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【過去編43】僕は初めて教育実習生の手伝いをする

今回は光晃が初めて教育実習生の手伝いをする話です

手伝う実習生は今まで出てきたあの人!

では、どうぞ

 中学に入学してから早いもので2か月が経過した。畑中の親戚に大ケガを負わせた教師がどうなったかは知らない。秀義が僕の教えた通りにしたどうかさえも。剣道部の顧問が代わったって話も聞かなかったから秀義が何かしてもしてなくても関係なかったけど。それはいいとして、今回の話は中1の夏。僕が教育実習生の諸々を知った時の話だ


 この日はいつもと違い蒸し暑かった。そのせいなのか喉は乾くしトイレには行きたくなるしでとてもじゃないけど寝れたものじゃなかった。そんな僕は涼しさを求めてリビングへ向かった


「真理姉さんまだ起きてたんだ……」


 部屋を出て1階へ降りるとリビングのドアから明かりが漏れてた。両親は海外に行ってしまったから真理姉さんと2人だけ。僕が寝ている以上起きてるのは真理姉さんだけになる


「邪魔しちゃ悪いし気づかれないようにしなきゃね」


 僕は教師も教育実習生も大嫌いだけど、それと真理姉さんの邪魔をするのは別問題だ。何をしているかは知らなかった。僕の頭には真理姉さんの邪魔をしないようにキッチンへ行く事しか頭になかったしね


「あ、光晃。どうしたのこんな時間に降りてきて」


 僕は隠密行動には向いてないらしくリビングに入ってすぐ見つかった


「寝苦しいからトイレ行った後の水分補給に来たんだよ。それより真理姉さんはこんな夜中まで何してたの?」


 リビングの時計を見たらとっくに深夜2時は回っていた。平日の昼間に活動している人間なら寝ているのが普通な時間帯。でも、真理姉さんは起きていた


「研究授業に向けて学習指導案を書いてたんだよ。それと合わせて教材研究もね」


 この時の僕は学習指導案が何なのか、教材研究が何かなんて知らなかった。知らなくて当たり前なんだけね!中学生だったし!っていうか、高校生で知ってるってのも変だからね?いろんな意味で


「ふ~ん。ところで学習指導案って何?」


 教育実習生になんて欠片も興味はなかった。でも、小学生の頃に実習生と教師には苦労させられた。学習指導案が何なのかくらい知っておいても損はない程度で聞いてみた


「う~ん……何て言えばいいのかな?中学生の光晃に解りやすくでしょ?難しいなぁ~」


 大学で教職課程を取っていたり自分の親か親戚が教師ならともかくとして身内に教師に関わる人間がいない僕にとっては聞きなれない言葉。で、真理姉さんはそんな僕に指導案を解りやすく説明しようとしているみたいだけど、言葉が出てこないと言った感じだった


「難しいって……真理姉さん、それで教師になれるの?難しい事でも簡単かつ解りやすく説明するのが教師でしょ?」


 小言なんて言いたくなかったけど、この時ばかりは言わずにはいられなかった。まぁ、簡単かつ解りやすく説明するのが教師の仕事とは言ったけど、それは僕が教師や教育実習生に求めているものであり、実際の教師の仕事とは何の関係もないけど


