【許嫁問題編5】僕は親子の縁を切る
今回は親子の縁を切る話です
自分が親の世話にならなきゃ生きていけない立場だって事を自覚している光晃ですが、譲れないものがあるようです
では、どうぞ
父から元・母は3日後に来ると言われ、僕は3日間待った。その日の間に優奈から亜優美に元・母は3日後、日本に来るという事を伝えてもらい、亜優美も3日後に来るという事を伝えられた。そして、今日はその3日後だ。
「「…………」」
現在、僕と真理姉さんが住む家のリビング。無言で俯く元・母と亜優美。そして、何か言おうと必死に言葉を探している様子の葵衣、何も言わずにただ事の成り行きを見届ける真理姉さんと紅葉さん。不安そうに元・母達を見つめる優奈。そして、元・母達に対して全く興味がなく、利用価値がなくなればすぐにでも切り捨てようと考える僕。自己紹介もまだ済ませていない人間達が同じ部屋に一堂に会しているという状況は中々ない。ちなみに、座っている配置は僕の右横に優奈、左横に葵衣。対面に元・母、その隣に亜優美。そして、右側に真理姉さんと紅葉さんが座っている
「僕は全員の名前を知っているけど、それ以外は実質初対面みたいなものだから自己紹介くらいしたら?」
僕は気まずさを感じたから自己紹介を促したわけじゃなく、純粋に僕以外の人間は特に接点がないと感じたから自己紹介しろと言っただけ。ここでこの場にいる人間の関係を整理しておくと、僕と真理姉さんが従姉、僕と葵衣は恋人、僕と優奈は許嫁、僕と紅葉さんは一応、生徒と教師。元・母、亜優美とは敵同士。僕を中心にしたらこの場にいる人間全員と関わりがある。だけど、僕を除外すると親しい間柄の人間もいるだろうけど、ほぼ接点がないと言える
「光晃?」
意外そうな顔で僕を見る葵衣。僕だって誰と誰に接点があって誰と誰に接点がないかくらいは理解している。葵衣にとっては優奈、真理姉さん、紅葉さん、ギリで亜優美との接点はあっても元・母とは接点がないし、優奈にとっては葵衣、亜優美とは接点があっても真理姉さん、紅葉さん、元・母とは接点がない。真理姉さん達の人間関係は説明が面倒だから省くけど、僕が間に入らなければ接点がある人とない人があからさまになってしまう判明してしまうとだけ言っておこう
「何?僕が自己紹介を促すのがそんなに意外?」
「う、うん、光晃がそんな事を言うとは思わなかった」
「別に僕はこの場にいる人間の関係がどうなろうと知った事ではないけど、名前を知らなきゃ話し合いにもならないでしょ?」
別に僕はこの話し合いが終わってからここにいる人間の関係がどうなろうと知った事ではない。興味もないし
「そ、そりゃ、そうだけど……自己紹介している間、光晃はどうするの?」
どうするとはどういう事だろう?
「どうするって?」
「この場にいてくれるの?」
この場にいる……か。別にこの場にいてもいなくても僕はどっちでもいい
「別にどっちでもいいよ。ここにいてもいいし、いなくてもいい。まぁ、強いて言うなら自分の都合で恋人と別れろだなんて言う人間とは同じ空気を吸いたくないけど、葵衣が不安だって言うならここにいる」
葵衣がいなければ僕はこの場をすぐにでも立ち去っている。僕はそういう人間だ。
「じゃあ、不安だからここにいて」
「わかった」
葵衣が不安だって言うからこの場にいる事を決めた。僕がこの場に留まる理由は葵衣に言われたからであって僕の本意ではない
「そ、それでは、どなたから自己紹介しますか?」
真理姉さんが控えめに聞く。しかし、その問いかけに答える者は誰もいない。元・母と亜優美は『勝手に彼女なんて作るな』と思っているだろうし、真理姉さんは『どうしてこんな事に』と戸惑っているだろう。葵衣と優奈は『どっちが選ばれるんだろう?』とか思っているだろう。紅葉さんは『妹と付き合う前に許嫁の事くらい確認しとけよ』と思っているだろう。だけど、これらは僕の推測に過ぎない
「だ、誰もいないようなので私から自己紹介させていただきますね」
最初に名乗りを上げたのは以外にも葵衣だった。葵衣の自己紹介が済み、その次に優奈、その次に真理姉さんといった感じに自己紹介が進み、いよいよ最後は元・母を残すのみとなった。
「さて、残るは光晃のお母さんだけですね」
部屋の空気がピリピリしている中、葵衣が元・母に話を振る。僕としては許嫁問題さえ解消されればそれでいい。元は母親同士が勝手に決めた結婚だ。そんなものに僕が付き合う必要なんてない
「そうね。私は岩崎光晃の母の岩崎美波よ」
僕の母を名乗るのはハッキリ言って虫唾が走るけど、書類上は母だからこればかりは仕方ない。まぁ、僕は母だなんて思ってないけどね
「さて、全員の自己紹介が済んだところで許嫁問題に取り掛かりたいんだけど、僕は優奈の事は嫌いじゃないけど、だからと言って結婚したいほど好きってわけでもない。それに、僕には葵衣っていう彼女もいる」
僕は自分が優奈をどう思ってるかと現状を簡潔に伝える。ここでハッキリ迷惑だと言えば簡単なんだけど、それだと優奈を傷つける可能性があるの
「そう。でも、光晃には葵衣ちゃんとは別れて優奈ちゃんと結婚してもらうわよ」
僕の元・母である美波が口を開く。だけど、その言い分は自己中なバカそのものだ。北南高校の……いや、世の中の傲慢な教師と言っている事は何ら変わらない。電話では謝ってたのに対面になった瞬間、傲慢になるだなんてバカそのものだ
「僕は葵衣と別れるつもりはないし、それに、優奈と結婚するつもりもないよ?それでもアンタは僕に優奈と結婚しろと言うのか?」
「そうよ。それが私と亜優美ちゃんの夢だもの」
夢か……夢って都合のいい言葉だと思う。夢と言えばある程度の事は許されると思っている。だけど、夢だから自分の子供とその交際相手を傷つけていいという理由にはならない
「それはアンタ等の夢であって僕には関係ないし、それに、丈一郎さんの方はともかく、父はアンタを少し好き勝手にやらせ過ぎたと嘆いていたよ。アンタの言っている事としている事はそれくらい自己中だって事は理解してるかな?」
僕は大人じゃない。まだ高校生だっていうのは免罪符にはならない。僕だって高校を卒業し、大学か専門学校に進学。もしくは高校を卒業したら就職。最終的には就職する。問題は高校を卒業してからになるか大学か専門学校を卒業してからかの違いだ。親の世話になるのは変わりないけど、それでも僕はこんな横暴を許してやれるほど大人じゃない
「そ、それは……光晃に言わなかったのは申し訳ないと思っている。だけど……子供同士の結婚は私と亜優美ちゃんの長年の夢だから……」
二言目には夢だからと言う美波。夢だったら人を殺してもいいっていう理由にはならない。それに、僕の現状からすると美波と亜優美の夢が実現したら傷つく人が多いだろうし、強引に結婚したとして本当に幸せになれるかと聞かれたら僕は首を縦には振れない
「うん。それで?アンタ等の夢は聞いたよ。だけど──────夢って言えば何でも許されると思うなよ?」
「「「「───────!?」」」」
自分でもビックリするほど低い声が出る。それを聞いて驚いている葵衣、優奈、真理姉さん、紅葉さん。それに対し、身体は震えているけど、表情には出さない美波と亜優美
「こ、光晃君、どうか葵衣ちゃんと別れて優奈と結婚してもらえないかしら?」
控えめとはいえ美波同様、身勝手な事を言っている亜優美。
「さっきから嫌だって言ってるでしょ?別に優奈が嫌いってわけじゃなくて、僕は今、葵衣と付き合っていて別れるつもりもないって説明しているのに理解できないの?それとも、君の頭には脳みそじゃなくてカニ味噌でも詰まっているの?そこの無様な美波同様に」
もはや美波を母とは思わない。葵衣と付き合う前にそれを許嫁がいるって事を知っていれば僕だって考えた。けど、そんな話は1度たりともなかった
「光晃!母親を呼び捨てにしただけじゃなく、目上の人間にその口の利き方はないでしょ!?」
許嫁の話じゃ僕に勝てないと悟ったのか、今度は口の利き方を咎める美波。これって大人がよく使う手だ。自分の不利な話から有利な話へとすり替え、自分の要求に従うように誘導する
「別に?アンタを母とも思ってないし、亜優美を目上の人間とも思ってないからこんな口の利き方になるんだけど?」
母とも思ってない人間の呼び方なんて僕は知らない。それに、尊敬に価しない人間に対して敬語を使う必要なんてない。まぁ、客商売しているのなら尊敬に価しない人間でも金を落として行ってくれるから敬語で話すけど
「こ、光晃……アンタねぇ!!」
美波の口調が荒くなってきている。こんなんで大学生時代は教育実習を受けてましただなんて言われても違和感しかない
「「こ、光晃……」」
「はぁ~」
不安そうに僕を呼ぶ葵衣と優奈。ため息しか出ない僕。そして、さっきから傍観している真理姉さんと紅葉さん
「み、美波さん、落ち着いて下さい」
見かねた真理姉さんが美波を宥める。僕は教師で慣れているけど、感情的になった人間ほど扱いやすいものはない
「はぁ、はぁ……」
真理姉さんに宥められ、平静を取り戻した美波。今更平静を取り戻したところでもう遅い。美波も亜優美も僕の掌の上なんだから
「落ち着いたところで話の続き……いや、許嫁問題の結論だけど、僕は優奈と結婚するつもりはないし、葵衣と別れるつもりもない。優奈はこれから彼氏を作るのも僕にアタックしてくるのも自由だよ。僕から優奈にはこれしか言えない。そして、美波の事だけど、僕と親子の縁を切ってくれない?」
親子の縁を切るという僕の提案に驚きを隠せない一同。第三者からしてみれば親子の縁を切るだなんてやり過ぎかもしれないけど、親の身勝手で満足に恋愛ができないだなんて僕は嫌だ
「こ、光晃!さっきの本気で言ってるの!?」
1番最初に口を開いたのは意外な事に優奈だった
「そうだけど?それがどうかした?別にいいでしょ?自由に恋愛もさせてもらえないような親となんて親子でいたくないし」
「それはそうだけど……でも、だからって親子の縁を切る事はないじゃない!!」
珍しく優奈が怒鳴ってくるけど、もう決めた事だ。曲げるつもりは一切ない
「そうかもしれないね。だけど、もう決めた事だから」
真理姉さん達の制止も聞かず僕は葵衣の手を取り家を出た。意外な事に葵衣は何も言わなかった。そして、マンションに戻る道中
「光晃……あれでよかったの?」
唐突に葵衣に尋ねられた。『あれでよかったの?』っていうのはおそらく『意見も聞かずに家を出てきてよかったのか』という意味だろう。
「うん。真理姉さん達はともかく、美波と亜優美は何を言っても葵衣と別れて優奈と結婚しろしか言わないだろうし、あのまま話をしていても水掛け論にしかならない」
「でも……」
何か言いたげの葵衣。葵衣の言いたい事は解るけど、水掛け論に付き合うつもりはない
「葵衣の言いた事は解るけど、美波達と話し合うだけ時間の無駄よ」
この後、僕達は互いに無言のままマンションに戻った。帰ってきた優奈から話を聞いたけど、僕達が出て行った後、美波は泣き続け、亜優美は放心したまま動かなかったそうだ。真理姉さんと紅葉さんはそんな2人を慰め続けたらしい。そして、大胆な事に優奈も亜優美と親子の縁を切って来た。本人曰く『光晃と葵衣の関係を崩してまで結婚させようとする人達なんて親じゃいないよ!!』との事だった
今回は親子の縁を切る話でした
無理矢理結婚させられたくない光晃は親子の縁を切りましたが、その後どうなるのかは次回
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました




