【過去編47】僕は二枝が恋しくなる
今回は光晃が二枝を恋しく思う話です
本編で葵衣と結ばれてるのに二枝が恋しくなるとはどういう事なんでしょうか?
では、どうぞ
秀義を家に招いて勉強会をした次の日。僕は何でか知らないけど二枝が無性に恋しくなった。そこに恋愛感情はなく、どちらかというと風邪を引いた時に人肌が恋しくなる感じだ
「どうしてこんなに知佳が恋しいと思うんだろう?謎だ」
寝起き一発目でこれはない。今こんな事言ったら葵衣に何て言われたものか……
「光晃、お前何言ってんだ?」
すでに起きていた秀義からの冷静なツッコミが飛んできた
「自分でもそう思うけど、何だか無性に知佳が恋しくなって……ねぇ、秀義。これって恋なのかな?」
当時の僕は初恋なんて経験した事がなかったので二枝が恋しいと思う気持ちが恋愛感情から来ているのか別のところからなのかわからなかった
「知るか!俺がビックリしてるわ!!起きたら幼馴染が意味不明な事言ってたんだからな!」
「だろうね。同じ状況なら頭の方を心配するし」
「光晃が恋愛に目覚めたかどうかは置いといてだ。隣り見てみろ」
秀義に言われた通り隣りを見た。すると──────
「光晃!知佳が恋しいって本当!?」
目を輝かせた二枝がいた
「…………どこから聞いてたの?」
「最初から!それより!光晃は知佳が恋しいって本当なの!?」
二枝本人に最初から全て聞かれていた事に軽く死にたくなった。
「………………本当だよ。起きた時に無性に知佳が恋しくなったよ」
全て聞かれていたのなら嘘を吐いても仕方ないので大人しく自白する。僕は教師とは違って見苦しい言い訳なんてしない
「嬉しい!!嬉しいよ!光晃!」
「うわっ!?ち、知佳!?」
二枝がいきなり抱き着いてきて僕はバランスを崩した。僕でもこういうラブコメの王道みたいな展開に発展するんだと当時は感心したよ。今?今は……どうなんだろうね?
「も~、朝からうるさいなぁ……」
「今何時だと思ってるのぉ~」
僕が驚いて声を上げてしまったせいで真理姉さんと智花さんが起きてしまった。しかも、寝ぼけているのか目を擦りながら。二枝もそうだったけど化粧なしでも美人だから困る
「智花!智花!光晃が知佳が恋しいって言ってくれたんだよ!」
「はいはい、よかったね~」
二枝姉妹にとっては日常茶飯事なのか二枝の嬉しそうな報告に対して適当に返す智花さん
「智花!適当に返さないで!」
「あーすごいすごい」
適当に返すなと言われたにも関らず適当に返せる智花さんを僕は尊敬するよ
「もうっ!智花のバカ!いいもん!知佳は光晃に甘えるから!!」
そういう二枝は僕に抱き着く力を強めた。でも考えてほしい。この時の僕は中学1年生という多感な年頃。女性に対してそれなりに興味が出始める年頃なのだ。
「ち、知佳……何か柔らかいものが当たってるんだけど?」
努めて冷静に!決して取り乱してはない!取り乱してはいけないのだけど、二枝から伝わってくる柔らかな感触に僕は戸惑うしかなかった。年上女性から甘えられるというのは悪い気はしない。でも、悪い気はしないけど、中学生の僕にはいろいろと毒が
「ん~?当ててるんだよ~?それに、触りたかったら触ってもいいんだよ?」
