【過去編62】鶴田君と秀義にザックリと盗まれた財布について説明した僕は担任に呼び出される
今回はザックリとした説明と担任に呼び出される話です
今回は盗まれた財布にお金が入っていたかどうかですが、皆さんはどちらだと思いますか?
では、どうぞ
「う、うるさい……2人とももう少し声抑えて」
「「す、すまん……」
むさ苦しい男子の大声で僕は思わず耳を塞いでしまった。盗まれた財布がフェイクだと言われて驚くのは解るけど、声くらい抑えてほしい
「いきなり盗まれた財布がフェイクだって言われて驚くのも無理はないよ」
僕だって盗まれた財布は実は盗まれる専用の財布でしたと言われたら秀義達と同じ反応をすると思う
「あ、ああ、持田の財布がフェイクだったってのには驚いたけどよ、じゃあ、本物の財布はどうしたんだ?」
「そうだぞ、光晃。持田が盗まれたっていう財布が偽物なら本物はどこへ?」
鶴田君と秀義が抱いた疑問はこの話を聞いた人間なら誰でも辿り着く。盗まれた人が持っていた財布がフェイクなら本物の財布はどこへ?って思うのは当たり前だ
「それなら僕が持っているよ」
「「はあ!?」」
財布がフェイクだという事を伝えた時同様に秀義と鶴田君は驚きの声をあげた。秀義と鶴田君って結構仲いいんじゃないかって思ったけど、まぁ、盗まれた財布がフェイクで本物の財布は僕が持っているって聞かされたら驚くか。僕だって立場が逆だったら驚くし
「驚くのは当たり前だし言いたい事もいろいろあると思うけど、結論から言えって言ったのは鶴田君だからね?それに、秀義にはコレクションってヒントと布教用、観賞用、保存用のCDってヒントを出したでしょ?あれで正解に辿り着けって言う方にも無理があったと思うけど」
順を追って説明するって言ったのに結論だけ言えって言ったのは鶴田君で出発前にヒントとしてコレクションと布教用、観賞用、保存用のCDっていう持田さんの財布は複数存在するんだぞっていうアピールはした。解りづらかったと思うけど。だから僕は悪くない
「………………」
「そんなんで解るかぁ!!」
自業自得な部分があった鶴田君は無言になり、出発前にヒントを出していた秀義は解りづらいと文句を言ってきた。2人の反応は対照的だったのは見ていて面白かったけど、それよりも面白いのはこの先からだった。人の所持品が盗まれて面白がるなって話なんだけど
「ごめんごめん、でも、持田さんの財布もお金も無事でよかったでしょ?」
鶴田君と秀義がどう思うかは別として僕が思う限りじゃ持田さんの財布も金銭も無事だと思う
「そ、そりゃそうだけどよ……」
「でもなぁ……」
持田さんの財布とお金には何の影響もなかったというのに納得がいかないと言った表情の鶴田君と秀義
「鶴田君も秀義も納得がいかないって顔をしているね。何が納得できないの?」
普段の僕なら納得がいかないのなら別に構わないと言ってるところだけど、この時は宿泊学習という事もあってか納得のいかない理由を何となく聞いた
「そりゃ持田の財布や金が無事だったのはいいんだけどよ、盗まれたフェイクの財布にも金が入ってると思うと……な?」
鶴田君は正義感が強いのか盗まれたフェイクの財布にもお金が入ってると思い納得ができないようだった。で、一方の秀義は……
「俺も鶴田と同じだ。持田の財布が無事だったのはいい。でも、盗まれたフェイクの財布に入っていた金で犯人がこの後の宿泊学習を楽しむと思うと手放しでは喜べねぇ……」
鶴田君と同じく盗まれた財布にもお金が入っており、そのお金で犯人が宿泊学習を楽しむ事に納得がいかなかったようだ。
「2人とも盗まれた財布にお金が入っていて犯人がそのお金を使う事が許せないような感じで言ってるけどさ、盗まれた財布にお金なんて1円も入ってないから」
「「はあ!?金が入ってない!?」」
「うん。入ってないよ」
お金が入ってないと聞いてこの日何度目かになる驚愕の表情を浮かべる秀義と鶴田君
