【過去編19】二枝はイジメ問題から逃げ出した
今回は二枝がイジメ問題から逃げ出す話です
教員がそれでいいのか?と思っていただければ幸いです
では、どうぞ
「先生、これを見てください」
二枝の席に通された僕は落書きされた教科書を見せる。落書きをした犯人はこの時点では不明だけど、自宅に帰れば一部始終を見る事が可能だったという事もあるけど、秀義達が執拗に絡んできた事を考えるとある程度の目星は付く
「岩崎君……これは……」
落書きされた教科書を驚愕した様子で見つめる二枝の顔には『本当に信じられない』と書いてあった
「今朝教室に入り、昨日教科書を入れ忘れたと思って机から出したらこんな事になってました」
本当は僕に害成す存在を釣るために僕が仕掛けた。だけど、それを言ってしまうと二枝はもちろん、両親を味方につけるのは難しくなってくるだろうと思い事実はあえて伏せる
「そ、そう……で、でも、これをクラスの子がやったとは限らないじゃない?」
「そうですね。もしかしたら別のクラスの子かもしれませんし、別の学年の子かもしれません」
証拠を持っている方からしてみれば別のクラスの子、他の学年の子というのはあり得ない。犯人は僕のクラスの誰か。いや、クラス全員が犯人だと言っても過言じゃない
「そうよね!ウチのクラスの子にこんな事をする悪い子なんていないわ!きっと別のクラスの子か別の学年の子よ!」
あくまでも自分のクラスでイジメが起こっている事を認めようとはしない二枝。やはりコイツじゃ役不足だったと思う。
「僕は犯人捜しをしたいのではなく、ただ、先生に言っておかないといけないと思って言いに来ただけですから」
「そうだったの。知らせてくれてありがとう!この事は他の先生にも伝えておくから教室に戻りなさい」
「わかりました」
二枝との話し合いの結果、僕の教科書に落書きされていた事を二枝が他の先生にも報告しておくという事で終わった。この時の僕はそれを信じるしかなかった。結論から言うと二枝は他の先生にイジメの事実を報告なんかしていなかった
僕が職員室に駆け込んでから数日が経過した。
「…………あれからイジメが止む気配がない。前よりも悪化してる」
今までは朝教室に入ったら机に花瓶が置かれているとか、黒板に根も葉もない濡れ衣が大きく書かれていただけだった。しかし、職員室に駆け込んでからイジメはより酷いものになった。僕の教科書や黒板だけじゃ飽き足らず、ついに僕の机にまで落書きをするようになったのだから
「どうしたんだい?岩崎君?」
「別に。何でもないよ」
ニヤついた顔でどうしたかを尋ねてくる白々しい須山に適当な返事をし、僕は自分の机を見る。それはそれは酷い有様で机には僕の死を望む言葉から誹謗中傷までびっしりと書かれていた
「これって消えるのかな……?」
普通の子なら死を望む言葉から誹謗中傷まで書かれていたらその場で泣きじゃくっていただろうけど、僕にはそんな感性はない。どちらかと言うと落書きが消えるのかが心配だった。学校の机は自分だけのものじゃない。僕が進級した後、別の誰かが使う。そうやって長い間使われ続ける。学校の備品だし、買い替えようと思えば簡単なんだろうけど、それだってタダじゃない
「家に帰ったら調べてみるか」
ちなみに、机の落書きは油性マジックで書かれていてもマニキュアの除光液で落ちるというのを後で調べてわかった。
「みんなおはよう」
机の落書きが消えるかどうかを心配しているところに二枝が入ってきた。クラスメイトは二枝に元気よくあいさつをしたけど、僕だけは違った。
「先生……」
「どうしたの?岩崎君?」
「僕の机なんですけど……」
「机がどうかしたの?」
「見てください」
そう言って二枝の手を引き僕の席へ
「な、何これ!?」
二枝が驚くのも無理はなかった。机にびっしりと落書きされていて驚かない方が無理だし
「教室に入ったらこんな事になっていました」
「……………そう。岩崎君、後で職員室に来なさい」
前の二枝なら朝のHRと授業と帰りのHRを潰してまで犯人捜しをした。でも、この時の二枝は違った。何て言うか、比較的冷静だった。前の件で保護者から苦情を言われて懲りたのかな?
「わかりました」
そう言うと二枝は再び元の場所に戻り、HRが始まった。当然ながら僕は落書きだらけの机でHR、授業を受ける事になった。そして、中休み────────────
「岩崎君、一緒に来なさい」
僕は二枝に呼ばれ、その後を無言で付いて行く。別に話す事もないし、それに、呼ばれた理由は机の落書きの件だろうから聞くまでもない
「先生、職員室じゃなかったんですか?ここ、視聴覚室ですよね?」
一緒に来いと言われ、連れてこられたのは職員室ではなく、視聴覚室だった。
「ええ、職員室じゃちょっとね……」
「はあ、そうですか」
机の落書きはその内容によってはイジメだと思う。そもそも、鉛筆とかシャープペンならともかく、油性マジック等のすぐに消えないもので学校の備品に落書きし、その机を使わせるのはどうかと思うのは僕だけ?
