【過去編14】犯人捜しのために授業がつぶれる
今回は転校生と犯人捜しの話です
今回の題名である犯人捜しですが、何の犯人捜しなのでしょうか?
では、どうぞ
小4の頃は教育実習生が来たけど特に絡まれる事はなかった。その代わりに深刻な問題が発生した。それは二枝先生の自己紹介を終え、転校生が来た時にまで遡る。
「私の自己紹介はこれくらいにして、今日からこの教室でみんなと一緒に勉強する事になった新しい仲間を紹介します!転校生の須山匠太君です!」
「須山匠太です!早くみんなと仲良くなれるように頑張ります!」
転校生である須山匠太。一般的な第一印象は感じのいい奴。でも、この須山匠太が後に陰湿なイジメを行うなどこの時の僕はまだ知らなかった。
「じゃあ、須山君は名倉君の隣ね!」
「はい!」
「おう!こっちだ!」
手を振る秀義を目印に須山は自分の席へと歩いて行った。そして、席に着いた須山は秀義と何か話しているようだけど僕は興味なかったから気にも留めてなかったけどね。で、秀義の隣の席は須山になり、僕の隣の席は────────────
「今年もよろしくね。岩崎君」
前回同様、僕の隣の席は宮村さんだった。クラス替えしたはずなのに宮村さんとまた同じクラス。しかも、席も隣。秀義に引き続き不思議な縁だと思う。
「うん、よろしくね。宮村さん」
僕は別によろしくするつもりはなかったんだけど、宮村さんとは教師関係でトラブルに巻き込まれた仲だったし、僕も嫌な気はしなかった。今思えばこの宮村さんとの不思議な縁と小4という精神的にも微妙な年頃の時に女子と親しくしているのが拙い事ではないけど、イジメの的にするには最適だと思われる行為をしたんじゃないか。今ではそう思っている。
事の始まり新しいクラスに慣れ始めてきた5月のある日の朝だった。
「何?これ?」
僕が教室に入ると何故か黒板の前にクラスメイトが集まっていた。この日、初めて教室に入った僕は黒板に何て書いてあるのかなんて知らないし、仮に書いてあったとしても興味なんてないから何とも思わないけど、この時だけは周囲に無関心な自分を心の底から恨みたかった
「い、岩崎君……」
宮村さんは戸惑いと悲しみが混じったような視線を向けてきたけど、僕には全くもって身に覚えがなかったからそんな目で見られても困るんだけど。それが僕の正直な感想だった
「何か用かな?宮村さん」
「あ、あれって本当なの?」
「あれ?」
僕は宮村さんが指さした方向を見た。そこには『岩崎光晃は万引き常習犯』と黒板に書かれていた。ここで普通の子なら慌てふためくところなんだけど、生憎僕は普通じゃない。周囲に何の興味もないところとか。そんな事を書かれてうっとおしいなとは思ったけど。例えるなら食べ物に集るハエ。この程度の認識だった
「い、岩崎君はそんな事しないよね……?」
不安げに僕を見つめる宮村さんの目には若干涙が浮かんでいた。しかし、小4とはいえ少し考えれば解る事でしょ。僕が万引き常習犯なら4月の時点で……いや、小3の時点で問題になっている。それこそ、担任に呼び出されていてもおかしくない。
「万引き常習犯って言われてもね……これを書いたのが誰かは知らないけど、このクラスに僕が万引きしている場面を実際に見た人っているの?」
『万引き常習犯』なんて書くって事は誰かが僕が万引きしている場面を見ているはずだし、中学だと部活動とかの関係で登校時間も下校時間もバラバラだからスーパーで会う事もほとんどない。小学生の時だって習い事とかの関係で会う子と会わない子がいるっていうのに
「「「…………」」」
僕の問いかけに黙り込むクラスメイト達。そりゃそうだ。僕は万引きなんてしてないし、それに、僕はこの頃は買い出しは両親がしていたし、僕が1人で買い物に行くと言ったら本屋かゲームショップだった。だからスーパーで万引きなんて事はあり得ない。それに、本屋の店員とは顔見知りだし、ゲームショップで万引きとか……ソフトのないパッケージだけ万引きする意味は?
「だんまりか……これを書いた奴はともかく、他の子は本当かどうかもわからない事を信じたの?宮村さんも含めてこのクラスにはバカしかいないの?」
「「「…………」」」
僕の言葉に黙り込んでしまったクラスメイト達。だけど、これは氷山の一角だと気が付いた時には僕は大切な何かを失ってしまったようなした。僕の失ったものは多分、葵衣でさえ取り戻す事は不可能であろう大切なもの……
「…………」
黒板の落書き騒動から数日後、今度は僕の机に花が活けられた花瓶が置いてあった。そして、それをニヤニヤして見ているクラスメイト。ニヤついてはいないけど、見ている連中の中には宮村さんと秀義の姿もあった。そして、その中でも特にニヤついていたのが転校生の須山匠太だった。
「ふっ……」
須山の顔を見た瞬間、何となく察しがついた。僕の机に花が活けられた花瓶を置いた実行犯は誰か不明だったけど、指令を出したのは須山だ。まぁ、考えるまでもなかったけど。クラスの連中はニヤニヤしてただけだけど、須山だけはしてやったりって顔してたし
「はぁ……」
この時の僕はイジメられている。そう思った。でも、それ以上に頭を悩ませたのはこの花瓶はどこから持ってきたものなんだって事だった。元に戻そうにもその在り処がわからなかった
「岩崎君、どうしたの?その花瓶を元の場所に戻さなくていいのかい?」
厭らしい笑みを浮かべた須山が訪ねてきたけど、僕はコイツに微塵も興味なんてなかった。何が言いたいかというと────────────
「君は誰?」
クラスメイトの名前すら覚えているかどうか怪しい僕が転校生である須山の名前なんて覚えているはずがないって事だよ。
「なっ……!?き、君は俺の名前を憶えてないのかい!?」
今でも覚えている。この時の須山の真っ赤になった顔は滑稽だった
「クラスメイトもそうだけど、僕は君に興味がない。興味ない奴の名前なんて覚える必要なんてないだろ?」
名前を覚えているかいないかで言うとさっきも言ったけど、興味のない奴の名前なんて覚えているだけ無駄だから覚えていない。この時の僕の答えは当然と言ったら当然だった
「き、君は僕に興味がないのかい!?」
「ないよ。君がどこの誰だって僕にとってはどうでもいいし。それより、僕の机に花瓶を置いたのは君?それと数日前の僕が万引き常習犯だっていうあの落書きも」
「違うよ!大体、どうして俺が君の机に花瓶を置いたり、黒板に君が万引き常習犯だって落書きをしなくちゃいけないんだ?僕達は同じクラスの仲間じゃないか!」
「仲間……ねぇ……」
僕が小4で学んだ事の1つなんだけど、仲間って言葉を軽々しく使う奴は信用しちゃいけない。こういう奴は仲間って言葉を使えば誤魔化せると思っている節があるから
「そうだよ!俺達、仲間じゃないか!」
須山に仲間だと言われて何だろう?うすら寒いものを感じた
「僕はこんな事をするような集団を仲間だとは思わないけど、君がそう思いたいのならいいんじゃない?」
万引き。小学生であっても立派な犯罪だ。仮にもクラスの仲間に万引き常習犯の汚名を着せるなんて事をする連中は信用できない。それに、机に花が活けられた花瓶を置く。つまり、死者扱いする。そんな事をした挙句、それをニヤニヤして見ている連中もただ黙って見ている連中も僕は仲間だとは思わない
「うん!僕達は仲間だ!改めて自己紹介するね。俺は須山匠太!よろしく!岩崎君!」
「まぁ、1年の付き合いだけどね」
僕は『よろしく』とは返さなかった。
「みんなおはよう!」
「「「おはようございます!」」」
二枝先生がタイミングよく入ってきて花瓶騒動は幕を閉じ──────────────────
「え!?ちょ、ちょっと!どうして岩崎君の机に花瓶が置いてあるの!?」
なかった。僕の机に置かれている花瓶を二枝先生に見られてしまった。この時の僕は運がよかったのか、悪かったのか……
「僕が教室に入った時には置いてありました。この花瓶ってどこのですか?」
二枝先生がいくら若いとはいえ、誤魔化しきれるものじゃないと思い、僕は正直に話す事にしたけど、これも今では間違っていたと思っている。それは後にわかる事なんだけど
「それは男子トイレの花瓶よ!早く戻してきて!それと、朝の会は岩崎君の机に花瓶を誰が置いたのかを話し合います!」
二枝先生は言葉の使い方を完全に間違えてる。それに、僕の机に花瓶を置いた犯人なんて朝の会を使おうが帰りの会を使おうが見つかるはずがない。だって、犯人が正直に名乗り出るはずなんてないんだから
。僕達のクラスは結局朝の会の時間を使って僕の机に花瓶を置いた犯人捜しに使われた。その一部始終を話そう。
「「「…………」」」
「先生は犯人捜しをするつもりはありません。ただ、岩崎君の机に花瓶を置いた人は正直に名乗り出てください」
クラスメイト達が押し黙る中、二枝先生の声だけが教室内に響き渡る。しかし、そんな事を聞いたところで無駄な事だった。クラスメイト達が見ている中で犯人が正直に名乗り出る事なんてないんだから。
「誰も名乗り出ないのね……じゃあ、みんな机に伏せてください」
二枝先生の言う通り僕達は机に伏せた。まぁ、机に伏せさせた時点で次に何を言うかなんて決まっている
「はい、全員伏せたところで岩崎君の机に花瓶を置いた人は正直に手を挙げてください。先生は怒りませんから」
机に伏せたところで手を挙げるバカはいない。それに、怒らないって言ってる奴に限って怒る。そんなのは小4でも容易に解る事だ。でも、二枝先生は本気で犯人が正直に手を挙げるなんて思っていたならただのバカだ
「誰も手を挙げないのね……じゃあ、やった人が正直に名乗り出るまでこのままです」
僕は授業がなくなる事が嬉しくて内心は喜んでいた。でも、今は二枝先生は本気でバカだと思っている。朝の会が長くなった挙句、1時間目の授業をも潰そうとしていたんだから。犯人捜しをするとしても朝の会で見つからなかった場合、帰りの会に持ち越しにすればいい。朝の会を長引かせ、1時間目の授業を潰してまでやる事ではない。僕達のクラスは結局1時間目の授業を犯人捜しのために無駄に費やした
「もういいです。このことは帰りの会に持ち越しです」
結局二枝先生が根負けし、犯人捜しは帰りの会に持ち越しになり、無事に2時間目の授業はできたけど、ハッキリ言って1時間目の授業を潰してまで粘ったのに見つからなかったって事は帰りの会に持ち越したところで結果は同じだってどうして気が付かなかったのかな?
今回は転校生と犯人捜しの話でした
今回の光晃の担任は「犯人捜しをするつもりはありません」なんて言ってましたが、「やった人は正直に名乗り出てください」って言っている時点で「私は犯人を捜しています」って言ってるのと同じなんだよなぁ・・・・まぁ、学校の備品を壊した時に誰がやったかを探すよりも学校の備品がどういうものかとか、今回のように花瓶を置かれたならどんな気持ちになるかとかを説いた方がいいような気がする。あくまでも個人的な意見です
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