「うぐっ!そ、それを言われると辛い……」


 辛いってアンタ……


「真理姉さんが説明できないなら後で知佳に聞くからいいよ」


 中学に入っても二枝とは交流があった。智花さんと真理姉さんが同じ大学に行ってるから当たり前っちゃ当たり前だけど


「光晃!先生を呼び捨てにしないの!って言いたいけど智花のお姉さんは光晃が先生って呼ぶ拗ねるんだっけ?」

「うん。呼び捨てタメ口じゃないと拗ねる。ところで真理姉さん」

「ん?何?」

「学習指導案って何?簡単に説明してよ」


 今度は解りやすくとは言わなかった。解りやすさを求めてしまうとどうしても本人の価値観が入ってくる。だから僕はあえて簡単な説明を求めた


「うーん……せ、先生が授業の進め方を書いた計画書?」


 どうして疑問形になったのかは置いといて、大体は理解した。要するに私はこうやって授業しますよっていう計画を書いたものだ


「あー、あれでしょ?要するに授業の進め方についての設計図のようなものでしょ?」

「う、うん……」


 今じゃ信じられないけど、この時の真理姉さんは自分の説明に自信がなかったらしい。本人がそう言ってた


「で、学習指導案を書いてるのはいいけど、いつの間にか深夜になってたと」

「うん……」


 僕は教育実習になんて行った事がないから理解できないけど、指導案を書くのと教材研究って片方ずつじゃダメなのかな?って思う


「指導案が大変なら教材研究だっけ?そっちを後にすればいいんじゃないの?」


 何も知らない人間からしてみればそう思う。要領がよくない限り同時になんて無理なんだから片方ずつやればいいと


「私だって出来るならそうしたいけど、指導案は研究授業前に提出して教科指導の先生からОKを貰わないといけないし……教材研究もしておかないと生徒からどんな質問が来るかわからないし……」


 小学生の頃は教育実習生なんて邪魔な存在程度にしか思ってなかったけど、中学に上がり真理姉さんが教育実習を成功させるために夜遅くまで起きて頑張っている姿を見ると少しやり過ぎたかな?なんて事は全く感じず。ただ、真理姉さんが寝不足で倒れないかが心配だった


「はぁ……学習指導案っていうのは何て言うか見本みたいなもの貰ってないの?」


 教師や教育実習生の手助けなんてしたくもなかった。でも、それと自分の身内が困っているのは別問題。


「う、うん、見本はくれなかった……その先生曰く“最初から現場の教師に頼ってばかりじゃダメだ!若いうちはそれなりに苦労しなきゃ!”という事でくれなかった。その代わりに……」


 真理姉さんがファイルから取り出したのはどこかの大学の教育実習生が作ったであろう指導案。要するに書式はこれを参考にしろって事っぽい


「なるほど、その学校の先生は書式はこれにしろって言って後は放置か……」

「うん……」


 本当なら1人でやるであろう指導案作成。でも、蒸し暑さのお蔭で目がさえてしまった僕は普段は絶対に言わないであろう事を口にしてしまった


「じゃあ、指導案作るのは僕がやろうか?」


 我ながらとんでもない事を言ってしまったと思っている。大学で教職課程を学んでもないただの中坊が教育実習生の指導案作成を買って出る。いくら何でも無謀だったと今では後悔している


「え?で、でも、光晃って私の行ってる学校の子供の実態なんて知ってるの?」


 当たり前だけど、僕がそんなもの知るはずがない。真理姉さんが教育実習に行ってるのは高校。それに対してこの時の僕はまだ中1.中1の僕がどうやって真理姉さんの実習校の事を知るというんだって話だ


「知るわけないでしょ。目標まで書いてあるんだから後は評価規準とこの授業で必要なもの、それと、時間の割り振りくらいでしょ?できてないのは」

「そ、それはそうだけど、光晃って指導案書いた事あるの?」


 指導案なんてこの日初めて知った単語だ。それに、中学生で教職に関する事を知っているのって身内に教師がいる人間だけだと思う。身内に教師がいたとしてもそんな事聞かないか


「ないよ」

「じゃ、じゃあ、どうするの?」


 真理姉さんが戸惑うのも無理はない。教職課程を学んだ人ならともかく、当時の僕は中1。ついこの間まで小学生だった奴が教育実習生の手伝いなんて出来るとは思えない。


「部屋からノートパソコン持ってくるからちょっと待ってて」

「うん……」


 僕は具体的な詳細は言わずに部屋にパソコンを取りに戻った。どうして僕がパソコンを持っているかって?両親から貰った祝い金で買ったからに決まってるでしょ。


「まさか動画を見るだけしか使い道がなかった僕のノートがこんな事に役立つとは……」


 買った当初は動画を見るかネットサーフィンするかしか使い道がなかったノートパソコンだった。そんなパソコンを本格的に使う事になろうとは……しかも、その記念すべき第1回が真理姉さんの手伝い


