そううまくはいきませんでした。
ニルギスが起こした爆破事件で一旦流れが止まってしまったが、すぐに実技試験は再開され、リルテの順番が回ってきた。
的に攻撃をするだけと言っても、この標的は狼の魔物を模しており、意思を持った様に、攻撃に反応して避けている。実はゴーレムの下位版で通称ゴレンと呼ばれ、魔素を充填させる事により、簡易な命令であれば忠実に実行する。ある程度攻撃を与えると止まるようになっていて、それまでのタイムが試験の成績とされ記録される。
「うーん。狩りの時によく使ってるから弓もいいけど、すぐに詰められそうな距離だしやっぱり武器は剣かなー」
「おっ!リルテも剣を使うんだな。でも俺はブロードソードよりグレートソードだな。普段使っているのとは大きさも重心の位置も違うけどな」
「その剣よりも大きいのだと、結構な大剣を使ってるんだ?」
「あぁ。ちょっと特殊なやつだからな。まぁ、学園に入ったら見せてやるよ!」
ジュールはリルテの実力をまだ見ていないにも関わらず、合格するのは当然とばかりに爽やかイケメンらしく歯を見せて笑った。
持参した物だと、値は張るが魔剣などの特殊な武器も存在しており、性能を統一する為、学園の貸出で様々な形が用意されている。
軽く素振りをした後、リルテはスタート位置についた。
「では次の方。……始めっ!」
試験官が合図を告げてすぐにリルテは強く踏み込み距離を詰め、右から剣を振り下ろした。
だが、リルテが手に取ったのは普段よりも少し長い刀身だったので取り回しが悪く、狙っていた肩に触れる事無く空を切った。
「ハッ!!」
素早く反対側に避けるゴレムを待ち構えていたかの様に剣が刺さったが、浅かったらしく、そのままゴレムは後退した。
しかし、リルテはそれを逃がすことなく左から横薙ぎに剣を振るい脇腹に攻撃が入った所でゴレムは動きを止めた。
リルテの初撃は致命傷を狙ったのではなく、突きで決める為のフェイントであったが、予想以上にゴレムは堅かったらしく一撃では仕留めきれなかった。
ただ、タイムは上位を記録したので、父親に仕込まれた剣技は上達しているようだ。
しばらくしてジュールも終わったらしく三番目に速いタイムを叩き出していた。内容は質量による斬撃だが、試験を見ていた者はグレートソードと感じさせないくらいスピードが速いと感じていた。
実技試験が終われば、自由解散となり結果は明日、学園に張り出される事となる。
二人はこのまま、前以て取っていた宿屋に向かうのだが、別々の方向だったので、明日の合格発表でまた会おうということで途中別れた。
明日の結果発表後、合格者はそのまま寮に案内される予定である。
ジュールと仲良くなったので合格したら同じ部屋がいいなと思いながら、試験の緊張が解けたので宿屋で食事を取った後、リルテは部屋に着くなりベッドに飛び込み、夢の中に溶けていくのであった。
翌日、早起きをしたリルテは宿屋の娘とのフラグを立たせることなくただ、宿屋の店主に不合格であれば「絶対、うちで雇ってやるからな!」と強く押され、そこまで話していないのになぜ?と疑問だけを残して宿屋を出た。
実は自分の娘には日頃邪険にされていたのだが、リルテが宿泊していた間の、素直な反応と柔らかい対応に、店主は癒されていたのだ。
親父のフラグを立ててしまった事を知らないリルテは学園に向かうのである。そう、ショタコンあるいはロリコンの事はどうでもいいのだ。
「よっ!待ってたぜ!」
「おはよー。待っててくれたんだね。ありがとう!」
とても眩しい純粋な笑顔に膝を折りかけたジュールだが、リルテは男だと自分に言い聞かせ平静を装った。
「おっおう。さぁ、早く発表を見に行こうぜ!」
リルテが学園に到着し、合格者が貼り出されている掲示板に向かう途中で合流した二人は一緒に掲示板を確認した。
「あっ!はっけーん!ジュールは?」
「俺もあったぞ!これで同じ学園生だな。でもおまえはAクラスかぁ」
この学園のクラスは一学年の中にS・A・B・Cと四つに分かれていて、Sが最高クラスで、将来有望な学生が集まる。そしてジュールはSクラスだったので別々になってしまった。
「残念だったけど、この学園は実力主義で成績によっては、クラスが上がる奴もいるんだから気にするなよ」
まるで捨てられた子犬のように落ち込む様子に心打たれながら、受験票を持って入学にあたっての説明と寮の部屋割りを聞く為、受付に向かった。
合格者で列は長く伸びていたが、二人が会話を楽しんでいる間に順番がやってきた。
「次の方どうぞ。リルテさんとジュールさんですね。え~と、あった。お二人ともちょうど同室ですね。寮に着いたら次の鐘で入学式が始まりますので、制服に着替えて講堂に集合してください」
リルテは先ほどの様子が嘘のように、まさに青天の霹靂と言わんばかりの表情をジュールに向けていた。
寮の部屋割は実技試験を受けた順番になっていた。これは入学試験で唯一会話が自由に出来、互いの実技内容を見ている事を考慮している。
ルンルン気分で割り当てられた部屋に入ると対に配置されたベッドと机などがあり、机の上には軍服の様な制服が用意されていた。実家から持ってきた荷物を置き、制服に着替えた後、先ほどから興味があった事をリルテは尋ねた。
「さっきから気になってたんだけど、その大剣重くないの?」
「やっと聞いてくれたか!これが俺の愛剣でデュランダルだ!結構重いがもうなれたな」
ジュールの身長と変わらないぐらいの刀身で、幅も厚さもかなりある。なにより、リルテが知っている聖剣の名前なのだが、思い描くスマートなイメージとはかけ離れていた。
「それって国宝とかじゃないの?」
「それは秘密だ」
リルテは真顔になった。
どうやら訳ありみたいなので、いつものように軽く流すことにしたようだ。
ちょうど鐘が鳴り始めた為、二人は講堂に向かった。
使用される講堂は中庭の隣にあり、中に入ると高い天井とステンドガラスが印象的でゴシック建築を思わせるような作りになっており、入学式を迎える生徒が集まっていた。
「ん?」
そんな中、今日は入学式という事もあり、万全を期して常時発動させていたスキルアナライズに反応が現れた。
今まで出会った事のなかった星マークが出ている少女で、種族にレッドドラゴンと表示されていた。
「ねぇ、ジュール。レッドドラゴンって学校や街中にいるものじゃないよね?」
「は?脅威レベル7だぜ?それに本で読んだ事しかねぇが、あんな馬鹿でかい奴がいたら大騒ぎになるだろ」
確かに書物などで確認できるレッドドラゴンは竜種の上位であるカラードラゴンに組みし、長い尻尾と巨体に見合った大きな翼を持った生物である。しかし、リルテが目にしている者は燃えるような赤髪をポニーテールで結んだ、少し犬歯が特徴的な可愛らしい少女である。
実はニルギスの他にもう一人、標的ごと周辺に爆発音とともに穴をあけた受験生がいた。魔法ではなく腕力という違いはあるが相当高い攻撃力である。
しかも神様からの依頼対象者で、面倒事の確率が低そうな場所を選んだのに入学早々、その案件に当たってしまったリルテは、人に聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「あうぅ。学校が平和じゃなくなりそうです」