二枝から感じる挑発的な視線。バカな男なら即決で触るを選択するだろうけど、僕はそこまで愚かじゃない!それにだ。当時中学生だったとはいえ僕だって男。男を挑発するとどうなるか教えてやろうではないか!という事で遠慮なく触らせてもらおう
「そう。知佳が望むなら遠慮なく触らせてもらおうか?」
「え!?触ってくれるの!?」
「うん。触ってほしいんでしょ?」
「うん!!」
「じゃあ、一旦離れて後ろを向いて」
「うん!わかった!」
僕から離れ後ろを向いた二枝が若干震えてるのは気にしない事にした。背中越しからでも禄でもない想像してるだろ事は容易に想像できたかね
「じゃあ、触るよ?」
「う、うん、う、後ろから触られるのはちょっと怖いけど、光晃になら……」
何を想像してるのか、どこを触られると思っているのかは知らない。でも、僕は二枝が想像してる場所を触るつもりは全くなかった
「それっ!」
「ひゃっ!?」
二枝は僕が触った瞬間、ビクッと跳ねた。誤解のないように言っておくけど、いきなり触られて驚かれるような場所は触ってない
「うん、大分凝ってるね」
この言葉から察してもらえると思うけど、僕が触ったのは肩だ。
「こ、光晃!?さ、触るって肩だったの!?」
「そうだけど?何か不満だった?」
「べっつにぃ~……ふんっ!」
口では不満はなさそうな事を言ってたけど明らかに不満そうな態度の二枝
「知佳が何を想像してたかは知らないけど、肩だって身体の一部だよ?」
「そうですね!光晃のバカ!」
望みを叶えたのにバカと言われたのには納得がいかなかった。葵衣に同じ事してもこんな反応するけどさ、君達は一体僕に何を望んでいるのかな?
「まぁまぁ、後で思いっきり甘えさせてあげるからさ」
「やだ……一緒にお風呂入ってくれたら許す」
二枝は自分の立場を理解してるのかな?僕と二枝は元・教え子と教師の関係。今じゃ元・教育実習生と付き合ってるからこういった関係について強く言えた立場じゃないけど、元とはいえ教え子と教師が一緒にお風呂はいけないよね
「「「うおっほん!!」」」
どうしようかと悩んでいるところへ咳払いが3人分
「光晃!知佳さんとイチャイチャしすぎだよ!」
「お姉ちゃんも!光晃君を困らせないの!」
「光晃~!うらやましいぞぉぉぉぉぉぉ!!」
真理姉さんが僕を咎め、智花さんが二枝を咎めた。でも、秀義だけ個人的な感想のはスルーだ
「「ご、ごめんなさい……」」
真理姉さんと智花さんに叱られた僕と二枝は謝るしか出来なかったのは言うまでもなかった
僕は真理姉さんから、二枝は智花さんからありがたい話をされた後、朝食となった。意外な事にこの日の朝食を作ったのは秀義だったのと普段は声がデカく年上女性に目がないクセに料理が美味しかったのが腹立たしかったとだけ言っておこう
「さて、今日は休むか」
朝食後、僕は息を吐くようにサボり宣言をした。些細な事で怒鳴る教師しかいない学校なんて不登校が出てもおかしくなかった。でも、クラスメイト達は普通に登校していたのはどうしてだろう?とは思う。
「ダメだよ、光晃。ちゃんと学校に行かなきゃ」
僕のサボりを止める真理姉さん。でも、僕が真理姉さんの言う事を聞くと思う?
