村さんにイジメられた時……いや、その時はハエがうるさい程度にしか思ってなかったか。とにかく、気が付いたらイジメられる原因がイジメを受けている方にあったとしてもそれをしていい理由にはならないと言う考えは持っていた


「岩崎君は優しいんだね」

「そんなんじゃないよ。僕だって同級生にはしないけど、教育実習生や教師には似たような事をしてきたからね」


 小学生の頃も中学生の頃も今もそうだ。僕は優しくない。同級生にはしないだけで教育実習生や教師には似たような事をしてきた。僕だって当時持田さんをイジメていた連中と似たようなものだ


「例えそうだとしても岩崎君は私と一緒にいてくれる。岩崎君はわからないと思うけどイジメられてる方からしてみれば味方が1人でもいてくれる事って結構嬉しいんだよ?」


 これまた僕には理解できなかった。自分も持田さんと似たような事を小学生の時された。認識の違いかな?僕はイジメをしている人間を人間としては扱わない。ハエ、もしくは蚊程度にしか思ってない


「そうなの?僕にはよく解らないな」

「そっか……ねぇ、岩崎君?」

「何かな?」

「少しの間後ろ向ててくれないかな?同級生の男の子に泣き顔見られるのキツイからさ」


 持田さんだって女子だ。泣き顔を見られるのはキツイって言うのは理解できる。でも、宮村さんの時にも思ったけど、今にも壊れてしまいそうな持田さんを僕は放っておく事ができなかった。


「僕としては後ろで泣かれるのが怖いんだけど」

「そう……だよね……ごめんね?私トイレに行ってく──────」

「待って」


 持田さんが僕の横を通り過ぎようとした時、僕は持田さんを引き留めてしまった


「何かな?私トイレに行きたいんだけど?」


 持田さんがトイレに行く目的はお花を摘みに行く為じゃない。個室に入って1人で泣くためだ。そんな事は容易に想像できた


「僕としては弱り切った持田さんを1人にしておくのは危険だと思う。だから──────」

「ふぇっ!?い、岩崎君!?」


 僕は持田さんを抱きしめた


「これなら僕は持田さんの泣き顔を見る事は出来ないから思いっきり泣けばいい」


 この時の僕は我ながら大胆な事をしたと思う。付き合ってもいない同級生の女子を抱きしめるだなんて……持田さんじゃなきゃ殴られてたか職員室に駆け込まれて先生から説教されてたと思う


「で、でも……そ、それじゃあ岩崎君の服が濡れちゃうよ?」


 持田さんの言ってる事は正しい。でも、所詮は制服。濡れても何の問題もなかった


「別にいいよ。涙の跡なんてどうせすぐに乾く」

「で、でも……」

「いいから、持田さんは黙って甘えてればいいんだよ」

「…………………………ごめん、少し胸借りるね」


 持田さんは静かに泣き始め、その間僕はただ黙って持田さんの頭を撫で続けるしかなかった


「落ち着いた?」

「うん、もう大丈夫だよ」


 持田さんが泣き止んでから少し経ってから僕達は職員室へ……行くわけにはいかなかった


「そう。じゃあ、少し目を冷やそうっか?真っ赤だし」

「う、うん……そういう岩崎君の服も濡れちゃってるよ?」


 持田さんの目は真っ赤に腫れ、僕の制服は胸のところが濡れていた。僕的には濡れているのはいい、目が真っ赤に腫れているのはアウト


「僕のはいいけど、持田さんのはアウトでしょ」

「私的には目が腫れてるのはいいけど、服が濡れてるのはアウトだよ?」


 僕と持田さんは価値観の違いからか意見が分かれてしまった。このままじゃどちらも譲らない。僕がそう思った頃、持田さんも同じ事を思ったのか、結局僕達はそのまま職員室に行こうという事になり、職員室に入り永山に持田さんの目と僕の服が濡れている事を聞かれたけど『花粉症の持田さんがウッカリ転びそうになってこうなった』という事にしておいた。


「永山先生は犯人を捜すって言ってたけど、岩崎君はどう思う?」

「犯人が素直に出てくるわけがないと思っている」


 職員室から教室へ戻る道中僕達は永山が職員室で言った事について話していた。永山は犯人を捜すと言っていたけど、僕は犯人が素直に出てくるはずがないと思っていた。そもそも、素直に名乗り出るくらいの奴なら持田さんの筆箱を壊したりしない


