【過去編5】僕は担任に見捨てられた気がする
今回は光晃が初めて教師に絶望を感じる話です
今回のテーマは『たかが一回、されど一回』です
では、どうぞ
小学生の頃は教師というものをよく知らなかった。それは高校生となった今でも変わらない。いや、むしろ教師の事なんて知りたいとも思わなくなった。理由は単純に教師は口を開けば先生は忙しいの一点張りになるから。人間関係で困った事を相談しに行った時に言われる事が多いけど、相談している方からしてみればおんぶにだっこ状態になりたいわけじゃない。ただ、現状を何とかしてくれればそれだけでよかった。
「1年生の時もそうだったけど、この時期になると静かに本を読める時間が減るような気がする」
この頃は自分がどうして教育実習生に絡まれるのかが理解できなかった。別に悪い事をしているわけじゃない。ただ、他の子が外で友達と遊んでいる時、僕は教室に残り1人で本を読んでいる。ただ、それだけだった。高校生となった今では何となく自分がどうして教育実習生に絡まれてたのか、いや、どうして絡まれるのかが何となく理解できる。単純に教師もそうだけど、みんなと仲良くできない奴が気に入らない、自分の思い通りにならない奴が気に入らない。多分、こんな理由だ。
「はぁ、教室じゃなくて図書室に行ってたらいいのかな?」
教室で本を読んでいるから実習生に絡まれる。じゃあ、図書室に行って本を読んでたら絡まれない。当時の僕はそう考えた。そして、その考えに至ってから行動に移すのに時間は掛からなかった
「じゃあ、これで終わります。日直さん、あいさつしてください」
「きりーつ、れーい!」
日直の号令と共に児童達は体育館に行く者、グラウンドに行く者とそれぞれ教室から出て行った。もちろん、僕も図書室に行くために教室を出る。これなら実習生も僕に絡んでくる事はない。この時の僕はそう思っていた。しかし、その考えが甘かった
「岩崎君!こんなところにいたのか!さぁ!みんなと一緒に遊ぼう!」
教室で本を読んでいるから絡まれる。それならば図書室で本を読めばいい。そう思った僕は図書室に来た。図書室なら実習生に絡まれる事もないだろうと思ったからだ。しかし、どうして実習生は図書室まで来たんだろう?これは今思い出しても疑問に思う。どうやって僕が図書室にいる事を突き止めたかはどうだっていい。問題なのはどうして図書室にまで来て僕に絡んでくるかだ
「先生、ここは図書室なのでお静かに。それと、僕は1人で本を読んでいる方が楽しいので放っておいてください」
これ以上絡まれるのも面倒だと思った僕は足早に図書室を後にしようとした。しかし、図書室を去ることは叶わなかった
「待つんだ。君は1人で過ごしていて楽しいのか!?みんなと一緒に遊んだ方が楽しいだろ?」
コイツが僕の何を知っている?ついこの間まで一介の大学生だったコイツが一体僕の何を知っているというんだ?この時、僕は初めて教育実習生というものに嫌悪感を抱いた。知りもしないのに知ったような口を利き、口を開けばみんなと一緒に遊ぼうしか言わない。みんなって誰だ?どうしてみんなに拘る?
「うるさいなぁ……アンタが僕の何を知ってるの?」
「えっ?」
僕の問いに驚く実習生。しかし、僕は止まらない。
「僕の事を何も知らないクセに知ったような事を言わないでよ!ウザいんだよ!」
図書室では静かにする。こんな当たり前の事も周囲の注目を集めている事も忘れるほど僕はこの実習生を疎ましいと思った。そして、これが教育実習生に初めて反抗した瞬間だった
「あ、いや、僕はそんなつもりで言ったんじゃ……ただ、岩崎君がみんなと仲良くできたらいいと思って……」
「大きなお世話だよ!僕は1人でいる方が楽しいから放っておいてよ!」
幼稚園の頃からそうだったけど、僕はみんなと何かするよりも1人でいた方が楽しい。別にイジメられてるってわけじゃなかったけど、友達が欲しいとも思わなかった。両親が共働きだから1人でいる事なんて僕にとっては普通の事だった。だからと言って集団で何かする時は特に問題を起こしたりしなかった。それこそ、秀義とは幼稚園の頃からの付き合いだけど、秀義も『いざという時の光晃は頼りになるし、みんなといるのが苦手な光晃に無理はさせん!』と熱血キャラ顔負けの暑苦しさで認めてくれた。それに、テレビゲームをする友達くらいはいる。そんな僕が学校にいる時まで集団で遊ぶ必要があるのか?
「そうはいかない!僕だって先生を目指す身だ!君みたいな孤独な子を放ってはおけない!」
孤独……確かに僕は今も昔も学校では孤独かもしれない。だけど、家に帰ればそうではない。結局この実習生は僕の学校での一面しか見ていない。そんな奴が教師になるだなんて今思い返すと笑える。
「しつこい!僕の事は放っておいてよ!」
「あっ、岩崎君!」
僕は実習生を振り切り、その場を後にした。そういえば、あの実習生は今頃教師になっているのかな?まぁ集団の中にいる事が苦痛だと感じたり、そもそもが集団の中にいるのが苦手な子がいるという事実を認められない事を考えると教師には向いていないと思うけど……
「本当にしつこいなぁ」
小学生の頃は何かあるとすぐに先生に言う。これが暗黙の了解となっていた。自分達で解決できる問題は先生に頼らなかったけど、小学生に解決できる問題なんてたかが知れている。当時の僕はまだ小学校2年生。同級生と喧嘩したのであれば先生に、先生に何かされたのであれば両親に言うしかできなかった。そうなると必然的に僕の行く先は決まっている。そう、僕が行く場所は────────────────
「失礼します」
職員室しかない。高校生になり、真理姉さんが教師となった今では程度の低い教育実習生や教師なら普通に言い返せる。でもそれは真理姉さんのおかげで指導案や教師の仕事等を多少知っているからであって小学生の頃はそんな事知る由もない。僕は教師を頼る他なかった
「どうしました?岩崎君」
「あ、先生、実は────────────」
僕は図書室であった事を全て話した。心のどこかで僕は先生なら助けてくれると思っていたのかもしれない。今じゃありえないけど
「そうですか。ですが、岩崎君」
「はい」
「先生は忙しいんです。それくらい自分で何とかしなさい」
「えっ……?」
小学校2年生の僕からしてみれば衝撃的な言葉が担任の口から出た。思い返せばこの担任が僕が教師嫌いになるキッカケになったんだと思う。教育実習生の先生がしつこく絡んできますって具体的に何をされたかまで言ってるのに“先生は忙しい”で片づけるバカがどこの世界にいるだろうか?僕はこの時、担任に裏切られた感覚に陥った。今思えば小学校2年生の時の担任は真面目堅物キャラだったけど、仕事はできなかったんだと思う
「聞こえませんでしたか?先生は忙しいんです。それくらい自分で何とかしなさい」
そこから僕はどうやって過ごしたか覚えてない。ただ、担任に切り捨てられた。その事実だけが頭の中をグルグルと回っていた。
「ただいま……」
僕が帰宅のあいさつをしても返事は返ってこなかった。両親は共働きで真理姉さんは高校。僕が家に帰っても誰もいないのは当たり前だった。だからと言って寂しかったか?と聞かれれば別に寂しいなんて事はなかった。
「ゲームしよ……」
僕は部屋に戻ってランドセルを片付けるわけでもなく、ソファーの上に放り投げ、テレビとゲーム機を点け、ゲームを始めた。教育実習生に絡まれた事も担任に切り捨てられた事も忘れて。端から見ればたかが1回教師に冷たくされたくらいで凹むだなんて情けない。そう思うだろうけど、小学校2年生の僕からしてみればこの1回がデカかった。
『たっだいま~!光晃~!』
玄関の方から真理姉さんの声がした。今でこそ落ち着いたけど、この頃は常にハイテンションだった。とは言っても叔父さん達が亡くなって間もない頃はしばらく落ち込んでいたけど。常にハイテンションなのもそうだけど、この頃の真理姉さんは僕に強く言うなんて事はしなかった。今でもそうだけど、真理姉さんは寂しがり屋だ。特に近しい人間が突然いなくなる事を極端に嫌う。
「…………」
ハイテンションで帰ってきた真理姉さんのあいさつを無視し、僕はゲームを続ける。教育実習生に絡まれ、担任に相談してもろくに取り合ってもらえずで散々だった。児童(生徒)を裏切るような真似をする教師は最低だと思う。まぁ、教師にとって児童(生徒)を裏切る事なんて取るに足らない事だと思っているみたいだけど、児童(生徒)からしてみれば堪ったもんじゃない。特に、小学生の頃に教師から受けた扱いが基盤になり、それが原因で教師が嫌いという人も少なくない。僕の勝手な推測だけど。そんな絶望的ともいえる状態の僕は真理姉さんに構っている余裕なんてあるはずがなかった
「光晃いるじゃん!」
「…………」
リビングのドアが開き、真理姉さんが姿を現す。だけど、僕はそんな事お構いなしにゲームを続ける。
「光晃!お姉ちゃんにおかえりは?」
「ん?ああ、おかえり」
真理姉さんに抱き着かれたので仕方なく返事をする。真理姉さんは学校に来ている教育実習生よりも僕と一緒に長い時間いる。それも相まってか抱き着く真理姉さんに対し、負の感情は出ない。今の真理姉さんは教師という職業をしているからハッキリ言って側にいるだけでも不快だ。特に家でも時々出る命令口調でものを頼む姿は学校の教師そのもの。あの口調でものを頼まれると身内と言えど殺意が沸く。何回も殺してやろうかと思ったけど、身内のよしみで許してやった。今の僕にとって教師というのはそれくらい大嫌いなものになっている
「どうしたの?元気ないけど、学校で何かあった?」
「…………別に、何もないよ」
高校生の真理姉さんに相談したところで問題解決にはならない。特に学校でのトラブルに関しては高校生であり、従姉でしかない真理姉さんに言うよりも両親に言った方がいい。高校生になったから言える事だけど、小学生の僕はそんな考えではなく、純粋に真理姉さんに心配を掛けないようにという事だけを考えての発言だった。
「そう。でも、何かあったらすぐに相談してね?」
「うん……」
その後も真理姉さんは何も聞かずに普段通りに接してくれた。そして、小学生ながら僕はある決断をした。高校生の僕が葵衣の教育実習初日にしたある事をする決断を…………
今回は光晃が初めて教師に絶望を感じる話でした
今回のテーマは『たかが一回、されど一回』でした。今回の話を読んでいて『たかが一回突き放されたくらいで大袈裟な』と思った方もいらっしゃると思います。ですが、その一回が意外と重かったりするものだったりもします。教師は忙しいというのも理解できないわけじゃないのですが・・・・
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