「行きたくないよ。面倒だし」
別にクラスメイト達に対して不満なんてなかった。教師にはあったけどね
「面倒だからって休んでちゃ将来困るでしょ?」
「別に困らないよ。面倒な奴がいないところで働くし」
「そういう問題じゃないの。ほら、途中まで一緒に行ってあげるから着替えておいで」
真理姉さんは大学で何を学んできたんだろう?そう思わずにはいられなかった。僕は不登校になる気はなかったけど、仮に僕が不登校になるあるいはなりかけの状態で学校に行きたくないと言ったらこの人はどうするつもりなんだろう。それを考慮するとこの発言はどうかと思う
「わかったよ。行けばいいんでしょ行けば」
「うん!わかればよろしい!」
満足気に頷く真理姉さん。でも、真理姉さんは忘れてないだろうか?小2の時、僕が学校をサボり家に帰ってきたことを。
「はぁ……じゃあ、着替えてくるから」
着替えのため一旦部屋に戻った。真理姉さんの言う事なんてもちろん聞く気はなかった
「さっきの様子じゃとてもじゃないけどいい先生にはなれないね」
真理姉さんがいい先生になれないという事を中1で確信してしまった僕。いい先生の基準は人それぞれだけど、僕にとってのいい先生というのは自分の話をちゃんと聞いてくれる先生を指す。勘違いしてもらっちゃ困るのが言う事を聞けとか、自分の言ってる事を絶対に信用しろって言っているんじゃない。ただ、話を聞いてくれるだけでいい。たったそれだけの事すら出来ないのならいい先生になるのは無理だ
『光晃、知佳だけど今いい?』
ノックの後、ドア越しに聞こえた知佳の声
「入って来ていいよ」
着替えは済んでなかったけどとりあえず知佳を部屋に入れた。部屋の前で話されて真理姉さんに聞かれても困るし
「お邪魔します。やっぱり着替えてなかった……」
部屋に入り僕を見るなり知佳はまるで予想通りと言わんばかりの反応を示した
「やっぱりって僕が着替え終わってないのを予想してたかのような言い方だね」
「うん、予想してたよ。光晃は着替えってないだろうな~って」
「そう。それで?何の用?」
秀義も智花さんもそうだったけど僕と真理姉さんのやり取りの時、一切口を挟んでこなかった。何を思って口を挟んでこなかったのかは知らないけど、学校に行きたくないと言った僕に思うところがあったのか、話を聞かずに学校に行けと言った真理姉さんに思うところがあったのか。あるいはどちらでもなかったのか
「光晃がどうして学校に行きたくないって言い出したのかな~って思って話を聞きに来たんだよ」
僕が学校に行きたくないと言った理由を聞きに来た。4年の頃の二枝を知っている僕からしてみれば信じられない言葉だった
「別に学校に行きたくない理由なんてないよ。ただ、行きたくないだけでね」
「ふ~ん。そっか」
二枝の返事は自分から聞いておいて興味がないと言った感じにとらえられても仕方のない返事だった
「何?自分から聞いといて興味ない感じ?」
「興味がないってわけじゃないよ?ただ、小学生の光晃は名倉君や宮村さんにイジメられても学校に来てたから今になって学校に行きたくないって言い出したのはどうしてかなと思っただけで」
「秀義や宮村さんにイジメられてた時は彼等に興味がなかったからね。知佳もそうだけど、別にいてもいなくても一緒だった。そう考えると別に学校に行きたくないとかはなかったよ」
イジメられてた時は秀義や宮村さん、二枝に興味がなかったのは本当の話だ。1クラス30人前後、教師だって二枝だけじゃなく他にも大勢いた。悪い言い方をするとクラスメイトにも教師にも代わりなんていくらでもいる秀義や宮村さん、二枝が消えたところで僕に何の支障もない
「そっか……イジメられてた時はそんな事を考えてたんだ……」
終わった話の心境を聞いてなぜか悲しそうに目を伏せた二枝
「そりゃ当時の秀義や宮村さんは僕をイジメてきたし、知佳はイジメている秀義や宮村さんじゃなく、僕を注意したでしょ?そんな連中なんて僕には必要ないからね。で?知佳はそんな話をしに来たの?」
「ううん。違うよ。光晃が学校に行きたくない理由を聞きに来たんだよ」
「それはさっき聞いたよ。そうじゃなくて、知佳はわざわざ自分のトラウマをほじくり返しに来たのかって聞いてるの」
この時の二枝の行動は自分で自分のトラウマをほじくり返しに来たと言っても過言じゃなかった
「違うよ。光晃をデートに誘いに来たの」
「は?デート?」
「うん、デート。だめ?」
二枝がどうして僕をデートに誘ったのか、教師がズル休みしていいのか、聞きたい事はたくさんあった。でも、それ以上にこの日の僕は学校に行きたくなかった。そんな僕は──────
「いいよ。デートしよっか」
二枝の誘いに乗ってしまった
今回は光晃が二枝を思う話でした
光晃が二枝を恋しく思う気持ちは恋愛感情というよりも風邪の時に人肌が恋しくなる感じでした。次回は嬉し恥ずかしのデート回です
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