「光晃!どういう事だ!?」
「そうだ!ちゃんと説明しろ!岩崎!」
僕に詰め寄る秀義と鶴田君を見て思った。是が非でも順を追って説明するべきだったと
「どういう事も何もお金は入ってないよ。入っているのはお札の形に切った新聞紙。ほら、ドラマとかアニメでケチな金持ちが出てくるでしょ?そういう設定の人って大抵誘拐犯に身代金を要求された時に見える部分は本物のお金を使うけど下は新聞紙でしたってオチが多いと思う。今回はそれの手法を使った。それだけ」
中1の時の担任にドラマ厨だなんてふざけたあだ名を付けたけど、僕も若干その気があったと今では思う
「「……………………」」
リアクションに疲れたのか、あまりの衝撃展開に開いた口が塞がらないのか鶴田君と秀義は黙ってしまった
「あれ?どうしたの?急に黙っちゃって」
「「いや、別に」」
「そう?それならいいけど」
僕は黙り込んでしまった鶴田君と秀義をただ見つめていた。2人が黙ってしまった理由を探ろうともしなかった
鶴田君と秀義に盗まれた財布がフェイクだと告白してから30分くらいが経過した時だった
『岩崎君、いる?盗まれた持田さんのお財布の事で話があるんだけど』
ノックの後に担任の声がし、その要件が盗まれた持田さんの財布の事で話があるという内容。僕は盗まれた財布がフェイクだとバレたんだという事を確信した
「おい、岩崎……」
「光晃……」
不安そうに僕を見る鶴田君と秀義の目は言っていた。“お前、大丈夫なのか?”と
「鶴田君も秀義も心配しすぎだよ。多分持田さんの盗まれた財布がフェイクだってバレたんだろうけど、それは持田さん本人と持田さんの親に頼まれたからであって僕がお金の入った方の財布を盗んだわけじゃない」
鶴田君と秀義には盗まれた財布がフェイクであり、中身は札の形をした新聞紙が入ってる事は説明した。どうして僕が持田さんの財布を持っているかは説明してないけど……別にそれを説明する必要はなかったからいいか
「だ、だが、岩崎。犯人がもしお前に持田の財布を盗むように指示したって言ってたらどうする?」
「鶴田の言う通りだぞ!光晃!犯人が持田をイジメるついでにお前を陥れようとしたらどうするつもりだ!?」
鶴田君と秀義の心配は素直に嬉しかったけど、僕にとってそれは杞憂だ。仮に犯人がそう言っても最強のカードがあったから
「別にどうもしないよ。僕には最強の切り札があるからね。まぁ、これ以上先生を待たせるのも悪いからちょっと出てくる」
不安そうな表情で僕を見つめる鶴田君と秀義を残し、部屋の外へ
「岩崎君、遅いよ」
ドアを開け外へ出ると待ち構えていたのは担任を含めドラマ厨、香水タンクの計3名の教師だった
「すみません、準備に手間取っちゃって。それで?僕に何か御用でしょうか?持田さんの財布がどうとか言ってましたけど」
この時の僕は油断していた。いや、違うか。教師は自分よりも長く生きているから理性的に動ける。そう思っていた。でも、実際は──────
「お前が持田の財布を盗んだんだろ!?だから俺達が来たんだよ!!」
「岩崎アンタさぁ!女の子の財布盗んで恥ずかしくないの!?」
ドラマ厨と香水タンクは僕が財布の件について何の用があるのか聞いただけなのに盗人扱いだった
「はあ、僕が持田さんの財布を盗んだって言いますが、どこにそんな証拠があるんです?誰かがそう言ったんですか?」
警察もそうだけど、証拠もないのに人を犯人扱いして間違ってた時に恥を掻くのは自分や組織だという事を全く理解してない
「証拠なんて必要ない!!お前が盗ったのは目に見えてるんだ!!」
「そうよ!!アンタが盗ったのは明確よ!!」
ドラマ厨と香水タンクの言い分はハッキリ言って呆れて物も言えなかった。証拠もないのに盗んだとか言われても困るし、それに、質問に答えてくれてない。もしも身体検査をして何も出てこなかったらどうするつもりなんだろう?