「ネットに繋がってるし万が一の為にUSBもあるから何も問題はないんだけどさ」


 パソコンは僕が自分のを欲しいと思ったから買った。USBは念のために一応持っておこうと思って買ったものだったけど、意外なところで役立つとは思わなかった


「あんまり待たせると悪いから戻ろう」


 僕はパソコンとケーブル、USBを持ってリビングへと戻った


「おかえり光晃」

「うん、ただいま」


 リビングに戻ると真理姉さんはちょうど2人分のオレンジジュースを持ってキッチンの方から戻ってきたところだった


「光晃……指導案を任せて本当に大丈夫?」


 真理姉さんの不安はよく理解できる。中学も卒業してない奴が自分の実習で使う資料作成を手伝うと言い出したんだ。そりゃ不安にもなるだろうとは思う。


「大丈夫だよ。あ、それよりまだ休憩してるよね?」

「う、うん……」

「そう。じゃあ、この間にパソコンを起動するついでに少し調べ物をしておくかな」


 パソコンを起動させ検索サイトを開いた僕はそこに『教育実習 指導案 書けない』と入力して検索してみた。でも、僕の望んだものは出てこなかった。検索から出てきたのは抑えるべきポイント等だった。僕が欲しいのは評価規準とかの参考文献だった。これじゃ何も僕が真理姉さんの手伝いをするのは無理になってしまう


「はぁ……僕の欲しい資料はこれじゃないのに……」


 手詰まりってわけじゃないけど、どこを見ても同じだったのには少々ガッカリだった


「欲しい資料?」

「うん。指導案の書式は真理姉さんがすでに作ってるからいいとして、問題は評価の規準とかじゃん?それがわかればと思ったんだ」


 今もそうだけど、大学にすら入ってない僕が指導案なんて書けるはずがない。何もなければね。だけど見本があれば話は別だ。


「そんなのわかるわけないよ。教育実習ってそんなに簡単じゃないし」

「そう……だよね……」


 僕はこの時初めて敗北感を味わった。いつもは教師がどうとか教育実習生がどうとか言ってた。出会った教師や実習生があまりにもデリカシーとかが欠如していたからバカでも教師になれるし教育実習に来る事が出来ると思い込んでいた。でも、そうじゃなかった。


「私は光晃が手伝ってくれるって言ってくれただけで嬉しかったよ?ありがとう」


 教師や実習生に散々文句を言ってきたのに何も出来ない。真理姉さんの役に立てなかった事にではなく見下してた連中がしている事が出来ない自分に腹がたった


「ううん……あっ、そうだ!教科書!教科書見せて!」

「いいけど……光晃、読んで解るの?」

「解らないけよ。ただ高校の授業ってどんな事するのか気になっただけ」

「そっか。いいよ」


 ヤケクソになった僕は真理姉さんから教科書を貸してもらいそれを読む


「高校生ってこんな難しい事やるんだ……ん?」

「どうしたの?」

「これだ!!」

「え?どれ?」


 ヤケクソになって高校の教科書を読んだ事で僕は閃いた。いや、大切な事を忘れていたのかもしれない。暇を持て余した時に本を読んでる僕が肝心な事を忘れていただなんて一生の不覚!!


「教科書だよ!教科書!」

「きょ、教科書?それがどうかしたの?」

「いいから貸して!」

「う、うん」


 僕は真理姉さんから教科書を借り、表側と裏側を確認した。


「あった!どうしてこれを忘れていたんだろう……」

「あったって何があったの?」

「これだよ!これ!」

「え?何?」


 真理姉さんに教科書の表表紙を見せた。でも、真理姉さんは全く理解してない様子だった


「何ってこの教科書を出版している会社の名前だよ!どうしてこれを忘れていたんだろう?」


 どんな本でも必ず出版社の名前がどこかに記載されている。実際にアクセスしてみるとわかると思うけど、ホームページにその本に関する情報があったりする。どんな本でも必ず出版社の名前がどこかに記載されているというのは教科書でも例外じゃない


「出版社の名前がどうかしたの?」

「まぁ見ててよ。この教科書は……カタサヒ書籍か。よし!」


 僕は検索サイトで『カタサヒ書籍』と検索した。当然ヒットした


「出版社のホームページは出てきたけど、こんなところにアクセスして何になるの?」

「何になるかはわからないけど、多分何かは見つかると思うよ」


 この時の僕は教科書を出版している会社のホームページにアクセスして何かを得ようとしていた。それが何かはわからないけど。


「へぇ~、小学生向けのものから高校生向けのものまであるんだ」


 隣りにいた真理姉さんは感心していたけど自分の教育実習だって忘れてなかったのかな?


「えーっと、高校生向けっと……で、社会科公民……あった!」


 真理姉さんが実習で使っている教科書をクリックすると問い合わせやら購入の案内やらが出てきた。もちろん、評価規準例も


「ほえ~、1冊の教科書でもいろいろ出てくるんだね~」

「いや、呆けている場合じゃないからね?」


 僕は評価規準例の部分をクリックし目的のものを探し当てた。内容項目にワード版とかPDF版とかあり、僕はワード版をクリックし、それをダウンロードした。教師でも教育実習生でもない僕にとってはこんなデータ不要なものだったけど、この時だけは必要だった


「評価規準をダウンロードしたのはいいけどこれをどうするの?」


 評価規準例をダウンロードしただけじゃ何の意味もない。そう、ダウンロードしただけじゃね


「そんなの決まってるじゃん。真理姉さんが授業するところの評価規準をそのまま貼り付けるんだよ」


 簡単に言うと出版社が資料として提示している評価基準例をそのまま真理姉さんが作成している指導案に内容だけ貼り付ける。全て貼り付ける必要はない


「そ、そんなのダメだよ!自分で考えなきゃ!」


 変なところで正義感が強い真理姉さんらしいっちゃらしい。でも、自分で考えたてたらいつまで経っても終わる気がしなかったのも事実


「真理姉さんの言う通り自分で考えるのは大事な事だけどさ、それだといつまで経っても終わらないでしょ。それに、僕達は小説やマンガを書いてるんじゃないんだよ?」

「そ、そうだけど……」

「それに実習先の先生に言われたでしょ?“最初から現場の教師に頼ってばかりじゃダメだ!若いうちはそれなりに苦労しなきゃ!”ってね。真理姉さんは現場の教師に頼ってないし僕が見つけた資料だって苦労して見つけたものだよ。悪い事なんて何もしてない」


 実習先の先生が何を思って真理姉さんに見本を渡さなかったのかは知らないけど実習生の指導を放棄した教師に文句を言う資格なんてあろうはずがない。僕はそう思う


「そ、そうかなぁ……?」

「そうだよ。じゃあ、真理姉さんの作った指導案を僕のパソコンに移すね?」

「う、うん……」


 僕は真理姉さんのノートパソコンにUSBを差し、作成途中だと思われる指導案を一旦適当な名前を付けて保存した後、僕のUSBに移す。


「じゃあ、真理姉さんは教材研究でもしててよ。あ、それと参考に渡された指導案借りるよ」

「うん……」


 こうして僕の中1にして初めての指導案作りがスタートした


今回は光晃が初めて教育実習生の手伝いをする話でした

この話から徐々に葵衣と出会った頃の光晃に近づければなと思います

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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