【教育実習実施前編1】私は実習校について悩む
今回から光晃じゃなく、葵衣が主役です
葵衣は実習校について悩むようです
では、どうぞ
これは私、水沢葵衣が岩崎光晃と出会う前、つまり、教育実習に行く前の話。私は自慢じゃないけど、要領がいい方じゃないし、誰とでも仲良くなれる自信もない。私は全てにおいて自信がない……でも、私は教師になる為に教育実習に行く!!行くのはいいんだけど……
「はぁ……実習校どこにしよう……」
私は今、実習校をどこにしようか悩んでいた。北南大学はそれなりに有名なのでどこの高校で大学の名前を出しても『あぁ、北南大学ね』って言われるから楽っちゃ楽なんだけど……
「『大学の看板を背負って実習に行くという自覚を持ってください』って言われたらプレッシャーになるよぉ~」
教育実習の講義で言われた事がプレッシャーになる。教育実習に行くという事は私が北南大学の代表みたいな感じになっちゃう。だから、実習先の教員との間にトラブルなんて起こせないし、下手な事を言えば教育実習打ち切りにもなりかねない。
「憂鬱過ぎる……」
中庭ベンチで1人愚痴る。実習先にこんなに悩むとは思わなかった
「おーい!葵衣ー!」
遠くから私を呼ぶ声がする。今は実習校をどこにするか悩んでいる私に返事を返す余裕なんてない
「おーい!葵衣ー!聞こえてるー?」
はぁ~、本当は返事をする余裕すらないけど、ちゃんと返事しなきゃ……
「聞こえてるよー!美咲ちゃーん!」
羽山美咲ちゃん。私が北南大学に入学して最初に仲良くなった子で私の1番の友達。私は北南高校からエスカレーター式で北南大学へと入学してきたけど、彼女は他所の高校からこの北南大学に入学してきたらしい。そんな美咲ちゃんがキャンパス内から私の方へと駆け寄ってきた
「葵衣ー、返事くらいしてよねー」
「ご、ごめん……ちょっと考え事してて呼ばれた事に気が付かなかったんだ」
私が言う考え事というのは言うまでもなく、実習先の高校の事。美咲ちゃんも同じ社会科・公民で来年、教育実習に行くはずだけど、悩んでいると感じない
「葵衣の考え事って実習先の学校の事?」
「うん……」
さすが私の友達だけあって何も言わなくても解るみたいだけど、美咲ちゃんは実習校を決めたのかな?
「じゃあ、私と一緒に北南高校で教育実習受けない?」
「えっ……?」
「だーかーら!私と一緒に北南高校で教育実習を受けないかって聞いてるの!どうせまだ実習校を決めてないんでしょ?」
「うん……」
実習先の学校の事を考えてるって見破られた時点で実習校が決まってないって言ってるのと同義だけど、一緒の学校で教育実習を受けようと提案されるとは思わなかった
「じゃあ、いいじゃん!北南高校で私と一緒に教育実習受けよ?」
「うん」
私は美咲ちゃんと一緒に教育実習を北南高校で受ける事を大学側に伝えに行った。それにしても北南高校かぁ……知っている先生がまだいるといいけど……
実習校が決まってからは早かった。必要な書類も1週間以内に手元に来たし、内諾の約束も取り付けた。そして、今日がその約束の日
「き、緊張するなぁ……」
いくら自分の母校とはいえ、私が在学中にいた先生がいるとは限らないし、変な先生とかいたらと不安になる。その先生が来年には転勤とかしてくれてたらいいけど……
「葵衣、緊張しすぎだよ。自分の母校なんだし、もうちょっと肩の力抜いてもいいんじゃない?」
ガチガチに緊張している私とは反対に緊張感の欠片も感じない美咲ちゃん。美咲ちゃんはもう少し緊張感を持った方がと思うんだけど
「美咲ちゃんは緊張感がなさすぎるんだよ!」
「いやぁ~、それほどでもぉ~」
「褒めてないからね!?」
どこかの幼稚園児みたいに照れる美咲ちゃん。だけど、どこに照れる要素があったんだろう?
「まぁまぁ、とにかく、ちゃっちゃとあいさつ済ませちゃおっか?」
「そ、そうだね」
玄関で言い合ってたらいくらスーツで来ているとは言っても不審者に間違えられかねない。意を決して私はインターホンを押した
『はい、職員室です』
「私、北南大学3年の水沢葵衣と申します。教育実習の内諾の件で窺ったのですが」
「同じく、北南大学3年の羽山美咲です」
『わかりました、今開けますね』
鍵が開いた後、私と美咲ちゃんは学校内に入り、職員室へと向かった。
「「失礼します」」
扉をノックした後、私達は職員室へと入る。何人か知らない先生がいる。だけど、知っている先生の方が多かったので安心した
「北南大学3年の水沢さんと羽山さんだね?」
「「はい!」」
私達に声を掛けて来てくれたのは女の先生。この人は私が在学中にはいなかった人だから、私が卒業した後できた先生かな?