「はぁ、アンタ達の言ってる事は滅茶苦茶で呆れて物も言えない……」
僕が世間とズレているのか、それとも、このアホ教師達が言っている事がズレているのか……。なんて 僕がドラマ厨と香水タンクに呆れている時だった
「お2人は黙っていてください!岩崎君とは私がお話しますから!」
担任がドラマ厨と香水タンクを制する声が廊下全体に響き渡った
「永山先生は岩崎を庇うのですか!?」
「そうですよ!岩崎君が盗んだに決まってます!!」
担任───永山を咎めるドラマ厨と香水タンク。この2人はどうしても僕を犯人にしたいようだった
「証拠もないのに岩崎君を疑うだなんて酷すぎます!岩崎君からは私が話を聞きますから!!」
永山は僕の手を取り、歩き出した。行き先は永山が泊まっている部屋だというのは容易に想像が付いた。そんな僕の想像通り永山に連れてこられた先は永山が宿泊していた部屋。想像と違ったのはそこに持田さんと筆箱盗難事件の時にいた女子Aと女子Bがいる事だった
「先生、持田さんがいるのはいいんですけど、どうして彼女達までいるんですか?」
持田さんがいるのはいい。何せ被害者だから。でも、どうして筆箱盗難事件の時にいた女子Aと女子Bがいるのか。それは彼女達が犯人だからだと僕は思った
「どうしてって彼女達が岩崎君に言われて持田さんの財布を盗みましたって私のところに来て話を聞いている最中だったからだけど?」
この話を聞いた時、僕は怒りよりも呆れの方が強かった。
「はあ、そうですか……」
僕は弁明するのすらアホらしくなり、適当な返事を返した。それは女子Aと女子Bにもそうだったけど、イジメっ子である彼女達とイジメられっ子である持田さんを同じ部屋に残し、僕を呼びに来た永山に対してもだ
「それで早速本題に入るけど、岩崎君は持田さんの財布を盗むように彼女達へ指示をしたの?」
「してません」
永山の質問に間髪入れずに答える
「嘘吐くんじゃねーよ!アタシらに持田さんの財布を盗んで来いって言ったの岩崎じゃん!!」
「そうだ!そうだ!ウチらは岩崎の指示で持田さんのカバンの中から財布を盗ったんだから!!」
僕の答えを否定した上でさも僕が指示されて持田さんの財布を盗んだのに裏切るなと言わんばかりの口ぶりで騒ぎ立てる女子Aと女子B
「彼女達はこう言ってるけど?」
担任の鋭い視線が僕に突き刺さった
「こう言ってるって言われましても……大体、僕は彼女達と話すのは持田さんの筆箱が無くなった日以来なんですけど?」
女子Aと女子Bと話をするのは持田さんの筆箱が無くなった日以来だった。しかも、宿泊学習ではこの時初めて喋った。そんな僕が持田さんの財布を盗むように指示なんてできるだろうか?
「そう。じゃあ、どっちかが嘘を吐いてるという事になるけど……」
僕と女子A、Bの話が食い違ってるせいか思案顔になる担任。
「「岩崎です!!岩崎が嘘を吐いてます!!」」
僕が嘘を吐いていると言う女子Aと女子B。それに対して何も反論しなかった僕
「岩崎君、彼女達はそう言ってるけど?岩崎君は嘘を吐いたの?」
「………………」
永山の質問に無言の僕。何も答えられなくて黙っていたわけじゃない。どうやって女子Aと女子Bを切り崩すか考えていただけだ
「何も言わないって事は肯定と取るけど?」
僕が何も言わない事を肯定と受け取ろうとしていた永山を見てそろそろ潮時だと感じた。この時は鶴田君と秀義にフェイクの事を説明した時以上に楽しかったと思う
「別に彼女達の言ってる事が本当だから黙っていたわけじゃありませんよ。ただ、どのタイミングで言おうか迷っただけです」
「「「は?」」」
僕の言葉に持田さん以外の女性陣は目を丸くした
「岩崎君、もう言っちゃっていいの?」
目を丸くする永山達とは違い期待の色を含んだ目で僕を見る持田さん
「いいんじゃないの?どうせ永山先生達がどんなに探しても本物の財布は見つかるわけないんだし。それに、本物の財布の在り処は持田さんだけが把握していればいいでしょ」
本当は持田さんの財布は僕が持っているんだけど、それをこの場で言うとややこしい事になると思い言わなかった。結局その僕が持田さんの財布を持っている事を知っていたのは僕と持田さん、華菜さんを除くと鶴田君と秀義だけだった
「うん、そうだね。岩崎君の言う通りだね」
「でしょ?じゃあ、永山先生達にも理解できるように種明かしといきますか」
持田さんとの会話を終え、僕は永山達に視線を移した
「岩崎君、さっきから本物の財布の在り処とか、種明かしとか意味が解らないんだけど?」
怪訝そうな視線を僕に向ける永山。その目はこう言っていた。“お前をまだ疑っている”と
「そりゃそうですよ。まぁ、それも含めて話しますんで一旦座りませんか?少し長くなるんで」
宿泊学習初日で盗難事件が発生するとは教師陣はもちろん、持田さんや他の生徒達は思ってもいなかっただろう。財布を盗んだ犯人以外は
今回はザックリとした説明と担任に呼び出される話でした
盗まれた財布にお金は1円も入っていませんでした。あくまでも光晃が言ってるだけなので本当にお金が入っているかどうかは次回!
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました