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【過去編2】僕は約束する

今回は幼き頃の約束の話です

葵衣が実習中に家出した光晃を連れ戻す際に真理が言ってた約束。その約束がどんな経緯で交わされたものか

では、どうぞ

 幼い頃ってその言葉の意味もよく知らずに使っている事が多いと思う。例えば“死ね!”って言葉は特撮とか、アニメやバラエティー番組で出てきて使う。そんなような子がクラスに1人はいたと思う。僕も叔父さん達が亡くなったと言われてもピンとこなかったし。まぁ、小学校1年生に叔父さん達が死んだと言ってもよく解らないと思うけど


「お母さんと真理お姉ちゃん大丈夫かな?」


 この頃の僕は人の死について何も知らない子供だった。だから、真理姉さんと母がどんな話をしているか知らないし、聞いても『子供には関係ない』と言われるのがオチだった。まぁ、今もそう思うけど、大人なんて勝手な生き物だ。


「気になるなぁ……」


 真理姉さんが寝ているベッドに寝転び、どんな話をしているのかを考えるけど、小学生の頭じゃどんなに考えても答えは出ない。それもそのはずだ。遺産がどうとか、家を売るのかとかの話は小学生には難しすぎる


「光晃、大人しくしてた……?」


 元気のない真理姉さんが入ってきた。僕の部屋なら小言の1つでも言ってやるところなんだけど、この部屋は僕の部屋じゃなく、真理姉さんの部屋だ。自分の部屋にノックして入る奴なんていない事は幼かった僕でも解る


「う、うん、それより、真理お姉ちゃん、泣いてたの?」

「ん?どうして?」

「目が赤いから泣いてたのかなって思った」


 真理姉さんの目は真っ赤に腫れていたから泣いてたんだろう。高校生の僕なら聞くまでもなくそう結論づけるけど、当時の僕は小学生。思った事がすぐに口に出てしまう


「そんな事ないよ?ちょっと目にゴミが入っただけだよ」


 真理姉さんは明るく振る舞っている。だけど、無理しているのは小学生でもわかるよ。今もそうだけど、子供……いや、従弟の前でくらい無理しなくてもいいのに無理して明るく振る舞う。高校生の頃の真理姉さんはそうだった。今は僕が家出しただけで情緒不安定になるくらいだけどね


「そう……」


 僕は『どうして何も言ってくれないんだろう?』とは思わなかった。言われたところで小学校1年生に何かができるわけもない。


「うん……でも、少しだけこうしていていいかな……?」


 真理姉さんは僕を抱きしめてきた。真理姉さん、バレてないと思ってるだろうけど、声を押し殺して泣いてるのバレバレだからね?


「いいよ」


 幼く無力な僕は真理姉さんにされるがままだった。いつもなら抵抗するんだけど、泣いてる真理姉さんを邪険に扱う事はできなかった。


「光晃……今だけは弱いお姉ちゃんを許してね?」

「別に僕はお姉ちゃんに強くいてほしいなんて言ってないよ?」


 僕は真理姉さんに常に強くいてほしいとは一言も言ってない。教師である今も常に強くいろとは言ってない。ただ、どうして自分の授業をサボるのかとか、居眠りしている生徒に対して怒鳴りつける指導じゃなくて居眠りされる原因を考えろとは常々言っているけど


「うん、そうだね……でも、姉は弟の前じゃカッコ悪いところを見せたくないんだよ」


 未だに理解できないけど、年上だから年下に甘えちゃいけないっていう決まりはない。年上が年下に甘えてもいいじゃないか。それなのにどうして年上だからカッコ悪いところを見せちゃいけないとかっていう思考に至るんだろう?


「別に僕はカッコ悪くてもいいと思うよ?泣きたい時は泣いてもいいんじゃない?」


 我ながら小学校1年生の言葉とは思えない言葉だと思う。だけど、年上が年下に甘えちゃいけないって法律はない。文句を言う人間もね


「で、でも、私はお姉ちゃんだから弟である光晃に甘えるわけには……」

「じゃあ、僕を抱きしめるの止める?」

「やめない……」

「じゃあ、泣きたいなら泣いてもいいんじゃない?ここには僕と真理お姉ちゃんしかいないし」

「う、うん……じゃあ、ちょっとだけ……」


 そう言うと真理姉さんは幼い僕を思いっきり抱きしめ大声で泣き始めた。まるで溜まっていたものを吐き出すように声を上げ、目からはダムが決壊したかのように涙が止めどなく流れていた。今もそうだけど、幼い頃の僕はこの涙を止める方法を知らないし、真理姉さんがどうやったら笑顔になるかも知らない


「真理お姉ちゃん……」


 僕は真理姉さんの名前を呼ぶしかできない事にこの頃は歯がゆさを感じていた。


「私……独りぼっちになっちゃった……お父さんもお母さんも私を置いていなくなっちゃった……ねぇ、光晃。私、独りぼっちになっちゃったよぉ……」


 独りぼっちか……昨日まで普通に生活して、普通に笑っていた家族がいきなりいなくなったらそう思うのも無理はない。高校生の真理姉さんが孤独になったと思うのも当たり前の事だ


「お姉ちゃんは独りじゃないよ」

「え?」


 涙で顔をグチャグチャにした真理姉さんが顔を上げて僕を見た。今でこそ自分の生活には多くの人が関わっている事を知っている。シャツ1枚でも多くの人が関わっている。だけど、僕がそんな考えに至ったのは後になっての事だ。幼い僕はそんな考えはなかった


「僕がお姉ちゃんの側にいるじゃない。だから、お姉ちゃんは独りじゃないよ」

「光晃は本当に私の側にいてくれるの?」

「うん。ずっと側にいてあげる!結婚してもおじいちゃんになってもね」

「約束してくれる?」

「何を?」

「ずっと私の側にいてくれるって」

「うん」


 目の前で泣いている真理姉さんを見て僕は『ずっと側にいる』って約束した。だけど、僕はその約束を破ろうとした。北南高校の教師に嫌気が差して家出したし、女装が嫌で失踪に近い事もした。今の僕は真理姉さんとの約束を守っているのかと聞かれればそうだとは言い切れない


「約束。光晃はどんな時でも私の側を離れないでね」

「うん!約束」


 幼い頃は純粋だった。多少、口が悪かったとしても幼い時の僕は人を信じようと思った。そう、幼い頃は誰だって純粋だ。真理姉さんと『ずっと側にいる』って約束をするくらいにはね


「光晃、ずっと側にいてね……もう独りぼっちは嫌だから」

「うん!」


 泣き止んだ後、真理姉さんは僕を抱きしめたまま独りは嫌だと言った。この約束を大人になり、教師になった後も覚えているだなんて律儀なものだと思う。今はそう思うけど、もしかしたらいきなり両親が亡くなって精神的に不安定になっていた。だから、子供だった僕に縋ってでも孤独になる事を避けたのかもしれない


「さて、じゃあ、美波さんのところへ戻ろっか」

「うん!」


 真理姉さんはしばらく僕を抱きしめた後、僕を連れて母のところへと戻った。許嫁問題で僕は母と縁を切った。しかし、真理姉さんは違う。両親と死別してしまった。会いたいと思っても会えない。だけど、僕は違う。父に連絡さえすれば父に会う事ができる。僕が許せば母とも関係を修復できるかもしれない。そんな気ないけど


「あら、真理ちゃんもういいの?」

「はい、ご心配お掛けしました」

「いいのよ。ご両親が亡くなったんですもの」


 この日、父が後から合流し、僕達は早めに寝る事となった。そして、後日、真理姉さんのご両親の葬儀が執り行われ、終わった後で親戚一同が集まり、真理姉さんの処遇をどうするかを話し合ってたみたいだけど真理姉さんが『光晃は私の側にずっといてくれるって約束したんで光晃の家に行きます』という一言で真理姉さんは家に住む事になったらしい。らしいというのはこの時、僕を含めた子供達は別室で各々過ごしてたから詳しい話を知らない。そして、時は進み、真理姉さんが家に住み始めた日の夜の事


「真理お姉ちゃんは自分のお部屋があるのにどうして僕の部屋にいるの?」

「光晃は私とずっと側にいてくれるんでしょ?一緒に寝るくらいいいでしょ~?」

「いや、ずっと側にいるって約束したけど、一緒に寝る事はないと思うんだけど……」

「私と一緒に寝るの嫌?」

「いや……じゃない」

「じゃあ決まりね!」


 そう言って真理姉さんが僕のベッドに入ってきた。強引なのは高校生の頃から変わってない。ただ、教師になってその強引さを出されると平穏な学校生活、退屈で居眠りするような授業をサボったら力にものを言わせて無理矢理にでも出席させる。高校生の頃の強引さなら可愛いものがあったけど、教師になったらうっとおしい


「はぁ、何しても怒らないでね?」

「な、ナニって何する気なの!?」


 真理姉さんは何を考えてたんだろう?いや、小学校1年生の僕に何を期待したんだろう?真理姉さん世代の高校生の考える事はよく理解できない


「真理お姉ちゃんが何を考えているかは知らないけど、寝ぼけて蹴飛ばすかもしれないから言ってるの」

「別にナニしても光晃なら許しちゃうよ~?」


 この教育に悪い女子高生が教師になっているんだから世の中は何が起こるかわからないものだと思う。


「眠いからもう寝るね。おやすみ、真理お姉ちゃん」

「あぁん、いけず~」


 何がいけずなのかは知らないけど、小学校1年生の僕は色気よりも眠気の方が強かったみたいですぐに眠りに就く事ができた。


 その日、僕は真理姉さんと一緒に寝たからなのか、心地よい夢を見る事ができた。真理姉さんの胸に顔を埋める形で寝ていたからかな?いや、そんな事ないか。小学校1年生で『女子高生の胸……グヘへ』とか言ってる奴なんていないか。多分


「やわらかい……」


 僕は柔らかい感触により目が覚めた。葵衣が実習中にも似たような事があったけど、僕は年上の女性と一緒に寝ると高確率で柔らかい感触で目が覚める。幼い頃から僕はそういう運命にあるらしい。


「光晃、お♡は♡よ♡う」

「おはよう真理お姉ちゃん。それより、暑いから離れてくれない?」

「え~」

「え~じゃないよ。暑いよ……」


 高校生の僕は遅刻するとか言えるけど、小学校1年生の僕は遅刻という言葉をまだ知らなかったから暑いしか言えなかった。まぁ、この頃の僕はまだ小学校に入学して間もなかったから仕方ない事なんだけど。しかし、この時の真理姉さんは邪険に扱えなかったっていうのもあった。



今回は幼き頃の約束の話でした

自分を独りだと言う真理にずっと側にいると約束した光晃でしたが、家出する事2回。その約束が守られているかは正直、微妙なところです

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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