呼び出しです!
クロエの補習回避特訓が始まって数日。
あれからリルテ達は、放課後になると訓練場で剣を交わす日々を続けている。
その間、たまに特別講師としてジュールを迎える日もあった。
彼も同じく学園に通う生徒なので、当然ながら試験がありその内容も同じ。
そして、彼としては例え模擬戦の相手が上級生であっても、勝負には勝ちたいと思っている。父親が騎士団長の家柄だからという訳ではなく、ただ純粋に負けるのが嫌なのだ。
だから強くなる為に、練習量を増やそうと思っていたそんな時、リルテから試験に向けてクロエと特訓を始めたと聞いて、便乗するように彼も参加するようになったのである。
勿論、リルテ達としてはありがたい話であった。なんせSクラスであり、一年生でトップクラスの剣術の腕を持つ彼から教われるのだから断る理由はない。
しかし、相変わらずジュールのアドバイスは、感覚的過ぎてクロエには全く伝わらなかった。
「右にモヤッっときたら左にヒュンッ」とかいわれても到底分かるはずもない。
そこでリルテが要約しつつ伝える事にした。
以前、魔素体感のコツを聞いた時よりもジュールの事は分かっている。出会って半年も経っていないが、リルテの周りには他にも、ルーやニルギスといった自身の感覚で説明する者がいるので慣れて来ていたのであった。
そのアドバイスのおかげもあって、クロエは最初に比べると経験不足による恐怖心も徐々に薄くなり、相手をよく観察する事で、動きを予測し行動する反応が速くなってきている。
このままいけば補習は免れる力は付いているだろう。
だから今日からは筆記の勉強も始める事にした。
そして放課後になり、いつもの勉強場所である図書室に向かおうと立ち上がると、アクセルに呼び止められた。
何やら学園長が呼んでいるらしい。
特に問題を起こした心当たりのないリルテは、少し不安に思ったが悪い事以外であれば、一つ思い当たる。
先日のスタンピード収束後に、国王が褒美をくれると言っていた件で進展があったのだろうと思い、とりあえずそれに応じる事にした。
一緒に勉強するはずだったクロエに、その事を伝えてからリルテとルーは教室を後にする。
別れ際、彼女が『学園長に呼び出されるなんてこいつはとんだ問題児っスよ。私の補習よりもそっちの方が心配じゃないっスか!?』とでも言いたそうな眼で見られていたのを軽くスルーして、今は教職員室の前にいる。
学園長室に辿り着くには、まずここを抜ける必要があるのだ。
生徒が入ると、自然と先生達の視線を浴びる事になるので、緊張からかあまり気が進まないリルテであるが仕方なく扉を開ける。
しかし、教職員室の中には誰もいなかった。
この時間なら、授業を終えた先生達がいつもはいるはずだ。
拍子抜けしつつも、もしかするとテスト前で生徒達から質問等を受けたりして、まだ戻って来ていないのかもしれないと彼なりに結論付け、一応入室の挨拶だけ一声掛けて奥に進む。
そして、学園長室に着いたリルテはコンコンと扉を叩く。……が、中からの反応はない。
「返事がありませんね」
「確か、さっきアクセル先生が学園長は会議に出席していて、もしかするとまだ戻っていないかもしれないって言ってからまだなのかも……でもその時は、先に入室して待っているようにって言ってたね」
そういってリルテはノブを回してみる。
やはり扉の鍵は掛かっていないようなので、指示通り学園長室に入り待つ事にした。
何か割とここに来ている気がして、違和感を拭えないでいる少年であるが、考えてみれば前世の一般的な学園生活で、校長室に入る事など普通の学生は無いに等しいだろう。
それが、入学してから半年も経っていない間に数回起こっているのである。
これが初めての体験であれば普通に思えたかもしれないが、地球で学生だった頃の記憶があるからこそ、そう感じるのも無理はない。
違和感ついでに、リルテは前にここに来た時に気になっていた物がない事に気付く。
確か左手に見える棚の上にあったはずの、月のように光る石がないのだ。
部屋中を見回してもどこにも無い。
そんなキョロキョロとするリルテにメイドさんが訊ねる。
「マスター、どうかされましたか?」
「いや、あそこにあった石が無くなっていると思って」
「そういえば以前はありましたね。今朝、私の身体に興味津々で、ジッと熱い視線を向けられていた様に見られていた月雫石が」
「言い方ッ!?あの時はルーさんがお腹の中から無造作にコップを取り出したからでしょ!」
それは今朝の出来事。
少年が起床するや否や、目覚ましに紅茶を入れてくれたのだがティーポットしかなく、どうやって飲むのか不思議に思っていた所、某青い猫型ロボットの如くゴソゴソとお腹の辺りを探り出すメイドさん。実際の効果音はゴソゴソではなく、液体っぽい音を発していたけれど……
そして、その音が指し示す通り、そこに便利なポケットは無く、直にお腹に手を突っ込んで「あったあった」とドラ声でコップを取り出した彼女に「いやいやッ!『タ○コプター』みたいな感じで出されてもッ!」
と、リルテがツッコミを入れるやり取りがあったのだ。
「あれって結局どうなってるの?魔道具?スキル?」
前に、アイテムボックスのような収納魔法がこの世界にあるのかと聞いた時、彼女が知り得る限りでは元々存在しないか、今の時代では失われていると言っていたので、魔法の可能性はないはず。ならばどういう方法を用いたのか興味を持って尋ねてみたのだが……
「いえ、ただの手品です」
「あ、あれって手品なんだ……」
このメイドさんといいクロエといい、人を驚かさないと気が済まないのか、それともリルテが弄られやすいのか……きっと両方ともにYESが付き、その大半の理由は後者の方であろう。当の本人も薄々は感じてはいるようで言葉に引きつった様子が見える。
「手品って範囲が広いなー、もうそれってほぼ魔法じゃないかな?まぁ、いいけど……それよりもルーさん、月雫石って普通の石じゃないよね?」
「私も詳細は存じ上げません。随分昔に、その名前と特徴が記されていた文献を見かけた事があるだけです。後、記憶しているのはとても珍しい鉱物だという事ぐらいですね」
あの不思議な光が見られずに、残念そうな様子で石が置かれていた場所を見つめるリルテ。
月雫石の光を見ていると心が落ち着くので、緊張を強いられる学園トップの呼び出しにも堪えれると思っていたのに、その拠り所を失ってしまい明らかに肩を落とすのであった。




