【過去編31】二枝がついに狂ってしまった
今回は二枝が狂ってしまう話です。
最初に一言。これはこれでアリだと思う
では、どうぞ
二枝に対する態度が悪いという理由で放課後残るように言われた僕達。でも、秀義とクラスメイト達は当たり前だけど納得がいかないようだった。そこで僕は秀義とクラスメイトを早々に下校またはどこかへ隠れるように指示し、荷物を持たせて退場させた。一方、僕は宮村さんと保健室へ行った
「そろそろ二枝がゴネ始める頃だろうね」
「うん」
4年の頃から二枝を見てきたと言えば宮村さんもそうだった。でも、僕は二枝の裏面まで見てきた。クラス内でイジメが起きればイジメている方には何の注意もせず逆にイジメられている方を注意する。で、学校の備品に落書きした児童を庇う始末。こんなんで教師になれるんだと思うと教師への道って案外平坦だって思うよ
「本当は戻りたくないよね……」
「うん……」
僕と宮村さんは保健室から出れないでいた。二枝がゴネ始めるのは解っていた。でも、それ以上に大人の駄々っ子というのはめんどくさかった。それは今でも変わらないか
「でも、戻らないと……ね?」
「そう……だね……」
僕も宮村さんも戻りたくないという気持ちをグッと堪え、保健室を後にした。職員室へ保健室のカギを返し、教室へ戻る。本当は戻りたくなかったけど
「戻って来ちゃったね」
「うん……」
教室の前まで来て決心が鈍った。二枝には時間も考えずに児童を居残らせた前科がある。その辛さは僕より宮村さんの方がよく知っている。残されたら最後、何時に帰れるか……そんな考えが僕の頭を過ぎった
「「はぁ……」」
僕と宮村さんは2人揃って溜息を吐いた。教師というのはどうして自分の体裁ばかり気にするんだろう?小5の僕は二枝を見てそう思った。今じゃ教師の体裁なんて守る気はない。僕がそんなチンケなものを守ってやる必要はないし、それに、僕が何もしなくても教師のした事なんて学校の口コミサイトに誰かが書き込んでいる。僕1人がそんな事をしたところで無駄な事。
「嫌だけど戻ろっか?」
「そうだね……」
本来、僕1人なら別に保健室に行く必要なんてなかった。だって、二枝の言う事なんて猿でも予想できる。どうせ『私は先生で君達より目上なの!』って言い出すに決まっていたから。でも、考えてほしい。どうして教師が児童(生徒)からナメられるのかを。答えは簡単だ。尊敬できないから。ただそれだけ
「遅い!私言ったよね?放課後は教室に残るようにって!」
教室に入るなり開口一番に出た言葉がこれだった。本当に呆れる。課題があるならまだしも課題もないのに教師への態度が悪いから話し合うだなんて名目で居残る児童なんていない。いたとしても僕や宮村さんのように精神的に追い詰めてやろうって児童だけだ
「すみません。僕達はちょっと体調が悪かったので保健室へ行ってました」
僕の嘘に隣の宮村さんはコクコクと頷いた。人に嘘を吐くと考えたら心が痛む。ま、これは無害な人間に限るけど。でも、二枝のような奴に嘘を吐いても心は全く痛まなかった
「そう。じゃあ、早く席に就いてくれない?他の子の事はこの際どうでもいいや」
カバンがないのを見て何かを察したのか二枝は席に就くよう僕達に指示してきた
「「はい……」」
自分の教え子に対してどうでもいいってのは酷すぎやしないか?とは思ったけど、秀義とクラスメイト達は二枝を完全に疎ましく思っている節があったので特に庇い立てしなかった
「さて、席に就いたところで始めるけど、君達は最近先生に対しての態度悪いよね?」
前置きなしに二枝は僕達の態度が悪いと言ってきた。でも、児童(生徒)ってそういうものだと思う。全ての子がそうだとは言わない。でも、その児童(生徒)のキャラや教師の人柄によっては大人をナメた態度を取る子だっている。
「「は、はあ……」」
身に覚えはあった。でも、僕も宮村さんも曖昧な返事しかしなかった。僕達にとっては二枝への態度なんてどうでもいい事だったから
「岩崎君!宮村さん!何!?その曖昧な態度は!!先生は真剣に話しているんだけど!!」
静かだった教室に二枝の怒鳴り声が響く。ナメた態度なのは秀義とクラスメイトであって僕も宮村さんも今までと変わらない態度で接していたからそんな事を言われても困るだけだった
