【過去編63】財布の盗難事件が無事に解決したけど、これが新たな問題が起こる前触れだったと思う
今回は財布盗難事件解決と新たな問題が起こる前触れの話です
一難去ってまた一難!
では、どうぞ
永山の部屋に連れてこられた僕。そこには持田さんと持田さんの筆箱を盗んだ女子Aと女子Bがいた。聞いたところによると彼女達が持田さんの財布を盗んだらしい。僕の指示で。そして、そんな彼女達の話を本当かどうか判断する為に僕を呼んだと言うのが今までの話。今からする話はそれの続きだよ
「さて、全員座ったところで盗まれた持田さんの財布についてお話ししましょうか」
僕は全ての種明かしをする為にそう切り出した。財布の在り処について話すつもりは全くなかったけど、盗まれた財布の事については話すつもりだった。持田さん以外の女性陣の視線が僕に集中する中、僕は何から話したものかと考えた。その時だった──────
「岩崎君、聞いていい?」
永山から質問があったのは
「何でしょうか?」
「岩崎君は持田さんの財布を盗んだの?」
永山の質問は僕が最後に話そうと思っていた事。全ての種明かしをする前にそれに答えるわけにはいかなかった
「永山先生の質問には全て話し終えた時に答えます」
この時の僕は全てを話し終えた時に答えるとしか言えなかった
「そう。じゃあ、いい。その代わり、話し終えた時にはちゃんと答えてね?」
「ええ、もちろん」
永山に話が終わったら質問に答える事を約束し、一呼吸おいて話し始める
「何から話そうか迷ってましたが、盗まれた持田さんの財布がどういったものかからお話しますね。盗まれた持田さんの財布ですが、その財布はフェイクです」
「「「はぁ!?」」」
盗まれた持田さんの財布がフェイクと知るや否や鶴田君と秀義同様に驚きの声をあげる永山達。この時の事は今でも忘れない
「驚きのリアクションありがとうございます。ですが、盗まれた持田さんの財布はフェイクです。皆さんもご存じでしょ?持田さんが中1の時からイジメに遭っていた事を。そして、永山先生は知らないと思いますけど、先週持田さんの筆箱が無くなり、その時の犯人はそこにいる女子2人」
「「…………………」」
「そ、そんな事があっただなんて……」
黙りこくる女子Aと女子B。そして、持田さんが中1からイジメに遭っていた事が意外だったのか、それとも、筆箱を隠された事をこの時初めて知ってうまく言葉がでなかったのか驚愕の表情を浮かべていた永山
「それはいいとして、話を続けますが、その筆箱騒動があった週に僕は持田さんから家に来ないかと誘われ、昨日の事です。まぁ、持田さんの家に行って何をしたか、親御さんと何を話したかは省きますが、持田さんの母親は持田さんがイジメに遭っている事を知っていた。とだけ言っておきます」
「お母さん……知ってたんだ……」
永山と女子A、女子Bに盗まれた財布がどんなものかを説明するのにどうしても避けられなかったのが持田さんがイジメを受けている話だった。華菜さんとした話の詳しい内容まで言わなかったけど、持田さんは自分の母親がイジメを受けている事を知って何を思ったのだろうか?
「いろいろ聞きたい事はあるでしょうけど、本題に入りますね?」
「「「「………………」」」」
イジメを受けていた持田さんの意見も永山達の意見も聞かず僕は本題に入る。
「持田さんの本物の財布の在り処は言いませんが、盗まれた持田さんの財布はフェイクです。これはさっき言いましたよね?それでです。犯人である女子2人はどんな理由で財布を盗んだのか知りませんが、中身にはお金なんて入ってません」
「「「はぁぁ!?」」」
鶴田君と秀義同様に驚く永山達。財布=お金が入ってるって思うの?裕福か貧乏かは置いといて、財布だからって必ずしもお金が入ってるとは限らないんだよ?
