【過去編49】僕は二枝の家へ転がり込む
今回は光晃が二枝の家に転がり込む話です
身内に教師がいる事を光晃はどう思っているのか?
では、どうぞ
「光晃!待って!」
家の前でこれからどこに行こうか決めている時、追いかけてきた二枝に呼び止められた
「何?言っとくけど僕は謝る気はないよ?」
先に喧嘩を吹っ掛けてきたのは真理姉さんなので僕から謝る気は全くなかった
「それは今はいいよ。光晃だって心の整理が必要でしょ?そうじゃなくて!どうして真理ちゃんにあんな事言ったの!?」
「あんな事?」
二枝の言うあんな事とは何を指しているんだろう?当時の僕はそう思った
「真理ちゃんに必要ないってどうして言ったのって聞いてるの!」
二枝の言うあんな事とは僕が真理姉さんに言った必要ないって事を言っていたらしい
「別に。必要のない人間に必要ないって言って何が悪いの?」
今もそうだけど僕は必要のない人間にはハッキリそう告げる。それが例え実の親でも
「真理ちゃんは従姉でしょ!?必要ないわけないでしょ!!」
二枝は何か勘違いしているようだけど約束がなかったら真理姉さんとなんて一緒にいない。そりゃ、教師になる前……もっと遡ると教育実習に行く前だったら一緒にいてくれるだけでよかったのかもしれないけど、教育実習に行って教師になった真理姉さんなんて僕にとっては邪魔なだけだった
「そりゃ教育実習に行く前はそうだったかもしれないけど、教育実習に行っている今となっては必要ないよ。僕の身内に教師は要らないから」
当時の僕は身内に教師がいると考えただけで吐き気がした。そんな僕が葵衣と付き合っているって言うんだから不思議なものだけど
「じゃ、じゃあ、知佳も必要ないって事?」
不安気に僕を見つめる二枝だけど、コイツの職業は教師。僕にとっては必要のない存在
「そうだね。教師じゃなかったら一緒にいてくれるだけでよかったけど、教師なら必要ないね」
さっきも言ったけど当時の僕は身内に教師がいると考えただけで吐き気がした。当然の事ながら教育実習生がいると考えただけでも同じだった。
「で、でもッ!光晃は知佳を甘えさせてくれたじゃん!それはどうして?」
二枝は本気で解ってない様子だった。どうして僕が二枝を甘えさせたかなんて簡単な事なのに
「どうしてって小学生の頃は教育実習生除けに使えると思ったから。今はただの気まぐれ」
小学生の頃は自分の思い通りになる教師がいたら何かと便利だったからそうしただけ、中学生の頃はそんな小学校からの関係を壊すのもどうかと思い二枝に彼氏が出来たらすぐにでも切り捨てる予定だった
「じゃあ……光晃が知佳に優しくしてくれたのは……」
「うん、ただの気まぐれ。小学生の頃からの関係を壊すのもどうかと思ったし真理姉さんが智花さんと仲良かったからね。僕の都合で従姉の交友関係を破壊するわけにはいかないでしょ?」
その従姉である真理姉さんと喧嘩してしまったから二枝を甘えさせる理由なんてなかった
「それじゃあ知佳と光晃の関係は……」
「うん。今日、ここで終わりだね」
「そんな……」
終わりを告げられた二枝が崩れ落ちた。でも、本来なら小学校卒業した時点で僕は関係を切る事も可能だった。それが遅いか早いかの違いで
「じゃあ、僕はもう行くけど最後に1つだけ。一生自分の悪い事を棚に上げてろよ。ゴミ共」
僕は無言の二枝をその場に放置し、歩き出す。どこに行くかなんて決めてなかったけど
「待って……」
歩き出そうとした僕の手を切り捨てると宣言した途端に崩れ落ち動かなくなった二枝が掴んだ
「…………………何?まだ何か用?」
小学生、中学生の頃は甘かったせいか切り捨てた二枝の呼び止めに僕は応じてしまった
「お願い……切り捨てないで……」
蚊の鳴くような声で懇願する二枝
「切り捨てないでって言われてもなぁ……僕には教師なんて必要ないんだけど」
正確には僕の身内に教師なんて必要ないだけどね。それはこの際いいか
「光晃が必要としてくれるなら教師だって辞めるから捨てないで……お願いだから……」
「教師を辞めてどうするの?仕事なくなっちゃうよ?」
二枝は教師を辞めると言ったけど、辞めたら辞めたで仕事がなくなるのは事実。誰かに捨てられたくないからって安易に仕事を辞めるって言うものじゃない。アレかな?教師になる人間は先の事を考えられないのかな?
「光晃に切り捨てられるなら仕事なんてなくたっていい」
教師になる人間は先の事を考えられないらしい。僕は二枝のこの言葉で確信した
「いやいや、僕と仕事を天秤にかけて僕に傾くなんておかしいからね?」
「光晃はッ!!仕事よりも大事なんだよ……だからッ!だから切り捨てないで……お願いだから……」
これをキッカケに二枝は泣き出してしまった。僕の何が二枝にここまで言わせるのかは未だに理解できない。でも、二枝1人くらいならと考えてしまった僕がいた
「わかったよ。知佳を切り捨てるような真似はしないからとりあえず泣き止んでくれない?」
本当に小学生の頃も中学生の頃も甘かったと思う。女性とはいえ相手は教師だ。そんな教師が自分に切り捨てられたくないがために泣いてるのを見て言った事を曲げるだなんて
「本当?本当に知佳の事切り捨てたりしない?」
「しないよ」
「嬉しいッ!」
「うわっ!?いきなり抱き着かないでよ」
嬉しさのあまり抱き着いてくる二枝を見て僕はどちらが年上か判らなくなった
「だって嬉しいんだもん」
僕1人に切り捨てられないだけで何がそんなに嬉しいんだか……葵衣もそうだけど女性というのは理解できない
「そう。それより、真理姉さん達に見つかる前にここを離れたいんだけど」
この日の僕は真理姉さんと仲直りする気なんて全くなかった。それもあったせいかとにかく家から離れたかった
「離れたいって言っても行く当てないでしょ」
二枝の言う通り行く当てなんてなかった。高校生の僕ならサボりスポットに行くけど、この頃はまだそんな場所知らなかった。強いてあげるとしたら秀義の家くらいだったけど、アイツの家に行くとすぐに真理姉さんへ連絡が行くから最初から候補に入れてない
「ないよ。まぁ、ないならないで野宿するから」
行く当てがないからと言って家出を簡単に止めるわけにもいかなかった僕は野宿する事を考えていた
「それだとお巡りさんに補導されるよ?」
「あ、そうか、忘れていた」
警察の存在というのはつい忘れがちになる。自分が普段お世話になる事がないからなのか、防犯登録の強化月間でしか警察を見かける機会がないからなのかはわからないけど
「光晃って時々考えなしに動くよね」
「うるさい」
「それは置いといて、行く当てないなら知佳の家に来る?どうせ1人暮らしだし智花も滅多に来ないから真理ちゃんにバレる事はないと思うよ?」
「知佳がいいなら」
「いいから言ってるんだよ」
「よ、よろしくお願いします」
「ふふっ、わかりました」
こうして僕は1人暮らしをしている二枝の家に厄介になる事になった
二枝の家に行く道中、僕はコンビニに寄って下着と寝間着の類を買った。二枝が自分のを貸してくれると言ってくれはしたけど、さすがに甘えるわけにはいかなかった。買い物を済ませた僕達は二枝の家へ──────
「お、お邪魔します」
「はいどうぞ!」
身内以外で初めて入った部屋が元・担任の部屋というのはどうなんだろう?とは思いつつも中へ入り、そのままリビングへ
「何かスッキリしてるね」
この時の僕は真理姉さん以外の女性の部屋に初めて入った。逆に言えば真理姉さん以外の女性の部屋がどんなのか全く知らなかった。そんな僕が二枝の部屋に入った感想がこれだった
「そう?結構散らかってると思うけど?」
僕基準では二枝の部屋は散らかってるとは全く思わずむしろ整理整頓ができている方だと思う。これで散らかってるのならゴミ屋敷とかはどうなるんだ?って話だし
「いや綺麗だと思うよ?これで散らかっていたら世の中の部屋はゴミ屋敷って事になる」
「そうかな?まぁ、知佳もここには智花以外入れた事ないからよくわからないけど」
二枝の言い方だと今まで同性と言えど他人を家に呼んだ事がない。そう言ってるようにも聞こえるのは気のせい?
「その言い方だと同性と言えど他人は家に入れた事がないように言ってるみたいだよ?」
「うん、入れた事ないよ?」
僕の聞き間違いじゃなくてよかったと思う反面、二枝には友達がいないのではないか?と思ってしまう
「じゃあ、智花さん以外で知佳の家に来た他人は僕が初めてなわけか」
真理姉さんと喧嘩し、僕は家を出た。で、二枝が追いかけてきてくれたんだけど、真理姉さんの理不尽な八つ当たりに腹が立ってたせいか僕は身内に教師なんて必要ないと言った。本心から言えば身内に教師なんて必要ないけど、僕にとって意外だったのは二枝が泣いてまで切り捨てないでと懇願してきたところかな
「光晃は他人じゃなくて知佳の弟でしょ?」
二枝が何を言っているか理解したくない……。僕と二枝には何の血縁関係もなかったし、親戚ですらない。ただの小学校の時の担任だ。僕にとっては
「いや、知佳と僕は小学校の担任とその教え子だからね?姉と弟の関係じゃないからね?」
いつから僕は二枝の弟になったのやら……。当時の僕はそう思った
「ふぅ~ん、そんな事言うんだぁ~、へぇ~」
僕をジト目で見つめる二枝は若干怖かった。この僕が教師ごときに恐怖を感じるだなんて……一生の不覚だ
「な、何かな?だってそうでしょ?僕と知佳には血縁関係なんてないでしょ?」
これで血縁関係があるとか言い出したらどうしよう……?なんて事は全く考えなかった。中学生ながらに僕の父親がどれだけモテないか知ってたし
「実はね、光晃。知佳はあなたのお父さんの隠し子だったの」
二枝の言ってる事にはちょっと……いや、かなり無理があった。主に父がモテる的な意味で
「いやいや、無理あり過ぎるからね?」
僕の言葉で二枝の動きがピタリと止まり、何かを考え始めた
「実はね、光晃。知佳はあなたのお父さんの隠し子だったの」
そして、何事もなかったかのように同じ事を言ってのけた
「だから、無理がありまくるから」
再び二枝の動きがピタリと止まる
「実は─────」
「いや、もういいよ」
これ以上同じ事を言われるのは大変面倒だったので僕は二枝の言葉を遮った
「え~!最後まで言わせてよ~!光晃のケチ!」
「ケチとかそういう問題じゃないでしょ!」
血縁関係をケチとかそういう問題で片付けようとする二枝の感覚がよく解らなかった
「ぶ~!ぶ~!せっかく光晃とふたりきりなのにぃ~!お姉ちゃんって呼んでほしかったのにぃ~!」
僕は不快感がない限りは呼び方にはこだわらない。そして、呼び方にも。つまり、僕にとって二枝を姉と呼ぶ事くらいなんでもない
「血縁関係を偽造しなくても言ってくれればいつでも呼ぶよ知佳お姉ちゃん」
「え?光晃……今、なんて……?」
姉と呼ばれたいとは思っていても本当に呼ばれるとは思ってなかったらしく、二枝は目を丸くしていた
「聞こえなかったのならもう1回呼ぼうか?知佳お姉ちゃん」
「う、うそ……」
何が嘘なんだろう?僕は二枝が望むように姉と呼んだのに。今は葵衣がいるからお姉ちゃんとは呼べない。中学生の彼女ナシだったからこそできる業だ
「嘘って言う事ないでしょ。知佳がお姉ちゃんって呼んでほしいって言うからそうしたのに」
「ゆ、夢じゃ……」
「ないよ。何なら自分の頬を引っ張ってみれば?」
「光晃がやって?もしかすると知佳の家に光晃がいる事も夢かもしれないし」
僕と真理姉さんの大喧嘩を目の当たりにしたというのにそれすら夢にしようとしているのか?二枝は。なんて思った。うん、二枝ってすごい
「知佳がいいならするけど?」
「いいよ。思いっきりやって」
「じゃあ、遠慮なく」
僕は二枝の両頬に手を添え、そして──────
「いひゃい!いひゃいよ!ほうへい!!」
(訳:痛い!痛いよ!光晃!)
思いっきり二枝の頬を引っ張った。二枝が何を言っているのかサッパリだけど、そこは気にしない事にした。頼んだの二枝だし
「ん?何か言った?」
「いひゃいっへ!」
(訳:痛いって!)
「ん~、何言ってるかわかんないや」
「だはら!いひゃいっへいっへるほ!」
(訳:だから!痛いって言ってるの!)
この後、二枝の頬をこれでもかというくらい堪能した僕は当の二枝から涙目で睨まれ、一緒に寝る事を条件に許してもらった事を言っておこう
今回は光晃が二枝の家に転がり込む話です
光晃にとって身内に教師がいるってだけで相当な嫌悪感があるようです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