「僕も宮村さんも授業中に騒いだりしてませんし……それに、先生はどうして秀義を始めとするクラスのみんなに先生が何かしたんじゃありませんか?」
正確には出来ない子に対して勉強しろしか言わなかったのと出来ない子を怒鳴ったからこうなったんだけどね
「先生は何もしてないよ!!いきなり名倉君達の態度が悪くなったの!!」
1週間前に江口さんの親が怒鳴り込んできたのを覚えてないのかコイツは?二枝は自分にとって都合の悪い事は忘れるタイプのようだった。さて、どうしよう……4年の頃から思っていた。二枝には現実を突きつけてやった方がいいんじゃないかと
「そうでしょうか?先生は以前僕が算数が出来ないと言った時に勉強しろと怒鳴ったじゃないですか。で、次は江口さんが国語が出来ないと言った時に怒鳴った。その結果江口さんの親が授業中にも関らず怒鳴り込んできた。これを考慮しても先生には心当たりがないと言えますか?」
ここまで言って心当たりがないと言えたら大したものだ。
「ないよ!!そもそも、出来ない岩崎君と江口さんが悪いんでしょ!!日頃からちゃんと勉強していれば出来るはずだもの!!」
確かに二枝の言う通り日頃から勉強をしていれば出来るはずだ。でも、世の中自分の努力ではどうにもならない事だってある。例えば、自力で空を飛ぶとかね
「そうですね。日頃から勉強していれば出来ますね。ですが、先生。世の中には自分の努力だけじゃどうにもならない事だってあるんですよ?」
「そんなのないよ!努力すれば何だって出来るよ!!」
これを本気で言ってるんだとしたらかなり悪質だ。自力で羽もないのに空を飛べって言ってるようなものだもん
「努力すれば何だって出来るって言うなら先生は羽もないのに自力で空を飛べるようになるんですよね?」
話が飛躍し過ぎだとは思うだろう。でも、努力すれば何だって出来るだなんて言った二枝が悪い
「はあ!?そんな事出来るわけないでしょ!!そんなの努力したって無理だよ!!」
「あれ?でもさっき先生は努力すれば何でも出来るって言いましたよね?」
二枝は努力すれば何だって出来ると言った。で、僕は努力すれば羽もないのに自力で空を飛べるようになるんだよね?って聞いた。僕の言った事は逆立ちしたって出来っこないのは明白だった。でも、二枝が僕と江口さんにした事というのはそう言う事だ。何でもかんでも努力が足りないで片付けられたら堪ったもんじゃない
「い、言ったけど、羽もないのに自力で空を飛ぶなんて逆立ちしたって出来るはずないでしょ!!」
二枝の言う事は正しかった。羽もないのに自力で空を飛ぶ事なんて逆立ちしたって出来るはずがない。それは勉強に関してもそうだ。努力したって苦手科目は苦手なままだ。でも、人並みにできるようになるまでは相当な努力をした。それを否定されるのは腹が立つ。
「でも先生は努力すれば何だって出来るって言いましたよね?努力すれば羽もないのに自力で空を飛べるようになるんじゃないんですか?」
努力はあくまでも結果に行きつく為の過程に過ぎない。それを誇ってしまったら終わりだなんて言う人がいるけど、僕が言いたいのはそこじゃない。ただ否定するんじゃなくて努力した跡を見て思うところはないのかって事を言いたい
「限度ってものがあるでしょ!!」
「そうですね。限度がありますね。さて、話を戻しますが、秀義やクラスメイト達が先生への態度が悪いのって出来ない事を努力しろだけで片付けて何もしないからじゃないんですか?」
時間も時間だったので僕は二枝に現実を突きつけた。僕もそうだったけど宮村さんは女の子だ。日が暮れる前に下校させたかった。そうなると短期決戦に持って行くしか方法がない
「先生は忙しいの!!君達の出来ない事まで面倒見切れないよ!!」
確かに僕達の出来ない事全てを面倒見るのは大変だ。でも、だからと言って否定したまま何もしないってのも間違っている。僕は二枝に根性論を求めていたわけじゃない
「先生、去年もそうでしたよね。言葉に詰まると忙しい……そんなんでよく学校の先生になれましたよね」
僕は4年の時に二枝に言われた事を忘れない。
「何?岩崎君は私が学校の先生をしてたら悪いって言いたいの!?」
誰もそんな事を言ってない。どうして二枝は話を大袈裟にしたがるんだろうか?