「驚いているようですが、本当ですよ。なんなら中身を確認してみてはいかがですか?」
女子2人は僕の指示に従って持田さんの財布を盗んだと言っていた。でも、最初からお金なんて入ってないって知っていた僕が財布を盗むメリットなんてない
「わ、わかった、今取って来るね」
永山は1度席を立ち、自分のテレビの上に置いてあった持田さんの長財布を持って再び席に就いた
「さて、その財布、やけに膨らんで見えませんか?」
永山が持って来た財布は誰がどう見てもおかしいと言うくらい膨らんでいた。その膨らみ具合から相当な額のお金が入っているように見える。
「そ、そうだね、中学2年生の女の子が持つにはちょっと膨らみ過ぎてるね。宿泊学習の所持金は5000円までって決まりなのに」
僕達が宿泊学習で所持できる金額は5000円まで。生徒の中でこれを守っていた人は誰もいないだろうけど。でも、盗まれた持田さんの財布はちょっと余分にお金が入ってるってレベルじゃないくらい膨らんでいた
「そうですね。まぁ、その決まりを守っている生徒がどれくらいいるのかは知りませんけど、それにしたって盗まれたと言われてる財布は膨らみ過ぎだ」
お金ならシャレにならないけど、中身は新聞紙だ。何の問題もない
「そうだね。この膨らみ方は多分だけど、100万円くらい入っててもおかしくないよ」
財布の膨らみ具合で大体の金額を言ってみせる永山。
「永山先生、そう言うなら実際に開けてみてはいかがでしょう?」
「そうだね、実際に開けてみないと何とも言えない部分もあるからね、開けてみよう」
永山は恐る恐る財布のチャックを開けようとした。
「「待ってください!!」」
だけど、開ける前に女子Aと女子Bに止められた
「何かな?」
「その財布を開けるならアタシらにも中を見せてください!」
「そうです!ウチらは岩崎に言われて財布を盗んだんです!その中身を知る権利があります!」
生徒の財布に何が入っているかだなんて教師が確認すればいい。生徒が確認する必要なんて全くない。それなのに中身を見せろという女子Aと女子B。彼女達の魂胆は財布の中に100万程度入ってたらそれを2人で分け合おうってところだろう
「ダメだよ。生徒の財布の中なんて先生が確認すればいいの!生徒である貴女達が確認する必要はないの!」
永山の言っている事は正しかったけど、僕としては少し面白味に欠けた
「「で、ですがッ!」」
「ダメなものはダメ!」
永山と女子A、女子Bの言い争いは10分程度続いた。明確な時間を計っていたわけじゃないから断言はできないけど、多分、それくらいだと思う。でもさすがに永山達の言い争いにも飽きてきたと感じた時だった
「わ、私はみんなで中身を確認したらいいと思います!」
意外な事に持田さんが財布の中をみんなで確認すればいいと提案した。僕にとってはどうでもよかったけど、まさか普段学校で控えめな持田さんがこんな事を言うとは予想できなかったよ
「財布の持ち主である持田さんがそう言うならそうするけど……いいの?」
「はい、そのお財布は盗まれでも問題ないものですし、中身も大したものは入ってませんから」
「持田さんの許可も出た事だからみんなで確認しようか」
財布の持ち主である持田さんからの許可が出てその場にいた全員で中身を確認する事に。僕は中身を知っていたから見る必要がないんだけど
「「……………………」」
「じゃあ、開けるよ?」
女子Aと女子Bは固唾を飲んで財布を凝視し、永山は緊張した様子は特になかったけど、他人の財布を開ける事に若干抵抗があるように見えた。そして、僕は何も思わなかった。恐らく持田さんも
「「「なっ!?こ、これは……」」」
「「……………………」」
財布を開け出てきたのはお金ではなく紙幣の形をした新聞紙。それにビックリしたのか声をあげる永山達。それに対して僕と持田さんは無言だった。中身を知っていたんだから驚く事なんてない
「どうです?中身は新聞紙だったでしょ?」
「う、うん、で、でも、これって……」
戸惑いのあまり声が出ない永山
「これって?これってなんです?」
「これって不要物なんじゃないかな?っていうか、この事を持田さんの保護者の方は知ってるの?」
永山が言ってるのは宿泊学習に不要物を持ってきていいのか?って事と、フェイク財布の事を華菜さんは知っているのか?って事だと僕は解釈したけど、そもそもが間違っている。確かに宿泊学習に不要物を持ってきてはいけない。財布に関しては小銭入れを持っている人もいるから何とも言えないけど
「持田さんの母親はこの事を知ってますし、それに、不要物を持ってくるなって言いたいんでしょうけど、そもそも、先生方が持田さんをイジメている生徒をちゃんと指導していれば僕達だってこんな事をしなかったんですよ」
状況が変わるかどうかは別として、イジメに対して教師がちゃんと指導していればフェイクの財布を用意し、それを教師にも隠すなんてしなかった。教師にもフェイク財布の存在を隠していたという事はそう言う事だ。
「そ、それは……先生達だって忙しいの。1人の生徒に付きっ切りってわけにはいかないの」
永山の言い訳は小学校の頃に何回か聞いた事のあるものだった。僕に依存させる前の二枝からも同じことを言われた記憶がある
「そうですか。じゃあ、仕方ありませんね。あ、ところで持田さんが財布を2個持っていた事を知っていたかどうか保護者の方に確認しなくてもいいんですか?」
僕は宿泊学習の最中にまで教師に対して文句を言いたくなかったから言わなかったけど、教師ってさ、自分が仕事してない時に“教師は忙しい”って言うの好きだよね
「そうだね、今確認してくる」
永山は携帯を手に一旦部屋から出た。永山が部屋から出た後、残された僕達はというと……
「盗まれた持田さんの財布の中は新聞紙でした。さて、君達に聞こうか?中身が最初から新聞紙だと知っていて学校でロクに喋った事のない君達2人に僕が財布を盗むように指示したって言ったらしいけどさ、何考えてるの?筆箱の時といい、今回の時といいさ」
「「…………………」」
僕の質問に答えられず無言になる女子Aと女子B
「僕は別に怒ってないよ?ただ、今回の事も筆箱もおふざけにしては悪質過ぎるから何考えてるのか知りたいだけ。君達は質問に答えてくれればいいだけ」
「「…………………」」
怒っていないと言っても無言を貫く女子Aと女子B
「はぁ……これも無言か……どうでもいいけどさぁ、君達、今は中学生だから親や先生がどうにかしてくれるだろうけど、学校を卒業し親が死んだら誰も庇ってくれないし、こんな事を続けてたら誰も相手にしてくれなくなるよ?それでもいいの?」
「「…………………」」
これにも無言の女子Aと女子B。彼女達が今どうしているかは知らない。でも、この時彼女達は何を思ったんだろう?
「い、岩崎君、それくらいでいいんじゃないかな?きっと2人も反省しているだろうし」
僕が怒っていると思ったのか止めに入ってきた持田さん
「僕は別に怒ってないよ。ただ、彼女達が何を考えてこんな事したのかって気になっただけで」
「そ、それならいいけど……でも、さっきの岩崎君少し怖かった」
自分では怖がらせようとしたわけじゃなかったけど、持田さんは怖いと思ったらしい
「ごめん、僕はそんなつもりなかったんだけど……」
「い、いいよ、私の為にやってくれたんだし」
数分後、華菜さんに確認が取れた永山が戻ってきた。財布の盗難については僕は別にどうでもよかったし、持田さんはお金は無事だから許すという事で女子Aと女子Bは無罪放免となった。ちなみに、ドラマ厨と香水タンクには永山が事の顛末と持田さんが納得している事を説明した。財布盗難事件は無事に解決したけど、新たな問題が起こった。ちなみに、財布が盗まれたと広まるキッカケは持田さんと同じ部屋の女子が騒いだからだという事を言っておこう
さて、さっき言ってた新たな問題。それは宿泊学習2日目の自由行動の時間に起きた
「今日は楽しもうね!岩崎君!」
「そうだね、持田さん」
宿泊学習2日目。僕達は縄文時代の遺跡が見学できる施設に来ていた。この時はちょうど遺跡の説明が終わり、自由時間。生徒は遺跡を見学したり、休んだりしていた。僕と持田さんは遺跡を見学しようと移動するところだった
「岩崎君!近いよ!」
唐突に永山が注意をしてきた。永山にとってこの注意が教師としての歯車を狂わせる第一歩だったのかもしれない
今回は財布盗難事件解決と新たな問題が起こる前触れの話でした
財布盗難事件が解決したのはいいとして、新たな問題が起こり始めました。ヒントは最後に永山がした注意です
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました