【過去編12】僕は担任の呆れた一面を目にする
今回は担任の呆れた部分を目にする話です
こんな教師って本当にいるのだろうか?
では、どうぞ
今回は保護者説明会から1日が過ぎた日の話をしたいと思う。翌日の朝は僕達も担任も何事もなかったかのように過ごした。担任はそうせざる得なかったのか、それとも、単に神経が図太いだけなのか。今となっては知る方法も手段もない。それはいいとして、どうして1日飛んだか?それはね、この日にある事件が起こるからだよ。
「先生、トイレに行きたいんですけど……」
そう言って手を上げるのは宮村さん。最初の頃はオドオドしていたのが、今じゃ少し改善されてオドオドはしなくなった。それでも自信なさげなのは変わらないけど。
「ああ、行ってこい」
母は保護者説明会で担任が呆れた言い訳をしていたと言っていたけど、授業中のトイレを許可しているところを見ると少しは変わったのか。そう思ってしまう。しかし、これは変化ではなく、悪化だった。
「あ、ありがとうございます……」
担任に一言礼を言って教室を出て行く宮村さん。宮村さんもおそらく母親から……いや、両親から話は聞いていると思う。まぁ、生理現象には勝てないから仕方ない。この時の僕はそう思っていた。けど、担任が狂っていると知ったのはこの後の事だった
数分後、宮村さんがトイレから戻ってきた時だった。
「ん?何だ?戻ってきたのか、宮村」
「はい」
ここまでは普通の会話だ。しかし、担任のとんでもない発言はこの次だった
「1度教室から出た奴は授業に参加する資格はない。出て行け」
この言葉を聞いた瞬間、誰もが我が耳を疑っただろう。トイレは授業前に行っておくものだ。教師はみんなそう言う。年齢を重ねるとそこに子供じゃないんだからと付け加える教師もいる。しかし、児童(生徒)に出て行けと言う教師はいない。そりゃ100人いたら1人くらいはいるだろうけど
「…………」
あまりの衝撃発言に宮村さんもクラスメイト達も黙ってしまう。同時に『自分も授業中にトイレに行ったら出て行けと言われるかもしれない』そう思ってしまう子も中にはいただろう。でも、僕は他の子が思っているであろう事は思ってなかった。むしろ別の事を考えていた
「どうした宮村?聞こえなかったのか?俺は出て行けと言ったんだ」
クラスメイトが声も出ない中、担任の淡々とした声だけが教室内に響く。この時の担任は独裁者。そう呼ばれても仕方ない。
「…………」
出て行けと言われて黙っている宮村さんの目には薄っすらと涙が浮かんでいる。そして、僕はこの担任は保護者説明会で何を言われたのかは知らないけど、それでも1つだけわかった。コイツには学習能力がない。怒鳴ってダメなら怒鳴らなきゃいい。そんなわけないだろ?怒鳴ってなくてもやってる事は前と変わっていない。いや、むしろ悪化している
「先生」
「何だ?岩崎」
「先生の授業つまらないので出て行きますね」
「そうか、好きにしろ」
「はい」
僕は黙って立ち尽くしている宮村さんの手を引き、教室を出た。
「…………」
教室から少し離れたところに来ても宮村さんは黙ったままだった。
「はぁ……」
宮村さんが黙ったままなのは仕方ないとして、僕は学習能力のない担任を思い出して溜息を吐いてしまう。
「…………」
そんな僕の溜息が引き金になったのか、ついに無言で泣き出してしまう宮村さん。端から見れば僕が泣かしているようにも見える。
「無言で泣かれても困るんだけど?」
「だ、だって……だって……」
嗚咽の声を漏らしている彼女を慰める術を僕は持っていない。宮村さんだけじゃない、葵衣が同じような状況になったとしても僕はどうする事もできない。
「宮村さんが何を思って泣いているのかは知らないけど、僕は自分で決めて教室を出たんだ。宮村さんが気にする事じゃないよ」
「で、でも……」
「僕がいいと言っているんだからいいの。それに、アイツは僕のお母さんに言われた事も宮村さんのお母さんに言われた事も解ってない」
僕は保護者説明会でどんな話題でどんな話し合いがなされたかを知らないからなんとも言えなかった。だけど、授業中のトイレ禁止は止めろって言われたり、体調が悪くて保健室に行った児童を怒鳴るとは何事か!的な事を言われたと思う。さすがに思うところがあったのかそれは止めたみたいだけど、今度は1度授業を抜け出したら教室への再入室は許さないときた。試験とかならいいとして、普通の授業でやっていい事じゃない
「言われた事って?」
涙を自身の服の袖で拭いながら宮村さんが言われたことについて聞いてきた。言われた事を解ってないとは言ったけど、僕にそれを聞かれても困る。
「それは僕にもわからない。でも、少なくとも児童を大切にしろ的な事は言われたと思うよ」
「うん……」
「でも、アイツはそれをしなかった」
「うん……」
「僕のお母さんが何を言ったか、宮村さんのお母さんが何を言ったかは知らないけど、アイツはそれを守ってないって事になる」
「そう……だね……」
自分達を全て正当化するわけじゃない。でも、試験でもないのに出て行けはやり過ぎだと思う。そうなると向かう先は自ずと見えてくる
「ちょうど教室から追い出されたわけだし職員室に行こっか」
「うん……」
他の先生に見つかりでもしたら真実が見えないまま教室に戻され、曖昧なまま授業を受ける羽目になる。小学校のクラブ活動に上下関係が存在するように教員の世界にも上下関係が存在する。例え前からいた教師だとしても新しく赴任してきた教師の方が教員としてのキャリアが上なら従わざる得ない。ま、これが教頭とか、校長だと話は別だけど
「失礼します」
「し、失礼します……」
他の教室では授業をやっているため、僕達は他の教師に見つかる事なく職員室へと辿り着いた。
「おや、岩崎君に宮村さん。どうしたのかな?」
この時は運がよかったのか教頭が出迎えてくれた。宮村さんはどう思っているのか知らないけど、僕としては探す手間が省けてなによりだった
「…………」
教頭先生は事情を聞いてきただけなのに黙って俯いてしまった宮村さん。教頭先生は怒っているわけじゃないの黙るって事はきっと怒られる。彼女はそう思ったのかもしれない
「トイレから戻ったら担任に宮村さんが教室から追い出されて僕はそんな担任に嫌気が差して教室を出てきました」
「岩崎君!?」
「別に隠す事じゃないでしょ」
「で、でも……」
宮村さんは女の子だからトイレに行くと言う事が恥ずかしいのは解るけど、本来なら授業に出ている時間に職員室にいる事を説明するには宮村さんがトイレに行った事は絶対に言わなきゃいけない事だ。それに、授業前にトイレに行ってたとしてもそれでも行きたくなる時は行きたくなる
「でもじゃないよ。宮村さんにとっては恥ずかしい事だったとしてもここにいる理由を説明するには言わなきゃいけない事なんだから」
「で、でも……うぅっ……恥ずかしい……」
そりゃ本人からしてみれば恥ずかしいとは思う。でも、人間誰しもトイレに行く。それが美人でも不細工でもね
「はぁ~……」
僕達のやり取りを見て教頭は深い溜息を吐いた。それが僕達のやり取りを見たからなのか、担任に教室から追い出されたという事実を知ったからなのかは知らないけど
「ほ、ほら、教頭先生だって呆れているじゃん……」
確かに宮村さんの言う通り教頭は呆れているように見える。でも、その呆れが僕達に対してなのか、担任に対してなのかっていう真意は不明だ
「確かに、呆れてますね……岩崎君達の担任に」
「「えっ……?」」
教頭の答えは僕達にとって意外なものだった。小学校に通い始めて3年。教諭という事であれば幼稚園や保育所にもいた。でも、幼稚園や保育所ではトイレに行きたいと言えばある意味では無条件で許可されていた。特に文句を言われる事もなかった。いつまでも子供気分ではいられない。それは十分に理解しているつもりだった。でも、不測の事態ってのはどんな事をしていても必ず来るものだ
「トイレは授業前に行くものです。それでも行きたくなる時だってあります。だと言うのに……
はぁ~……」
教頭は担任よりも話が解る。いや、違うか。担任よりも長く教師をやっているといろんな児童がいる。中には授業前にトイレに行ったにも関わらず授業中にどうしてもトイレに行きたくなる子がいるっていう事を理解しているからこそなのかもしれない
「「…………」」
教頭先生の溜息に僕達は声も出なかった。小学生の僕達が何か言ったところで理解できるわけでもない。ま、今でも理解はできないけどね
「とりあえず、2人とも保健室に行ってなさい」
「「はい」」
僕達は有無を言わされない状態で保健室に放り込まれた。この時は保健室の先生がいた。そして、僕が保健室の先生って本当にいるんだと思った瞬間でもある
「はぁ……」
「…………」
「…………」
深い溜息を吐く僕と無言で座っている宮村さん。そして、なぜかニコニコして僕達を見る保健室の先生(女性)。僕達が保健室にいるのは教頭の指示だからなのはいいとして、どうして保健室の先生は僕達が入ってきた瞬間からずっとニコニコしているんだろう。その謎が解けるのに時間は掛からなかった
「いや~、あなたが噂の岩崎君か~」
どうやら教師の間じゃ僕は有名人だったみたいだけど、僕は小学校に入ってから悪い事をした覚えがなかったのでこの時、噂のと言われてもピンとこなかった
「噂の?僕は悪い事をした覚えはないんですけど……?」
自慢じゃないけど、小学校で悪さをした事なんてほとんどない。そもそも、学校内で人と関わらなかったっていうのもあるけど
「うん、岩崎君が悪い事をしたって噂は聞いてないわよ?ただ、面倒な事を起こした先生を1人転勤させたって言うだけで」
「はい?」
言われている意味が理解できなかった。面倒な事を起こした先生を転勤させたと言われても僕がそうしたわけじゃない。ただ、学校がそう決めたから転勤になった。それだけの事
「岩崎君、2年生の時の担任は覚えているかしら?」
さっきまでニコニコしていた保健室の先生は突然真剣な表情になった。ニコニコしていた人がいきなり真剣な表情を浮かべると言うのは余程の事なんだろうと思う
「は、はあ、相談に行った時にそれを忙しいの一言で片付けた女の先生だって事くらいは」
「あの先生ね、岩崎君の事が明るみに出る前から問題があった先生なんだけど、岩崎君のおかげで転勤させられる事ができたって校長先生は大喜びで先生方の間でも有名なのよ」
2年生の時の担任が何をしでかしたのかは知らなかったけど、僕が学校をサボった事が引き金になったのは確かだ。
「そうですか」
「うん」
僕達は授業時間の間、保健室で過ごした。そして、放課後……
「どういう事か説明していただけますか?」
「…………」
校長室に呼ばれた僕と宮村さん。そして、担任。本来なら呼ばれるのは担任だけでいいはずなのに僕と宮村さんも呼ばれたという事は母が言っていた事は事実だったという事だ
「黙ってたらわからないのですが?」
校長が問いただしているのは担任なのに僕まで怒られている錯覚に陥る。相手は校長。ぱっと見は初老の男性に質問されているだけだけど、校長ともなれば威厳が違った
「み、宮村が……宮村が悪いんです!宮村が授業を真面目に受けないから……」
事もあろう事に担任は罪を宮村さんに擦り付けた。この時、僕は母が言っていた呆れた言い訳と言うのを理解した瞬間だったね。これじゃ呆れるのも無理はない
「そうですか……では、岩崎君、宮村さんは授業を真面目に受けてなかったのかな?」
校長が泣きそうな宮村さんではなく、僕に宮村さんの授業態度について尋ねてきたところを見ると客観的な意見と担任は信用できない。そう思ったんだろう
「真面目に受けてましたよ?特に騒いだりする事もなかったですし。それは隣の席にいる僕が保証します」
宮村さんの授業態度については隣の席に座っている僕がよく解っている。担任が何と言おうとそれは変わらない
「嘘だ!!宮村は真面目に授業を受けていなかっただろ!?そうだろ?岩崎!!」
見苦しい……全くもって見苦しい……
「そうなんですか?」
校長の疑いの視線は僕じゃなく、担任に向いたままだった。つまり、僕を完全に信用していないけど、それ以上に担任が信用できない。そう言う事だろう
「いいえ、僕は嘘は吐いてません。嘘を吐いているのは担任であるあなたでしょ?」
僕のこの一言により、校長の担任に向ける視線はより厳しいものになり、そして、僕達は宮村さんの授業態度について聞かれた後、家に返された。こうして小3の時に起きた担任による児童冤罪事件の幕は下りたのであった。ちなみに、この事件が起きた翌日には僕達のクラスは校長や教頭、手の空いている教師達が交代で受け持つ事になったのを後日談として言っておこう
今回は担任の呆れた部分を目にする話でした。
授業前にトイレに行っておくというのは大事な事ですが、それでも行きたくなる時は行きたくなるし、これが試験でもない限り多少は許してもいいんじゃないかと思っております。ついでに言うと今回で小3の話は終わりです
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