「別にそうは言ってませんよ。ただ、先生にはそろそろ現実をお知らせしておこうかと思いましてね。まぁ、1人の児童の本音とでも思っていてください」
僕は席を立ち、二枝のいる教壇へと向かった。そして───────
「な、何?」
「アンタ、学校の先生に向いてないよ」
狼狽える二枝に現実を突きつけた。大きなお節介だったかもしれない。もしかしたら教師に向いてないなんて言うのは僕が初めてだったのかもしれない。でも、児童の目から見たら二枝は教師に向いてなかった
「な、なんで岩崎君にそんな事言われなくちゃならないの!!私は先生になりたくて先生になったんだよ!?」
先生になりたくて先生になる。教師を目指す人の9割がそう思って教師を志し、教育実習に臨む。でも、残りの1割は違うと思う。あくまでも僕の個人的な意見としてだけど
「先生になる人は多分みんなそう思って先生になると思いますよ?でも、実際に二枝先生は出来ない子に対しては努力しろしか言ってないじゃないですか。そんな事は誰だって出来るんですよ。別に貴女じゃなくてもね」
二枝のした事なんて誰だって出来る。勉強しろって言うだけなら僕の両親もいい。ハッキリ言ってこの時の二枝がしていた事ってそう言う事だと思う。二枝のような指導の仕方をしている教師が多いのなら学校じゃなく塾や家庭教師で十分だ
「は?でも、私は先生なんだよ!?先生が児童に勉強しろって言うのは当たり前でしょ!?」
二枝の口から出た言葉にしては珍しくまともだった。でも、勉強しろって言うだけなら誰だって出来るって僕は言った。ついでに言うと学校って社会に出る練習をする場所でもあるわけだしね。ネチネチとしつこいかもしれないけど、イジメ問題を投げた時点で二枝は教師じゃないと思う
「そうですね。確かに先生は僕達に勉強しろって言うのが当たり前だと思いますよ?でも、その前にその勉強をちゃんと教えてくれましたか?勉強だけじゃない。終わった事なので持ち出す気はありませんでしたが、貴女、僕のイジメ問題の時に何て言いましたか?」
「そ、そんな事今はどうでもいいでしょ!」
どうでもよくないから聞いたんだけど……当時二枝はまだ20代だったからボケるには早いと思う。でも、二枝はボケたわけじゃない。教師の得意技である都合の悪い事は忘れるを使っただけだったから
「どうでもよくないから聞いてるんですよ。僕個人の意見で申し訳ありませんが、4年の時のイジメ問題……言い換えるなら人間関係でのトラブルですら解決あるいは解消すら出来ない貴女に誰がものを教わりたいと思いますか?まぁ、イジメの被害者に対して問題を増やすなって言うくらいですから教える力なんて貴女にはないと思いますけど」
イジメ問題に焦点を当てて話を進めたけど、仮にイジメ問題がなかったとしても二枝に指導力がないだなんて事はきっとどこかで露呈していたのかもしれない。
「そ、そんな事ない……私は先生……」
壊れたスピーカーのように『私は先生』と繰り返す二枝をだた黙って見ているだけの僕。
「い、岩崎君……せ、先生がなんか怖いよ……」
突如壊れたスピーカーのようになってしまった二枝を見て怖くなったのか僕の服をキュッと握る宮村さん。そりゃ目の前で人が狂えば恐怖も感じるか
「大丈夫だよ。宮村さん。僕が付いてるから」
僕は宮村さんの恐怖を少しでも和らげるために手を握った。宮村さんの手を握る傍らで僕は次の計画を進めようとする
「私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生私は先生……」
宮村さんの手を握り安心させている間に二枝は大分狂っていた。って言うか、さすがに息継ぎ無しで『私は先生』って繰り返されるとアブナイ薬をやっているか精神病と間違えそうになるんだけど……とてもじゃないけど、この時の二枝は秀義やクラスメイト達には見せられたものじゃなかったし、宮村さんにも下校してほしかった
「い、岩崎君……に、二枝先生が怖いよ……」
壊れたスピーカー状態の二枝を見て恐怖のあまり目に涙を溜め僕を見つめる宮村さん。でも彼女は帰りたいとは言わなかった
「大丈夫だよ。宮村さん。すぐに元に戻して見せるから。自分の席で待ってて?ね?」
「う、うん……」
宮村さんは掴んでいた僕の服を離し自分の席に戻って行った。そして、僕は壊れた二枝を見た。本音を言うとこんな状態になった二枝を他の先生に任せて僕と宮村さんは帰宅してもよかったんだけど、それじゃ二枝は何も変わらない。次の日も傲慢な態度で僕達に接してくる事なんて火を見るよりも明らかだった
「さて……二枝先生」
「私は先生私は先生私は先生私は先生……」
僕が声を掛けても同じ言葉を繰り返す二枝
「二枝先生!」
「……………………」
強めに呼んだら今度は黙ってしまった。二枝は情緒不安定だったのかな?
「二枝先生」
「ううっ、ぐすっ……わ、わた……わたしだってがんばってるのに……ど、どうして……どうしてだれもみとめてくれないの……ひっく、むかしからそう……だれもわたしをみとめてくれない……」
児童の前だというのに幼い子供みたいに二枝は泣き出した。教師だって人間だから喜怒哀楽はあるだろうけどさ……児童の前で泣くだなんてちょっと信じられなかった。そんな二枝を僕は見ているしかできなかった。当然、自分の席に戻った宮村さんもそれは同じだった
「二枝先生はよく頑張ってると思いますよ?常に僕達の事を考えくれてますもんね」
僕はあろう事か二枝を抱きしめた。教師を抱きしめるだなんて虫唾が走る。でも、追い出すよりももっといい方法をこの時思いついた。二枝を僕に依存させてしまおう。そうしたら面倒な教育実習生に絡まれた時に苦労せずに済む。少なくとも小学生のうちはね
「ぐすっ、ひっく、そ、そうだよぉ……わたし、いわさきくんたちのことをいっしょうけんめい考えてるよぉ……そ、それなのに……それなのにぃ……」
一生懸命考えてるからと言って許すつもりはなかった。でも、利用価値ならあった
「僕達の事を一生懸命考えてくれてありがとう。知佳。でも、もう無理する必要なんてないんだよ?これからは僕達にちゃんと勉強とかいろんな事を教えてくれるだけでいいんだよ?」
葵衣と優奈……ついでに理沙以外の異性を初めて呼び捨てにした瞬間だった。これは小学生の頃の事だからノーカンだけど、葵衣以外の異性を初めてハグした瞬間でもある。でも、小学生だったからノーカンだよね?
今回は二枝が狂ってしまう話でした
本当は二枝は早々に退場させる予定でしたが、この後の展開で必要かと思い依存させる方向に。何て言うか……これは王道の主人公とかちょっと腹黒い程度じゃ済まないような気がする。うん
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




