【過去編37】お節介がもう1人増えそうになる
今回はお節介がもう1人増えそうになる話です
畑中がお節介で光晃に絡んでますが、そんな人間がもう1人増えそうです
では、どうぞ
畑中の大きなお節介が幕を開け始めた次の日。僕の学校生活はいつも通り……とはならなかった
「岩崎君!まずはクラスのみんなに積極的に話し掛けよう!」
迷惑な教育実習生畑中が朝から絡んできた。秀義や宮村さんを始めとするクラスメイト達は皆一様に同情の眼差しで僕を見つめていた。そんな眼差しで見つめるくらいなら助けてほしかったよ
「先生、昨日も言いましたけど僕は1人が好きなんです」
言っても無駄だとは思ったよ?でも、これに関してはクラスメイト達の前で言う事に意味がある。畑中のようなタイプは自分が絶対に正しいと思い込んでいる節があるからね。二枝を始めとする教員達に責められ言い訳をした時にクラスメイトを証人にする事が出来る
「嘘!本当は1人で寂しいと思ってるでしょ?ほら、先生も手伝ってあげるから!ね?」
本当に話を聞かない奴。畑中に絡まれてる僕を見て秀義も宮村さんも困った顔をしていたのは当然の事だった。癪に障るけどこの2人は僕の事をよく知っている。僕が大人数が苦手だって事も協力するところは協力するって事も
「先生しつこいですよ。さっきも言いましたけど僕は1人が好きなんです」
ちょっと言っただけで諦めるのなら悪質なクレーマーなんて世の中に存在しない。ちょっと言っても聞かないから悪質なクレーマーが存在する。何とも面倒な世の中だ
「岩崎君は素直に寂しいって言えないんだね……可哀そうに……」
ダメだ。全く話が通じてない……教育実習生ってこんなに話を聞かなかったっけ?いや、違うか。小3、小4、小5の時に来た実習生が大人しかっただけ畑中はそうじゃなかったってだけか。今思い出しても面倒な奴
「僕は寂しいだなんて一言も言ってませんけど」
素直じゃないって自覚はあったけどよ?でも、ポッと出の奴に何でもかんでも話すほどこの時の僕は社交的じゃないってだけで。あ、それは今もか
「確かに岩崎君は寂しいって言ってないけど、心では寂しいと思ってるでしょ?」
「いえ、別に」
畑中の見解は見当違いもいいところだった
「本当に?本当にそう?」
畑中はどうしても僕の口から寂しいって言わせたいようだった。でも、本当に寂しいと思ってなかったんだからどうしようもない
「思ってません。それより、これから僕は二枝先生の手伝いをしに行くので先生は他の子とお喋りでもしててください」
「ちょっと!岩崎君!話はまだ────」
僕は畑中が何かを言う前に席を立ち教室から出た。これ以上付き合ってられなかった
「はぁ……」
今でも畑中に絡まれた時の事を思い出すだけで疲れる。教師や教育実習生が人の話を聞かないというのは僕の中で変わらない事実だ。
「畑中がいなくなるまで学校休もうかな?」
大人しいタイプの教育実習生が来た時は何とも思わない。でも畑中のようなタイプの実習生が来た時は別だ。あの手の奴は好意の押し付けが激しいから困る
「本当、面倒な事になった」
自分の信念を持つのはいい事だけど、それを他人に押し付けるのはどうかと思う。例えば教育観念がそうだ。自分独自の教育観念を持つのはいい事でもそれを児童(生徒)に押し付けるのはいかがなものかと思う。
「早めに対処してもらうか」
畑中が何の目的を持って僕に絡んでくるのかは知らない。でも、絡まれている方はいい迷惑だという事を自覚してない。まぁ、今までは都合よく教師が動いてくれたけど、次もそうだとは限らない。僕は万が一の対策を練りつつ職員室へと歩を進めた
『──────!!』
『──────!!』
職員室前に着いたはいい。でも、中から何やら口論する声が聞こえた
「まったく、普段は僕達に上から目線でものを言って自分達はふんぞり返ってる奴らが何を騒いでいるのやら……」
二枝にしてもそうだけど、教師って給料分の仕事をしてないんじゃないかと思う事がある。特にデリカシーのない教師を見てるとね。それはそうと職員室で何を騒いでいるのか、この時の僕は想像すらしてなかった。
「畑中を早く何とかしてほしいけど、教師達のバカな喧嘩に巻き込まれたくないなぁ……」
いくら教師でも大人だ。大人の喧嘩に子供を巻き込むだなんてアホな事しない。この時の僕はそう思っていた
「失礼します」
ドアを開け、職員室に入ると見た事がある教師と見知らぬ女性が何やら険悪なムードだった
「あ、こ──岩崎君。どうしたの?」
僕を出迎えてくれたのは苦笑いを浮かべた二枝。
「あ、いや、二枝先生に相談したい事があって来たんですけど……喧嘩している声が外まで響いてたんで出直してきますね」
畑中だけでも面倒だったのにこれ以上面倒は増やしたくない僕は出直す事にし、職員室から──────
「岩崎君は私が更生させてみせます!!」
「児童に必要以上に関わらないでくださいって何度も言ってますよね!?言う事が聞けないんですか!!」
出る事が出来なかった。口論の内容が自分に関する事だと知って僕は金縛りにあったみたいにその場から動くことが出来なかったからだ
「あ、あはは……」
口論を続ける見た事はあっても話した事のない教師と見知らぬ女性。教師の方はともかく、見知らぬ女性に更生させると言われる事をした覚えは全くない
「これ、どんな状況ですか?」
状況が把握できなかった僕は苦笑いを浮かべる二枝に状況の説明を求めた
「あー、とりあえず会議室行こうか?」
僕は訳が解らぬまま二枝に手を引かれ会議室へ
「で、さっきの一体何なのかな?」
会議室に着くなり開口一番で職員室での事を尋ねる。この時の二枝には何の落ち度もないのは明白だったから問いただす必要はなかった
「えーっと、ウチのクラスに来ている畑中先生っているでしょ?」
「うん」
「さっきの子は畑中先生と同じ大学から来てる子なんだけど……」
「うん」
「昨日の夜に畑中先生から光晃を更生させる話を聞いたらしいんだけど……さ」
教育実習生がどこの大学から来ているとか全く興味のない僕にとって畑中がどこの大学から来ているとか、畑中と同じ大学から実習生が何人来ているとかは全く興味なかった
「僕の更生の話は置いといて、それがどうして職員室で口論する事になるの?」
僕は多くの友達を必要としてないというのは畑中に言ってある。聞き入れたかどうかは知らないけど。でも、それがどうして職員室での口論に繋がるのかは全くもって理解できなかった
「光晃を更生させるって息巻いてた子、別のクラスの担当なんだけど、光晃の事を畑中先生から聞いたらしく、それを他の先生に確認したら『私が岩崎君を更生させます!!』って張り切っちゃって……それを担当の先生が知っちゃってね。結果ああなったんだよ」
二枝の話を理解したくない自分が。でも、したくなくても何となく理解できてしまった。要するに畑中とその実習生はどちらが僕を更生させられるか競っていたんだ。自分の指導力を誇示するために
「解りたくないけど話は解ったよ。でも、知佳も含めて他の先生は僕の状況知ってるでしょ?多いとは言えないけど僕には秀義と宮村さんがいるし」
都合のいい時だけ秀義や宮村さんの名前を出したくはなかったけど、この時は状況が状況だったので出さざる得なかった
「そうなんだけど……さ、光晃ってどことなく寂しそうな空気だしてるでしょ?私も最初に見た時に思ったんだけど、畑中先生もさっきの伊藤先生もそれをどうにかしたいみたい」
畑中1人でも面倒だと思っていたのにそれがもう1人増えた事で僕は頭が痛くなった。
「今年の教育実習生はどうして頭痛の種を増やすかな……」
小学校の教育実習だから児童と関わり合いになるのは仕方のない事だとは思うよ?でも、過度な干渉は現場の教師が止めるべきなんじゃないの?
「ご、ごめん……知佳がもっとしっかりしていれば……本当にごめんね?」
畑中と名も知らない教育実習生を暴走させ、それを止められなかったのは二枝達現場の教師が悪かった。でも、全ての責任が二枝達現場の教師にあるかと言われればそれは違う。止められなかった方にも責任があるけど、話を聞かない方にも責任はある。多分、1:9の割合で話を聞かない方が責任重大だけど
「別にいいよ。知佳は一応畑中を止めようとしてくれたわけだし」
「でも……知佳、光晃との約束守れなかった……」
悲しそうな顔で僕を見る二枝。教師といえど僕は女性の泣いてる顔を見るのは好きじゃない。場合によるけど
「知佳は畑中に注意してくれた。僕はそれだけで十分嬉しかったよ?それでも知佳の気が済まないならもう1つ約束してくれないかな?」
「抱きしめて頭撫でてくれたらする……」
傲慢な奴。金銭を要求されたらこう思うけど要求がハグしながら頭を撫でるだから傲慢だとは全く思わなかった
「それくらいならいいよ。ほら、おいで」
「うん!」
これじゃどっちが大人なのかわからない。この時を振り返ると二枝の方が子供なんじゃないかと時々疑ってしまう。結局ハグして頭撫でたけどさ
「この状態のまま僕の要求を言うよ?」
「うん、今度はちゃんとするね?だから、見放さないで……」
最初の約束である畑中を僕に近寄らせないという約束は畑中の暴走で果たされなかった負い目なのか二枝の目には涙があった
「見放さないって……それに、今度のはそんなに難しい要求じゃないから」
「うん……」
難しい要求じゃないって言ったはずなのにも顔が強張る二枝は例えるなら初めてお使いを任された子供と言ったところだった
「そんなに顔を強張らせなくてもいいよ。僕の要求は何があっても畑中と職員室で口論していた実習生の教育実習を全うさせろって事だから」
「えっ……?て、でもっ、畑中先生がいなくなれば光晃は嬉しいはずじゃ……」
二枝の言う通り畑中がいなくなれば僕は嬉しい。毎度毎度絡んでくる教育実習生がいなくなるんだからね。でも、それじゃダメだ。絡んできた仕返しがしたかったわけじゃない。ただ、自分が正しいと思い込んでいる奴に現実を突きつけてやりたかった
「確かにいなくなってくれた方が僕としては助かるよ?でもさ、いつまでも夢を見させるわけにはいかないでしょ?」
「どういう事?」
「知佳は畑中が僕に絡んでる時の事知らないと思うけど、口を開けば『友達と遊んだ方が楽しい』とか『口では友達なんて必要ないって言っても本当は寂しいんでしょ?先生には解るよ?』とか言って僕の気持ちを決めつけてくるんだよ。多分、子供の頃にハブられたか何かして1人の奴=そう思っていると思い込んでる節があるからだけど」
僕の勝手な憶測だったけど、畑中は1人でいる僕に友達を作らせたがっていた。子供の頃に似たような経験をし、1人でいる僕を見て自分と同じ境遇にいるから助けてあげようという余計な思いつきが浮かんだ結果だろうとは思う。僕にとっては大きなお世話でしかないのには変わりないけどね
「そうなんだ……」
少し前までは二枝も僕に死んだ弟を重ねていたらしいから畑中に対して思うところはあるようだった。僕本人としては死んだ弟だろうと子供時代の自分だろうと重ねたいのなら好きにすればいいと思う。だからと言って好意を押し付けてくるのは迷惑でしかないけどね
今回はお節介がもう1人増えそうになる話でした
高校生の光晃は容赦なく教育実習生の実習をぶち壊す方向で考えますが、小学生の光晃は生かさず殺さずの状態に持って行く方向で考えるようです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