「今、教頭を呼んでくるから。少し待ってて」
普通なら例え学生と言えど敬語を使うと思うんだけど、あの人は敬語を使わなかった。なんて言うか、立ち回りが男らしい人。初対面ながらそんな印象を受けた
「「はい」」
教頭先生が来るまでの5分間。その5分が私にはとても長く感じられた。内諾活動だけでこんなに緊張してたら研究授業の時に私は失敗するんだろうなぁ……
「お待たせしました。教頭の黒田です。ここではなんですから会議室へどうぞ」
「「はい」」
私達は会議室へと通された。
「それで、来年、我が校で教育実習をしたいという事ですが、いつ頃がいいとかは決まってますか?」
「私は7月頃を希望してるんですけど……」
「私もです」
私達は7月頃を希望している旨を伝える
「そうですか……まぁ、水沢さん達の前に来た学生も7月頃を希望してましたし、わかりました。7月頃でスケジュールを組みましょう」
「「ありがとうございます!」」
こうして私達の内諾活動は特にトラブルとかなく、終了した。これで一応、来年、教育実習ができるようになった
「トラブルなく内諾活動が終わってよかったね。美咲ちゃん」
「うん!」
教頭先生にあいさつをし、会議室を出た私達は無事に内諾活動を終了させた喜びに浸っていた。
『岩崎!!お前は教師に対して敬語も使えないのか!!』
学校を出ようと歩いている途中、男性の怒鳴り声が廊下一帯に響いた。どうやら岩崎って生徒が怒鳴られているみたいだけど、その生徒は目上の人に敬語を使えないのかな?
『学校は教師の為に存在するわけじゃない。そもそも、僕は自己紹介で必要以上に絡むなと伝えたはずですだけど?それを無視して必要以上に絡んできたのはアンタだ。親に教わらなかったの?人の嫌がる事をするなって』
生徒指導室から聞こえる岩崎という男子は怒鳴っている先生とは対照的で怖いくらい冷静だった。
『黙れ!仮にそうだとしても教師には敬語を使えと親に教わらなかったのか!』
『目上の人に敬語を使うようには教わったけど、アンタは目上の人間ってよりも身体だけ大人になっただけの子供でしょ?そんな奴にどうして敬語なんて使わなきゃいけないの?子供じゃないんだから自分の言い分が通らないからって怒鳴ったり自分の立場を利用して意見を押し付けるの止めてくれない?』
『岩崎ッ!貴様……!』
男性教師が何か言ってるみたいだけど、私は生徒指導室の前を通ったのはほんの一瞬だからそれ以上は聞こえなかった
「なんかスゴイ生徒がいたね」
「うん……」
帰り道、私達の話題に上がったのは生徒指導室で怒鳴られていた岩崎という男子生徒の事だった。今の時代、教師よりも保護者の方が権力を持っていると言っても過言じゃない時代に怒鳴られている生徒が珍しかった
「岩崎って男子生徒が来年には卒業してくれているといいけど、在学してたらたまったもんじゃないよねー」
「そうだね……私はあんな事を言われたら言い返す自信がないよ」
「私も……」
来年、教育実習に行って岩崎という男子生徒に関わらなければいけなくなった時、私達は岩崎という男子生徒を怒らせたりしたら何を言われるか……今から不安だよぉ
「私達が実習に行く時、岩崎君だけは怒らせたりしたらいけないね」
私は本能的に岩崎君を怒らせたりしちゃいけない。そう思った。
「うん。話している声だけしか聞こえなかったけど、怒鳴っている教師に対して一歩も引いた様子がなかったからきっとそれなりに弁が立つみたいだしね」
どうやら美咲ちゃんも同じ事を思っていたみたい。
「「はぁ……」」
問題なく内諾活動が終わってよかったと安心していた。だけど、問題児がいたからプラマイゼロ
「私は岩崎君と絶対に関わり合いたくない」
「わ、私は関わりたくないとは思わないけど、怒らせたくはないかなぁ……」
美咲ちゃんはうへぇという顔をしていた。本気で関わりたくないみたい。だけど、私は関わりたくないとは思わないけど、怒らせてはいけないと思った
「葵衣、頭大丈夫?あんな問題児に関わってたら碌な事ないって!」
美咲ちゃんの言っている事は実習校の中では絶対に言えない。仮にも教師を志すならどんな生徒でも真剣に向き合わなければならないと私は思うけど、美咲ちゃんは違うみたい
「問題児でも教師なら真剣に向き合わなきゃいけないと思うし……」
「そりゃそうだけどさ……」
ちゃんと関わったわけじゃないから岩崎君がどんな生徒かは知らないけど、教師に反抗するからと言って無視するわけにはいかない。
「「はぁ……」」
関わりたくないとは思わないけど、問題児がいるかもしれないというのは今から気が重い。私達は2人揃って深いため息を吐くしかできなかった
今回から光晃じゃなく、葵衣が主役でした
今回は実習先を悩むところから内諾活動まででした。内諾活動については学校へのご挨拶と実習期間を決める為の打ち合わせ程度に思って頂ければ幸いです。ちなみにですが、葵衣達のは一部の例として見て頂ければ嬉しいです。
今回は最後まで読んで頂きありがとうございました