「そう……だよね……」

「うん。素直に名乗り出てくるくらいなら持田さんをイジメたりなんかしないよ」

「だよね……」


 こんな話をしながら僕達は教室へ戻った。僕達が教室へ戻ってからすぐに永山が来てHRとなり、持田さんの筆箱を壊した犯人を捜す事になったけど、誰も名乗り出なかった。それから数日が経ち、持田さんのイジメが解消されたか?と言われるとそうではなかった。むしろこの日を境に悪化した




 持田さんの筆箱が壊されてから1週間が経った。この間に僕は華菜さんから呼び出しを食らい、出来るだけ持田さんの側にいてほしいと頼まれ僕はそれを2つ返事でOKした。そんなある日の事だった


「あの日から悪化の一途を辿ってるけど大丈夫?持田さん」

「う、うん……」


 筆箱が壊され次は何をされるかわかったものじゃないと思った僕は持田さんと一緒に登校する事にした。1人だとどうしても隙が生じてしまうので2人で登校しようって事になった。


「もう手遅れかもしれないけど、先生に相談する?」

「そうだね。一応先生に相談してみようっかな?」


 登校中、僕と持田さんはイジメがこれ以上悪化しないようにと思い先生に相談する事を決めた。だけど、この時はもうすでに手遅れだった。物を隠されるとかならおふざけで済んだのかもしれないけど、所持品を壊されたり、インターネット上での誹謗中傷はおふざけで済まないし、実際持田さんはその被害に遭っていた。これはも自分達の手に負えるレベルじゃないと判断した僕達はこの日の登校中に先生に相談する事を決めた


「今日はどうなっている事やら……」

「…………………………」


 学校に着いた僕達は憂鬱な気分だった。


「やっぱり……」


 持田さんの下駄箱を見ると案の定あったのは大量のゴミ。幸いだったのは入れられていたゴミが全て紙ゴミだった事くらいだ。入れる方も生ゴミなんて触りたくなかったんだろうとは思ったけど、何回も続くとうっとおしい事この上ない。


「……………………」


 無言で立ち尽くす持田さんを余所に僕はゴミの片付けをした。今はどうしてるか知らないけど、この時の持田さんは多分、精神的に相当追い詰められていたのかもしれない



 持田さんの下駄箱を掃除するところから始まったこの日の放課後。話はかなり飛ぶけど、この日は僕にとってはある意味で変化が訪れた日。教師の言葉が軽いって知った日でもあるから話が飛ぶのは許してほしい


「持田さん」

「うん……」


 僕達は帰る前に職員室へ行き、永山にこの日の事、ネット上で持田さんが誹謗中傷されている事について相談する為に職員室へ向かった


『それくらい自分で何とかしろよって感じですよー』


 職員室前に着き、聞こえてきたのは永山の声。他の生徒もまだ残っているのに大声で何を言っているんだと思ったけど、それはすぐに明らかになった


『どうしました?永山先生』


 永山にどうしたかを聞いてるのはドラマ厨だった。普段は怒鳴ってばかりの奴でも世間話するんだと内心笑いそうになったけど、そんな気持ちは次の永山の一言で一気に吹き飛んだ


『最近持田さんからよくイジメられてるって相談されるんですけどー、いちいち私に相談しないで自分で解決しろって思うんですよねー』


 永山の言葉は教師……いや、大人の言葉だとは思えなかった。


「持田さん……」

「……………………」


 持田さんの方を見ると彼女はただ無言で涙を流していた。これは信じていた教師に裏切られた事からくる涙なのか、それとも、教師は自分を助けてはくれないと絶望した事からくる涙なのかは知らなかった。ただ、事実として言えたのは持田さんが声を上げるでもなく無言で涙を流していた。それだけだった


今回は持田さんがいろいろ酷い目に遭う話でした

所持品を壊されたり、信じていたであろう先生が職員室で馬鹿笑い。持田さんはそんな教師に対してどう思うのか?少なくとも光晃は教師の言葉って軽いなと思い始めたようですが

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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