「岩崎君」
「はい」
僕はこの時、イジメに対する対策をするための話し合いだと思っていた。そう、この言葉を聞くまでは──────
「あんまり問題を起こさないでくれないかな?」
二枝は何て言った?問題を起こすな?僕は進級してから1度たりとも問題は起こしていない。今でもよく覚えているこの言葉。だけど、イジメを受けている児童に対して言う言葉じゃない
「僕がいつ問題を起こしました?」
僕が自覚していなかっただけかもしれない。イジメをする方にも問題はあるけど、イジメられる方にも問題があったのかもしれない。それでも、小学4までの僕は喧嘩なんてした事ないし、あってもボイコット程度だった
「岩崎君がイジメられている事自体が問題なの。君がイジメられている事で机は変えなきゃいけなくなるし、朝の会はその事について話し合いしなきゃいけないし、先生達の会議でも取り上げなきゃいけないしで面倒なの。君がイジメられているって事を隠しておけば先生の仕事も増えないから楽なの。だから、あんまり問題を起こさないで」
最後に二枝は『朝の会が長引いたり、授業が潰れたり、他の子の帰りが遅くなって文句を言われるのは私なんだから』と付け加えた。この時、僕は『コイツは何もできない先生なんだな』と思った。だけど、それを言うのはこの場面じゃない
「わかりました」
今でも不思議だけど、教師になれたのはいいとして、どうして二枝は担任になれたんだろう?こんな臭いものには蓋、事なかれ主義で児童からしてみれば使えない奴が担任になれたというのは僕の中では永遠に答えの見えない問題だ。それはいいとして、二枝との話が終わり、僕は視聴覚室から出る。不思議な事に一滴も涙は零れなかった。涙が出なかった理由は二枝は使えない。心のどこかでそれをわかっていたからなのかもしれない
「おかえり、岩崎君。先生と何話してたの?」
教室に戻ると早速宮村さんが絡んできた
「別に何でもいいでしょ。僕が先生と何を話していたかなんて君に関係ある?」
先生と何を話していたかなんて宮村さんには関係のない事だ。特に親しい友人でもない彼女に二枝との話し合いの内容を言う必要は全くもってない
「な、ないけど、教えてくれてもいいじゃん」
関係ない奴に先生と何を話していたかを教える義理なんてない。それに、先生と何を話していたかなんて簡単に言うわけないでしょ。デリケートな事かもしれないのに
「関係ないない人に先生と何を話していたかを教える理由がないよ。毎度の事ながら、僕に絡まないでくれない?それとも、もうちょっとハッキリ拒絶した方がいいのかな?」
この時の僕はクラスメイトに優しくするという選択はなかった。あるのは目の前にいるこの女やこの女と一緒に絡んでくる秀義、須山をどうやって叩き潰すか。それだけだった
「それは止めて!!」
教室内に宮村さんの声が響く。全く僕に──────いや、1人の人間に拒絶されたくらいで大袈裟な
「何で?今朝の机の落書きの犯人が君だなんて決めつけるつもりはない。でも、君は男子2人と執拗に僕に絡んできたでしょ。それが僕にとってどれだけ迷惑だった事か……」
宮村さんも須山も秀義もイジメが酷くなってきてからいるだけで邪魔だと思うようになっていた。秀義は高校に入ってからも時々邪魔だと思う事はあった。騒がしいし
「それは謝るから!だから……だから!!お願いだから拒絶しないで……」
宮村さんの悲痛な声が教室に響く。だけど、イジメに加担しておいて拒絶されたらごめんなさい。そんな都合のいい話なんてないんだよ?
「わかったよ」
「本当!?」
僕の言葉でパァっと表情を輝かせる宮村さん。だけど、今も昔も僕は甘くない
「うん。君、邪魔だからもう話し掛けてこないでね」
「えっ……?今……なんて……?」
明るかった宮村さんの表情が一転して暗くなった。
「聞こえなかったのならもう1度言うね。邪魔だから話しか掛けてくるな」
「そ、そんな……どうして……」
「どうして?そんなの決まってるじゃん。君が僕にとって邪魔な存在だからだよ」
今じゃ同級生を拒絶するなんて事はない。だけど、この頃の僕は同級生だろうと教育実習生だろうと教師だろうと邪魔になるなら容赦なく拒絶した。僕に邪魔者は必要なかった
「じゃ、邪魔……?私が……?」
信じられないといった表情の宮村さん。信じられないって顔する前に自分のしてきた事を考えてほしい。イジメに加担するような真似して、執拗に絡んできて……そんな人間がどうして邪魔じゃないって思える?邪魔だと思うのが普通だと思うけど?
「うん。邪魔。毎回男子2人連れて絡まれて邪魔だと思うのは普通だと思うけど?」
「で、でもッ!」
邪魔だと切り捨てた僕になおも噛みついてくる宮村さん。彼女に何の目的があって僕に絡んでくるのか、この時点ではわからなかった。でも、僕は宮村さんが邪魔しか思わなかった
今回は二枝がイジメから逃げ出す話でした
別に教師は嫌いじゃありませんが、人によっては心に余裕がないのかな?と思ったりもします。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




